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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
508/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(162)~最終章 滅亡戦争(17)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダがミラング共和国の総統となり、リース王国へと宣戦布告する。一方で、その情報を知ったリース王国では、ラーンドル一派たちによる話し合いがおこなわれ、逆に侵略し返そうということになるのだった。

その情報をリーンウルネは自ら潜入することで仕入れ、ハミルニアとフォルクスを自分の執務室に呼び寄せて、今回の戦争に参加させるのだった。その話し合いで、ランシュとヒルバスの参戦をも促すものであった。

リーンウルネは、一枚の紙をメタグニキアの秘書に渡し、その紙を見たメタグニキアは激怒しながらも、そのメリットのためにヒルバスを今回のミラング共和国とリース王国の戦争に参加させる命令を下すのであった。

その後、ランシュとヒルバスは一時的に騎士団に復帰という形で参戦するのだった。


リース王国は出陣し、ミラング共和国の境までやってきており、作戦会議がおこなわれる。

その作戦の会議の中で、左軍と右軍の大将がそれぞれ決まるのであった。左軍に騎士団が編入されるのだった。

一方で、ミラング共和国軍は、リース王国軍の実力を見るために、軍隊をリース王国と同様に三つに分けるのだった。

最初の戦いは、ランシュとヒルバスの活躍で左軍、右軍はアンバイドの活躍により被害も出ながらも奮闘し、中央軍は散々な目に遭うのだった。

それは、ファルアールトにとってあり得ないことであった。

精神的に摩耗するぐらいに―…。

その一方で、左軍の方では、勝利の宴会が開かれるのだった。

ミラング共和国軍の方でも動きがあるようだ。


次のリース王国の作戦は、とんでもないことが決められ―…。

 一時間後。

 左軍の本陣内では―…。

 「何、馬鹿なことを言っているのですか!!!」

と、リグレーに言う。

 これは怒っている。

 なぜなら―…。

 「すみませんでした。」

と、ハミルニアは謝る。

 謝ることしかできない。

 これは、自分の失態なのだから―…。

 「謝ってもどうしようもないですよ。はあ~。」

と、リグレーは溜息を吐くのだった。

 謝ったからと言って、結果が悪いことから解放されることはない。

 なってしまったものは仕方ないというか、さっさと対策をしておかないといけない。

 幸い、ミラング共和国軍の本陣へと攻めるということはないのだから、何とか上手く被害を最小限にすることは十分に可能である。

 そう思うと―…。

 「ハミルニア様もしっかりと考えてください。」

と、リグレーは言うしかなかった。

 「はい、考えさせていただきます。」

と、ハミルニアは返事をする。

 そんな様子を左軍の幹部は見ながら、いつものことかという感じで思うのだった。

 ハミルニアが優秀だということは分かるし、人の扱いはかなり上手い方だ。

 そして、有能な人物を見破るのも得意だ。

 だからこそ、ハミルニアの下にいれば、自分の才能も開花してくれるのではないかと思ったりもできるわけだ。

 それでも、時にこのようなアホなことをやってしまうのだ。

 そこだけは直して欲しいと思うのであるが―…。

 「ふう~、さて、考えたけど、今日は守りが重点となるでしょう。中央軍は簡単に敗北して、撤退してくると思うので、それを追ってきた奴らを待ち構えて、倒していくという方向で行こうと思います。」

と、ハミルニアは言う。

 ハミルニアはリグレーに怒られながらも、自分がしないといけないことを必死に考えていた。

 視野狭窄になるのではなく、範囲を広げ、ミラング共和国軍はリース王国の中央軍に本陣を攻められた時にどのように行動するのかを考えると、すぐに、リース王国の中央軍が敗北する可能性が高いことを予測し、そこから、リース王国の中央軍が撤退という名の逃げとなり、それを追ってくるミラング共和国軍の者達がいるので、待ち構えて、ミラング共和国軍を始末していった方が得策である、と考えたのだ。

 気を付けないといけないことは、ハミルニアも十分に分かっており、敵に気づかれたりすると、その効果が激減してしまうことである。それが悪い方向にならなければ良いが、そうでない可能性も十分にある。

 「ですね。」

と、リグレーが反応したので、今の作戦に決定することになった。

 中央軍の敗退する可能性を利用して、自分達はそこから手柄を得ようと考えたのである。

 「さて、私はそのための遊撃を担ってくれる若き二人に会いに行きますか。」

と、ハミルニアは言いながら、本陣を後にする。

 護衛をつけなくても、何とかなるとは思っていない。

 なので、ハミルニアの言葉に反応して、兵士の中のハミルニアの監視にあたる兵士たちを連れて行くのであった。

 場所は勿論決まっている。


 左軍。

 リース王国の騎士団が本陣を構えている場所。

 ハミルニアより先にフォルクスが戻ってきており、左軍の作戦内容が伝えられていた。

 そして、中央軍がどのような行動をするのかも―…。

 だからこそ、ランシュとヒルバスは愚痴のようなことをこぼしたくもなるものだ。

 (中央軍がミラング共和国軍の本陣を今日にも攻めると言ってきた。そして、右軍と左軍は大人しく後ろを固めておけ、というものだった。馬鹿に権力を与えてはいけない。馬鹿だと思っている人で、謙虚になれるのなら、まだましな方だ。だけど、中央軍を指揮しているリース王国の中央で権力を握っている奴らの子飼いは、自分が活躍して、自らの栄光と地位を手に入れることしか頭にないようだ。類は友を呼ぶ。まさに、そのように感じてしまうのは俺だけであろうか。)

と、心の中でランシュは思う。

 ランシュとしては、今日の中央軍の行動は明らかに馬鹿げたことでしかない。

 昨日、大きな敗北を喫したというのに、それを取り返すために、さらに大きなことをしようとしているのだ。

 それも無茶苦茶なことを―…。

 呆れる以外にはできないであろう。

 (………ミラング共和国軍はここ十数年、戦争経験があるのだから、そういうことに頭が至らないわけないでしょう。)

と、ヒルバスも心の中で呆れるのだった。

 ミラング共和国は、十数年、リース王国以外に、ラフェラル王国の大国との戦争はこれだけであるが、他には征服した小国との戦争の経験があるのだから、相手がしてきそうなことをすぐに予測することぐらいは経験の勘からできたりするものだ。

 だからこそ、経験の勘で、リース王国軍が何をしようとしているのか、した場合でもすぐに対応できるぐらいの経験はあるので、立て直すのも早かったりする。

 だからこそ、ラーンドル一派がしようとしていることは愚かなことでしかない。

 ゆえに―…。

 「馬鹿だな。」

 「馬鹿ですね。」

と、ランシュとヒルバスは呆れるような言い方をするのだった。

 最初に言ったのはランシュであり、次がヒルバスである。

 二人の呆れる感覚は、一緒の意見であることを確かめるのは十分であった。

 そのように思っているからこそ、溜息だけ十分だし、愚かなことをしているので、これ以上言うことはないのだ。

 そんななか、二人は誰かがやってくるのに気づくが、敵ではないなと思い、警戒を緩めることはないが、相手をすぐに殺そうと考えはしなかった。

 「ランシュ君、ヒルバス君か。中央軍は本当に馬鹿なのかねぇ~。」

と、ランシュとヒルバスに近づいてくる者は言う。

 この話し方と喋り声で、ランシュとヒルバスはすぐに誰かわかったのだ。

 そう、ランシュとヒルバスに近づいてきていたのは、ハミルニアであることを―…。

 (ハミルニアさんか。彼は、兵士を指揮するのは、上手いと思える人だ。貧しい平民から兵士になり、一時期は騎士団にも在籍していたが、兵の指揮関係の仕事がしたくて、騎士とは別の軍団の方に属すのだった。)

と、ランシュはハミルニアの経歴を心の中で言う。

 正しくは、ハミルニアは、最初、兵士の方で所属していたが、騎士団の方に推薦され、敢えて一時的に偽名で騎士団に所属していた。

 その偽名とした理由は、リース王国軍へのスカウトのためであった。

 理由は、優秀な指揮官を確保することと、ラーンドル一派の息のかかっていない者を探すためであった。

 だが、当時の騎士団の中にいたとしても、スカウトしても、ラーンドル一派の息がかかってしまうだろうという考慮のもとに、いないと言ったまでに過ぎない。

 その後は、リース王国軍へとハミルニアは戻ったのである。

 そのことをランシュは知らないし、表の理由しか知らないし、ハミルニアの経歴に関しては、秘匿されている理由の一つにはそのようなことがあるのだ。

 まあ、ランシュも王族護衛の中で、ハミルニアがかつて騎士団に一時的に所属していたことを王族護衛の先輩から教えてもらったからだ。

 さらに、メルフェルドの知り合いなので、何回か会ったことがあるから、ちゃんと顔に関しても知っている。

 まあ、そういうことだ。

 そして、ランシュは、さらに、心の中で思考するのだった。

 (リース王国は、騎士団が治安や戦争でも動員されることが多いが、騎士団の数だけではどうしようもできない。そのため、一般の平民を雇って、兵士として育てておく必要がある。ヒルバスも騎士団に合格する一年前から面接や体力試験などで合格した軍団の方に所属して、実力を認められて騎士団の試験を受けられたのだ。そう思うと、俺はベルグの推薦という形だったので、騎士団ではあまり良く見られていないのも納得がいく。そう、リース王国側の推薦する人物が大抵、騎士としての実力がどうかと思えるような怪しいものであったり、劣っていたりすることが多すぎるし、人格的に問題があるという一面もあり、騎士団内では歓迎されていなかった。だけど、俺は、推薦という形で最初に騎士団に見習いとして入団したが、試験もその後に受けて合格することができているので、騎士団の中では珍しい経歴だし、騎士試しで天成獣の宿っている武器に選ばれたということもあり、良好な関係をほどほどに気づくことができた。そのおかげで、王族護衛にも推薦されたし、俺も望んでいたので、叶ったという感じだ。)

と、心の中でさらに自画自賛するのだった。

 余計なことをここまで思考できるのだから、もう少し真面なことを考えて欲しいものだ。

 そして、思考していることよりも重要なことを言うのだった。

 「ですね、ハミルニアさん。」

と、ランシュが言う。

 「そうですね、ハミルニア指揮官。」

 そして、ヒルバスも言う。

 ヒルバスは、一応、職務である以上、ちゃんとした指揮官である名称をつけて言う必要があり、言ったのだ。

 ハミルニアのリース王国軍としての正式の階級は、指揮官ではなく、大将であるが―…。

 まあ、そのようなことをハミルニアは気にしないだろう。

 それに、ハミルニアの後ろにいる者たちは、ラーンドル一派の息のかかったものではない、ということが推測できる。

 ハミルニアが、対立している可能性、自身を冷遇させている一派を常に自分の懐において、どこでもかしこでも連れまわすようなことは有り得ない。

 自分の信頼がおける者に護衛を任せるからである。

 そして、ラーンドル一派の息のかかった者を批判している言葉に賛同しているのだから、聞かれる可能性も考慮に入れないと考えると、護衛に敵対する一派の息のかかった者を雇うことは有り得ない。

 そして、ハミルニアは言う。

 「ランシュ君は、一応、最初は推薦で騎士団に入団したのだから、リース王国の中央で権力を握っている側の意見に賛成しそうなものだけど―…。」

と。

 ランシュが推薦で騎士団に入団したことは知っている。

 だけど、それにとどまることなく、実力で騎士団の入団試験を後にパスしている以上、騎士としての実力がないわけではない。その推薦した人物が、元宰相である以上、ラーンドル一派と繋がっている可能性は十分にあるが、ハミルニアはランシュはそうではないと思っていた。

 ベルグという元宰相は、ラーンドル一派と仲が良かったわけではないが、悪くもなかった。ラーンドル一派の思い通りに動かないことが時々あったようなので、あまりラーンドル一派からは好かれていなかったようだ。

 そう考えるに、ベルグからの推薦である以上、こちら側に引き入れなくとも、敵対関係を作っておく必要はないということだ。

 むしろ、友好関係を作っていた方が、メリットが多いとも判断することができる。

 そして、一方のランシュは、ラーンドル一派のことを快い存在とは思っていない。

 だからこそ、

 「いや~、騎士団に入って、勉強していけば、リース王国の中央で権力を握っている方々のやっていることが正しいとは思えなくなりますよ。それに、昔の旧アルデルダ領の領境でのミラング共和国との戦いで、たくさんの騎士が亡くなったのを知っていますし―…。」

と、言う。

 ランシュは、復讐のために騎士団に入団したが、復讐の対象は騎士団ではない。エルゲルダとレグニエドの二人なのだから―…。

 そして、騎士団に入団後に、先のリース王国とミラング共和国との間の戦争で、騎士団は半分近くを失うことになり、それがラーンドル一派が騎士団の一部を暴走させることによって、起こったことなのだ。

 それを知っているからこそ、ラーンドル一派と意見を同じくすることができない、賛成したとしても、いつどこで裏切られるのか分かったものではないからだ。

 その裏切りがランシュ自身の命に関わってくるをランシュは理解している。

 「そうか、ランシュ君はそういう体験をしているのか~、実際に―…。なら、君は大丈夫だろうし、ヒルバス君はもちろんってな感じかな。」

と、ハミルニアは言う。

 ハミルニアは、ランシュとヒルバスの表情を見ながら、どのようなことを考えているのかすべてではないが、大まかなことは予想がつく。

 そう、二人ともラーンドル一派を好んでおらず、嫌っているということを―…。

 そして、二人が生き残る力を持っていることも―…。

 「はい。」

と、ヒルバスは返事をし、頷く。

 その返事に、ハミルニアはヒルバスの考えていることの自身の予想が当たっていたので、心の中で喜びながらも、同時に、彼らがまだ何かを隠しているのではないか、ということを抱くにいたった。

 だけど、そのことについて、追及する気はない。

 今は、ミラング共和国との戦争に勝つことが一番重要事なのであるから―…。

 「そして、中央軍の馬鹿な行動もあるだろうけど、私は昨日は忙しくて感謝できなかったが、君たち二人には感謝するよ。それに私は、この戦いにメルフェルドを加えて、指揮とは何かを勉強させたかったよ。」

と、ハミルニアは悲しそうに言う。

 この感情にかけては、正直に表情にも現れていた。

 ハミルニアにとって、隠す必要がないのだから―…。

 メルフェルドを連れて行きたかったという気持ちは、本当であり、彼女に指揮官としての経験を積ませたかった。

 女性だからと言って、重役に採用しないわけではないし、その分野において、しっかりと力をつけ、社会に利益をもたらすものであれば、積極的に起用すべきである。

 そして、一方のランシュは、ハミルニアがメルフェルドの知り合いであることを知っている。

 (ハミルニアは、メルフェルドとは昔からの知り合いで、歳は離れているが、小さい頃から聡明だったそうだ。 騎士としての才能、軍の指揮官としての才能があるのは、ハミルニアもすぐにわかったそうだ。だからこそ、指揮官としてリース王国に貢献させることができれば、これほどリース王国の利益になることはないであろう。)

と、ランシュは、心の中で思うことができたのだ。

 そして、ヒルバスも同様のことを思っている。

 だけど、メルフェルドの性格で分かってしまうのだ。

 「まあ、性格的には―…。」

と、ヒルバスが言う。

 その性格に関しても、ハミルニアは十分に理解していた。

 「確かに、メルフェルドは、性格的に優しいですが、それでも騎士である以上、時には冷徹とも見られてもおかしくない判断をすべきことは理解していると思います。彼女もそろそろ指揮官として実践を経験させて、将来、騎士団に所属しながらも、指揮ができるようになれば、いろいろとリース王国にとっても利益になるだろうに―…。リース王国の中央で権力を握っているラーンドル一派は、悲しいけど駄目だね。」

と、ヒソヒソ声で言うのだった。

 別に、ヒソヒソ言う必要はないが、念のためである。

 ラーンドル一派というか、メタグニキアの私設部隊がこの話を聞いているか分かったものでない。

 いや、厳密に言えば、ヒルバスは、メタグニキアの私設部隊に所属している。

 そうである以上、ヒルバス経由でこのようなことを言っていたという批判が漏れる可能性は十分に存在する。

 だけど、ヒルバスの方から、情報が漏れる可能性はないな、ハミルニアは思っていた。

 ヒルバスも心の中では、

 (まあ、ラーンドル一派を批判している情報は部隊の中で共有しないといけないのではありますが、私自身、あくまでも、諜報と工作の技術を身に付けることが重要であるし、自分の味方を増やすだけのためですから―…。それに、この批判を部隊の中に言う気はありません。私はメタグニキアの部下ではなく、ランシュ様の部下ですから―…。)

と。

 そう、ヒルバスはメタグニキアのことを、宰相だとは思っていても、メタグニキアの部下だとはこれっぽちも思ってはいない。

 たとえ、表向きはメタグニキアの部下のように振舞ったとしても、心まではそうではないのだから―…。

 この情報を漏らす気はない。

 (まあ、リース王国の中央で権力を握っている奴らを公然と批判する指揮官なんて、それだけで左遷の対象でしかなく、最悪の場合は、二度と兵士として活動できないような傷を負わされることもあるだろうから―…。ハミルニアには、指揮官でいてくれるほうが俺とヒルバスにとってはありがたい。だって、ハミルニアは、俺とヒルバスの行動をある程度、ちゃんと考えてくれるし、ある程度自由に行動してくれることを許してくれるのだから―…。そういう意味では、ハミルニアには良い成果というもので箔をつけて、リース王国の指揮官として生き残ってもらいたいと思ってしまう。性格も、他人に気を遣えるし、自分の意見もしっかりともっているし、言うべき時にはしっかりと言うことができる。メルフェルドの指揮の勉強には、ハミルニアは良い先生なのかもしれない。リース王国の今は、そういう意味で損をしているのは確実だ。ラーンドル一派は、いつになったら反省して、まともなことをしてくれるのだろうか?ないかもな。)

と、ランシュは心の中で思う。

 ランシュとしては、ハミルニアを敵対する対象よりも、リース王国の中で重要な人物だと認識している。良い意味で―…。

 だからこそ、メルフェルドが指揮官として成長するためには、必要な存在であることを理解している。さらに、それを活かそうともしないラーンドル一派は、馬鹿なのかもしれないし、これからも変わらないのかもしれない、と思ってしまうのであった。

 そして、ヒルバスが思い出したかのように質問をする。

 ハミルニアが話しかけているので、この機会を逃すわけにはいかない。

 「そうですねぇ~。ハミルニア指揮官は、中央軍の動向から察して、どのように軍事行動をとる考えですか?」

 ヒルバスの質問に対して、ハミルニアは、

 「軍事行動―…、というか、昨日怒られたんだ。なぜ、左軍が中央軍よりも圧勝しているのか。それなら、助けに来てもいいだろう、とか言われて―…。それなら、援軍要請をして欲しいものだし、こっちは、ミラング共和国の一つの軍が中央軍のいる方に向かわないようにしていたのに―…。それに、傭兵たちにも戦果をあげさせておく必要があるし―…。そうすれば、これからの戦いで士気をあげることができるし、やる気と自信があって良い結果になると思うし、それに―…、町で略奪とかはしてほしくないからね。」

と、答える。

 昨日、中央軍に報告する際に、ラーンドル一派の息のかかったファルアールトの重臣にそのようなことを言われたのだ。左軍が圧倒的な実力でミラング共和国軍を撃退してしまい、中央軍の面子が立たないから、ハミルニアを怒ることによって、自分達はハミルニアの行動が間違っていたせいで、全滅規模だと軍事的に判断されるまで死者を出してしまったのだ、と責任をハミルニアに擦り付けたのである。

 こういう芝居に関しては、かなり上手さではあった。

 それを、軍事的に必要なことをなす為に使って欲しい。

 だけど、彼らにそのようなことができると問われれば、できないと解答してしまうであろう。

 そして、ハミルニアが言おうとしていることは、ランシュとヒルバスには別の指令を与えようとしていることだ。

 だからこそ、ハミルニアの言葉の続きを聴くのだった。

 「今回は、中央軍がミラング共和国軍に先陣を切って、そのミラング共和国軍の本陣を攻めるみたい。何度も言っているような気がするけど、馬鹿だね。他のことを考えてもしょうがないから、正直に言うと、後ろにいながらも殿(しんがり)に近いことをしようかな…と。ランシュ君とヒルバス君がいるし―…。君たち二人にはある程度、昨日みたいに自由にできる裁量を与えておくよ。二人がいなければこんなことはしないが、確実に中央軍は敗れて敗走してくれるだろうから、それを利用して、追撃してきたミラング共和国に手痛い一撃を与える。右軍の指揮官にもそう言っているし、アンバイドが私の意見に賛成してくれたので、上手くいく可能性はあると思う。それでも、不測の事態には備えて欲しい、ランシュ君、ヒルバス君。」

と。

 ハミルニアは今日の会議の後、ランシュとヒルバスに会おうと考えるが、すぐに、作戦を頭の中に浮かびあげ、右軍の大将であるフォルルークに会い、自身の作戦を伝えたのだ。

 そして、右軍の大将であるフォルルークは、すぐにハミルニアとともに、本陣に戻り、アンバイドに意見を伺ったのだ。

 そう、アンバイドの動きを邪魔しないようにするための配慮であった。

 右軍がどのような状況になっているのかを正確に理解し、それを利用しているのだ。

 そして、アンバイドは本人が面倒くさく感じたのか、ハミルニアの意見に賛成している。

 昨日の仕返しができるということと、中央軍の敗北で調子に乗っているミラング共和国軍は、追撃する時は意気揚々とくるので、隙があるのではということもアンバイドは考えていた。

 そして、左軍と右軍は、中央軍の知らない所でそのような作戦を採用したのである。

 ランシュとヒルバスには、どんな作戦も完璧ではない以上、不測の事態は想定される。だからこそ、遊撃で二人に、そのことについて備えて欲しいのだ。

 勿論、追って来るミラング共和国軍を二人が大量に殲滅させることは自由にしても良いということに関しては黙認する。

 そっちの方が、上手くいきそうだから―…。

 そして、ランシュはこの意図をすぐに理解するのだった。

 (要は、俺とヒルバスでどうにかして欲しいとのこと。そのために必要な裁量は俺とヒルバスに与えてくれるようだ。人任せなような感じもするが、間違っている策ではない。中央軍が敗れることは確実だろうし、敗走することにも中央軍はなるであろう。だからこそ、その時に、ミラング共和国軍の方が昨日の左軍のように追撃をかけてくるかもしれないということだ。そこをついて、俺とヒルバスで欲をかいたミラング共和国軍にダメージを与えようとしているのだ。今度は、右軍とともに―…。ハミルニアは、どうすればミラング共和国軍に大きなダメージを与えることができるか、自分たちの軍勢の被害を最小限にしながらそれを達成できるか、考えているのだろう。本当に、戦いたくはないわぁ~、敵としては―…。まあ、俺には、天成獣の宿っている武器を扱えるから関係はないかもしれないが、どこで足元をすくわれるかわからないので、避けるもの避けたいのだ。)

と、心の中で思ってしまう。

 ランシュは、ハミルニアを敵に回すことは、避けるべきであるのだと感じてしまった。

 ハミルニアは、使える戦力は何でも使ってくるし、相手の弱点やら、相手がこの場合はどのように考えているのかをしっかりと見抜いてくるので、厄介なことになるのは間違いない。

 まあ、それでも、ハミルニアを敵に回したとしても、勝つことができるとランシュは思っているのだが―…。自分が負けることはない、と自信をもっているのだ。

 そして、今回の返事は、ヒルバスとともに決まっている。

 「「はい!!」」

と、二人ははもるように返事する。

 そう、ランシュとヒルバスは、ハミルニアの命令を受けるのだった。

 「ありがとう。今回は、俺らが頑張っても中央軍の手柄にされてしまうけど―…。まあ、アンバイドにそのようなことをすればどうなるかは、リース王国の中央で権力を握っている奴らも理解ぐらいはしているだろう。理解できずにそのような報酬をケチるようなことをすれば、返って、リース王国に甚大な被害が出かねないからね。財政悪化は見えているから―…。」

と、ハミルニアは言う。

 中央軍は、何が何でも手柄を欲するので、失敗して足を引っ張ったとしても、それを自分と敵対するもの、気に食わない者達に押し付けてくることは確かであろう。

 だからこそ、今回、活躍しても、成果を手に入れることは難しいことを言っておく必要がある。

 本当なら、返事をする前に確認しないといけないことではあるが―…。

 (それでも構わない。だって、俺の復讐のためには、俺が挙げた成果は、邪魔になってしまう場合があるのだ。成果という名の栄光は、リース王国の中央で権力を握っている奴らに余計な警戒心を生んでしまって、王族護衛が続けられなくなる場合がある。)

と、心の中で思うからこそ、名誉や栄光を欲しない。

 成果を手に入れてしまうと、ラーンドル一派から目をつけられてしまう可能性があるからだ。

 いらない詮索をされるのが、良くない状態へと導かれてしまうからだ。

 ランシュはそのようなことを望まないからこそ、利益のならないことでも報酬なし受けれるのだ。

 そう、復讐に気づかれないようにすることが、一番大切なことなのだから―…。

 そう思えば、きついことでも、復讐を果たすための苦難であるとして、面倒くさいと思いながらも、受け入れられるのだ。

 ハミルニアは続ける。

 「では、任せた。ランシュ君とヒルバス君の二人には期待しているよ。」

と、ハミルニアは言い終えると、自らが指揮する左軍本陣へと向かうのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(163)~最終章 滅亡戦争(18)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


『この異世界に救済を』の投稿日です。

こちらの方も読んでいただけると幸いです。

では―…。

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