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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
507/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(161)~最終章 滅亡戦争(16)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダがミラング共和国の総統となり、リース王国へと宣戦布告する。一方で、その情報を知ったリース王国では、ラーンドル一派たちによる話し合いがおこなわれ、逆に侵略し返そうということになるのだった。

その情報をリーンウルネは自ら潜入することで仕入れ、ハミルニアとフォルクスを自分の執務室に呼び寄せて、今回の戦争に参加させるのだった。その話し合いで、ランシュとヒルバスの参戦をも促すものであった。

リーンウルネは、一枚の紙をメタグニキアの秘書に渡し、その紙を見たメタグニキアは激怒しながらも、そのメリットのためにヒルバスを今回のミラング共和国とリース王国の戦争に参加させる命令を下すのであった。

その後、ランシュとヒルバスは一時的に騎士団に復帰という形で参戦するのだった。


リース王国は出陣し、ミラング共和国の境までやってきており、作戦会議がおこなわれる。

その作戦の会議の中で、左軍と右軍の大将がそれぞれ決まるのであった。左軍に騎士団が編入されるのだった。

一方で、ミラング共和国軍は、リース王国軍の実力を見るために、軍隊をリース王国と同様に三つに分けるのだった。

最初の戦いは、ランシュとヒルバスの活躍で左軍、右軍はアンバイドの活躍により被害も出ながらも奮闘し、中央軍は散々な目に遭うのだった。

それは、ファルアールトにとってあり得ないことであった。

精神的に摩耗するぐらいに―…。

その一方で、左軍の方では、勝利の宴会が開かれるのだった。

ミラング共和国軍の方でも動きがあるようだ。

 リース王国軍の側。

 時間は、すでに宴会も終わり、夜は一番の深い所となる。

 リース王国軍の多くの者は、就寝してしまっているが、見張りが起きているという感じだ。

 そんななか、リース王国軍に気づかれることなく、素早く影に潜み移動する者が一人。

 (……ラウナン様の命令は、リース王国軍の左軍の混乱を起こすこと。オイラなら可能。さて、誰か一人、ちょうど良い器はいないだろうか。)

と、心の中で思う。

 この人物は、ミラング共和国の諜報および工作組織であるシエルマスの国内担当の副首席であるボッドー=イマニガである。

 イマニガは、ラウナンの命令を受け、その命令を実行するための人物を探しているのである。

 そして―…。

 (ここは騎士団の方か―…。今日の軍人たちの報告のなかで、リース王国の騎士団によってたくさんミラング共和国軍がやられたという情報があったな。ここを工作すれば、きっと混乱するはず。グシシシシシシシシ。)

と、妙な笑いを心の中でしながら、リース王国の騎士団の中で工作をしようと考えるのだった。

 イマニガは、国内担当である以上、このような対外遠征で表立って諜報活動をすることはない。

 だけど、今回は、ラウナンの特別指名により、わざわざこのミラング共和国とリース王国における戦争に動員されているのである。

 その理由は、今回のリース王国の実力を推測した中で、リーンウルネが裏で何かしら絡んでいるのではないかと思い、それを打破するためには、こういう想定外を仕込んでおかないといけない感覚になったからだ。

 そして、現に、イマニガはリース王国の騎士団の方に何かしら仕込むことを決めたのだ。

 リース王国軍の左軍であれば、どこに工作を仕込んだとしても、問題はないのだから―…。

 そんななか、イマニガは、適当にどいつを殺した方が得であるかを考えるのだった。

 (さて、俺の天成獣の力には特殊な能力がある。そいつは、死体を操ることができることである。それも、生前と同じ会話を再現できるほど―…。だが、死体が出す腐臭を消せるわけではないから、匂いで死体と気づかれる可能性がある。まあ、リース王国軍に紛れ込むことは簡単にできるのだが…な。それに死体の匂いを消すために、俺オリジナル配合の死体臭を消す薬もある。たんまりと―…。要は、どれにしようかな?)

と、イマニガは見定める。

 イマニガの天成獣の属性は、闇ではなく、生の属性であり、その中でもかなり特殊な部類である。幻を消す能力よりも希少で、死体を操ることができる能力が付与されている。

 これは、イマニガが天成獣から選ばれることによってはじめて知らされたことであるが、この天成獣は死体を操作していくごとにその力を強くさせていくという。本当かどうか、イマニガは今も疑っているが、死体を操作する能力はかなり便利だと思えるのだ。

 仮に、始末したミラング共和国の今の政権に対して批判的な人々を操って、最後に、シエルマスにとって都合が良い結果に自然に導くことができるのだから―…。そう、人々は、自分の信じているものや人を一切、疑って考えることがないことをわざわざ証明してくれるし、確かめることをしない。自らが正しいのかどうか。

 ゆえに、イマニガは作戦での成功率は高いし、始末している者の数も多い。

 それは、イマニガの死体の操る天成獣の能力が人々に知られることになっていないからだ。

 知られる前にイマニガやシエルマスの者達に殺されてしまっているので、情報が洩れないというだけだが―…。

 ラウナンは、その点に着目して、イマニガの天成獣の死体操作の能力を使えば、リース王国軍を混乱させることが用意であると判断するのだった。

 そうすれば、重要な場面でイマニガに指令を出し、リース王国軍を混乱させることができ、その隙を突けば、ミラング共和国軍にかなり優位を誇っているリース王国軍の左軍に大損害を与えることができると判断したのだ。

 いくら歴戦の者たちであったとしても、実力者であったとしても、奇襲に強いとは限らないのだから―…。

 そして、イマニガはあることに気づく。

 (!!! これは恐怖!!! 少し離れよう!!!)

と、イマニガはすぐに距離を取るのだった。

 イマニガは、自らの命が後一歩でも近づけば、奪われるのではないかと感じたのだ。

 それは初めてのことだ。

 その恐怖は消えない。


 数十分後。

 十分な距離を取る。

 イマニガは恐怖を感じていた。

 (………俺が、シエルマスの中でも上位の成功件数を誇る私が―…。こんなことラウナン様や東西南北国内の首席の方々以外に感じたことがないのに―…。どうして!!! ……………。)

と。

 イマニガは、元々は私が一人称で言っているのであるが、それだとシエルマスの中で弱く見られるので、自分を強く見せるために、一人称を俺としたのだ。

 その変更は良い方向に働いているが、このような恐怖を感じる場面となると、どうしても「私」という一人称になってしまうのだ。

 それは、恐怖によって、取り繕うことができなくなってしまっているからだ。

 そして、このような恐怖は、シエルマス以外では初めてものである。

 それが誰なのかを探る気はない。

 探ればやられる。

 そのことを理解してしまっているのだから―…。

 だからこそ、その恐怖の理由も分からず、そのことがさらに恐怖を増させるのである。

 恐怖のスパイラルに陥ってしまっているかのように―…。

 それでも、落ち着くことができる。

 (離れたことにより殺される恐怖はなくなった。始末される可能性がある以上、ここから近づくべきではない。ラウナン様は、日にちを指定していない以上、混乱させるのには猶予をもって考えておられるはずだ。だけど、早めに準備することに越したことはないが―…。)

と、イマニガが心の中で考えていると―…。

 他のシエルマスの隊員がやってくるのであった。

 「ふむ、ラウナン様から伝令だ。」

と、シエルマスの一員である者が言う。

 「何だ?」

と、不機嫌になりながらイマニガは言う。

 イマニガの表情を察しながらも、ラウナンから伝令を伝えるのだった。

 「今日中に無理なら、仕掛ける必要はないが、明日までには仕込みをしておけ…と。明後日以降に、行動を起こす可能性がある。伝えた、以上だ。」

と、言う。

 そのシエルマスの者はどこかへと消えていくのだった。

 イマニガもシエルマスの一員である以上、その人物がどこに向かって行ったのか分かっている。

 そう、ラウナンのいる場所だ。

 そして、向かっている方角も理解できる以上、そのシエルマスの一員を抹殺することは可能である。

 そのようなことはしないが―…。

 イマニガもシエルマスの一員であるので、仲間を殺すようなことはしない。仲間が裏切るのなら別であるが―…。

 (ふう~、明日までか。この恐怖を抱いた感情を探る暇はなさそうだな。それに、気配を消すレベルは最高度にした方が良い。)

と、イマニガは心の中で思う。

 そう、明日まで任務を成功させないといけないのだ。

 そうしなければ、自身の命の方が危なくなるのだ。

 恐怖でしかない。


 翌日。

 夜が明けた時―…。

 早朝から、中央軍で会議がおこなわれていた。

 「左軍も右軍の幹部たちも、朝早くから申し訳ないな。」

と、ファルアールトが言う。

 申し訳なさそうにしている雰囲気はなく、言葉がそのような感じであるだけで、自分が悪いとは一切思っていない。

 昨日の失敗と同様に―…。

 ファルアールトは、心の中が完全に壊れたわけではないが、昨日の敗北を心の中でなかったことにしたし、失敗の原因はミラング共和国軍側が卑怯なことをしたということに擦り付けたのだ。

 相手も必死であるし、戦争の中にルールがあるとしても、そのルール違反を簡単に訴えることほど意味のないものはない。

 というか、訴える方が難しいと思う。よっぽど、リース王国に利害があり、かつ、隷属な存在でなければ―…。

 そんなことよりも、ファルアールトは結局、自身の失敗の原因に向かい合うことができなかったということだ。

 そして、それができなかったがゆえに、暴走することになる。

 本能的に失敗したことを理解しているから、そのことによる汚名を振り払うために―…。

 それが、さらなる失敗の可能性を助長させることになるかもしれないというのに―…。

 (昨日の失敗を反省していないな。ファルアールト元帥は―…。こういう人はさらなる失敗を重ねるんだよなぁ~。こっちが逆らうことができない以上、黙っているしかないのかなぁ~。嫌だなぁ~。)

と、ハミルニアは心の中で嫌な素振りを見せるのである。

 ファルアールトがこれからろくでもないことをしようとしているのは分かっている。

 それが成功する可能性のかなり低いものであり、失敗する方が納得できるものであることを十分に理解しているのだ。

 だからこそ、ファルアールトが祈れることはただ一つ。

 これ以上、馬鹿元帥の思い付きで、リース王国軍の兵士の数が減らないことを―…。

 そのような可能性の低い幸運を―…。

 「いえいえ、私たちとしてもミラング共和国軍が仕掛けてきた戦争をさっさと終わらせて、平和な世の中になりたいものです。」

と、ハミルニアは言う。

 あくまでも、これは世辞でもあるし、実現して欲しいことが一部混じっている。

 それは、ミラング共和国軍との戦争を勝利で終わらせて、一日でも早く平和な状態にしたいのだ。犠牲者が多ければ、双方の復興に時間がかかるし、お互いに(わだかま)りが大きくなってしまうのは、後々、お互いにとっての不幸にしかならないからだ。

 だけど、戦争が望んだようにすぐに終わってくれるとは限らない。

 それは、相手の動向があったりするし、自分の作戦が完全に思い通りに動いてくれるとは限らないのだから―…。

 なので、焦った行動をしたとしても意味がないのだ。

 世辞として受け取ってもらうことが大切だ。

 だけど、そんなハミルニアの言葉の意図を理解することもできなかった。

 それが―…。

 「そうだな!!! ハミルニア!!! 偶には真面なことを言うなぁ~。昨日は、ハミルニアに手柄を取らせるためにわざと負けてやったのだ。だからこそ、我々の本気はこんなものではないはずだ。部下が活躍したのだから、私が精一杯、その上の成果を挙げないといけない。そのためには―…。」

 ファルアールトは一回、間をあける。

 それは、これから自分が一番、このリース王国とミラング共和国との戦争で活躍することを想像し、その未来が確実に訪れるものだと思い、無茶苦茶なことを言い始めるのだった。

 「中央軍は、ミラング共和国軍の本陣を強襲する!!! そして、昨日の仕返しをしっかりやってあげないといけない!!! 右軍と左軍は、ミラング共和国軍の本陣以外の軍を引きつけておくように!!! グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

と、ファルアールトは最後には笑いあげるのだった。

 ファルアールトにとって、今の作戦は、完全に自分が勝利するために最高の方法だと、疑問に思うことすらなく、感じている。

 完全に視野狭窄に陥ってしまっている。

 そして、中央軍の幹部の多くが、その作戦に疑問を感じながらも、ファルアールトの機嫌を損ねないようにするために、賛成のための声を挙げるのだった。

 「ファルアールト元帥、素晴らしい作戦でございます!!!」

と、一人が言うと、多くが拍手を送るのだった。

 この世に協調が大事だと考える者もいるだろうが、時と場合によっては、最悪の方向に向かう可能性についてはどこまで考えているのだろうか。

 まさに、その最悪の方向に向かう例がまさに、今回、示されそうになっているのだ。

 疑問に思い、その疑問から自らの考えの問題点を明らかにして、それを補っていくことによって、考えの精度というものを上昇させていくのに、それを完全に無視してしまい、かつ、どうでも良いことばかりを取り入れて、気分を高揚させて、崖から落ちる時になってやっと絶望であり、自らの間違いに気づくことになることをしだそうとしている。

 愚かなことでしかない。

 そして、この場で少数派に対抗できる権力も実力もない。

 ファルアールトがハミルニアより下の位ではないし、この場における絶対的な力を握っていないわけではない。

 だからこそ、この場で、愚かなことを止めることはできない。

 できるのは、その結果になる時、自らと、自らの部下に対する被害をどれだけ抑えるかだ。

 そうすることしかできないのだから―…。

 右軍と左軍の多くの幹部からは、溜息しかでてこなかった。

 (そういうことじゃないのに―…。)

と、ハミルニアは心の中で悔しく思うのだった。

 ハミルニアとしては、世辞言っただけなのに、それを真に受けるとか、絶対におかしい。

 人の言葉には、素直に読んだ方が良い場合もあれば、裏の意図ということを読んだ方が良い場合もある。だからこそ、人の言葉の意図というものが重要になるのだ。

 そのために、人と関係は難しく、状況を理解する能力を要求されるのだから―…。

 結局、ハミルニア自身で、ファルアールトの最悪の方向性へと向かう暴走のスイッチを押してしまったのだ。

 ハミルニアにとっては、自身の失態でしかない。

 こうして、愚かな結論が下された会議は終わるのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(162)~最終章 滅亡戦争(17)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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