番外編 ミラング共和国滅亡物語(171)~最終章 滅亡戦争(26)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とリース王国との間に、ミラング共和国の総統となったエルゲルダの宣戦布告によって戦争が始まる。その結果、リース王国軍はミラング共和国軍と対峙することになる。その戦いの中で、リース王国軍の中の左軍でランシュとヒルバスは活躍し始めるが、中央軍の指揮官でリース王国軍の大将であるファルアールトは左軍の指揮官であるハミルニアを憎むのであった。
一方で、ミラング共和国軍では、リース王国軍の左軍を混乱させるための作戦も考え、かつ、リース王国軍を倒すための作戦会議がおこなわれるのであった。それを主導するのは総統のエルゲルダではなく、ミラング共和国の諜報および謀略組織シエルマスのトップの統領であるラウナンであった。
イマニガがアウルを死体人形している時。
ミラング共和国軍の側では―…。
夜中の時間ではあるが、作戦会議が開かれていた。
「こんな夜分遅く、お集まりいただき感謝いたします。では、会議を始めましょう。次のリース王国との戦いは、リース王国軍は中央軍の編成が完了次第、我が軍の中で精鋭と思われる師団にリース王国軍の左軍と右軍を衝突させて、時間を稼いでいる間に中央軍が我が軍の本陣を強襲するとのことです。」
と、ラウナンは言う。
エルゲルダはすでに眠って、夢の中にいるし、今から起こしたとしても役には立たないので、ここにいてもらっても困る。
これからおこなわれるのは、作戦会議であり、リース王国軍の諜報に聞かれるわけにはいかない。
すでに、リース王国軍の諜報を数人ほど、シエルマスの者たちによって始末されている。
だからこそ、安心して会議をすることができるが、大声を出せば、どこかで情報が漏れる可能性を高めることになる。
情報漏洩が一番、危ないことでしかない。
漏れない情報というものはないのであるが―…。
ラウナンは一息吐いた後、言葉を続ける。
静寂の場の中で―…。
「では、ファルケンシュタイロ様はどのような作戦を考えているのですか?」
と、ラウナンは言う。
そして、ファルケンシュタイロは、立ち上がり言い始めるのだった。
「私としては、リース王国軍の手にわざと乗っておいた方が良いと思います。その上で、天成獣部隊を右軍に集中させますが、それと同時にシエルマスを中央軍の方に潜り込ませて、そこから混乱をさせた方が都合が良い。リース王国軍の右軍の一割ほどを倒した後に、そこから天成獣部隊を撤退させ、中央軍の強襲すると同時に、中央軍に潜り込んでいるシエルマスの者が動き、リース王国軍の中央軍を混乱させます。リース王国軍の左軍の方は一部のシエルマスの……ラウナンがやっている作戦を実行すれば上手くいくことであろう。それで良いか。」
と。
ファルケンシュタイロとしては、シエルマスの数を減らすことは主要な目的ではなく、シエルマスを敢えて活躍させて、ラウナンに恩を売ろうとしているのだ。
そうすることで、次の戦いから自身に自由に指揮ができる状態にもっていこうとしているのだ。
要は、政治的駆け引きがすでに、この場で発生しているというわけだ。
(………まあ、ラウナンからわざと恩をもらうことになりそうですが、私とあなたでは実力にかなりの差があるのですよ。そのことをこの六年の間で忘れたのですか? 再度、教えてあげないといけませんか。)
と、ラウナンは心の中で思う。
ラウナンは、ファルケンシュタイロの気持ちというものをすぐに見破った。
ファルケンシュタイロが今回のミラング共和国とリース王国との戦争で、エルゲルダに媚びへつらうことなく指揮をしたいと考えているのだろう。
そして、ラウナンへと恩を作ろうとしていることも―…。
ラウナンは、これをラウナンへの反抗ではないかという気持ちになりながら、同時に、自身がファルケンシュタイロよりも強く、いつでもファルケンシュタイロをこの世から葬り去ることができると思っているのだ。
現に、それは可能だ。
自らの実力をこの場のメンバーと比較することに関しては、正確にできていると思えるし、状況を理解している。だけど、完全ではないことに注意する必要はある。
ここで、ファルケンシュタイロは、シエルマスを最大限使っての、リース王国軍の左軍と中央軍を混乱させて、彼らから勝利を手にしようとしているのだ。
この作戦に関しては、重要な面での考慮がない。
そして、今回の作戦に関して、意義を唱える者が珍しくいた。
「今回のファルケンシュタイロ元帥の作戦には、重要な点で問題があります。もしも、この作戦を実行した場合、リース王国軍の左軍で活動している二人の騎士のことが念頭にありませんし、彼らの実力はミラング共和国軍の兵士千人を一気に殺すことができるほどの実力を有しています。そうなりますと、シエルマスを派遣しても無駄な可能性がありますし、右軍には伝説の傭兵とされるアンバイドがいるので、天成獣部隊だけではどうしようもないと思います。アンバイドの指揮をリース王国軍の右軍は邪魔しないどころか、協力してくると思いますので、時間稼ぎもできないと思います。私から言えることは撤退して、ゲリラ作戦に切り替えた方が良いと思います。オットルー領地になら、今のミラング共和国軍のシエルマス、天成獣部隊、私などの協力部隊の総力があれば、何とかリース王国軍を戦争できない状態にもっていくことができます。残念ながら、リース王国征服を諦めた方が良いです。」
と、一人の将校が言う。
この五年の間、この一人の将校は、一軍団のトップになることができた。
そして、部下には元グルゼンの部下達も多くいる。
ゆえに、そのことによって冷遇する者は、ミラング共和国軍の中で多い。
というか、ファルケンシュタイロがグルゼンのことで嫉妬することが多かったのだから、当たり前のことであろう。
(グルゼンの所の残党を率いさせられた哀れな女将校(?)か。こいつがなぜ将校まで出世できているのか、全く分からない。どういうことなのだ。女将校の多くは、エルゲルダの手籠めにしたはずなのに―…。イルカルに洗脳させて―…。それに、シエルマスを派遣したとしても、まるで、その指令を達成したと言った嘘報告をしてくるし、それが気づかれると、ちゃんと始末されていますよ、とか言う。どうなっていやがる。まあ、いずれ隙を見つけ次第、始末してやるがな。)
と、ラウナンは心の中で思う。
ラウナンは、この人物の名前も知っているが、敢えて名前を言わない。
理由は特にあるわけではないが、どうして女の身でありながら、将校に出世しているのか。
ミラング共和国では、エルゲルダが即位した後、ミラング共和国軍の上級階級のいくつかの枠組みが拡大され、そこに女性をあてたのだ。エルゲルダの要求によって―…。
理由は、リース王国と戦争をすることになるのだから、戦争に合法的に自分の慰めをしてくれる女性が欲しがったためである。
ラウナンとしては、役に立たないのが増えるのは困るが、エルゲルダをここで拗ねさせて、自分がミラング共和国軍のトップになるようなことをしたくなかった。
理由は、裏からミラング共和国を操ることを目標としているし、責任を問われることだけは避けたかったからだ。
なぜなら、自分以外の人間は、自分の掌の上で踊っていないといけない。ラウナンの思い通りに動かないといけない。そうすることで、ラウナンという人間の心の中は満足し、自分という存在の優位という感覚を得ることができるのだから―…。
そして、その通りに動いているとは思えない今、発言した女将校は、いずれ隙を見つけ次第、始末しようと考えるのだった。
じゃあ、前から始末できるのではないかと思う者もいるだろうが、それはできなかった。
ラウナンの心の中で今、思っている言葉の通りであり、シエルマスの者を何度も派遣するが、指令を達成していないのに、達成したというので何かしらおかしいとは思うが、これ以上、手を出すことができないほどの手詰まりになってしまっているのである。
ラウナンは、心の中で、この女将校は何かしらの能力ではないかと思っているのだが、その尻尾を掴むことは一切できていないし、女将校の方がその尻尾を出そうとしないのだから―…。
この女将校は、ファルケンシュタイロに視線を向けながらも、ラウナンがどれだけ危険人物であるかを知っている。今は、大人しくしている。
(ラウナン=アルディエーレ。こういう場でも自分が仕切り屋じゃないと気が済まないという質なのね。自分ではトップになって責任を持とうとしない、無責任男。こういうのが国の実権を握ると、ろくなことにならない。すでに、リース王国軍の実力から考えて、こういう正攻法やアルデルダ領での戦いの正面から奇襲での戦いはすでに意味がない。余計な死者を積み重ねるだけ。オットルー領地の森の中でゲリラ戦をした方が得。アンバイドや左軍の二人の騎士をほとんど狙わずに、弱いところから狙っていき、持久戦に持ち込み、リース王国軍をリース王国の領土内へと撤退させる。それぐらいしかできない。リース王国の二人の騎士によって、このミラング共和国軍の優位は完全になくなってしまってる。いずれ、こちらが駄目になるのは分かりきっている。そろそろ、私の覚悟を決めないといけないね。そして、見張っているシエルマスの処分の検討する必要があるのかしら―…。)
と、心の中で考える。
この女将校にとっては、ミラング共和国軍はゲリラ作戦をする以外に、リース王国軍に大打撃を与え、かつ、リース王国軍を撤退に追い込むことができないと思っている。
現実にそうかを判断することはできないが、それでも、ミラング共和国軍がリース王国軍に対して、有利だというものは存在しない。
すでに、当初、考えられていたよりも、リース王国軍の実力が違うのだ。
想定外と言わずして何という。
勇ましい言葉を言うことは簡単であるが、相手のあることになってしまえば、相手の要因というものも絡んでくるために、勇ましい言葉の通りにはいかないことの方が多いかもしれない。自分にとっての思い通りにはならないことがある。だからこそ、修正したり、変更したりすること、つまり、柔軟に対応することが大切だということを教える出来事が起こるのだ。
なので、ここで大きな損害が出るかもしれない会戦をおこなうよりかは、ゲリラ戦の方が相手へのダメージをでかくすることができる。それ以外に、再度言うが、方法はないと思っている。
だけど、そのようなことが許されるはずもなかった。
「女風情が馬鹿なことを言うんじゃない!!! そのような臆病者が採る作戦を実行することができるか!!! 我らはミラング共和国軍であり、いまや強力な軍事力を持っていることで有名なんだ!!! そのような軍団がゲリラ戦だと!!! エルゲルダ様にそのようなことをさせれば、彼の指導者としての資質が問題とされてしまうではないか!!!」
と、ファルケンシュタイロが言う。
ファルケンシュタイロは、女将校を女性という理由だけで、自分より劣っているのは当たり前だと思っており、その意見はミラング共和国軍の敗退のためにわざと言っている違いないと思ったからだ。いや、決めつけと言った方が良い。
それに、自身はミラング共和国の英雄であり、そのように呼ばれて当然の実績を挙げているのだ。
だからこそ、このような姑息な手を使うことしかミラング共和国軍が勝利することができないということを言う女将校には呆れるしかなかった。
だけど、実際にしっかりと分析しているのは、女将校の側であろう。
ランシュとヒルバスという千人を数秒で負傷者に変え、戦死者にも変えられる実力を持ち、一人は空中から攻撃が可能であり、もう一人は遠距離からの攻撃が可能である以上、迂闊に近づいて戦うことはあまり良い結果とはならない。
そして、天成獣部隊は、ラフェラル王国との戦いで三割を失っており、まだ、その数を補えていない以上、無理すればミラング共和国の軍事力を大幅に低下させることになり、内部および周辺諸国から攻められる可能性を上昇させるだけだ。
そうである以上、ゲリラ戦に切り替えた方が得である。
いくら二人であったとしても、他がゲリラ戦でやられれば、リース王国軍の上層部は撤退を判断しないといけなく。そこを突くしかない。
それを女将校は理解しているのだ。
その女将校の考えを面子という面からファルケンシュタイロは否定するのだった。
ラウナンへの忖度がかなり働いている。
ミラング共和国は、男尊女卑の考えが浸透しており、女性の言うことは男性の言っていることよりも馬鹿であり、愚かな言葉であるということにされている。ゆえに、女将校の言っている言葉は、自分達の言っていることよりも劣るというミラング共和国の常識というものにおいて、判断され、切り捨てられたのだ。
正しいということは簡単に判断できることではないし、価値基準通りにならないことは往々にして存在する。国の価値観によっても避けられないことである。
そして、女将校の意見を否定することで、自分達の面子を保つことができるし、女意見を採用したら、ミラング共和国内で馬鹿にされることは目に見えている。結局、自分達の面子が大切であり、エルゲルダをダシにしているだけなのだ。
エルゲルダは、結局、自分達の考えや常識、価値観というものを正当なものとするための道具になってしまっているのだ。
さて、話を戻すと、ラウナンは、
(女ごときが言いやがって―…。ファルケンシュタイロ……、ああいうのは降格させるのが一番。)
と、心の中で思う。
ラウナンは、こういう女性を嫌う。
意見する女性は、ミラング共和国の男性の価値観に染まり切った者達にとっては、ウザったらしいものでしかない。悲しいことに―…。
だからこそ、意見した女将校を潰そうとするのだ。
ファルケンシュタイロは、
「イルターシャ。貴様は次回の戦いでは後方で大人しくして、反省していろ。」
と、処分を下す。
ラウナンにとっては、不満でしかないから、
「ファルケンシュタイロ様。彼女は一軍の大将から降格させ、それより一つ下の団のトップにしましょう。」
と、言う。
ラウナンは、この意見を言った理由は、このままでは後方に下がるだけになり、実質、反省を促す者ではないから、降格させて、見せしめにする必要がある。
ラウナンやファルケンシュタイロの作戦に逆らうことは、何人もこのような処分を下す、と。
自らの権威を維持するために―…。
その後、会議は終わるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(172)~最終章 滅亡戦争(27)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。