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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
490/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(144)~第四章 暴走する共和国(前編)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国とラフェラル王国が戦争が起こっている中、首都ラルネではもう一方の動向が動こうとしていた。

 さて、話は、ミラング共和国とラフェラル王国との防衛戦の時に戻ろう。

 場所はラルネ。

 その中の総統府の総統執務室。

 そこでは、シュバリテがいつも通りに執務をおこなっていた。

 (……………………今回のラフェラル王国征服戦争は高い確率で我が軍の思い通りになるとは思えない。敗北する可能性、遠征を終わってしまう可能性が高いな。我が軍がラフェラル王国軍に敗北した時に、ラウナンを始末しよう。そのための準備は完了している。)

と、心の中で思いながら、機を窺う。

 時期とその判断をミスしてしまえば、自身にとって最悪の結果になってしまうことは十分に分かっている。

 政治家というのは、生き残りさえすれば、何とかなる場合は追々として存在するのだ。

 その機会を逃さないのが一流の政治家なのだから―…。

 だけど、そこに自らの考えや思想というものがなく、時代にあっていない、自らの属している社会および国家の繁栄にそぐわないものであったならば、最悪の結果になる可能性は高いだろうし、一流の政治家と呼ぶことはできない。

 そのことを完全に理解することが難しい以上、一流という言葉は政治家に対して、使うのは危険かもしれない。

 シュバリテは、今日の執務を片付けていく。

 書類は大量にあるし、要望も多かったりする。

 苦労は絶えないものであるが、権力を振るえるのならば、やりがいのある仕事であり、ラウナンを葬って、シエルマスを本当の意味で傘下に加えることができれば、ミラング共和国でシュバリテに反抗する者はいなくなり、真の意味で、ミラング共和国はシュバリテの支配する国になるのだから―…。

 ラウナンとは、これまで自分の政治勢力の拡張のためには、必要であるし、功績をあげていくためには必要な人材である。

 だが、その頼ってきた人間が強くなりすぎ、自分をも危険に晒しかねないと思い始めたら、それを回避するために、潰さないといけなくなる。

 政治の世界では、どうしようもできないピンチというものが存在し、それが自身の政治生命を絶たせてくるので、それをできるだけ避けないといけないし、その可能性があるなら、機を窺って適切なタイミングで始末しないといけない。

 ラウナンには、武力がある以上、生かして追放という処分を下すことができないし、そのような処分をしてしまえば、いつかミラング共和国にとっての大きな敵になることは避けられないので、命を奪うようなことをしないといけない。

 だからこそ、シュバリテはシエルマスの中からも協力を募っていたのだ。ラウナンに気づかれないようにしながら―…。

 そして、協力者を得ることができた。その協力者にラウナンの死後にシエルマスのトップの地位を与えれば良いのだから―…。

 シュバリテは、狡猾に事を進め、本当の権力を手に入れようとする。

 その野望は―…。

 「シュバリテ様。」

と、嫌な奴の声が聞こえるのだった。

 目線を総統執務室の入り口のドアへと向けると、すでに、その入り口にラウナンがいたのだ。

 「ラウナンか。」

と、シュバリテは言う。

 その言葉には、怒りや憎しみという感情はなく、まるで、いつもの冷静な言い方であった。

 この総統執務室に緊張が走る。

 まるで、これから何かが起こる可能性を秘めて―…。

 「シュバリテ様。ご報告を申し上げます。我が軍は、今日の朝、ラフェラル王国軍との間で、戦闘に入った模様です。戦闘は我が軍の勝ちになるでしょう。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンの方も、まるで、冷静沈着な報道官のような言葉遣いで、淡々と報告するのだ。

 そこに感情がないと周囲に思わせるほどに―…。

 「そうか。分かった。勝てることを祈っているよ。」

と、シュバリテは言う。

 シュバリテとしては、ここでラウナンの報告が終わることになろうと思っていたのだ。

 ラウナンが何かしらシュバリテのことを疑っているにしても、まだ、シュバリテの真意を探り出すことはできていないはずだ。

 「残念ですよ、シュバリテ様。いや、フォルマン=シュバリテ。ミラング共和国に反抗しようとしているとは―…。許されざることだ。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンにとっては、怒りにしか感じられなかった。

 ラウナンは、シュバリテが怪しい行動をしていることを最近、知っていたからこそ、シュバリテの周囲をシエルマスの国内担当の者たちを使って、把握したのだった。

 調べていく中で、分かってしまったのだ。

 シュバリテがラウナンを始末しようとしていることを―…。

 そのことに対して、シュバリテは驚きながら、表情に出すことはなかった。

 (気づかれていたのか。)

と、シュバリテは心の中で思いながら、どう出るべきかを考えていた。

 ラウナンという人間は、情報をかなり調べることに長けている諜報および謀略組織であるシエルマスを率いる統領である。

 シエルマスは統領による完全な上下関係の命令系統と権力関係になっているからこそ、統率がとれていると言っても過言ではない。

 だからこそ、迂闊に本音と嘘の両方によった言葉を言うことが命取りとなる。

 慎重になって―…。

 「証拠はあるのか。私としても、シエルマスの情報収集力を疑うつもりはないが、さすがに疑念を抱かずにはいられないな、今の言葉は―…。」

と、シュバリテは言う。

 今は、ラウナンがどういう情報を持っているのか、何を根拠として言っているのかを探る必要がある。

 シュバリテはこういう場であったとしても、落ち着くことができる。

 ラウナンのような武力を持ち合わせているわけでもない。

 だからこそ、交渉力や観察力、言葉という武器を用いて、相手の心に訴えかけようとする。

 人は心で動くという生き物であるからこそ、その心を揺さぶったり、はたらきかけをすれば、脆く崩れ去ることもできるのだ。

 「証拠ならちゃんとありますよ。気づいていますか。…………まさか、シエルマスの……私の部下を使って、私を殺そうとしたようだが、無意味でしたよ。」

と、ラウナンが言う。

 その言葉とともに、シュバリテは、ラウナンの前身を見回すと、右腕に人の首があり、髪の毛をラウナンが掴んでいるのだった。

 すでに、血は流れきっており、滴ってはいない。

 そのことにシュバリテは恐怖を感じる。

 シュバリテは政治家であるが、人が殺される場面も殺された後の場面も見ることはほとんどない。というよりも、そういうことをするのは、裏の者たちであり、暗殺されたターゲットの報告を聞くだけなのだ。

 そうである以上、人の首だけのものを見る機会がなく、慣れていなくてもおかしくはない。いや、慣れるべきことではないだろうが―…。

 その首の人物を知っている。

 「ファイナーデ。」

と、シュバリテはやっとの思いで言葉にする。

 この人物は、シエルマスの国内担当の中で副首席の地位にあるファイナーデ=ダットルーである。シエルマスの中では、かなり珍しく政治家の家の小間使いをしていた者である。

 なぜ、シエルマスのような組織に就いたのかという理由は、ラウナンも調べていくなかで理解したのだが、両親の病気から快復したので、小間使いをするよりも、シエルマスの中に入った方が稼ぎが良く、今後のためになるというものであった。

 そして、ファイナーデは実力を兼ね備えており、ここ数年の中ではトップ七に入るほどの実力を有していた。

 そして、ラウナンは言い始める。

 「ファイナーデ=ダットルー。これは偽名。正式名は、フォンマル=ファイアーデ。シュバリテ総統の一族の中で、小間使いをした遠い親戚というわけですよ。その小間使いとしたのも、ファイアーデの両親が大病をしたためであり、シュバリテの命令でシエルマスに潜入したというわけです。どこかで、私を殺し、ファイナーデにシエルマスの統領という地位を継がせ、シュバリテのためのミラング共和国を作り上げるための―…。」

 ラウナンの言葉には、怒りというものが孕んでいた。

 シュバリテの方は、ラウナンの言われる言葉に対して、徐々に、顔面蒼白になるのを何とか抑えるだけで精一杯だった。

 一族であるからこそ、このようなことをしたくはなかった。

 ラウナンの言っている言葉のほとんどは合っているのだが、少しだけ違うところがある。

 シュバリテは元々、ファイアーデをシエルマスに潜入させる予定はなかった。本当は別の人物を入れる予定であったが、それを偶然聞いたファイアーデが自ら潜入させて欲しいと言ったのだ。

 理由は、シュバリテの政権で役に立ちたい、恩返しをしたいということであった。本当の理由だとはシュバリテも思ってはいないからこそ、本当の理由は分からず仕舞いという感じだ。

 シュバリテは、ファイアーデのことを息子のようにかわいがっていた。シュバリテには男子はおらず、女子しかいなかったからだ。そんななかで、自分の後継者にできる人材だと信頼できる人物がやってきたのだ。その死を悲しまないはずはない。それでも、感情にも表情にも出さないが―…。

 「これは許せないことだ。操り人形ごときが、私に反旗を翻そうとするとは―…。分かっているよな。」

と、ラウナンは言う。

 ラウナンは、自分以外のすべての人間は、自身の操り人形という存在に過ぎないし、自分のために忠実に動かないといけないのだ。シュバリテのようなラウナンに反抗する人間が許されるわけがない。

 だからこそ、怒りを覚え、確実に始末することを願う。

 そして、シュバリテの方も理解していた。

 「それ以上は、言っても無駄か。言い訳してもか。なら、最後の遺言ぐらいは言わせてもらおうか。」

と、シュバリテは言い始める。

 「私も、政権を握ってからの期間、どれだけ苦労することがたくさんあったか。シュバリアでも困惑するのだ。トップになったとしても思い通りにできない国は―…。そして、ラウナン、お前には言わないといけないな。お前のような自分以外のすべてを見下す者が国を滅ぼすのだ。今なら、そのように言える。」

と、言い終えると同時に、シュバリテは終わりを悟る。

 すでに、ラウナンは目の前に来ていた。

 ラウナンは、あの日の言葉を思い出す。


 ―シュバリテには伝えておいて欲しい。政治というものは、都合の良いようには成り立っていない。その重みがこれからわかってくるだろう。その重みは、私さえも乗り越えられなかったのだ、シュバリテには余程の覚悟というものがなければ無理だろう。そして、ラウナン。お主のような存在がミラング共和国を滅ぼすのだ。国民という存在を舐めつくしたお前のような腑抜―


 そう、シュバリテとともに穏健派で、当時政権を握っていたシュバリアを失脚させ、ラウナンがシュバリテを殺害した時に聞いた言葉を―…。

 最後の方がまるで、シュバリテとシュバリアが同一人物ように感じるぐらいに、言葉が似ていたのだ。

 シュバリテの方は意図したわけではないが、自然とラウナンという人間を見ていれば、出て来てしまうのだ。ラウナンを評する言葉として―…。

 だからこそ、認められないのだ。

 なぜ、敗者にお前が国を滅ぼすことになると言われないといけないのか。

 ラウナンに分からないどころか、認めることができなかった。

 だって、そうだろ。

 敗者の言葉が、勝者への悪口なのだから―…。

 そして、似ていると感じたせいで、ラウナンは、ファイアーデの首を放り捨てて、シュバリテの目の前にやってきて―…。

 「俺を馬鹿にするな!!!」

と、言いながら、シュバリテを首を短剣で切断するのだった。

 (やっと分かった。ラウナン(こいつ)は愚か者だ。)

と、心の中で思いながら、シュバリテの人生は幕を閉じる。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(145)~第四章 暴走する共和国(後編)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


久しぶりです。

『水晶』のPV数がかなり伸びたような気がします。

読んでくださった方には感謝です。ありがとうございます。

そんななかで、番外編の第四章は、次回で投稿を終えます。

すぐに番外編の最終章に入らないと思いますが、来週ぐらいには入っているような気がします。


番外編の最終章を今も執筆していますが、加筆量がかなりのものになっています。

何とか書いていくと思いますが、2023年中に完成するのはかなり難しいというか、ほぼ不可能だと思います。

では―…。

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