第29話-2 一回戦
前回までのあらすじは、第一回戦の方針について話し合う中で、ロー関連の話しへと脱線し、セルティーは、現実世界からこの異世界に来た三人組と言うのであった。
「異世界から来た三人組…。」
と、クローナは言う。そう言いながらクローナは考えていた。いや、思い出していた。
ルーゼル=ロッヘでの、トリグゲラとの戦いの後、フードを被った一人の人物が形成した闇の竜をアンバイドが倒した後に現れたランシュという人物の言っていたことを―…。
そして、三人組の結論にたどり着いたクローナは、
「たぶんですが、そこにいる、瑠璃、李章君(?)、礼奈のことじゃないかなぁ~。ランシュが三人が現実世界から異世界に来たと言っていたし。」
と、言う。
セルティーが、異世界から来た三人組についで尋ねたことに、むしろ異世界から来たという言葉に驚いて、ほんの数秒思考を停止してしまっていた瑠璃、李章、礼奈であった。
その思考停止から回復すると、瑠璃、李章、礼奈の三人は、
「なぜ、セルティー王女が知っているのでしょうか。もしかして―…。」
と、李章が言うと、
「李章君。たぶん、それって、セルティー王女がランシュ側の人間であって、私たちを討伐するために―…。」
と、瑠璃が言い、
「それはないと思うよ、二人とも。さっきセルティー王女も言っていたように、ローさんから聞いたって言っているでしょ。たぶん、嘘はついてないと思う。しかし、ここで私たちが水晶について持っていることについては知っているとは思えない。もし、知っているのであれば、そのときに―…。」
と、礼奈が言いかけたところで、さらに、セルティーは言うのであった。ちなみに、瑠璃、李章、礼奈の会話は互いの顔を合わせてのコソコソとした声でおこなわれており、セルティーには聞こえないようにしていた。
「ちなみにローさんが言っていたのですが、水晶をその三人組はお持ちなられているようです。それも、赤と緑と青色をした水晶と言っていました。」
と、セルティーは言う。三人組を示す者の証拠を―…。
このとき、赤というところで瑠璃が、緑というところで李章が、青というところで礼奈が、
(あっ)
(完全にこれは、ローさんから聞いています。)
(完全にこれは、私たちが現実世界から来ているのを知っているみたいね。ランシュからではなく、ローさんから。)
と、三人が、驚きながらも、ローから聞いたことが事実であると確信するのであった。特に、礼奈はランシュが自分達が持っている水晶の色を知らない。もし水晶のことについて言及するなら、瑠璃の場合は、空間移動、李章の場合は、攻撃を読まれている、礼奈の場合は、攻撃が強力だということだろう。ゆえに、水晶の色に言及するのは、ローから聞かないとわからないことである。
だから、それを信用した礼奈は、
「ええ、セルティー王女が言う三人組とは、私と瑠璃と李章君のことです。」
と、自白する。
それから、礼奈は、持っていた青の水晶を手に乗せ、セルティーに見せる。そのために、セルティーへと、礼奈は自身の右手を近づける。
水晶をセルティーは見る。
「ふむ、これが、ローさんが作った水晶か―…。わかりました。」
と、セルティーは言う。
その後、礼奈は自らの水晶をセルティーから遠ざけ、もとあった場所に戻した。
ここで、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、リースの王宮の衣装室にあった大量の服から自分でいくつか選んだ部屋着の一つを着ていた。そう、礼奈は自身が選んだ部屋着の中のポケットに青の水晶をしまったのだ。
「話を戻してもいいか。お前ら。」
と、アンバイドは言う。そう、一回戦の最初の試合を誰にするかという本来の話題へと戻そうとしたのだ。理由は、もうこれ以上、水晶やらローの話しをするのがアンバイドにとって退屈で、特にローに関しては恨みはないが、あまりアンバイド自身が話しに参加しているときに話題にしてほしくない人物であるがため、さっさとリーの話しを終わらせたかったのである。
「そうですね。」
と、セルティーがアンバイドの意見に賛同する。セルティーにとっても、瑠璃、李章、礼奈が現実世界からこの世界に来た人物であることが確かめられたので、これ以上話しを長引かせるよりも、一回戦について話し合って、翌日からはより自らを強くするための鍛錬をする必要があったのだ。
「で、俺がもし、一回戦の最初の試合として、この中で最も相応しいのは―…。」
と、アンバイドは言う。
そして、少しの間をあけ、周囲の緊張感が少し上昇したところで、
「瑠璃、お前だ。」
と、アンバイドは告げる。そう、一回戦の最初の試合に出るのに最も相応しいのは、瑠璃だとアンバイドは言ったのだ。これは、アンバイド以外の全員が驚くことになった。
「私!!!」
と、瑠璃は特に驚いていたのだ。瑠璃は、アンバイドが言っていることで最も当てはまりそうなのは、自分ではなく、李章や礼奈、クローナ、セルティーのほうがよっぽど天成獣の戦いもしくは戦うこと自体に慣れていると思っていた。それに、瑠璃自身は、天成獣の宿っている武器を使用しての戦い、原則として遠距離攻撃を主にしている。よっぽどのことがない限り、仕込み杖という武器に隠されている剣を用いて戦うことはない。瑠璃が、剣術に慣れていないことが剣を用いていないことの最大の原因であるが―…。遠距離攻撃を主としている場合、瑠璃自身も気づいていたが、近距離でスピードを重視する相手にはどうしても対抗することが難しくなり、その相手の可能性を考えたら、瑠璃は一回戦の最初に自身が出るべきではないと思っていた。そう、思わざるを得なかった。チームのことや、周りの人の戦い方、負けた時にどうなるかを考えると―…。
ゆえに、
「いや、私は―…。」
と、瑠璃が言いかけようとしたところで、
「俺が考えるには―…。」
と、アンバイドが瑠璃の言おうとしている言葉を遮って話そうとし始める。
それに、瑠璃は、
「私の話を無視しないで!!」
と、アンバイドにツッコミをいれる。
しかし、アンバイドはそれを聞かずに、自らの話しを進めていく。
「瑠璃、お前自身の天成獣の宿っている武器は遠距離攻撃だけでなく、接近戦にも対応しているだろう。その武器が仕込み杖であり、その中に、接近戦用の武器も仕込まれているだろう。それに、天成獣の属性の観点から言っても、瑠璃ほど、一回戦の最初の試合に相応しいのはいない。それに、仕込み杖の仕込みを使わなくても勝てる相手の可能性だってある。たぶん、瑠璃の天成獣の属性は、雷だから、光の技が使えるはずだ。瑠璃、お前の戦い方は、李章、礼奈の連携を基礎としているために、遠距離が中心となっていて、水晶の能力で相手の技を空間移動を応用して反射しているようなこともしている。以上の点から、ダメージを受ける可能性と、勝利へとつなげる可能性が最も高いのは、俺を除くと瑠璃ということになる。」
と、アンバイドはどうして瑠璃を一回戦の最初の試合に相応しいのかを言い、少しの間をあけた。
そして、覚悟を問うかのように、
「瑠璃、お前がゲームの参加に返事したんだ。それなら、最初は、瑠璃自身でチームの勢いを付けないといけない。それがゲームの参加を表明した者の責任だ。」
と、アンバイドは言う。
なぜ、アンバイドが覚悟を問うかのように言った理由は、李章が一回戦の最初の試合に出ることに反対する言葉を言わせないようにするためであった。それは、アンバイドが瑠璃を最初の試合に出すと理由を言った後に、自らが最初の試合に瑠璃の代わりに出場すると言いかねからだ。そう、アンバイドは、李章が今の現状では瑠璃よりも弱く、相手が1人の場合、負ける可能性が高くなるからだ。そうなってしえば、アンバイドはランシュからベルグの居場所が聞くことができなくなってしまうのだ。
李章は、アンバイドの鋭い眼光という覚悟を問うかのような雰囲気にたじろぐしかなかった。そう、李章は一回戦の最初の試合に瑠璃を出すのに相応しいと言ったアンバイドに対して、自分が最初の試合に出ると言おうとしたからだ。
そして、李章は、
(私が、瑠璃さんの代わりに出ることを考えていたら、あのような雰囲気で…。)
と、心の中で呟くのであった。
瑠璃は考えた。自分が一回戦の最初の試合に出るべきか、と―…。
そして、この方針の話し合いは瑠璃が一回戦の最初の試合に出るべきかという結論だすことによって終わった。
以後、各自は自分の部屋へと戻っていったのである。
翌日から一回戦が行われる日の前日まで、アンバイドによる修行が行われたのだ。アンバイドは、ランシュが一回戦ではなく、十回戦の方で出場する可能性があるので、そこまでに、五分の実力へと瑠璃、李章、礼奈、クローナをもっていこうとした。
この間に行われた修行は、基礎的な体力づくりといったところであったという。李章とクローナとセルティー以外は、毎日筋肉痛に苦しめられることとなった。
第一回戦当日。
朝からリースの城で朝食をとった後、瑠璃、李章、礼奈、クローナは、戦闘用にしつらえてもらった服に着替えて、リースの競技場へと向かって行った。そのときの戦闘用の服をしつらえたのは、アンバイドによる修行が開始されたその日の昼食後に、セルティーに注文してもらったのだ。サイズを計ってもらって―…。それが出来上がったのは、第一回戦がおこなわれる前日のことであった。
リースの競技場、中央の舞台。
そこには、到着していた瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドがいた。
そして、観客はすでに集まっており、満員ではないが、観客が座ることのできる席の半分ぐらいはすでに埋まっていた。
そんななか、貴賓席にランシュとヒルバスが現われ、そこに座るのであった。
「今日はまあ、じっくりと様子見になるな。まあ、そのために一回戦はあいつにしておいてよかった。結構、楽しい展開になると思うからな。」
と、ランシュは言う。それは、笑いのような笑みがあるものであった。
「そうですねぇ~。いろんな意味で、楽しい展開になりますねぇ~。実力を計るどころが、フィールドが血の海になってしまうかもしれないですし―…。」
と、ヒルバスが言う。その言葉の中には、物騒な単語が含まれていた。
「そうだな。まあ、それで実力を計れるかもしれないぞ。人ってのは、ピンチな時ほど、その人物の実力ってのがわかるらしいからな。」
と、ランシュは言う。
「さすが、ランシュ様。物知りですね。今日は一人の観客として観戦しましょう。私は―…。」
と、ヒルバスは言う。そして、ヒルバスは一人の観客として一回戦を楽しむことにした。
一方で、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドの側では。
「瑠璃さん。本当にいいのですか。」
と、李章が心配そうに言う。
「うん、大丈夫だよ。李章君。」
と、瑠璃は言う。やる気満々になりながら―…。
「瑠璃、頑張ってね。ケガだけはしないようにしてね―…。」
と、礼奈は言う。もしも瑠璃がケガをすれば、青の水晶の能力を使って、ケガを治そうと考えていた。
そして、
「じゃ、いってくるよ。」
と、瑠璃は言って、中央の舞台にある四角のリングに上がっていった。
瑠璃が中央の舞台にある四角の形をリングに上がっていくのを見た審判を務める人物は、そろそろ自らの出番が来たのだと思い、緊張を解きほぐす。この人物は、先週のこの競技場で司会を務めていた人物であり、ランシュによって、ランシュの企画したゲームの審判にされてしまったのである。する返事を一週間前のこの日にしてしまったので、引き返すこともできないのだ。
(ファーランス。もうこうなってしまって、なるようにしかならない。なら、覚悟決めてやってやる!!)
と、一週間前にこの場で司会していた人物であるファーランスは、心の中で覚悟を呟くのであった。やけになって―…。
ほんの少し時間が経過した。
中央の舞台の四角いリングの上にいた瑠璃は、自らが中央の舞台に入った通路の反対側にある通路から人が来る気配を感じた。
そして、ほんの数秒も経過しないうちに、その人物は姿を現わす。
そのとき、瑠璃は自らの喉の中を嚥下させるようなことをした。そう、瑠璃はゴクリとしたのである。
「一回戦、俺と殺り合うのはお嬢さんかい。お前の体―…、いや、このフィールドが、お前さんの血で塗れにさせるてやろう。このセグライ様がなぁ~。」
と、登場してきた人物であるセグライは言う。フィールド中を瑠璃の血で塗れさせたいという気持ちに上昇させながら―…。それは、セグライの喜びの感情を満杯にさせていった。
瑠璃は、このセグライという人が、ヤバくて、現実世界であったら殺人鬼で社会を不安のどん底に陥れる最悪の人間の類であることを理解した。
しかし、その感情に恐れと同時に、相手を倒さなければならないという意思をより強く抱くことができた。そのために、冷静に考えられるようになったのか、瑠璃は、
「あなた一人だけですか?」
と、セグライ一人しかいないことについて聞く。
「ああ、そうさ、一回戦のお嬢さんたちのチームの相手は俺一人、よって、俺とお嬢さんの試合の勝者が一回戦の勝利チームとなるわけだ。」
と、セグライは言う。セグライは、自らの歯をより横に広く見せ、喜ぶのであった。
その姿を瑠璃は、警戒しながら見て続けていた。視線を逸らせば、やられる可能性があると瑠璃が感じたからだ。
セグライは、中央の舞台にある四角いリングに上がるのであった。瑠璃とは反対側に―…。
それを確認したファーランスは、ランシュに許可なく、このゲームの名前を勝手に決めて、
「それでは、ゲーム、神と王の対立の第一回戦を開始します。お二人とも準備よろしいでしょうか。」
と、言う。
「ええ。準備OKです。」
と、瑠璃が言い、
「大丈夫だ。さっさと試合を始めてくれ。」
と、セグライが言った。
瑠璃とセグライの試合を開始してもいい合図を確認したファーランスは、
「このゲーム、神と王の対立の全試合の審判をいたします名をアクディル=ファーランスと申します。私は、この神と王の対立という全試合において、公正で公平な審判をおこなうことをリース王国およびリースに住まう民にここに誓います。」
と、ファーランスは言う。
それを長いと感じた瑠璃とセグライは、はやく試合を開始してほしいと思うのであった。特に、瑠璃はこれに加えて、ファーランスが公平に審判するのを聞いて、少しばかり安心したのであった。それは、長い時間ではなかった。そして、すぐにセグライに対して、より警戒心を強めていったのである。
「これより―………、神と王の対立、第一回戦、第一試合。」
と、ファーランスは言う。
そして、ほんの少しの間を、自らの右手を上にあげ、振り下ろしながら、
「始め!!!!!!」
と、大声でファーランスは言うのであった。
こうして、一回戦第一試合、松長瑠璃VSセグライのバトルが開始されたのであった。
試合開始後、ほんの数秒が経過した。
それは、ほんの一瞬にしか感じられなかった。
瑠璃は自らの武器である仕込み杖を構え、水晶玉部分に電玉のようなものを形成する。
それを見たセルティーは、
(雷…、ということは最初から相手へと素早い攻撃をするのか。)
と、心の中で瑠璃がしようとしているを自分なりに予測する。
そう、瑠璃は最初の一撃である程度決めようとしたのだ。
しかし、
(あまいねぇ~。)
と、セグライは心の中で呟く。そう、セグライにとってはあまいぐらいに遅いのだ。雷は形成するのに時間がかかるが、一回発動して攻撃すれば、その一撃が相手に届くのはものすごく速い。
しかし、セグライにとっては、瑠璃の雷の攻撃のための形成はあまりにも遅く、すでにセグライは攻撃の準備を終えていた。
セグライは、自らの武器である腰にかけていた大型ではなく、50㎝程の柄の長さがある鎌を自らの手でもち構える。
そして、すぐに、攻撃するために、横に縦に斜めに振るうのであった。そう、その動きは瑠璃の目でも追うことができないほどに―…。
「刈れ」
と、セグライは言う。
そうすると、瑠璃に向かって、鎌から振るわれた風が襲ってきたのだ。
「!!!!」
と、瑠璃は驚く表情になり、そして、自らがセグライの鎌から放たれた攻撃を避けることができないと悟った。
その瞬間に、瑠璃はセグライの風の攻撃を何度も何度も受けたことになった。
切り裂かれ、血塗れになるのではないかと思わせるほどに切り傷を瑠璃は、負っていく。
セグライの言うように、瑠璃の血でフィールドを塗れさせようとするかのように―…。
【第29話 Fin】
次回、血塗れの戦いへと突入する(瑠璃のみ)。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第一回戦はそんなに長くはならないと思います。今回の更新が50回目の投稿となります。ここまで6ヶ月以上かかりましたが―…、何とか続けられています。不定期更新ですが、続けられるように頑張っていきたいと思います。