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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
522/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(176)~最終章 滅亡戦争(31)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。

一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。

その中で、ラウナンやファルケンシュタイロは、一人の女性将校の言うゲリラ作戦を拒否して、リース王国軍と正面から戦うことを選択する。


翌日、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令により、リース王国軍の左軍とは近くから別行動をとる。そこに、ミラング共和国軍のシエルマスが登場し、ヒルバスだけで始末するのだった。


戦いは決着を見ることがなく今日も夕方には終わるのであった。

 時は夕刻。

 ミラング共和国軍およびリース王国軍の戦いは翌日へと持ち越される。

 その中で、リース王国軍の側では、会議が開かれていた。

 「後一歩のところで、ミラング共和国軍の本陣を攻め落とすことができたのに!!!」

と、ファルアールトは、怒りをぶちまける。

 その様子は、中央軍で、ファルアールトの取り巻きの輩は怯えており、それ以外の者達は呆れながらも、ファルアールトの愚痴がさっさと終わって欲しいと願うのだった。

 「クソッ!!! クソッ!!!」

 ファルアールトの怒りは収まらない。

 ファルアールトは焦っているし、自分より劣っていると自らが認識している者、馬鹿にしている者が今回のリース王国とミラング共和国との戦争の中で、成果を出しているので、苛立たしさを感じてしまい、同時に、自分の地位が危ういのではないかという不安にも苛まれていた。

 要は、不安というものが怒りの源となっているのだ。

 「ファルアールト元帥。今は落ち着いてください。」

と、ファルアールトの部下と思われる将校がファルアールトを必死に宥めようとする。

 その様子は、もう、関わり合いになるべきではないことを示すような感じだ。

 怒り狂っており、暴言を吐く人物に誰が関わりたいと思うのか。そういう人間は稀有な存在だ。

 そして、今、ファルアールトの作戦を聞いたとしても、彼らにファルアールトのために戦果を挙げようとする者は、ファルアールトの取り巻き以外は皆無だ。

 前の戦いで、リース王国軍の左軍と右軍に対する暴言が決定打となった。

 上官であればこそ、部下に対する気遣いというものが必要であったりする。

 別に、部下に媚びを売れということではない。威厳は重要だ。

 その威厳の中で、部下を気遣いながら、成果を挙げれば褒め、怒る時は論理的に怒り、しっかりと評価すべきなのだ。公平な評価はある程度は可能であるが、完全には不可能である。どうしても主観性を完全に排除することはできないのだから―…。

 ファルアールトには、そういうことができない。本人はできると言ったとしても―…。

 「落ち着いていられるか!!! 何で、ハミルニアのような奴が戦果を挙げて、俺が挙げられない!!! 可笑しいだろ!!! 可笑しいだろ!!! まさか、ハミルニア……俺を追い落とすためにわざと俺にできない作戦を言っているんじゃないか!!! おい、答えろ!!!」

と、ファルアールトは吠える。

 ファルアールトの視点から言えば、ハミルニアの言っていることはファルアールトを元帥の地位から追い落とし、その後に自分が元帥になって、リース王国軍のトップになろうとしているのだと。

 これは間違いないことであるし、今までのミラング共和国との本陣での戦いが証明しているのだ。

 不安は増殖する。増大する。

 これに支配されてしまえば、他人の言葉を信用することができなくなる。

 いや、ファルアールトにとって都合が良い言葉は信用するし、ファルアールトにとって気持ち良い言葉を言ってくる者だけで自らの勢力基盤を固めようとする。視野狭窄に陥る。そして、固められた意見は、決して、ファルアールトを救うどころか、時と場合によって、ファルアールトの権力すら簡単に砕けるための槌になることもあろう。

 そのことにファルアールトは、崩されるのを目に見える時まで信用しないであろう。その時にはすでに遅いという場合が存在するであろうが―…。

 そして、ハミルニアに対する罵詈雑言。ハミルニアの意図を理解することなく、彼らを追い落とそうとするファルアールトだからこそ、被る自らの損害。

 これは、ハミルニアのせいであるとすることで、自身は正しいと思うことができ、(いびつ)な心に歪な安定をもたらしているのだ。ブレている場所をブレないようにして―…。

 この侮辱には、ハミルニアも頭にきていた。

 だけど、ここで暴言を吐くわけにはいかない。

 冷静になり、淡々と答えるしかない。

 圧迫されているような感じだ。

 だけど、圧迫されたからと言って、それに耐えられる人物を求められるからと言って、人は一人で生きられるわけではないのに、自分一人が生き残れば良いと思っている奴がなすことは結局、世界にとっても、社会にとっても、良き運命はない。

 自分一人が生き残れば良いと思っている奴は、自分のことしか正確に見ることのできない、一種の狂った人間である。そいつは自分を正常で正しい状態にあるのは、自分の思い通りの世界を実現していることに喜びと快楽を感じるが、その満たされることに欲望は反発するだろうし、渇きを感じるだろう。満たされないことを満たしているのだから―…。

 この今の言葉をしっかりと真に理解でき、共感できる者は少ないことであろう。

 いや、この世界に一人だけいれば、御の字かもしれない。

 一人の力でできることに限界がある以上、悲しき定を受けた概念かもしれないが―…。

 さて、話を戻そう。

 少しだけ、ハミルニアは間をあける。

 怒りの感情は、この場には相応しくないから―…。

 「私としては、ミラング共和国軍の本陣へと攻める中央軍の作戦に関して言いましたが、それでも、私はファルアールト元帥は賢明な判断を下した上で、否定されるのかと思いました。今まで、私が考えてきた案も悉く採用しないことが多かったので―…。もし、採用してしまったのであれば、申し訳なく思っています。だが、私はファルアールト元帥の地位を狙っているわけでもなく、ファルアールト元帥を元帥の地位から貶めたいと思ったことは今のところ、一切ございません。後、ファルアールト元帥がしっかりとした作戦を採用し、私や私の部下を貶めることを考えなければ、こちらとしても有難いことはございません。」

と、ハミルニアは冷静に言う。

 所々に、怒りに身を任せたいという気持ちに揺れ動かされたのはあるが―…。

 それでも、怒りを感情に、言葉にするのは良くない。

 ハミルニアにとっては、感情に任せられないという苦痛以外の何ものでもない。

 ハミルニアは責任は感じるが、リース王国軍の左軍、自分の軍団に対する悪口を言ったのだから、それを許せる気持ちはない。それに、ここで変にファルアールトと対立していれば、返って、ミラング共和国軍にとって有利なことになるだけだ。

 そのことに気づいているからこそ、我慢しているのだ。

 文句を言うことを差し控えながら―…。

 揉め事ほど相手側にとって利用しやすいものはない。

 ミラング共和国には、シエルマスという諜報及び謀略組織があり、この地域では有名であり、実力が備わっているのだ。そうである以上、彼らがこの状況を利用しないわけがない。

 そのことに頭のリソースが回らないファルアールトは、明らかに今の状況を冷静に分析できない愚か者である。狂ったがゆえに、より愚か者としての度合いを強めるという結果になったのだ。

 ファルアールトは、ハミルニアの言葉を聞き、さらに怒りを増幅させる。

 「ハミルニア!!! テメーのせいで、俺らは敗北した!!! その責任はしっかりと取ってもらわないとな!!! 俺はお前より階級が上である!!! だから、ハミルニアよりも優秀であることは間違いないんだ!!! ミラング共和国軍相手に負けるはずがない!!! お前は責任を取って、俺らが良いと言うまで、明日はミラング共和国軍と戦い続けろ!!! それが俺からの命令だ!!!」

と、ファルアールトは叫ぶ。

 すでに、冷静な判断を下すことができなくなっており、ハミルニアを一番に潰すことが最適だという選択になってしまっている。

 その言葉は、事実上、貶めであり、見せしめである。

 ファルアールトに不快な気持ちを抱かせることは、ハミルニアのようになると―…。

 すでに、ファルアールトはミラング共和国と戦っているのではなく、自身の地位を貶めようとしていると自身が思っている者を潰すことに必死なってしまっている。ミラング共和国軍は、それをなすための存在であり、戦争を仕掛けてきている敵だとみなせなくなっている。

 悲しいことに―…。

 (………私を使って、見せしめにか―……。ファルアールトに逆らう者はどうなるのか。本当に心が壊れてしまっている。ここまで地位で出世し、権力に身を委ねてしまった以上、元に戻せる可能性はゼロか。いや、可能性が低く、元の戻ることに賭けることができないと判断した方が妥当だと気づいてしまうのか。)

と、ハミルニアは心の中で思う。

 ハミルニアとしては、こうなってしまったファルアールトを元に戻すことはできないと諦める。

 可能性がないわけではないが、その可能性に賭けても、自分が得することはないと理解しているのだ。

 一番は、心が壊れてしまったファルアールトから離れることである。

 そうすれば、関わり合う確率を可能な限り低くすることも可能であるが、向こうが追いかけてきたり、偶然の要素と思われるものが絡んでくれば、ファルアールトとの関わりを切ることができなくなる場合は十分にある。

 そうである以上、立ち向かうことも時には必要であるが、ハミルニアは自分の権力がどれくらいであり、その基盤の固さというか、脆さというものを知っているので、なるべく関わらない選択を選びたいが、ファルアールトがそうはさせてくれない。

 諦めるしかないが、何もする気がないわけではない。

 せめてもの抵抗として、ファルアールトより手柄を挙げることである。

 焦っても意味はない。

 そのことを頭の片隅に入れながら―…。

 だからこそ、返事すべき言葉は決まっている。

 「ええ、命令である以上、引き受けます。」

と、ハミルニアは返事をする。

 そう言うしかなかった。

 だけど、相手が存在して成り立つことであるならば、その命令から運よく逃れることも可能である。

 逃げるのではない。

 相手側に遭遇しないということである。

 そうすれば、いくらこちらが望んだとしても、相手の行動に影響を受けることなのだから、目的を達成しなくても、相手のせいにすることができる。

 そういうことで、自分の責任というか目的を回避することもできるし、自分の部下を不必要な戦いによって怪我や戦死から逃れることも十分にできる。

 だけど、ここで考えないといけないのは、相手が戦いを回避しようとしているのか、ということである。つまり、回避するために、相手の行動に依存しているということが成り立つのだ。

 そうである以上、自分からできることに限りはあるし、相手の意思や行動に左右されるから、自分ではどうしようもできない要素も加わってくることになる。

 それをハミルニアはしっかりと認識しているし、お祈りしかできない。

 「そうだ、私の言うことを聞く義務がリース王国軍の兵士、およびそれに編入された者たちにはあるのだ。私はリース王国軍の今回のミラング共和国との戦争におけるトップであり、一番偉い。兵の指揮権を与えられた者だ。上位の命令に絶対服従の軍では当たり前のことであり、それができない者は軍人ではない。裏切り者だ。ハミルニア……、私のためにせいぜい頑張ってくれ。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」

と、ファルアールトは言う。

 その言葉は、ハミルニアに対する優越性である。

 ファルアールトは、何があったとしてもハミルニアをどうにかすることができるぐらいの権力を持っている。

 リース王国軍の元帥であり、今回のリース王国とミラング共和国との戦争では、総大将であり、リース王国軍に命令できる全権を持っているのだから―…。

 リース王国軍でファルアールトの命令に逆らえることはできない。

 ファルアールトはここで忘れてしまっている。

 ここで重要なのは、権威もしくは権威を維持するために必要なことであり、それを維持するには、常に部下がこの人についていけば成果を得ることができると、部下に主観性を排除させることのない考えというか思いを抱かせるしかない。恐怖は支配していく上で必要な要素なのかもしれないが、それは結局、恐怖というものを示すものが僅かばかりの外圧もしくは内圧によって崩れることを証明すれば、一気に崩壊することである。恐怖となっていた者が病気や寿命などで亡くなった場合とか、そうであろう。

 だからこそ、人は恐怖だけ支配することはできない。

 支配のためには、支配される側の利益を必要とするのだ。

 それを本当の意味で理解していない輩は、結局、自らの繁栄に成功していたとしても、その繁栄の要因という視野の外を見ることができず、結局、その外の存在によって、自らをも殺してしまうことになるのだ。まさに、破滅であり、見なかったこと、見たら恐怖を抱く自身の心を無視したがゆえに、滅び去っていくのだ。恐怖から永続に逃げ続けることなどできやしないのだから―…。

 安寧と恐怖、向き合うしかない。

 双方のメリットとデメリットに対して―…。

 その後、ファルアールトの笑いの後、会議はお開きとなった。

 詳しい通達は、中央軍の参謀によって決められ、知らされることになった。

 それは、会議がお開きになったすぐ後であったが―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(177)~最終章 滅亡戦争(32)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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