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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第32話 粉々

前回までのあらすじは、ついに第二回戦が開始されようとしていた。

 リースの競技場の中の中央の舞台。

 李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドのいる反対側に、二回戦の対戦相手が現われた。

 数は五人。ちょうど、同じ人数で、試合は五試合分おこなわれる。

 両チームは、中央の舞台の中央にある四角いリングで向かい合っていた。

 「両者とも、一人、フィールドへ。」

と、ファーランスは言う。それは、両チームから第一試合に参加する一人を選び、四角いリングへと向かわせるための号令である。

 李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドのチームからは、セルティーが中央にあるリングへと向かって行った。

 そして、セルティーはリングの上に立つ。

 一方の相手チームも一人、リングに上に立った。

 第一試合の人物は、二十代ぐらいの陰鬱そうな顔で、いかにも関わり合いになりたくない男であった。この男の名はファグラであった。

 ファグラは、陰鬱そうな性格をもっている人物と感じさせるような言葉を言う。

 「リースのお姫様が直々にお相手ですか。……フ…フフフフフフ、これはおもしろいですね。僕の力で粉々してしまいたい。あぁ~。」

と。

 その言葉は、とても人として異常としか分類することのできない者であった。そのため、セルティーは、ファグラの言葉を聞いて、かなりの度合いで引いていた。

 (ああ、こんなのは、アンバイドさんにやらせるほうがよかったかしら。)

と、セルティーが心の中で思うように、ファグラを気持ち悪くも感じていた。


 【第32話 粉々】


 「お二人とも準備はよろしいでしょうか。」

と、ファーランスは言う。

 「ええ、大丈夫です。」

と、セルティーは言う。すでに、準備は完了し、自らの武器である大剣を鞘から抜いていた。

 「構わない~。さっさと始めてくれ。ヒヒヒ。」

と、気持ち悪い声でファグラは言う。

 セルティーとファグラの準備の完了を確認したファーランスは、

 「では、二回戦をおこないたいと思います。」

と、言いながら、一つ間をあけ、

 「二回戦第一試合―………………。」

と、右手を上にあげ、

 「開始!!!」

と、言うと、右手を強く下げたのだった。

 「僕の名前は、ファグラ。お前は僕の攻撃で―……、粉々さ―。」

と、ファグラは、セルティーに対して、自らの名を名乗り、右手をあげる。

 そして、ファグラは、その右手を振り落とす。

 それを見たセルティーは、

 (倒れた!?)

と、疑問に思うのだった。

 そして、セルティーは、すぐにファグラの意図に気づく。

 ファグラは、振り落とした右手は、リングの地面に接する。そうすると、ファグラの周囲に亀裂を発生させる。その亀裂の中から、土が針山のように突き出していく。それが何個も何個も。

 そして、ファグラは、

 「さらに進め!!!」

と、叫ぶ。

 その叫びで、突き出した土が、徐々にセルティーの方へと近づいていく。

 そう、セルティーは、この可能性をファグラの意図に気づいたときから、どう来るのかを見ていた。そして、セルティーの方に近づいていることの予想の中で一番高い方に位置付けていた。

 ゆえに、セルティーは、リングの外に出ないように、後ろへとジャンプした。

 そして、ギリギリのところで、ファグラの攻撃をかわすことの成功に繋がった。

 しかし、ファグラにとって、セルティーのその行動がファグラの土の攻撃から逃れるために意味のないことであるのを知っていた。そう、これは、ファグラにとっての次の攻撃で十分にセルティーを不利にすることが可能であった。

 そのため、

 「後ろに避けようとしても無駄だよ。」

と、ファグラは、さらに気持ち悪くした声で言う。

 その声というよりも、セルティーは何か嫌な予感を感じた。

 「!!」

と、セルティーは下の方に注意を向ける。

 「そう、お姫様よりも速く、来ているのだよ。お姫様の真下に。」

と、ファグラは言う。

 そう、ファグラが仕掛けていたものがセルティーの真下へと向かっていたのだ。セルティーの移動する速度よりも速く―…。

 (そんな―…、はやくしないと。)

と、セルティーは心の中で呟き、なんとかしようとする。

 しかし、セルティーにそうすることはできなかった?

 「お姫様!! あんたの負けだ。」

と、確信をもったようにファグラは言い、

 「あんたはこの俺の技によって―…。」

と、続ける。

 その間に、セルティーが移動している真下が揺れる。セルティーには、地震の時のような揺れだと感じた。

 「まさか!!」

と、セルティーは叫ぶ。

 ここでセルティーは、理解する。ファグラがしようとしていたこと、そう、「粉々にしてしまいたい」ということの意味を―…。

 「お姫様の身体を―……、ぶっ壊してやる!!!!!」

と、ファグラは、後半の部分をものすごい勢いで叫ぶように言った。

 そうすると、セルティーの真下の地面が割れ、中から巨大ななにかが上へと這い上がってその姿を見せるかのように登場してきた。

 それは、腕の形をした土だ。

 そして、その腕の形をした土の手のひらにあたる部分にいたセルティーは、その土の手に捕まってしまった。そう、セルティーの体は土の手の指が物を握るかのように、であった。

 セルティーを土の手で捕まえたことにファグラは、

 「捕まえた♪」

と、さらに気持ち悪い声で、うれしそうに言った。

 捕まえられたセルティーは、すでに身動きがとれなくなっていた。抵抗するも、土の手から解放されることはない。土の力とセルティーの抵抗する力では、明らかに土の力が強かったのだ。捕まる時に、セルティーは、自らの武器である大剣をリングの地面へと落としてしまったのである。

 「これは、見事としか言いようがない。後は―…。」

と、ファグラは言い、少しの間をあけ、空気を吸い込み、

 「粉々になってしまえ!!!!!!」

と、大声で言うのであった。

 そのファグラの声で、土の手は、握っているセルティーを潰すのであった。

 それも簡単に砕くように―…。


 それは、ほんの数秒もかかるほどのものではなかった。一瞬だった。

 そのときの、セルティーの絶叫は絶望と悲鳴とが混じったものであった。

 セルティーを握り潰したときに、セルティーの血が四方に広がっていった。それは、ここでは表現することさえもおぞましいものである。

 土の手に握り潰され、肉塊になった者が、土の手が開くことによって、ボタっとリングの地面へと落ちていく。

 その様子を見ていた李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、何も感じなかった。いや、感じるはずもなかった。

 一方で、ファグラは、その様子を喜びとともに、至福を感じさえしたのであった。

 「フフフフフフフフ、ハァーハハハハハハハハハハ。」

と、ファグラは叫ぶのであった。喜びと至福の感情を含めて―…。

 「こんな、はやくあっさりやられるとは―――…、馬鹿なお姫様だこと。これで俺の勝利は確定だ。」

と、ファグラは言う。

そして、ファグラはファーランスの方を向き、

 「さあ―、審判!! 俺の勝利宣言をはやく言ってくれ!!!!!」

と、叫ぶようにファーランスに言う。

 「………………。」

と、ファーランスはしばらく考えるような表情をする。しかし、考えているのではなく、ただ単に無言のままだったのだ。

 それがしばらくの間続くと、我慢できなくなったファグラは、

 「さあ、はやく言ってくれ!! 勝利宣言を!!! さあ―――。」

と、大声で言い始める。このときのファグラの表情や言動は、どう見たってセルティーを殺した?ファグラ自身の勝利だろ、と。そして、セルティーが土の手で握りつぶされるのを、審判であるファーランスも、周りの観客も見ただろ、と指摘しているのだ。そう、ファグラが勝利しているのは確実である、と。

 「残念ながら―……、第一試合(この試合)はまだ終わっておりません。これ以上のことを言うと、相手選手にとって不利になるので、私から言うことができません。ご容赦していただきたく存じます。」

と、ファーランスは言う。そう、ファグラが起こした確実な勝利という結果をファーランスは、否定したのだ。

 そのファーランスの理解のしてなさに憤りを感じたファグラは、

 「いったいどういうことだ!!」

と、怒鳴るようにファーランスに向かって言う。

 「どういうことだと言われましても、私は事実を述べているにすぎません。」

と、ファーランスはファグラの言葉に応対する。

 明らかに、ファーランスの言葉にファグラは、納得することなんかできはしなかった。現に、ファグラは自分が見たという事実において、セルティーを殺したのだから、ランシュの企画したゲームの試合の勝者であっておかしくないからだ。

 ゆえに、

 「相手はもう生きてすらいないんだ。なのにどうして試合を終わらせようとはしない。生きていないのに、動かないのに、試合ができるはずがないし、勝利条件を俺は満たしているはずだ。」

と、よりさらに強くファグラは叫んだ。どうして自分の言っていること、見せたことを理解できないのかということを無視する、審判であるファーランスに腹を立てているのだ。

 しかし、ファグラの方が現実、いや事実を見ていなかったことを知る。

 そう、

 「そうね。勝利条件を満たしていればね、()()()。」

と、言う女のものとみられる声が聞こえた。

 「!!!」

と、ファーランスのとっては、今日何回か聞いた声であった。ゆえに、動揺する。

 (どうして、お姫様の声がする。さっき、俺はお姫様を土の手で粉々にしたはずだ。ありえない。ありえない。)

と、心の中でファーランスは叫びながら―…。

 そして、ファーランスは、冷たい何かを感じる。

 それは、恐怖だ。

 つきつけられているのだ。大剣を―…。

 ファーランスの首筋に接しさせながら―…。

 そう、ファーランスの目の前には、さっきはいなかったセルティーがいたのだ。

 「いったいなぜ、お姫様は生きている!? 確かに俺があの時、粉々にしたはずだ!!!」

と、ファーランスは動揺しながら言う。そのため、声が上ずっているのようにさえ思えた。

 「残念ながら、それは、私が作った幻覚。だから、あの時の土の手による攻撃は、本当は私自身はうけていなかったのです。」

と、セルティーは冷静な口調で、ゆっくりと言った。

 それは、セルティーがファグラの土の手による攻撃のとき、自らの武器である大剣を使って、土の手の一部を斬り付け、それを伝ってファグラに幻覚をかけたからである。そして、ファグラにセルティーが捕まったように錯覚させたのである。後は、しばらくの間ずっと、セルティーに大剣を首筋に接するまで幻覚の中にファグラはいたのである。

 ちなみに、ファグラ以外の観客や審判、ゲームに参加する人たちは、わかっていた。ファグラが一人勝手にセルティーを倒したという意味不明な叫びをあげていたことについて―…。ゆえに、観客はファグラのことをおかしな奴で、どうしようもないレベルの人間であると再度認識することとなった。

 そして、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、セルティーの天成獣の属性が幻であることは修行の中でわかっていた。瑠璃に関しては、セルティーからそれについて数日前に聞いていた。

 そして、ファグラの首筋に自らの大剣を接することに成功したセルティーは、ゆっくりと大剣をあげる。このとき、ファグラは少し後ろへと下がった。

 「では―……、ファグラ(あなた)の負けです。」

と、セルティーは言うと、上がった大剣をファグラに向けて振り下ろした。

 それを見てしまったファグラは、動くことができずに、まともに直接、大剣に斬られたのであった?

 そのため、

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああ。」

と、ファグラは叫ぶのであった。

 そう、斬られたかのような叫びであったのだ。現実には、ただ、セルティーは大剣を振り下ろしただけなのだ。ファグラに攻撃も当たっておらず、斬られてもいない。

 ただ、セルティーの幻覚によって、本当に斬られたように錯覚したのである。

 (そんなバカな、この俺が―、幻の効果で負けるなんて―…。それに俺―…、本当に斬られたのかよ…。ありえね―――――――。)

と、ファグラは、セルティーに斬られるという幻覚に気づかずに後ろ向きに倒れていった。勝てるとふんだのに負けてしまったという悔しさに―…。

 ファグラは頭の後ろ部分をリングの地面にぶつけて気絶した。

 これを戦闘不能と判断したファーランスは、

 「勝者、セルティー。」

と、勝者を知らせる叫びをおこなった。

 その叫びの後、観客はセルティーの勝利に湧くように大きな声を、歓声をだし、セルティーに浴びせた。

 そして、用件が終わったかのような雰囲気をだして、四角いリングから降り、自らのチームの元へと向かって行った。


 【第32話 Fin】


次回、一人ぶっ飛びます。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


セルティーのあれは、幻という属性によるものでした。リースの章の後は、あれを出さないといけない。あれを出すと―…。だから、表現はなるべくやさしいものにしていきたいと思います。あれに関しては―…。ただし、エロいほうじゃないよ。

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