番外編 ミラング共和国滅亡物語(148)~最終章 滅亡戦争(3)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダがミラング共和国の総統となり、リース王国へと宣戦布告する。一方で、その情報を知ったリース王国では、ラーンドル一派たちによる話し合いがおこなわれ、逆に侵略し返そうということになるのだった。
翌日。
リーンウルネの執務室。
そこには、一人の軍人と騎士団長がいた。
騎士団長の方はフォルクスであり、一人の軍人の名はハミルニアという。
騎士団長のフォルクスは、数年前の先のリース王国とミラング共和国との戦争で、前の騎士団長が亡くなったので、その後任として就任した。
すでに、騎士団を立て直すことに成功している。
一方で、ハミルニアという軍人は、特殊な経歴を持っている人である。
ハミルニアは、軍人経歴しかないが、それでも、一兵卒から出世した者であり、兵士としての力量もそれなりにあるが、彼の優れているのは人の扱いが上手いということだ。
そして、この人物が呼ばれた理由は後に分かることであろう。
「ハミルニア大将。リース王国騎士団騎士団長フォルクスよ。儂のところへ来ていただき感謝するの~う。」
と、リーンウルネは急の呼び出しに来てくれたことに感謝する。
リーンウルネとしては、この二人がミラング共和国との戦争の準備で忙しくなることは十分に理解している。
だけど、これは重要なことであり、二人に伝えておかないといけないことがあるのだ。
だからこそ、無理言ってでもこの部屋に呼んだのだ。
「リーンウルネ王妃は、私とハミルニア大将に何の用事なのでしょうか。」
と、フォルクスは言う。
フォルクスとしては、一分一秒でも早く、ミラング共和国との戦争のために、騎士団の編成とか、武器の確認とかをしておかないといけないのだ。これが時間のかかることである以上、なるべく素早くしておく必要がある。
ミラング共和国側は、いつ攻めてくるのかを言っていない以上、素早く行動しないといけないことは確かである。なので、ここで時間を割いている暇はない。
「さて、手短にできる自信はないがの~う、儂としては、ハミルニアを今回のミラング共和国との戦争で一軍の大将に推薦しようと思うておる。ちなみに、リース王国軍の総大将は、ファルアールト=フォンマエル元帥が就任することになる。ラーンドル一派の会議をこっそりと覗いた時、そのようなことを言っておったから確実じゃの~う。」
と、リーンウルネは言う。
そこに、重大な矛盾が生じる。
そのことに、ハミルニアは気づくのだった。
「一軍の大将って―…、リーンウルネ王妃、…ファルアールト=フォンマエル元帥がリース王国軍の大将だと、私、一軍の大将にはなれませんよ。」
と、ハミルニアは指摘する。
暗い声を出すのではなく、明るい性格を思わせる快活的な声を出す。
まるで、この場が戦争に関する作戦会議という感じではなく、世間話をするような軽い感じの場と化してしまうのだった。
騎士である以上、フォルクスはハミルニアに不審な目を向けるが、ハミルニアの出世物語を噂で聞いたことがあるので、どういう人脈もしくは実力があるのか未知数であり、計り損ねていた。
(ハミルニア。リース王国の首都リースの街中の生まれであり、その知り合いが騎士団にいるのも知っている。そこから得られる情報だと、普通の青年に育ち、たまたま運動神経が良かったから兵団に入って、指揮する経験があるから出世していったとか―…。ラーンドル一派と裏で関係があるのか、まあ、そういう場合は離れれば良いか。その時に―…。)
と、フォルクスは心の中で思うのだった。
フォルクスとしては、ハミルニアを完全に信頼ができない。
リース王国軍の中で出世するためには、ラーンドル一派に媚びを売っておく必要が絶対に必要であり、ハミルニアの出世スピードから考えると、よりそのように思えてしまうのだ。
そうしなければ、大将になることはできないのだから―…。
「お主の軍での階級は大将だろうに―…。まあ、そういう意味ではないの~う。ここから、ラーンドル一派というか、ファルアールト=フォンマエル元帥の大まかな方針はすでに知っておるじゃろ。」
と、リーンウルネは言う。
ラーンドル一派の会議から一日が経っているのだから、リース王国軍の主要な軍人には確実に説明がなされているはずだ。
そうしないと、細かいところの作戦が詰められなくなるからだ。
そのことをリーンウルネは知っている以上、ハミルニアはファルアールトの方針の情報が知られているはずだ。
「ええ、三軍に分けるということになっていますよ。で、その三軍のうちの一軍を指揮しろ、ということですね。」
と、ハミルニアは言う。
ハミルニアもさっきのリーンウルネの言葉で自身の言っていることが違うと聞かれ、さらに、リーンウルネが付け加えた一言から推測することができた。
そう、ファルアールトはリース王国軍を三軍に分けて、ミラング共和国の首都ラルネを目指すものであり、そのうちの一軍の総指揮官になれ、ということだろう。
だからこそ、このような解答を口にすることができるし、これが正解であると確信することができた。
正解のようだ。
「そうじゃの~う。」
と、リーンウルネは頷くように言う。
「だけど、三つの軍団の指揮官となると、一つは確実にファルアールト元帥で埋まると思いますし、残りの二つの軍団は、私以外でも大将が五人もいる以上、彼らのうちに二人があてられるのではないでしょうか。もしかして、リーンウルネ王妃……、騎士団が加わる軍団に最大の被害を与えることをラーンドル一派の人々が考えて、そのために私にその軍団を指揮させようと考えていると、思っているのですか?」
と、ハミルニアは言う。
もし、そうならば、ハミルニアが一軍の大将になることは十分にあり得る。ハミルニアは、自分がラーンドル一派から良く思われていないのは理解しているし、ここまで出世した理由は、実力と同時に、特殊な事情による。
「うむ、そうなるじゃろう。というか、そうなるようにしておる。今日、儂はすでに、ハミルニアが一軍の長になるように、との推薦状を送っておるし、さらに、ハミルニアの軍に騎士団を割り当て、そちらの方に相手側の強い軍団をあてれば、被害は甚大になると、の~う。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネとしては、何が何でも、今回のリース王国とミラング共和国との戦争には、ハミルニアを一軍団のトップして、指揮させる必要があるのだ。
ミラング共和国軍がラフェラル王国軍との戦いで、重大な損害を受けたとしても、すぐに立て直すことは可能であると判断している。
そうなると、リース王国軍の最大戦力を割かないといけなくなるし、最初からそのようにしておいた方が犠牲を少なくすることができる。
それに、ファルアールトへ出した推薦状でハミルニアと騎士団を馬鹿にするようなことを敢えて書く。ファルアールトは怪しむだろうが、その意見を飲むだろう。あのファルアールトは、自分が優れていることを示すのが大好きなことぐらい分かっているのだから―…。
「また、そんな嘘を吐いてでも、私を一軍の大将にしたいのですね。分かりました。自分からも言っておきましょう。それに、騎士団が加わるのなら、かつて騎士団に所属していた者も私の軍に加えるようにしたいと思います。私の知り合いの子で、騎士団に所属している子がいるんですけど、その子によると、先の戦争でもミラング共和国軍のグルゼンとの戦闘となり、何とか生き残った二人がいるのだとか―…。彼らを加えることで、ミラング共和国軍に対して、かなり優位に進められますよ。」
と、ハミルニアは言う。
ハミルニアの知り合いの騎士団の子とは、メルフェルドのことである。
メルフェルドとハミルニアは近所で、彼女の指揮官としての力、騎士としての能力というものを把握しており、ハミルニアは騎士団の試験を受けたらと勧めた。
そして、定期的にメルフェルドから騎士団の事情を聴いていたりしたのだ。その中で、仲良くしているランシュとヒルバスを今回の戦争に従軍させようとしているのだ。
そうすれば、被害はより最小限になるかもしれないというのは、分かっている。
グルゼンの名前を出したのは、そっちの方がリーンウルネとフォルクスの耳に残るだろうと思うし、採用する可能性が高いと踏んだからだ。
「で、名前は―…。」
と、リーンウルネが尋ねると、ハミルニアは答える。
「ランシュとヒルバスと言ったかな。」
と。
フォルクスは、さっきのハミルニアの言葉から大体推測することができた。グルゼンというキーワードが出れば、分かってしまうのだ。
だからこそ―…。
「ランシュとヒルバスですか―…。今の二人は、騎士団のメンバーではないし、ランシュは王族護衛であり、ヒルバスはメタグニキア宰相の私設部隊のメンバーですよ。騎士団長の一言で動かせるようなことはできない。」
と、フォルクスは言う。
フォルクスとしては、この二人を従軍させれば、戦力は強化することができることは分かっている。ランシュは空を飛ぶことができるので、空中からの攻撃を仕掛ければ遊撃として可能性であるし、ヒルバスは銃による攻撃で、先手を取ることができる。二人は天成獣の宿っている武器に選ばれているのだから―…。
だけど、ヒルバスをメタグニキア宰相の私設部隊から一時的に離脱させることはできないし、メタグニキアがそのようなことをさせるとは思えなかった。
一方で、ランシュは、セルティ王女の護衛の仕事で、一年ほど実戦から離れてしまっている。そうなると、実戦感覚で怪しいのは事実だ。戦闘訓練もほとんどできていないだろうし―…。
「ランシュの方はすぐにでも可能じゃの~う。儂が王族護衛に言えば良いし、すぐに許可されるじゃろう。王族護衛は、儂の独断場ではないが、いまの状況をしっかりとできる者が護衛のトップにおるからの~う。ヒルバスの方に関しては、メタグニキアに聞かないといけなくなるし、それに関しては、かなり難しくなると思うがの~う。旦那経由で言わせてみることにするかの~う。いや、儂から直接に言う必要があるかもしれぬ。国防のために必要だとか、言っての~う。」
と、リーンウルネは言う。
ランシュに関しては、すぐに一時的に騎士団に戻すことは可能である。
リーンウルネは、王族護衛の長がどういう人物か知っているし、その人物は人格として素晴らしい人物であるし、その場の判断力はかなり高いから、ランシュを今回のミラング共和国との戦争に動員する許可はすぐにでも下りることになる。
だから、そこまで懸念していない。
問題は、ヒルバスの方だ。
ヒルバスがいるのは、メタグニキアの私設部隊であり、リース王国における裏の仕事をする部隊にいることだ。
そうなってくると、メタグニキアの許可が必要となるし、その許可というものがかなり難しかったりする。
だけど、できないわけではない。
レグニエド経由となるが、成功する可能性は十分にあるとリーンウルネおよびハミルニアは確信するのであった。
「最後に、お主らに言っておかないといけないの~う。」
と、リーンウルネは言う。
まるで、場の空気が引き締まる感じを抱かせる。
現に、場の空気は引き締まる。
ハミルニアとフォルクスは思考できないほどに、リーンウルネに視線を向けるのだった。
「お主らは、これからのリース王国に必要なることじゃから、必ず生き残って王国に凱旋することにするのじゃ。分かったか。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、この時点で自らがリース王国における政権を掌握して、ラーンドル一派を排除できるとは思っていなかったが、それでも、そうなった場合に、重要な人材の命が終わっていることは望むべきことではない。
だからこそ、生き残るように念を押すように言うのだった。
「わかっていますよ。」
と、ハミルニアは言い、
「フォルクス騎士団長もそのように思いますよね。」
と、付け加える。
フォルクスの方は、ハミルニアの方を見ながら、少しだけ思考し、結論を言う。
「そうだな。」
と、短く言う。
これ以上の言葉はいらないだろうし、余計なことでしかないと思ったのだ。
その後、この部屋の会議は終わることになり、ハミルニアはリース王国軍の拠点に、フォルクスは騎士団の方に戻って行くのだった。
部屋に残っているリーンウルネは、ハミルニアとフォルクスが出て行くと―…。
(ふむ、今回のミラング共和国との戦争―…。…………動く必要があるようじゃの~う。リース王国が勝利するために……の~う。)
と、心の中で思う。
それは、これから起こるであろうリース王国とミラング共和国との間の戦争で自身も深く関わるのではないかということを予感させながら―…。
リーンウルネは、ミラング共和国の情報を集めるように部下に指示するのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(149)~最終章 滅亡戦争(4)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
PV数が増えますように―…。
では―…。