番外編 ミラング共和国滅亡物語(151)~最終章 滅亡戦争(6)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダがミラング共和国の総統となり、リース王国へと宣戦布告する。一方で、その情報を知ったリース王国では、ラーンドル一派たちによる話し合いがおこなわれ、逆に侵略し返そうということになるのだった。
その情報をリーンウルネは自ら潜入することで仕入れ、ハミルニアとフォルクスを自分の執務室に呼び寄せて、今回の戦争に参加させるのだった。その話し合いで、ランシュとヒルバスの参戦をも促すものであった。
リーンウルネは、一枚の紙をメタグニキアの秘書に渡し、その紙を見たメタグニキアは激怒しながらも、そのメリットのためにヒルバスを今回のミラング共和国とリース王国の戦争に参加させる命令を下すのであった。
その後、ランシュとヒルバスは一時的に騎士団に復帰という形で参戦するのだった。
リース王国は出陣し、ミラング共和国の境までやってきており、作戦会議がおこなわれる。
リース王国とミラング共和国の領境。
そこでは、リース王国軍とミラング共和国軍が陣を敷いていた。
そして、その中のリース王国側。
その中の陣地の本部。
そこでは、会議が開かれていた。
「今回のリース王国軍の大将の職に与ったファルアールト=フォンマエルだ。元帥という階級であり、私が率いるからには、リース王国軍には勝利しかない。というか、勝利以外にないであろう。」
と、ファルアールトは言う。
あまりにも自信満々に―…。
そんななか、リース王国軍の会議に参加することになったハミルニアとフォルクスは、呆れた表情を出さずに、心の中で見せるのだった。
(もう自軍の勝利に酔いしれるとは―…。敵の戦力を把握して言っているのか、勝利しか妄想していないのか、……のどちらかでしょう。)
と、ハミルニアは心の中で思う。
そんななか、ファルアールトはさらに言葉を続ける。
「それにミラング共和国軍は、先のラフェラル王国との戦いで、天成獣の宿っている武器を扱う部隊が全滅したそうだ。それによって、戦力は大幅に下がっている。だからこそ、我が国に戦争を仕掛けて、それで世間での支持を挽回することが狙いだ。奇しくもミラング共和国軍の大将は、かつて我が国で馬鹿な政治をして、軍事もド素人のエルゲルダだ。だからこそ、今回は、三つに分ける、我が国伝統の戦い方をしようではないか。」
と。
ファルアールトには油断がないと言えば、嘘となる。
ファルアールトは、エルゲルダがどういう人物であるか知っているし、先のリース王国とミラング共和国軍との戦争で、自らの領土で馬鹿な政策を実行し、さらに、ミラング共和国軍によって簡単に捕まるという失態をしたのだから―…。
そのような人間がどうして、かつての敵国のトップになったのか、というのがおかしいぐらいだ。
ミラング共和国では、エルゲルダが言論の力で出世したとかいう流説が流れているが、そんなものは嘘としか言いようがない。
現に、そうであろう。
ミラング共和国の謀略および諜報組織であるシエルマスによって、作り上げられた情報であり、興味のない者にとっては、信じ込んでしまいそうなものであるが、しっかりと調べ上げれば、嘘だと見破ることは容易なものである。
なぜ、シエルマスがこのようなことをしているのかというと、そのように信じ込むことが正しいと人々に思わせたのだ。それに、イルカルを利用しているので、信じ込んでいる人は多い。
アマティック教の教主であるイルカルは、シエルマスのための道具に過ぎない人間なのだから―…。
さて、話を戻し、ファルアールトは、これからおこなわれるミラング共和国軍の戦争の中で、エルゲルダが総大将だと知っており、そこから、エルゲルダはろくな方法を取らずに軍人に言うことを聞かせようとすることが分かり切っているので、王道的な戦いでも十分に勝てると判断したのだ。
そして、ここにいる軍の幹部たちは、驚きを見せるどころか、エルゲルダをミラング共和国軍の総大将としていることに苦笑しかおこらず、ファルアールトの言っている方法で倒せると考えるのだった。
ハミルニアは、ファルアールトの油断のことはどうでも良いと思い、三軍に分かることの言質をしっかりと聞くのであった。
自分のすることが何かを理解しているからだ。
「ですね、ファルアールト元帥。ミラング共和国の奴らも、よりによってあんな馬鹿を総大将にするとはな。」
と、軍の幹部の一人が言う。
「クレイミー大将、そういうことを言ってやるな。ミラング共和国には、議員とか総統とかの軍の素人が判断を下しているのだ。こんな馬鹿なこともあるのだよ。軍のことは、軍人に任せる。それが道理ってものなのに!!」
と、ファルアールトは言う。
クレイミー大将。本名はクレイミー=ダッコスーラ。リース王国軍の大将の一人であるし、ファルアールトの腰巾着と揶揄されている人物だ。彼の軍人としての才能はないに等しいからこそ、軍の中で出世するために、上の人間に媚びを売ったとか。どんな理不尽なことも受け入れてやったとか。それだけのことができるのなら、もっと別のことをすれば良いのに、とハミルニアは思ってしまうが、結局、こういう自らの力の使い方や場面をしっかりと理解できない者が自らの不向きの方向で使ってしまうのだ。最悪の方向に―…。
まあ、才能とか実力とか、というものをしっかりと判断することが人にはできない以上、このような自分とは不向きな方向で使われることは、どうしても発生してしまうことだ。
ハミルニアも気づいていないわけではないが、どうしても、才能の方向性というものが自分は完璧に見ることができると思ってしまうのだ。
まあ、仕方のないことである。
だけど、今回のクレイミーに関しては、ハミルニアの考えは当たっている。
クレイミーは、体形が軍人のそれではなく、完全に太り過ぎており、動くことすらままならないほどだ。こんな奴の下にいる者たちは、不快な気分しか抱かないであろう。クレイミーがこの体形でも十分に素早く動けるのであれば、誰も文句は言わないだろうし、舐めている奴もクレイミーの実力を見せることで十分に納得させることができたであろう。
それがないからこそ、クレイミーの信頼は、リース王国軍の中には存在しない。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。』
と、ファルアールトとクレイミーは笑い上げる。
油断でしかない。
ハミルニアは、
(エルゲルダの指揮能力がないことをミラング共和国軍が知らないという可能性は低いし、ミラング共和国軍には英雄とされているヌマディア=ファルケンシュタイロ元帥がいるはずだ。彼の実力は私の知っている中で、かなり高いと思える。そうなると、ファルケンシュタイロが軍隊の指揮を実質的にとる可能性が高い。そのような想像ができないのだろうか。)
と、心の中で馬鹿二人を憂うのだった。
ここで、意見することがハミルニアは重要なことではない。
大事なことはすでに分かっている。
ハミルニアの役目は、まず、三軍に分ける中の内にある一軍の大将となることだった。
そうすることで、自軍を上手く動かすことで、戦死者を少なくて、相手への被害を与えることだ。
戦争の目的の一つであろう。
そして、ファルアールトとクレイミーの笑い声が止むと、本格的に作戦の指示が始まる。
「ゴホン、では、三つに分ける軍をどうするか、話し合うことにしよう。私が三つの軍を割った後中央の軍を指揮することにし、これを中央軍とする。残りを私から見て右側は右軍、左側は左軍という名称にする。では、この左右のどちらかの軍を指揮したい者はいるか。」
と、ファルアールトは言う。
すぐに、ハミルニアが手を挙げるのだった。
「左右のどちらか一軍の指揮は、ハミルニアにお任せください。それに騎士団の方も私の方に属させてください。」
と、ハミルニアが言う。
ハミルニアにとっては、一軍の大将になる方が今回にとって重要なのだ。
リーンウルネからも言われているし、そうなる可能性は高いだろうが、積極的にアピールしておいた方が良いと分かっているのだ。
ファルアールトが何をラーンドル一派から吹き込まれているのか分かったものではないからだ。
そして、ファルアールトは考え込みながら―…。
「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。こりゃ傑作だ!! 何の功績もなく、リース王国軍の前の元帥からの推薦で上官になっただけのお飾り君が、一軍の指揮をしたいって―…。戦争は君のおままごとじゃないのよ。だけど、経験を積むに十分だろうね。」
と、クレイミーは言う。
(グフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ。一軍を指揮して失敗しろっつ~の。そして、騎士団ともども大損害を与えてくれれば、私の出世を妨害するかもしれない馬鹿ちゃんの一人が消えてくれるからラッキー。ざまあみろ。)
と、心の中で思う。
クレイミーは、ハミルニアがどうやって出世したのか知っている。ファルアールトの前の元帥が優秀な軍人になるという理由の推薦を受け、出世した人物がハミルニアだ。
どうして、このような体形が普通の奴を推薦したのか。
クレイミーは、謎に思うのであるが、ハミルニアはしっかりと鍛えており、実際は、筋肉でバキバキに割れているし、無駄な筋力をつけていない。ゆえに、動きも悪くはないし、それなりに武器を扱うことができる。
ハミルニアの強みは、まだ、ここで明らかにはならないだろうが、その強みは軍事でも大きな力を発揮させることができる。
そして、クレイミーの言葉に周囲の軍人たちは、笑いを上げると同時に、ハミルニアを馬鹿にするのだった。だけど、全員が笑っているのではなく、一部の軍人は笑うことをしなかった。それはハミルニアに同情的だからではなく、相手を舐めると痛い目に遭うことを理解し、馬鹿にしないようにしているだけだ。
ハミルニアが大きな功績を挙げる可能性は十分にあるのだから―…。
ハミルニアは、平然と受け流す。
というか、そのようにしないと、精神的にダメージを受けてしまうことを理解しているし、止めて、
と言って止めてもらえた試しがないからだ。
だから、受け流すしかできないのである。
ハミルニアが成果を挙げれば、嫉妬することしかできないのだから―…。笑っている輩は―…。
(ここまで馬鹿にされていて、腹が立たないのか。大人なのか、弱虫なのか、分からない。)
と、フォルクスはこのような場にいながら、思う。
フォルクスとしては、このように自身が言われるようなことがあれば、しっかりと反論したいと思ってしまう。
だけど、ハミルニアのことを知らないがゆえに、ハミルニアの対応の理由が分からないのだ。
まあ、仕方ないことだ。
フォルクスは、ハミルニアの知り合いでもないし、友人でもないのだ。
あくまでも、今回のリース王国とミラング共和国との間の戦争の時に、一緒に行動する機会があるだけである。
だから、フォルクスはハミルニアのことを普段、リース王国軍の軍人たちからどのような扱いを受けているのかを知らなくてもおかしいことではない。
「笑ってやるな。クレイミー。ハミルニアがやる気を出しているのだから、やらせてみても良いだろう。それに―…、フォルクス騎士団長もハミルニアの軍に加えれば良い。左軍は任せたぞ、ハミルニア。」
と、ファルアールトは言う。
その中には、ハミルニアに向ける視線が、ハミルニアに対する侮蔑の感情が混じっていた。
ハミルニアをファルアールトは評価していないし、憎き存在とさえ思っていた。
だからこそ―…。
(騎士団とともに排除されろ、ハミルニア。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。)
と、心の中で高笑いを浮かべるのだった。
それは表情に現れてしまっており、ハミルニアはそのことにすぐに気づくのだった。
(………分かりやすいなぁ~。これで、リーンウルネ様の思惑通りとなったわけですか。これからは私自身の指揮官としての力が試されるというわけですか。メルフェルドを連れてきたかったですが、駄目でしたが、私自身でも何とかして見せましょう。)
と、心の中で思うのだった。
ハミルニアは、メルフェルドがいれば、勝利を確実にするための策が練ることができるし、メルフェルドの実戦経験にもなったはずだ。結局、上からの判断で、女性が戦にいても役に立たないと判断し、簡単に従軍メンバーからははじかれてしまったのだ。ハミルニアにとっては、残念でならないことであった。
それでも、ミラング共和国軍に勝つ策を自身で頭の中で考えることはできる。
ちゃんと、ミラング共和国軍の信頼できる情報をしっかりと集めているからだ。
その後、右軍の指揮官決めが少しだけ難航したが、無事に決まり、お開きとなるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(152)~最終章 滅亡戦争(7)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿日は、2023年10月17日頃を予定しています。
では―…。
PV数が増えますように―…。