第31話-1 一人の責任
前回までのあらすじは、ランシュが企画したゲーム第一回戦。瑠璃が勝利して、そのチームの勝利することとなった。しかし、瑠璃は、相手のセグライの風の攻撃を受け、大量に出血してしまい倒れてしまうのであった。
第31話は分割となります。話数における文字数が長くなったためです。
瑠璃は倒れた。
それは、セグライとの試合で最初の風の攻撃を受けてしまったがため―…。
そう、体の全身のあちこちを切り裂かれたため―…。
決定的なのは、瑠璃がセグライに向けて雷を落とした後の、執念ともみられるセグライの風の攻撃によって腹部を切り裂かれたことだ。
幸いにして、そのときのセグライの風の攻撃の威力は強いものではなかったが、瑠璃の意識をわずかの時間しか保たせず、長い時間が経過し、治療がされなければ、瑠璃は確実にこの世における終わりを迎えるものだった。
ドスッ、と音がなる。
瑠璃が倒れた時の音だ。
ゆえに、瑠璃が危ない状態にあることを知っていたアンバイドは、試合の決着がつくとほんの数秒で、競技場の中央の舞台の中央にある四角いリングへと駆けて行った。
その様子を見て、アンバイドの注意を受けた礼奈も視界リングへと駆けて行くのであった。
その間に、倒れた瑠璃の周囲には血が弱いながらも、ゆっくりと噴出し続けていた。
瑠璃の体内から出た血はゆっくりと押されるような感じて、辺りへと広がっていった。
そう、瑠璃の体から漏れるだすように―…。
そして、アンバイドが瑠璃のいる場所に着き、そして、ほんの数秒で、礼奈が瑠璃の下に到着する。すぐに、礼奈は、
「青の水晶」
と、言い、自らの水晶を展開する。
青の水晶は輝き、輝きは瑠璃の体へと触れ、瑠璃の体をみるみる回復させ、傷を塞いでいった。そう、青の水晶の本来の能力である回復で、瑠璃の受けた傷と体力を礼奈は回復させていっているのである。これは、水晶の能力による治療なのだ。
礼奈は必死だった。
(瑠璃!!)
と、礼奈は心の中で祈りながら、青の水晶を使って瑠璃を治療していく。瑠璃を死なせないために―…。
礼奈の青の水晶による治療を見ていたアンバイドは、
(治療の術も使えるのか。さっき、水晶と言っていたから、ローの持っている水晶を渡されたのだろう。赤、青、緑、黄、黒、白、紫の七つの水晶は強力な能力を持っている。ローが水晶を渡すというのは、それだけ礼奈が水晶を扱うに足りる実力や能力があるということ―…。今、瑠璃を回復できるのは、水晶しかないってことか。後は、天に奇跡を任せるしかない…ってことか。)
と、心の中で呟く。アンバイドはローの水晶についてある程度知っていた。水晶には、ある能力を一つ封じ込められており、七つの水晶に関しては強力な能力を持っているとされている。水晶のことを知っている人間は、この世界でもある一族とそれに関係があった人々の中でしか知られていない。それに、アンバイド自身が知っている知識でも十分に詳しいほうに分類される。七つの水晶に関する以上にすべての水晶について詳しく知っているのは、今この世界において魔術師ローを含め、ほとんどいない。指で数えても数えきれるほどの数しかいないのだ。また、ローが瑠璃、李章、礼奈に渡した水晶は、強力なものであり、水晶が持っている能力を十分に扱うことができるとローから判断されたからである。
一方で、李章は茫然としてしまっていた。
(…………そんな……………………あっ………………、もしあの時……無理にでも…………、私が試合に出るって…言っていれば―……。)
と、李章は自らの後悔を心の中で呟きながら―…、一週間前のことを思い出す。
一週間前の夜、リースの城。
「私、アンバイドさんの言う通り、一回戦に出たいと思います。いや、出ます。」
と、瑠璃は言う。その言葉は、後半になっていくと、より覚悟の籠ったものとなった。
さらに、続けて、
「私が、最終的にランシュという人に対してゲームに参加すると表明したし、ここは絶対に私が先陣をきって、勝利をもらたす責任があります。だから―…、一回戦の最初の試合でこのチームに勢いをつけるよ。」
と、瑠璃は言う。
この瑠璃の覚悟の目を見た李章は、何も言えなかった。言うことすらできなかった。
時は戻り、瑠璃が大量出血で倒れるということに対する、あの時の自分自身を李章は呪ってやりたいとも思っていた。ゆえに、
(こんなことになるなら―…。)
と、何度も後悔という思いを抱く。
最後は、
(私は誰一人として大切な人を守れない―…、弱い、弱い、弱すぎる人間だから―…。)
と、李章は心の中で結論を下し、納得させようとしても、
「瑠璃さん!!!」
と、声が高く天に上げるように出したのだ。いや、李章自身、今は、叫ぶことしかできなかったのだ。自らの弱さを憂いながら―……。
【第31話 一人の責任】
礼奈は、瑠璃を傷口を青の水晶の能力ですべて塞いだ。
その後、近くにいたアンバイドが、瑠璃を抱え、競技場のリングを降りて、セルティーの元へと向かう。
「瑠璃さん、瑠璃さん。」
と、李章は叫ぶ。
それを見たアンバイドが、
「叫ぶんじゃねぇ―。傷口が塞がったといっても、完全でないだろうし、李章、お前の声で瑠璃の傷口が広がったらかなり危ういんだよ。」
と、怒鳴り声に近い感じで李章に向かって言う。
理解したのか李章は、ただ俯きながら黙るのであった。
黙ることしかできないのだ。礼奈のように瑠璃の傷口を塞いだり、弱った体力を回復させたりすることは、李章にはできない。緑の水晶の能力はそうではないからだ。
瑠璃を抱えたアンバイドがセルティーの元ヘ着くと、同時に礼奈も瑠璃の元ヘ駆けよってきた。
「はあ、はあ、はあ。……たぶん、瑠璃は大丈夫だと思うけど、傷口にばい菌が入って、化膿していないか、調べないと。え~と、セルティーさん、何か敷くことができるものはありますか?」
と、礼奈はセルティーに尋ねる。
「いや、ここにはそんなものはない。だが、城に行けば、なんとかなるだろう。それに、ここにいては、瑠璃さんも休まらないだろう。とにかく、アンバイドさん、瑠璃をリースの城まで運んでください。」
と、セルティーは言う。
「わかった。」
と、アンバイドは言う。
そして、アンバイドは瑠璃を抱え、リースの城へと李章、礼奈、クローナとともに向かったのだ。
リースの城に到着し、城の中の医務室へと向かった。
そして、医務室での診断では、傷口は完全に塞がっており、礼奈も瑠璃が傷口のあったところから化膿していないことを確かめ、それがないことに礼奈は一安心した。ちなみに、リースの城の医務室にいた医者は、このリース近辺の地域では珍しく女性の医師であったという。医者の多くは、リース近辺の地域に関しては男性が多く、特に年配の者が多いといわれている。
瑠璃の診断にあたった医者は、傷口を塞いだ礼奈ことを自らの弟子にしようとしたという。しかし、礼奈はそれを断った。
補足するが、瑠璃たちが現在いる異世界の医療技術は地方によってさまざまであり、格差も大きい。リースにいたっては、ここ数十年で、別の大陸から入ってきた医療技術によって、ウィルスの概念や、消毒の必要性などについてある程度伝わっていた。それは、交易をおこなっていたために、情報が入りこみやすく、それを受け入れて発展させていく土壌がリースにあったからである。ゆえに、瑠璃の診断にあたった女性の医者も、礼奈とともに化膿がないこと、消毒するための物を用意することを適確に判断し、実行していた。そのため、瑠璃は、最悪、体の一部の切断や化膿による死から免れることができた。
瑠璃は、この間完全に眠っていた。再度、アンバイドに運ばれて、瑠璃の部屋のベッドへと寝かせたのである。そのとき、アンバイドは丁寧に、ベットの上に瑠璃をのせたのである。それには、セルティーも感心したという。
一回戦があったその日の夜。
瑠璃が心配で、礼奈は瑠璃の部屋にいた。
礼奈は、瑠璃が寝ているベッドの横に椅子を一つ置いて、自らが座り、瑠璃の顔色を見ていた。
瑠璃の顔色は、とても穏やかであった。腫れもなく、ただスヤスヤと眠っていた。鼾ではない寝息を立てていた。スースー、と。
(瑠璃…、どうか目を覚まして、生きて、お願い。)
と、礼奈は只管祈ることしかできなかった。礼奈が青の水晶でおこなった治療はすでに終わったのだから、後は瑠璃が目覚めるの信じて待つしかなかった。
座っている礼奈の後ろでセルティーは、立ち続けていた。
(どうか神の御加護があらんことを―。)
と、セルティーは心の中で言いながら、祈るであった。自らが信仰しているものが瑠璃を救わんことを―…。
クローナもさっきまで一緒にいたが、後は礼奈に任せて、自らの部屋へと戻っていった。そのとき、瑠璃の部屋から出たときに、瑠璃の部屋の扉の近くで壁に背をもたれて座っていた。そこに、椅子はなかったので、廊下に自らの臀部から足をつけて、そして、足は片方を伸ばしていた。顔は俯いており、かなりのショックを受けていた。
それを見たクローナは、居たたまれない気持ちになって、自分の部屋へ向かってさっさと逃げるように歩きだした。
(瑠璃、お願いだから、無事に回復して。)
と、クローナは心の中で祈っていた。
いつからだろう。
そう、思えるほどに李章は、瑠璃の部屋の扉の近くで座っていた。俯いて―…。
(………………、俺は―……………、何もできなかった。)
と、李章は心の中で呟く。それも強く。
李章は今日の一回戦の瑠璃の試合について思い出していた。そう、瑠璃がセグライによって血塗れにされ、瑠璃が勝利を掴むも、そのために生死を彷徨うような傷を代償であるかのように負ってしまった。そして、その後、礼奈によって瑠璃の傷口が塞がれていく光景、そして、李章自身は何もできなかったという光景が浮かびあがってくる。
そして、
(守れなかった、瑠璃さんを―…。)
と、李章は心の中で呟く。
このような、瑠璃を守れなかったことに対する考えが、ループするように、今日の試合とその後を何度も再生するように、李章は、自分自身を問い詰めていくのだ。それは、自らの精神をすり減らしていきながら―…。
ふと、このループを遮るような音がする。
それは、足音だ。
足音は、こちらへと向かって徐々に大きくなっていく。
そして、李章の目の前で止まる。
李章は顔を上げみると、そこにはアンバイドの姿があった。
「一体、そこで座って何を考えているんだ、李章。」
と、アンバイドは李章に尋ねる。
「!! アンバイドさん。」
と、李章は驚く。そのために、アンバイドから尋ねられた質問が何かを忘れるぐらい動揺し、答えることができなかった。仮に聞えたとしても、李章は答えることができないであろう。
それでも、アンバイドは、李章が何を思っているのかについてはすぐにわかった。
ゆえに、
「いくらそんなところで座って考えたとしても、瑠璃が戦いで傷を負ったことも、お前がそれを助けられなかった結果も、変わったりはしないし、いちいち考えたりしても意味がないし、時間の無駄だ。それに―…、瑠璃自身が選択した結果で起こった悲劇に、ちまちま考えすぎるな!! もう少し、他の人を信用としたほうがいいんじゃないのか?」
と、アンバイドは言う。
李章は、それでも、顔を下げ、いや、下げ続けて、
「アンバイドさん…。私はどうすれば強くなることができるんですか。自分が大切だと思っている人が傷付きそうな場面には出さずに、自分の戦うスタイルを変えないで、強くなる方法はあるのですか?」
と、アンバイドに尋ねる。李章は、大切な人を守ることができる方法を、自分が持っている戦闘方法を維持したまま可能かどうかを―…。
その李章の言葉を聞いて、アンバイドは怒りたい気持ちもあった。しかし、その気持ちを抑えて、
「そんなものはない。本当に大切な人だと思っているのならどんなことしてでも守れ。自分の命をかけてそれぐらいしろ。しかし、お前がもし自らのプライドに固執して、大切な人を守ろうと欲張るのならなぁ―――――……、俺は今この場でお前を戦えないような体にしてやりたい。もしも俺が、天成獣の能力を使うことが恥だとか、そんなこと言うぐらいで自分の大切な人を守れないぐらいだったら、俺はそんな馬鹿なプライドを捨ててでも、天成獣の能力を使ってでも守りにいくよ。どんな自分のプライドに反することでも、大切な人が守れるのなら、それでいい。大切な人と自分の馬鹿なプライドを比べれば簡単なことだ。」
と、アンバイドは言う。抑えようとも、言葉を言っていくうちに気持ちが熱くなり、強い迫力のある言葉へとなっていった。
それを聞いた、只管俯くしかなかった。自分の今の状況を適確につかれていることに―…。
「ルーゼル=ロッヘでも言ったよな―…。お前があの嬢ちゃん達を守りたいと思うなら、天成獣の力の宿った武器を使って戦え。自分自身のプライドを捨てでもなぁ。俺みたいに大切な人を守れなかった側の人間になりたくないのならばな、と。今の李章、お前ならわかるんじゃないのか。」
と、アンバイドは続けて言う。
「いい加減に認めろ。何が自分にとって今重要かぐらい。」
と、アンバイドは言って、ゆっくりと去っていきながら、
「俺のように、復讐のために生きていくことしかできない人間にならないためにも―…。」
と、言って自らの部屋へ向かった戻っていった。
そして、李章は、ただ瑠璃の部屋の近くで座り込むことしかできなかった。ただ、大切な人を守れない自分の弱さや不甲斐なさを感じながら―…。
第31話-2 一人の責任 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第31話-2は、第31-1と同じ日に更新すると思います。ほぼ確実だと思います…。