番外編 ミラング共和国滅亡物語(160)~最終章 滅亡戦争(15)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダがミラング共和国の総統となり、リース王国へと宣戦布告する。一方で、その情報を知ったリース王国では、ラーンドル一派たちによる話し合いがおこなわれ、逆に侵略し返そうということになるのだった。
その情報をリーンウルネは自ら潜入することで仕入れ、ハミルニアとフォルクスを自分の執務室に呼び寄せて、今回の戦争に参加させるのだった。その話し合いで、ランシュとヒルバスの参戦をも促すものであった。
リーンウルネは、一枚の紙をメタグニキアの秘書に渡し、その紙を見たメタグニキアは激怒しながらも、そのメリットのためにヒルバスを今回のミラング共和国とリース王国の戦争に参加させる命令を下すのであった。
その後、ランシュとヒルバスは一時的に騎士団に復帰という形で参戦するのだった。
リース王国は出陣し、ミラング共和国の境までやってきており、作戦会議がおこなわれる。
その作戦の会議の中で、左軍と右軍の大将がそれぞれ決まるのであった。左軍に騎士団が編入されるのだった。
一方で、ミラング共和国軍は、リース王国軍の実力を見るために、軍隊をリース王国と同様に三つに分けるのだった。
最初の戦いは、ランシュとヒルバスの活躍で左軍、右軍はアンバイドの活躍により被害も出ながらも奮闘し、中央軍は散々な目に遭うのだった。
それは、ファルアールトにとってあり得ないことであった。
精神的に摩耗するぐらいに―…。
その一方で、左軍の方では、勝利の宴会が開かれるのだった。
一方、ミラング共和国軍の本陣では―…。
そこでは、エルゲルダ抜きで会議がおこなわれていた。
「エルゲルダ様はお休みなられています。」
と、ラウナンは言う。
エルゲルダは、自分の思い通りに動くけど、ラウナンに決して逆らおうとはしない。
だけど、エルゲルダがこの場にいたとしても、何の役にも立たない以上、エルゲルダ抜きの軍事会議をしても問題はない。
本当は、重要なことほど、トップである総統の判断が必要になるのであるが―…。
まあ、それを取り仕切っているのが、ラウナンであるし、シュバリテの頃からそこまで変わらないという感じだ。
シュバリテの時代の方が、総統自身での判断できる権限は多かったのであるが―…。
そして、ラウナンは今、事実上、ミラング共和国の権力者であり、トップの実力者である。
そんな彼に逆らうようなことは言わないし、言えない。
だからこそ、エルゲルダに対して、文句を言ったりすることもできない。
その権威も権力も、ラウナンが強いからということに尽きるのであるが―…。
ラウナンは続ける。
「エルゲルダ様は、リース王国の滅亡を望んでおられます。エルゲルダ様の目的を達成されるために、今日の戦いの結果をまとめ、分析しなればなりません。では、報告を―…。」
ラウナンの言葉に対して、緊張した面持ちで、一人一人報告してくる。
「では、私の方から―…。」
一人目は、シュッとした中年の男性であり、鍛え上げられているのが分かるぐらいのものだ。
ボディービルダーのような感じではなく、軍人のそれという感じに―…。
そして、性格は職務に忠実の明るい性格をしている。
「今日の、リース王国軍の左軍の方への奇襲に関しては、向こう側の騎士団の騎士の中に、天成獣の宿っている武器を扱う者がおり、彼らの実力はかなりのものであり、寄せ集め程度は敵わないどころか無惨な敗北となり、相手に逆に追われるようなことになってしまいました。申し訳ございません。」
と、頭を下げる。
この人物にとって、左軍の実力を探るものであるからこそ、余計に数を減らすことになったことは自身にとって後悔でしかない。
彼の部下の中に、手柄に逸った将校がいたのだ。
そいつを上手く制御できなかったことに対して、怒りの感情もあるが、同時にミラング共和国軍に対する損失を大きくしてしまったことに対して、申し訳なく思っている。
「で、騎士団の中にいる騎士で、天成獣の宿っている武器を扱う者は何十人いるのですか。あなたのような職務に忠実な者がやられるのだから、それほどの―…。」
と、ラウナンは言う。
一人目の報告者の言葉の中で、リース王国の左軍には天成獣の宿っている武器を扱う者がいる。それを推測することぐらいミラング共和国軍の将校のほとんどは可能である。
だが、天成獣の宿っている武器を扱う騎士の数に関しては、数十人になると考えるのだ。
天成獣の宿っている武器を扱う者でも、実力にはピンからキリまであり、強い者は何万の軍の中でも生き残ることができるし、弱い者はグルゼンが雑魚と思えるような感じで、一般人が何人かで連携してかかれば倒すことが可能である。
そうである以上、平均的に考えて、リース王国の騎士団の中に天成獣の宿っている武器を扱うことができる者は数十人いることになる。
このラウナンの推測は、普通であれば正しいことなのかもしれないが―…。
「いえ、部下からの報告による二人だと思われます。」
と、一人目の報告者は言う。
この報告者も、これを聞かされた時は驚かずにはいられなかった。
何度も嘘でないか、確認したぐらいだ。
それでも、部下の目が嘘を吐いているような感じがしなかったからこそ、部下の報告を信じることにしたのだ。
「詳細を報告させてもらうと、一人は銃を使う者であり、もう一人は推測にしかなりませんが、空中からの攻撃なので、空を飛ぶことができると思います。さらに、銃を持っている者から推測するに、もう一人の空中から攻撃した者は、前回のリース王国との戦争で、グルゼンが倒したと思われるリース王国の騎士だと思われます。これに関しては、情報が曖昧なので、これ以上正確に報告することができません。申し訳ございません。」
と、言う。
一人目の報告者が、ランシュとヒルバスに関して、名前は知らなくても、前回のミラング共和国とリース王国における戦争の中で、リース王国の騎士団の騎士として参戦していることを知っており、グルゼンと戦ったということを過去の報告から受けたことがあるのだ。
実際に、ランシュとヒルバスの姿を見たことはないが、上がる報告からそのように判断するに足る情報であることだと分かった。
それでも、確定させることができないので、正確に報告できないことに申し訳なく思うのだった。
そして、それを聞いたラウナンは、
(……………役立たずか。まあ、それでも、かなりマシな軍人の報告の方か。生かしておこう。それにしても、グルゼンの名前が出るとは―…。私が始末したとはいえ、グルゼンに敗れるような人物が我がミラング共和国軍に大損害を与えることができるとは思えないのだが、現実そうだと考えると、数年の間に実力をつけたというわけか。)
と、心の中で少しだけ考える。
一部、嘘がある。
そう、グルゼンはラウナンによっては始末されていない。
前回のミラング共和国とリース王国との戦争の中で、グルゼンはこの戦争でミラング共和国軍を辞めることが分かっていた。だからこそ、グルゼンという強大な実力を持っている者を始末しておく必要があり、ラウナンはグルゼンを始末しようとした。
だが、そこにベルグが現れ、グルゼンが扱うことができる天成獣の宿っている武器を渡し、グルゼンがラウナンに勝利したのだ。
そのグルゼンの勝利を受け入れることを、始末しそこなったことを受け入れることができず、その記憶というか、出来事を自分の中で出来なかったことにし、かつ、ミラング共和国側にはグルゼンを始末したという報告をしたのだ。
それ以後、グルゼンが姿を現さなかったので、ミラング共和国側はグルゼンを行方不明扱いにしたのだ。グルゼンの遺体を見ていないから、完全にグルゼン死亡ということにはできなかった。そこはラウナンの思い通りにはいかなかった。
そして、それ以外の面では、ラウナンは冷静であった。
グルゼンのところで眉を顰めたが―…。
ランシュが数年の間で、実力をつけてきたということを素直に認めているのだから―…。
ラウナンは、少し思考した後に、言葉にする。
「いえ、構いませんよ。では、シエルマスの方で、その二人に関して調べることにしましょう。それに、リース王国軍の左軍の方に関しては、油断も発生していることですから、何らかの工作を仕込みましょう。では、新たな国内担当副首席のボッドー=イマニガにやってもらうことにしましょう。」
と、ラウナンは言う。
そうすると、ラウナンの左後ろから姿を現すのだった。何もないところから―…。
その様子を見て、この場にいるミラング共和国軍の幹部がギョッとするのだった。
シエルマスがどこにいるのか、自分達で気配を感じることができない以上、対処することができないので、シエルマスの悪口は言うべきではないし、彼らに目をつけられるべきではないと思ってしまうのだった。
それを恐怖という。
「ラウナン様、承りました。」
と、イマニガが言う。
イマニガの姿は、フードの中にあり、かつ、今は夜ということもあり、その素顔を見ることができなかった。
だけど、ラウナンは感じるのだった。
(天成獣の宿っている武器を扱うが、あいつからは死臭が漂って仕方ない。)
と、ラウナンは心の中で思うのだった。
イマニガは、ラウナンが心の中で思っている間に、ラウナンから与えられた任務に向かうのだった。
そう、今のラウナンの会話を聞いているのだ。
それぐらいにシエルマスは、どこにいるのか分からないのだ。
まあ、ラウナンは、近くにイマニガがいたことを理解していたが―…。
そして、ラウナンは―…。
「では、次の報告を聞きましょうか。」
ラウナンの言葉を聞いた後、二人目の報告者が言い始める。
「リース王国軍の右軍に関してです。右軍を奇襲して、損害を与えることができましたが、向こうには伝説の存在であるアンバイドが傭兵として混じっていました。そのため、指揮を立て直され、撤退せざるをえなかった。アンバイドに関しては、我々でも何とかするのは―…。」
と、弱気になる報告者。
この人物は、見た目からは分からないが、しっかりとした筋肉をつけており、軍人らしさもあるが、同時に、優れていることを周囲にあまり見せたがらないために、周りから少しだけ舐められている。実力がそこそこあるのだから勿体ないと思ってしまうものであるが、それは性格というものである以上、必要以上に強制するのは危険なことでしかない。
これでも、二人目の報告者は、自分なりに自信を持とうと努めている。
だけど、それがあまり効果を発揮できていないだけである。
「そうですか。」
と、ラウナンは言う。
(アンバイドか―…。シエルマスを派遣したとしても奇襲が通じない可能性がある。あいつを相手にした裏組織のいくつかが壊滅していると聞く。さらに、アンバイドは元リース王国の宰相であるベルグを探しているとか―…。なぜ、あんな十数年も行方不明の存在を―…。理由は分からないが、あほらしいな。そして、アンバイドがいるとなると、リース王国の右軍の対応は、シエルマスを使うべきではないだろうし、ここは―…。)
と、ラウナンは心の中で考える。
シエルマスは、リース王国軍の左軍の方が重点的になるだろうし、他の方を出すにしても、いざという時もあるので、使うのは避けるべきだということだ。
そうなると、任せられるのは決まっている。
この場にいるファルケンシュタイロは、
(ラウナンが俺の方へと視線を向けたということは―…。)
と、何となく予感がしたのだ。
「シエルマスを過剰に使うのはよろしい結果を生まないと思いますので、ファルケンシュタイロが対応にあたってください。」
と、ラウナンは言う。
その言葉は、圧でしかない。
反対する、意見を申すことは許されない。
この場で、ファルケンシュタイロは軍の総大将ではなく、ラウナンの一部下のような立場でしかなくなってしまっているのだ。
ラウナンは、完全に暴走してしまっていると、ファルケンシュタイロは感じるのだった。
(そういうことになるとは、ラウナンの視線で分かったが―…。つまり、リース王国軍の右軍は俺に対処させようということか。アンバイドがいるということはこちらとしては不利でしかないが、懐柔策も通じない可能性がある。抑えるだけで精一杯だが、リース王国を征服するためには仕方のないことか。まあ、アンバイド一人いるだけで、リース王国が勝利できるわけではないがな。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
ファルケンシュタイロは、分かっていた。
というか、ラウナンがファルケンシュタイロへの視線を向けてきたのと同時に、こちらに用事があるということを―…。
その用事がアンバイドを押さえつけておくということだ。
不可能に近いことをやるのだ。
条件を出そうと考えるが、ラウナンの今の雰囲気から察して、モノ申すことはできないであろう。
そして、答えはこれ以外許されることはない。
「わかった。」
肯定することしかできない。
ラウナンは、シエルマスの統領であり、実質のミラング共和国のトップなのだから―…。
結局、ミラング共和国の中にいる限り、ラウナンから逃れることはできない。
中からどうにもできない以上、外からしないといけないのだ。
それでも、ファルケンシュタイロに利益がないわけではない。
だからこそ、ファルケンシュタイロはラウナンの言うことを聞き続けることができる。
その利益を無くしたくないために―…。
「ありがとうございます。」
と、ラウナンはお礼を言うのだった。
その後、リース王国軍の中央軍に関する報告がおこなわれ、対策が示された後、解散となるのだった。
時は夜がさらに深くなる頃であった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(161)~最終章 滅亡戦争(16)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。