番外編 ミラング共和国滅亡物語(201)~最終章 滅亡戦争(56)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主に会おうとしていた。
警戒するはずだ。
リーンウルネはリース王国の王女であり、今は敵方だ。
そんな人間が、のこのことこんな場所にやってきているのだ。
何かしらある。
それは、最初からクローゼルには分かっていることだ。
その何かしらが何かを探らないといけない。
「領主として、支配者として、統治者として、クローゼルは及第点じゃの~う。儂なんかと比べて、良き領主になれるじゃろう。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、気絶させたハウラエルに関してはもう半分ぐらい忘れて、クローゼルとの間の交渉へともっていくために、クローゼルの方へと話しかける。
ちなみに、今、リーンウルネが言っていることはお世辞ではなく、本当の気持ちである。
クローゼルが領主を務めているオットルー領に関する情報は、いろいろな方面から仕入れられており、どんな統治者であるかを理解している。その情報から判断すると、領民思いであることは間違いないし、部下にもそれなりに恵まれている。
だが、オットルー領もミラング共和国の対外強硬派の支配下にある以上、できることに限りがあるということは避けられない。
現に、ミラング共和国の中央から派遣された役人とその部下のせいで、オットルー領における増税を避けることができなくなっているのだ。それを何とか時間稼ぎをしながら、抵抗しているのであるが、シエルマスを使って、領主側へと脅しをかけたり、領主側が無理矢理増税しようとしているような噂を流していたりするのだ。
その噂をかき消すことに躍起になっているし、そうじゃないということを公文書を公開することによって、何とか理解してもらおうとしている。
シエルマスはオットルー領の領主であるクローゼルを暗殺しようという計画もあったが、今、実行したとしても後任関係で揉めることと、ミラング共和国の中央から派遣された役人が支配するには、あまりにかなりの実力が要求され、支配を失敗させてしまう可能性が高いと判断したからこそ、暗殺計画はお蔵入りとなった。
そんな危うい状態を上手く生き残れていることから、クローゼルは運が良いという評価を下すことができるし、馬鹿な人物ではないということが分かる。
リーンウルネもクローゼルのことを良き領主と評価するぐらいに、運と実力、人間性を兼ね備えていると言っても良い。
だからこそ、この場でも生き残れる可能性はあったりするが、それは絶対というわけではない。
「それはリース王国の王妃様に褒めていただき恐縮です。用件は何でしょうか。わざわざ、我が領の館に侵入してくるのですから、よっぽどのことでしょうか。それとも―…。」
と、クローゼルは言う。
「それとも」以後の言葉は、リーンウルネには言わなくても理解できることであろうと思ったので、敢えて口にしなかった。
リーンウルネが馬鹿な真似をして、このような場に来たとは思えない。
そして、クローゼルの言葉を聞いたリーンウルネは、
「やっと話し合いができそうという感じじゃの~う。」
と、言いながら、少しだけ間を開けて、用件を言い始める。
「ミラング共和国軍と一緒に出陣せず、リース王国軍の一軍がここにやってくることになろう。そやつらを通してやってはくれぬかの~う。」
と。
リーンウルネにとっては、オットルー領にとってマイナスになるような提案をしているつもりはない。
なぜなら、そのような提案をしてしまえば、リース王国軍はオットルー領の領軍を相手にしないといけなくなる。そんなことをすれば、利するのは、ミラング共和国軍の本軍の方であり、リース王国軍の犠牲を増やすことになる。
それは避けないといけない。
征服戦争になってしまっている以上、征服される住民に対して、酷い扱いをすれば、溝ができることになり、いざという時に協力してもらえなくなる可能性が高くなる。それは避けないといけない。
内部に、自分達の国を崩壊させるかもしれない爆弾を抱え込むのは危険極まりない。
良好関係を維持し続けるのは大変なことであり、配慮はかなり必要であったりするし、征服することが大きな面でメリットがあるとは限らない。爆弾も抱え込んでいるのと同じ状態なので、決して、支配し、統治するのは簡単なことではないし、怠慢することも許されない。
さて、話を戻すと、リーンウルネは、オットルー領に対して、リース王国軍の通過と同時に、ミラング共和国軍として参戦しないで欲しいとお願いしているのだ。
そんなことは今のリーンウルネの言葉から理解することができるので―…。
(そんなこと許されると思っているのか。ここには、噂でしか聞かないけど、シエルマスという裏でこそこそしている組織だっているだろうに―…。彼らは暗殺集団とも言われ、領主であったとしても、ミラング共和国を裏切るようなことがあれば、簡単に始末してくるといわれている。言葉を選ばなければ大変なことになる。)
と、クローゼルは心の中で思う。
クローゼルが心の中で思っていることは、クローゼル自身が知っている情報から判断すると妥当なものである。
ミラング共和国内にある領主領といういわれるもののトップである領主でも、シエルマスという存在は噂ぐらいでしか聞かないし、その噂がどこまで本当のことであるかは判断のしようがない。
それでも、シエルマスが恐ろしい存在であり、逆らってはいけないということだけは、親から教え込まれるものである。特に、領主の一族の中では―…。
「だが、我々はミラング共和国内にある一領の領主である以上、ミラング共和国に逆らうことはできない。」
と、クローゼルは言う。
その言葉は、何が危険で、何を判断すべきか、というもの、クローゼルの立場を表現している。
クローゼルは、ミラング共和国を裏切れるようなことは今のところできない。裏切った時のマイナスが大きすぎるからである。そのマイナスとは、領主自身の命が終わってしまうことと、住民に何かしらの危害を加えられる可能性が十分にあるからだ。領主の自らの命を差し出したとしても、それを止めることはできないと判断している。
穏健派が政権を握っている時代ならば、それも可能であったかもしれないが、対外強硬派が政権を握ってからの動向を見る限りでは、そのような領主の命だけで、矛を収めてもらうことはできそうにない。ファブラの例を見れば、とてもではないが、自分達の欲望のためなら、他が利益を損なうことに対して、何も悲しみを持ち合わせてはいない。対外強硬派は―…。
さらに、ファウンデーション領での例もある以上、尚更だ。
そんななか、リーンウルネに対して、そのような言葉を言うことも正しい選択だとは思っていない。兎に角、ミラング共和国を裏切る気持ちはないということと、オットルー領の安全をはかることが最優先なのだ。
「ふむ、シエルマスを恐れておるようじゃの~う。それに、自身の領の安全を考えておるというわけじゃの~う。さて、この領主の館にいたシエルマスの奴らはすべて始末しておる。安心せい。」
と、リーンウルネが言うと、従者がシエルマスの遺体を引っ張ってくるのだった。
「リーンウルネ様、オットルー領の領主に、こんな惨い死体なんて見せるのはちょっと気が引けるんですけど―…。裏の者が頑張ってくれたから良いのですが―…。」
と、従者の一人が言いながら、シエルマスの工作員の遺体を見せる。
従者の気持ちとしては、遺体を運びたいとは思わなかった。なぜなら、気味が悪く、吐き気を催しそうで嫌だからだ。
そして、オットルー領の領主の館の中にいるシエルマスの工作員は、リーンウルネの裏の者によって綺麗に始末された。あっさりと―…。
その時のリーンウルネの裏の者の感想は、(やっぱり勘なんですが、シエルマスの工作員の実力が前よりも落ちています)とのことだ。
その理由は、シエルマスの人数確保を優先したことと、拡大したことによって、その教育と才能にどこかしら齟齬が発生したからである。
さて、話を戻し、そのシエルマスの工作員を見たクローゼルは、吐き気など催すことはなかった。引き気味ではあったが―…。
(シエルマスが本当にいるとは―…。別の工作員を仕立てたわけではなかろうが―…。館の中でも五人ほど潜り込んでおるとは―…。それに、リーンウルネ王女は、嘘を吐いている素振りすらしていない。従者も含めて―…。)
と、クローゼルは心の中で思う。
クローゼルは、リーンウルネが嘘を吐いているのではないかと思いながら、嘘を吐いたと思われる仕草をしていないかを探る。リーンウルネの従者に対しても、だ。
疑わないといけないのは、責任ある立場になれば免れることはできないことだ。
それと同様に、信用しないといけないことからも免れることはできない。
言葉を聞いて、考え、自らの経験や知識から、判断を下さないといけないのだ。自らが統治している領と領民を守るために―…。決して、自分が何も間違っていないのだと思って、自分は領民より優れた存在だとみなしてはいけない。そのようなことをすれば、結局は、自身をも苦しめる結果となる。
それに気づけるかが、良い領主になるために必要な一つの要件となり得るであろう。
そして―…。
「分かった。だが、ミラング共和国軍はこの数年の間、軍事遠征では負けていない。方やリース王国は、先のミラング共和国との戦争で負け、領土の一部を取られてしまっているではないか。とてもではないが、勝てるとは思えないのだが―…。」
と、クローゼルは言う。
クローゼルの視点から考えれば、当然のことであろう。
ミラング共和国はここ数年、遠征という名の侵略戦争を繰り返しており、軍は実戦経験を積んでいるのだ。そんな軍隊に勝つのはかなり難しかったりする。実戦を経験しているかどうかはかなり大きな違いである。
そして、リース王国の方は、先のミラング共和国とリース王国との間での戦争で、リース王国の領土の一部を割譲している以上、ミラング共和国軍よりも弱いということを証明しているのだ。
オットルー領主であったとしても、それなりの情報を持っていたりする。
だからこそ、リース王国軍が勝てる見込みに関しては低いと見積もっている。
そして、近頃入った情報によると、ミラング共和国軍はリース王国軍に敗退して、領土内決戦となったことだ。
だけど、実戦経験のある者たちは、こういう場面に慣れている可能性が高く、すぐに態勢を整えて、反撃に出てくることだろう。リース王国は戦慣れをしていないから、対処されたとしても、それに対処するのがかなり難しいということは避けられないはずだ。
そう思えば、リーンウルネの言っていることはおかしいとしか思えない。
「お互いに馬鹿が権力を握ると大変なことにしかならぬの~う。」
と、リーンウルネは言う。
(何を言っているんだ、リーンウルネ王女は―…。)
と、クローゼルは驚くことしかできない。
急に、ミラング共和国とリース王国のトップを馬鹿だと言ったのだ。ミラング共和国を馬鹿にするだけなら、今のミラング共和国とリース王国との関係を考えれば、そう難しいことではない。だけど、自国の王であり、自らの旦那を馬鹿にするような発言をすることはあり得ない。
クローゼルに対して、おべっかを使っているのではないかと思われても仕方ないと思える。
だが、リーンウルネの本心から考えると、自身の本音を言っているだけに過ぎない。
レグニエドが馬鹿かどうかは判断できる材料はないが、愚かな君主であるという評価に間違いはない。一方で、ミラング共和国の総統となっているレグニエドが馬鹿であることは、リース王国内ではかなり知られていることであり、王族ならば知っていてもおかしくないことだ。
そんな二人のことを冷静に馬鹿だと評価するという面で、リーンウルネという人物の観察眼の高さは目を見張るものがある。
そのことにクローゼルはまだ気づいていないが、少しだけ冷静になることができれば、気づける可能性は高いと思われる。確定させることができないのは、ある未来の地点において起こるかそうでないかということだからである。人という生き物が未来を完全に予測することができずに、完全には外すことができないからである。
そして、リーンウルネは言葉を続ける。
「それにしても、エルゲルダという馬鹿は、国を乗っ取ってリース王国に復讐でもしようとしたのだろう。だけど、失敗するのは目に見えていた。アンバイドをこちらに雇われた時点での~う。まあ、ローを雇うことができれば、戦局は変わっていたかの~う。愚痴が過ぎた。ここから用件だ。オットルー領地の領主、お主が領主であることと、領地も安堵しよう。そして、しばらくの間、リース王国軍やミラング共和国軍がやってくるだろう。ハミルニアという人物の軍ならば、オットルー領地でおかしなことはしないだろうから、受け入れて欲しい。ミラング共和国は敗北し、共和国内の治安が荒れる可能性が高いからの~う。」
と。
再度、用件を言う。
リーンウルネが忘れっぽいのではなく、状況から察して、クローゼルの頭の中で処理できる情報量をオーバーしたのではないかと思い、再度、「用件」という言葉を使い、自らの用件を言うのだった。
相手に対して、自らが何を望んでいるのかを伝えることは、相手に理解できるように言う必要がある。これは常識だと思っている人も多いだろうが、同時に、その常識を上手く実践できる者は少ない。なぜなら、自分と相手は完全に同じ存在ではないし、完全に違う存在でもない。要は、共通性と相違性を自分と相手の間における要素もしくは性質の比較においてはもっていて、つまり、人であるという面で同じであり、性格の面においてどこかしらの面で相違性が存在するということである。
故に、人という生き物は会話などのコミュニケーションツールを使うことによって、相手にある程度のことを伝えることができ、相違はあれども、大きな面では共通したこと、望んだことが実現できるというわけである。
さて、本筋に戻すと、リーンウルネの要求は纏めると以下のようになる。
ミラング共和国軍とリース王国軍がやってくることとなり、この地の治安も乱れる可能性がある。だけど、リース王国軍の左軍の総大将であるハミルニアが攻めてきた場合は、オットルー領でおかしなことはしないので、受け入れて欲しいと―…。そうすれば、オットルー領の領主および領地の安堵の話をリーンウルネが自らの意見として通すこともできる。
そして、今回のミラング共和国とリース王国の戦争は、ミラング共和国が敗北して、リース王国の占領されることになるから、治安が乱れる可能性が高いので、オットルー領の領兵を戦争に動員するのは愚策であり、意味のないことである。
これらのことを言っているのであり、オットルー領領主であるクローゼルが領主として選択すべきことは決まっているのではないか。
そう、リーンウルネは問いかけているのだ。
だけど、ここには肝心な可能性が抜けている。
(……領土と領主の地位を安堵させるから、リース王国軍を受け入れろ、と。それに、ミラング共和国軍が敗北すると思っているのは仕方ないが、どうしてそのように思えるのか。試す必要がある。)
と、クローゼルは冷静に、心の中で思う。
「まだ、戦争の決着もついていないのにどうして!!! 我々の国が勝つことも!!」
と、クローゼルは反論するかのように言う。
それが目的ではない。
リーンウルネがどうして、リース王国が勝利するという可能性を抱いているのか。
それが気になるのだ。
「それはありえないじゃろ、さっきも言ったが―…。それに、私の勘はよく当たるので―…。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネとしては、馬鹿を双方に持っていることと、愚痴をこぼしたという面、アンバイドがリース王国軍に参加していること、そして、ミラング共和国はアンバイドを超えるほどの実力者を雇えていないからだ。
天成獣の宿っている武器を扱う者の中でも、実力差というものがあり、上の方は天成獣の宿っている武器を扱う者が数千いたとしても、難なく倒せてしまう使い手だっている。
そう考えると、アンバイドという伝説の傭兵を加えた時点で、リース王国側の勝利の可能性は高まったのであり、アンバイドが大きなヘマをしなければ、リース王国軍はミラング共和国軍に対して勝利し、ミラング共和国の領土を征服する結果となるのだから―…。
そのリーンウルネの過去のセリフを思い出し、クローゼルはリーンウルネがそのように思えることを理解してしまった。
(アンバイドか。ならば、そう思っても仕方ない。)
と、クローゼルの心の中で思いながら、答えは決まった。
「約束は履行しよう。そちらも、こちらの領土の安堵と領主の地位に関する約束事は守ってもらう。」
と、クローゼルは言う。
領主の地位は捨てても構わないが、領民のことを考えると、リース王国から派遣されるラーンドル一派のような奴らがオットルー領を支配されては、領民が搾取だけされるという酷い目に遭い、旧アルデルダ領のような結末になるからだ。
だからこそ、自分がオットルー領の領主であることを望むが、一番はオットルー領が安堵され、住民が今まで通りの生活が送れることが先である。と、クローゼルでは優劣をつけていた。
リーンウルネが知ることではないが―…。
「うむ、儂も約束事を守れるようにするかの~う。」
と、リーンウルネは言う。
自らがまだ、一つのことで約束を守れていないことを思い出し、自分が約束事を守る人間である資格があるのかということを頭の中に浮かべ、守ってみせる気持ちになるのだった。
これは外交交渉であるが、同時に、政治である以上、結果に対する責任がともなう。
それをリーンウルネは忘れてはいない。
忘れてしまえば、国というものは、政治というものは簡単に腐敗してしまうのだから―…。最悪の場合は、国そのものが崩壊することを理解している。
約束は守らねば―…。
その後、リーンウルネとクローゼルは他愛のない話をした後、リーンウルネは別のミラング共和国内にある領へと向かって行くのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(202)~最終章 滅亡戦争(57)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。