番外編 ミラング共和国滅亡物語(199)~最終章 滅亡戦争(54)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
その会議の途中に乱入したファットはどこかへと連れ去られ、国内担当首席によって始末され、金庫室に西方担当首席と国内担当首席が向かい、その中の光景を見るのであった。
一方で、ミラング共和国軍の作戦は、軍団をオットルー領、ファウンデーション領、クローデル領の守りに三つを分けるのであった。その指揮官を誰にするかを決める。
その結果、ファウンデーション領はラウナン、クローデル領はファルケンシュタイロ、オットルー領はイルターシャに決まるのであった。
一方で、リーンウルネはオットルー領へと向かっていた。
その間に、リース王国軍側でも動きがあり、旧アルデルダ領を中央軍が、クローデル領を右軍が、オットルー領を左軍がそれぞれ進軍することになった。
それは、ハミルニアにとっては、望まない結果であった。
その間、リーンウルネはオットルー領を訪れ、オットルー領の領主に会おうとしていた。
場所は、オットルー領内。
その首都である。
そこの領主のいる館の前で―…。
「何奴、用件を言え!!!」
と、一人の門番が言う。
その言葉を聞いた領主に用事がある者は、自らの名を名乗る。
「リース王国王妃リーンウルネじゃ。」
と。
時刻は、昼を過ぎていた。
このオットルー領の首都に辿り着いたのは、昼頃であり、首都にある定食屋で昼食をとってからやってきた。
そして、リーンウルネは従者二名とともにやってきた。
「リーンウルネ? リース王国の王妃が何故? リース王国は敵対国である以上、本物かどうか確かめさせて―…。」
と、門番は槍をリーンウルネに向ける。
そして、リーンウルネに触れるか触れないまでのところへ突きをしようとしたが―…。
「!!!」
驚くしかなかった。
(な……何!!! 触れるよりもはるか前で、動かなくなった………。どういうことだ。)
と、門番は心の中でそのように思う。
動揺するしかない。
仮に、リーンウルネが本物であった場合、殺すことも傷つけることも目的ではなく、威圧をかけた後に、すぐに捕まえて、領主やラルネの役人どもに付き出せば良いと思っていたからだ。
彼らなら、その判断を下すことができるであろう。
「ふむ、殺す気はないが、捕まえる気はあったようじゃの~う。むしろ、捕まっておくべきじゃったかの~う。でも、捕まってしまっては、縄を解くのに時間がかかってしまいそうじゃ。う~む、どうするかの~う。」
と、リーンウルネは考え始める。
何を考えているのかは、今のリーンウルネの言葉を聞いていただければ、簡単に分かることだ。
オットルー領側からすれば、リーンウルネをミラング共和国側に付き出すことができれば、手柄となることは分かりきっている。
リーンウルネの身柄は、リース王国と戦争していく中で、かなり有効な手であることは間違いないし、ラーンドル一派も簡単に見捨てることはできない。そのための工作にも時間がかかるというものだ。
そう考えると、リーンウルネの身柄を拘束することは、かなりの長時間拘束しないといけなくなる可能性が高いということだ。
だけど、現実として、リーンウルネを捕らえることはかなりの至難の業でしかない。
単体なら捕まえることすらできない。歴戦の実力者であったとしても同じぐらいの確率になるぐらいに―…。
リーンウルネの天成獣が守りに長けているからだ。
攻撃することはできないのであるが―…。
(……おいおい、リース王国の女王は能力者か。いや………、噂で聞いたことがある。天成獣の中で、守りに徹することができるとか、どうとか。本物………………か。それでも、ここを通すわけには―…。)
と、もう一人の門番は心の中で思う。
最初は、能力者だと思っていたが、少し昔に、仕事の帰りに寄るいつもの酒屋の中で、リーンウルネに関する噂を聞いたことを思い出したのだ。
その時の会話を一言一句、この門番が思い出すことはできないのであるが、内容に関しては、心の中で思っていることで間違いはない。要点を押さえているといえる。
リーンウルネが天成獣の宿っている武器を扱うことができるということは、噂に範囲を広げることができれば知っている者は多い。だけど、天成獣というものが何であるかを知らないし、眉唾物であると思われているので、信じない者が多く、噂が独り歩きしている感じであり、事実だとは思われていない。
そして、この門番も噂の範囲だと思っていたし、そんなの事実なわけがない。誰かがリーンウルネの強さの原因を間違って解釈していただけに過ぎない、と。
だが、それは、目の前で起こっている現実によって、見事に否定されてしまったのである。
人という生き物は、聞いたものよりも、実際に見たものの方が印象に残りやすいのだ。
あり得ないことが起きているのなら、尚更―…。
そして、二人の門番が動揺している間に―…。
「仕方ないの~う。こちらとしては、こんな手段は取りたくはなかったのじゃが、直接、オットルー領主に面会することにしよう。安心してええよ。別に、オットルーの元々の領主に危害を加える気はないからの~う。ほんじゃ、行くか。」
と、リーンウルネは言う。
言いながら、歩き始めるのであった。
リーンウルネの従者の方も歩き始める。
リーンウルネが展開したバリアの範囲に入っており、リーンウルネがゆっくりと歩いているから、そのペースを保てば、バリアに従者が当たることはない。
そんな様子を門番の二人はただ見ることしかできなかった。
そう、何も対処する方法を自分の頭の中にも、道具にも見出すことはできない。人は思考することに時間を消費している以上、浮かび上がる方法に限度があるし、人が記憶できることの限度がある以上、可能性も有限なものにしかなりえない。思いつかないということがあってもおかしくはないのだ。
リーンウルネの歩いている様子を見ながら、門番の二人は避けるしかなかった。
これは、実質、リーンウルネとその従者を通してしまっているのと何も変わらない。不審者を侵入させていることだ。
その様子を見る者達は、今、起こっている異様な光景に目を奪われていく。だが、彼らがその状況を阻止することができるかと問われれば、それはできない、としか言いようがない。
なぜなら、その様子を見ている者達は全員、天成獣の宿っている武器を扱うことはできないし、そもそも、天成獣がこの世に存在していることを知らない人達ばかりなのだ。そんな人々に対処を期待する方が難しい。
天成獣の宿っている武器を扱うと一般人では相手にもならないという原則は、完全はないが、ほぼ当て嵌まってしまうのだ。だからこそ、何もしないで様子を見るということを選択した者達は、普通に考えれば、当然のものと言える。そういう意味では、彼らは真面な思考ができるということであろう。自らが生き残るという面では―…。
その選択肢もすべての場面で良い効果を発揮することとは限らないが―…。人生に絶対と言える状況がないのではなく、絶対というものを認識することができない。人が知っていること、認識できるものは絶対と言えるかどうか怪しいものである。一部を切り取った考えに過ぎないのだから―…。
(ふむ、周辺に人々がおるが、そこまで気にするようなことではなかろう。警戒は解除すべきではなかろうが―…。)
と、リーンウルネは心の中で思いながら、領主の館の中へと入っていくのだった。
門の扉も簡単に開けながら―…。
そういう技術に関して、記すことはできないが、あまり人様にお薦めできる方法ではないことだけは記しておくことにする。
少し時間が経過する。
オットルー領の領主の館の中。
すでに、警戒態勢に入っている。
そんななか、領主のいる部屋では―…。
「何をやっている!!! どうして侵入者に対処することができない!!!」
と、領主は怒号を発する。
彼は、駄目な領主というわけではない。
凡庸な人であり、領主の民を思う気持ちはしっかりと持っているし、昔は領主の館から抜け出して、お忍びで、いろんな店へと通ったこともあるぐらいだ。
人々も領主の跡継ぎがやってくることは知っているが、空気を読んで、領民と同じように扱った。
媚びても、良い印象を与えることができないと理解しているし、悪い人には見えなかったからだ。
そういう意味では、人から愛されやすい人物である。
そんな領主が怒っているのだから、相当のことであることは間違いない。
「対処は無理です!!! 侵入者は明らかに天成獣の宿っている武器を扱っているものと思われますし、さらに、侵入者の一人が、自らをリース王国の王妃リーンウルネと名乗っております!!!」
と、叱責された領主の部下の一人が申し訳ないように言う。
その言葉を聞いて、オットルー領の今の領主は考える。
(………リーンウルネ。姿を見れば判断することができる。もし、本物であれば、なぜ、このような敵国の一領へとやってきた。あの王妃がこんな馬鹿な真似をタダでするとは思えない。本物かどうかを確認しないと―…。)
と、少し心の中を落ち着かせる。
落ち着いてくれば、冷静に考えることもできる。
ここで大切になってくることは、侵入者が何者であるかを確定させないといけない。そして、分かっている情報から推測をつけないといけない。
分かっている情報は、侵入者がリース王国の王妃リーンウルネと名乗っていること、対処することができないのは、リース王国の王妃に何かあった場合はリース王国が黙っていないということ。さらに、考えられるのは、リーンウルネという人間がこのような侵入を何の理由もなく試みるほど、本能のままに生きているわけではない、ということだ。
要は、何かしらの理由でオットルー領にやってきており、狙いはオットルー領の領主なのではないかということだ。つまり、やってくる可能性はこの場が高いというわけだ。
これらは、すべて侵入者がリース王国の王妃リーンウルネならば、ということが前提条件なのであるが―…。
そして、リーンウルネでない場合は、かなり危険な人物が侵入したことになり、何が目的かが分からない。最悪の場合の覚悟はしておかないといけない。
ミラング共和国内の一領であるオットルー領であったとしても、天成獣の宿っている武器を扱う者に対抗できる者は一人もいない。なぜなら、天成獣の宿っている武器を扱うことができる者がオットルー領の領経営の関係者および領軍の中には誰もいないからだ。
天成獣の宿っている武器はかなり珍しい物であり、手に入れるだけでも苦労するものであり、今は、ミラング共和国軍やシエルマスがほぼ独占しているような状態で、彼らに匹敵にすることも七つの領が協力してもできない。
それだけ、ミラング共和国の統制が強く、良くおこなわれていることを示している。
そうである以上、オットルー領では今の侵入者に対抗できるのは、運や、第三者の介入といった要素に頼るしかない。運任せ、そんな感じだ。
そう思いながら、ここに侵入者がやってくるのではないか、と思いながら―…。
「護衛は固めるが、決して、侵入者に手を出すな。お前らが死ぬ方がオットルー領の将来に関して、損になるからな。トップが責任を取らなければ、この領の未来も暗い!!!」
と、オットルー領の領主が言う。
その言葉は、意味が分かりにくいように思われるのは言われている言葉が下手な言い方でしかないからだ。理解できないわけではない。
言いたいことは、只々、自らの部下を無駄死にさせることが良くなく、かつ、彼らがいつかどこかしらの場面で活躍し、オットルー領の繁栄を導いてくれるからだ。そのような栄光あるかもしれない部下の未来を台無しにすべきではない。
それに、部下では対処できない以上、トップである自身の責任で対処しないといけない。
それは、トップになった時から免れることのできないものである。
そのことに気づかずに、トップになれば何でもできると思っている輩は、下の者ばかりに責任を押し付け、自分は何も責任を取らず、蜥蜴の尻尾切りばかりをしていくと、結局は、後に有能な責任感のある人物を失い、残るのは責任を取らない狡猾もしくは臆病な人物だけになってしまう。こうなってしまうと、その組織や国、領の未来は暗いものとなり、それらの破滅へと向かわせていくことになる。
だからこそ、責任を取った者にはチャンスを与えられなければならない。成功するかどうかはさておき―…。
そう、オットルー領の領主が思っている中で、部屋の中にいる者の一団の代表と思われる人物が声を荒げる。
「今すぐ、侵入者を使って、リーンウルネとか名乗っている奴らを捕らえなさい!!! 本国に差し出せば、私が出世できるのですから!!!」
と。
彼にとっては、これはチャンスである。
この人物は、すでに壮年になりかけており、自らの人生の野望を持っている。その野望とは、いつの日か統領となり、ミラング共和国を自らの意のままに操りたいと思っているからだ。
リーンウルネが本物かどうかは捕まえた後で確認すれば良い。
だからこそ、兵士や護衛兵を動かして、侵入者を捕まえさせれば良い。
そして、このオットルー領の領主とこの人物の間に明確な溝がある。
対応が後手後手になりかけそうになった時―…。
「そんなことを…ッ!!!」
と、オットルー領主が言いかけたところで―…。
「やっと、目的地に着いたの~う。」
そこに現れたのは、リーンウルネであった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(200)~最終章 滅亡戦争(55)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。