番外編 ミラング共和国滅亡物語(191)~最終章 滅亡戦争(46)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。
翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。
戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。
その後、リース王国軍の会議は、ファルアールトの心の歪みによって、ハミルニアが罵倒されることになり、ハミルニアはファルアールトの心の歪みを満たすために、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣を陥落させるまで、ミラング共和国軍と戦わされることになってしまうのだった。リース王国軍の左軍はランシュとヒルバスがハミルニアと話し合うのだった。
翌日、リース王国軍とミラング共和国軍は戦いとなるが、左軍ではランシュに向かって、アウルが襲って来るのだった。すでに、アウルは何者かによって殺されて、操られていたのだ。その正体はイマニガであり、イマニガは「不死体の生」という技を発動させるが、イマニガの武器に宿っている天成獣に自身の意識を乗っ取られるのだった。イマニガという人間が消え去られた上で―…。
リース王国軍の左軍がそのような状態にあるなか、一方で、中央軍と右軍でも動きがあった。特に
、右軍の方はアンバイドの活躍により、オーロルとフィスガーを撃破、中央軍はミラング共和国軍の本陣へと―…。
リース王国軍の左軍の方は、ランシュとイマニガの体を乗っ取ったガルゲイルの対決は、ランシュが天成獣の宿っている武器である鼻ピアスを破壊して、倒すことに成功するのだった。
その後、リース王国軍の中央軍がミラング共和国の本陣へと来たので、ラウナンは撤退を宣言するのだった。イマニガを使っての作戦が失敗したことにより。エルゲルダを殺されるわけにはいかずに―…。
ミラング共和国軍は、旧アルデルダ領の首都ミグリアドで作戦会議を開き、今後の作戦を方針を決めていく。
少し離れた場所―…。
そこには、さっき消えたファット=ファウンデーションがいた。
ただし、周囲には、音が漏れないようにされていた。
「ファットだな。」
と、一人の声がする。
ファットはすぐに意識を取り戻し、周囲を見ると薄暗い部屋であり、そこに何人かの黒の服に全身が包まれている者がいる。目は見えるようにするためか、覆われている部分の対象とはなっていないような感じだ。
だけど、ファットは恐怖する。
(こいつら………シエルマス。)
と。
そう、この場にいるのファットを除けば、シエルマスの工作員だけである。
そして、そこにはシエルマスの国内担当の首席であるフィード=アルクマールがいた。
ファットは、アルクマールという人物に気づくことなく、彼らシエルマスという組織の恐怖を体の底から記憶が流れ注ぐように感じる。
「シエルマス……。私はあなた方組織に対して、反抗的な態度をとったことも恨まれることもした覚えはない。」
と、ファットは言う。
自分がなぜ、このような場にいるのか分かっている。
さっき、ラウナンに対して、何か意見を言ったからであろう。
だけど、シエルマスに反抗的な態度をとったつもりはないし、シエルマスに反抗する意思はない。シエルマスから自らの身の安全と同時に、今までの生活を保障してくれれば、それで良いのだから―…。
ファウンデーション領の領民の安全………、そんなものファットにとってはどうでも良いことだし、彼らの安全を考えること自体、間違ったことでしかないと思っているのだ。
それは、なぜ旧アルデルダ領が支配されたのか? という問いに答えることに等しい。
ファットの頭の中では、ミラング共和国に対して、不利になるようなことをして、戦争を煽ったリース王国のせいであり、前回のミラング共和国とリース王国との戦争で、リース王国が敗北し、旧アルデルダ領はミラング共和国のものとなったのだ。その領民は元々リース王国の王国民であったからこそ、ミラング共和国に対して、無礼なおこないをした奴らの味方であり、ミラング共和国としては、彼らを真面な人間へと導くために、ファットがその領主として支配してきたのだ。
普通のミラング共和国の国民に課される税よりも重くなっているのは、自らの悪いおこないから反省を促し、罪の意識を植え付け、そこからミラング共和国の国民としての模範が何であるかを理解させ、そのような人間になることが正しいということを教えるためだ。
だが、そんなものは前半以外は建前であり、ファットや対外強硬派が自らの私服を肥やすことによって、より政治的基盤を強くするためのものでしかない。得られる利益に酔いしれ、さらに大きな利益を欲するものでしかない。
結局、旧アルデルダ領の人々の生活を苦しめるだけであり、ファウンデーション領になったとしても、領の繁栄は一切、訪れていない。
ファウンデーション領の領民はミラング共和国に対して不満をもっているが、リース王国の今の派閥に対してもあまり良い感情を抱いていない。
さらに、ミラング共和国のトップにエルゲルダが就いているのだから、不満がないわけじゃない。むしろ、大きな不満を抱いている。
エルゲルダの時代から、どんどん旧アルデルダ領はどんどん活気を失っていき、政治も乱れ、治安は悪化していった。経済も落ちていったのだ。
そのことを知っているからこそ、エルゲルダがミラング共和国の総統というトップの地位になったことに対して、恨みを抱いている。
そう、ファウンデーション領は、領民と国との間でかなりの確執が存在しており、確執が拡大し続けているのが現在であり、ミラング共和国の側はそのことに気づいていないどころか、自分達は正しいことをファウンデーション領にしているのだという妄想に取りつかれている。
そこに、ファウンデーション領の人々の気持ちというものは一切考慮されてはいないのだから―…。
「惚けるな。」
と、フィード=アルクマールは言う。
彼の言葉は大人しくいっけんして聞こえづらい感じであるが、透き通るような感じなので、ファットにも聞こえた。
アルクマールは、ファットがなぜ、このような状況になっているのか、何となくであるが、理由に関しては気づいているはずだ。
フィードとしては、ファットを処分することに反対する理由はない。
ならば、なぜ一気に始末しないのかと言えば、これから重要なものを聞き出すためだ。
「惚けて……など……いない。」
と、ファットは言う。
(こいつらと真面に戦うことなどできやしない。重要なのは、私を殺したら大変なことになることを示すこと。もしくは、私の有用性を証明することだ。シエルマスは危険な組織であるが、シエルマスにとっての有用性を証明さえすれば、生かされる。エルゲルダが証明している。)
と、ファットは心の中で思う。
自身がまだ助かる可能性があると思っているのだ。
そう思わなければ、自分の命が亡くなってしまうのだ。
生きる可能性があるのであれば、それに賭けることは何も間違ったことではない。
自らの命を奪われてしまえば、この生きている世界で何もすることができなくなるのだ。
あの世があるなんてものは、分からないのだから、それに縋りつくよりも、今、生きている世の中に縋りつく方が、自身の未来も将来の希望も確実性が高いということだ。
そして、ファットは怯えながらも、何とか強気の態度を崩さないようにする。
本能で弱味を見せれば、自らの命はその瞬間に奪われてしまうことを知っているからだ。
「そうか。悪かったな。まあ、俺も鬼ではない。シエルマスに命が狙われた者でも助かった者がいる。そいつ、助からなかった者の差は何か分かるか。」
と、フィードは言う。
それは、ファットに問いかけるような感じである。
心の中で複雑に思っているのかどうかは、フィードの表情からは分からないが、それでも、フィードは何か必要なことを聞き出そうとしていることだけは分かる。
「それは………………。」
と、ファットは口ごもる。
そんな中、ファットの頭の中ではかなり思考が巡らされていた。
(こいつは絶対に嘘を見破る可能性がある。答えに関しては正直に言った方が良い。だが―……、どうやって儂の有用性を訴えるのか。)
と。
だけど、ここまで口ごもってしまうと、フィードがファットのことをすぐにでも処分してしまう可能性は否定できない。
フィードは、ファットから何かを聞き出そうとしているし、それは、ファットと関連のあることに間違いない。
そんななか、ファットは何かを思いついたのか言い始める。
「………シエルマスにとって有用性がなかったからだ。だけど、私は、シエルマスにとっての有用性があると分かっておる。なぜなら、私は、ファウンデーション領を数年ほど支配し、反抗してきた者たちを潰してきた経験があり、ミラング共和国にとっての利益があり、シエルマスにも十分に貢献しているはずだ。助けておいて、十分じゃないのか。エルゲルダが何かしらの要因で邪魔になった時、便利であろう。」
と。
ファットは自らの有用性を示すためにあることないことをでっちあげる。
ファットの言っていることはほとんど嘘であり、ファウンデーション領の領主層に対する不満に関しては、アマティック教とシエルマスの国内担当らの工作によって、潰されているだけであり、領主に反抗することはミラング共和国を敵に回すことになり、反抗者の命がないということを示してきただけのことに過ぎない。
要は、ファットが貢献したことではないし、そのようにファットから思われてしまっていることに、シエルマスの国内担当の者からしたら、怒りものでしかないということは確かだ。
そして、自身の有用性を認めさせようとしているファットに対して、フィードは心の中で呆れてしまっている。
「そうだな。だが、俺らに今までファウンデーション領の蓄財した財産の場所を教えるのなら、助けてやらんことはない。ファット様の財産を守るためには、かなりの数の人がいるだろ。」
と、フィードは言う。
フィードとしては、ファットの財産を守ることを言っておく必要がある。
「そうか、財産を守ってもらわないといけないからな。財産のある場所は、館の金庫室だ。金庫室へは私自らが案内しよう。あそこは―…。」
と、ファットが言っている間に、フィードはファットの首を短剣で切り取り、真っ二つにして始末するのだった。
血が落下する前に、袋を出したシエルマスの工作員がファットの遺体を袋の中に入れてしまうのだった。
その技術、いや、スピードは職人なのではないかと思わせるほどだ。
いなくなる者の血の一滴すら残す必要はない。
その血からでさえ、情報を得られることさえあるのだ。
裏の者の世界にとって、僅かにでも証拠を残すこと、それ即ち、自らを不利にし、敵対する勢力に自らの弱点を与えることになる。
それは許されざることだ。
そして、ファットの遺体をしまい終えると、フィードは言う。
「俺は館の金庫室の方へと向かう。お前らは、この馬鹿の死体を見つからないようにして、処分しろ。」
と、フィードが言うと、シエルマスの工作員が姿を消す。
ファットの遺体の入った袋すらも彼らと同時に消えてしまうのだった。
(さて、金庫室には、多額の金銭があるはずだ。その資金は、シエルマスの今後の活動のための資金にもなるだろう。それに今回の戦争、うちの組織のボスが予想以上に苦戦しているようだ。どうしてそのようになっているのかは予想できるが、万が一という場合には備えておいた方が良いな。)
と、フィードは心の中で思いながら、部屋から姿を消す。
向かう場所は決まっている。
ファウンデーション領の領主館にある金庫室だ。
そこにあると思われる多額の蓄財が目的なのだから―…。
金庫室の前。
そこには一人の人物がいた。
(さて、鍵がかかっているのか。ミスったな。まあ、力づくで開けられないことはないしな。それに―…。)
と、フィードは心の中で思う。
フィードとしては、ミスをしたなと思った。
フィードは、ファットから金庫室の鍵の在りかを聞くの忘れてしまっていたのだ。ファットの遺体からその鍵と思われる物を探るのをしていなかったのだ。
重大なミスを自身でおかしてしまっているのだ。
だが、この金庫室は別に金属の扉でできているわけではなく、頑丈な木でできた扉なのだ。
力技で何とかすることは十分に可能なのだ。
だけど、そのようなことをしなくても良いようだ。
「あなたは―…。」
と、一人の人物が声をかけてくる。
この人物は、アマティック教の信者の格好をしており、フィードもその人物の見た目からすぐに理解することができるのだった。
そして、アマティック教は、シエルマスにとって都合の良い存在である。アマティック教のトップであるイルカルはラウナンによって庇護されているので、ラウナンに逆らうことはない以上、シエルマスに逆らうようなことをすることはあり得ない。
なぜなら、ラウナンに逆らえば、イルカルの命はこの世から消えてしまうのだから―…。
そして、フィードは話しかける。
「シエルマスだ。この金庫室に用がある。」
と。
「分かりました。少しの間、お待ちください。」
と、アマティック教の信者の一人が言うと、すぐにどこかへと消えていくのだった。
周囲には、それ以外の人が行きかう気配を感じることはなかった。
そして、アマティック教の信者の一人は、鍵がたくさん置かれてある部屋へと向かい、そこから金庫室の鍵を見つけ、戻ってくるのだった。
それは数分後のことである。
「お待たせいたしました。鍵を開けます。」
と、戻って来たアマティック教の信者はそう言うと、金庫室の鍵を開けるのだった。
そして、フィードとともに金庫室の中に入るのだった。
そこには、大量の金貨や紙幣があったのだ。
体積的には金貨が多かったが、紙幣はかなり纏められて、透明な箱に入れられていた。
そして―…。
「案内ありがとう。もう、用はない。どこかへと行ってもらおうか。」
と、フィードが言う。
そう言うと、アマティック教の信者はどこかへと歩いて消えていくのだった。
彼には、シエルマスに逆らうことなどないし、シエルマスの言われた通りにしか行動することができない。完全に廃人と化してしまっている。
この人物の今後がどうなったかは―…。
フィードは、それを見ていると、ある人物が姿を現すのだった。
「フィード、やはり良い仕事をしてくれる。そして、アマティック教の信者の男を一人始末しておいた。お前は少しぐらい爪が甘いのではないか。」
と。
「ドグラードか。」
と、フィードは言う。
そう、姿を現したのは、シエルマスの西方担当首席のドグラードである。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(192)~最終章 滅亡戦争(47)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
これが2023年における『水晶』の最後の投稿となりました。
番外編を仕上げることができずに、申し訳ございません。
2024年度には、番外編を仕上げて、サンバリアへと向かっていく話へと進んでいけると思います。番外編の最終章をやっているので、何とか―…。
今年も『水晶』を読んでいただきありがとうございました。
2024年度もどうか『水晶』をよろしくお願いいたします。
最後に、次回の投稿日は、2024年1月中旬ごろとなり、詳しい日程は、活動報告でさせてもらいます。
では―…、良いお年を―…。