番外編 ミラング共和国滅亡物語(143)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(51)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国はラフェラル王国を狙うが、フィルスーナ達により失敗にきしてしまい、かつ、ミラング共和国内でラウナンから権力を事実上手に入れようとした総統のシュバリテが、逆に殺される事態となった。
一方で、ミラング共和国軍を退けて、フィルスーナ側は、兄であるリーガライドを失うことになり、リーガライドの遺言によって、フィルスーナはあることを決意するのだった。
フィルスーナはラフェラルアートの城に戻った後、ナナーアとともに王の執務室へと向かうが、そこには、ラフェラル王国の王位を狙っているグラッドスター侯爵がいた。
「はぁ~、何を言っているのですか、私の聞き間違いですよねぇ~。」
と、グラッドスター侯爵は、こう言い返す。
グラッドスター侯爵にとっては、現実だとは思えなかった。
「耳が悪いですねぇ~。それだと政治にあたっていくのはかなり難しいと思います。というか、聞いていないだけで、周辺諸国が手を抜いてくるとは思えないし、一つの隙でも見逃さないでしょう。それに、グラッドスター侯爵家は貴族や役人との人脈が素晴らしいぐらいにあるのです。そのような人の耳の調子が悪いのであれば、当主を引退される方が望ましいですし、耳が悪くても、周囲に素晴らしい家臣がいるのであれば、彼らの力を借りることができるのであれば、宰相という地位も与えなくもないと考えたのですが、それも期待できないようです。あと―…、耳の調子が良くても、今のグラッドスター侯爵の当主に宰相の地位は与えません。」
と、フィルスーナは言う。
実際は、耳が悪いことが貴族の家の当主足るかという基準の材料になることは少ないし、周りの力を借りることができれば、当主はしっかりと務めることは可能だ。
判断力がしっかりしていて、人材を上手く活用し、繁栄を享受するための力量があれば―…。
そういう能力がなければ、こういう政治に関するトップとかにはならない方が良い。
なっても、重要な判断を下す時に失敗してしまう可能性を高めてしまうのだ。
そして、フィルスーナは最初からグラッドスター侯爵を宰相にする気はなかった。
理由は―…。
「というか、私―…、あなたのようなコソ泥のような人を中心に置きたいとは思わないわ。だって、グラッドスター侯爵、自身の支援者たちを集めたパーティーで常々、私はラフェラル王国の王になると宣言しているんだって―…。へぇ~、立派な反逆罪ねぇ~。別に、国を繁栄させてくれるだけの力量があるのなら、それでも良かったけれど、あなたように権力にしか興味がないのを王位に就けると、国が傾くのよ。悪い方向に―…。だから、グラッドスター侯爵……いや、グラッドスター=フォンフォンレーには王位はあげない。さっきも言ったけど、どっかの修道院での有難いお勤めだけというプレゼントならあげるよ。強制的に―…。」
そう、フィルスーナは、グラッドスター侯爵の野望を知っているし、どういう動機なのかをある程度は知っているのだ。
だからこそ、警戒していたし、こういう場で一番に、自分にとって都合が良い人物を選ぶし、この執務室を守るという行為をしながら、次のラフェラル王国の王に、執務室を守ったという功績で、宰相とか、そういう地位になろうと考えるのだ。
浅いことこの上ないが、通じてしまう場合も存在するのだ。
それに、誰が王位になるか分からない以上、執務室に来た者を王と認めて、臣従した方が失敗する可能性が低いと判断したからだ。今なら、このような理由も通じると思ったからだ。
そして、フィルスーナは、そのようなグラッドスター侯爵の野望を知っているからこそ、馬鹿なフリをしていただけに過ぎない。
ただ単に、上げて下ろしたという感じでもある。
(フィルスーナ様も、こういう馬鹿なことは知っているようですね。宰相なんてしたら、こいつにも時間を割かないといけなくなり、内政をしている時間を削がれてしまうわ。さっさと追放して、見せしめにした方がメリットがデカい。)
と、ナナーアも心の中で思うのだった。
ナナーアも今のグラッドスター侯爵が、ラフェラル王国の王位に興味があるのは知っているし、ラフェラル王国の貴族や役人のほとんども知っていることで、有名なことだ。
今までは、それまで権力をとれるような行動ができる状態ではグラッドスター侯爵がなかったからこそ、冷遇するだけで済んでいたが、今回の王執務室の中に入っている以上、野望ありと判断するのには十分であり、フィルスーナがラフェラル王国の王位に就任する時に、魑魅魍魎な貴族を牽制するための見せしめの道具として使うのにちょうど良い。
つまり、王執務室の中にいる時点で、グラッドスター侯爵は自らの野望は潰えてしまうの選択肢をしてしまったということになる。
選択を間違えたということだ。残念なことに―…。
「……………………………………………な……………るな……………………けるな………………………ざけるな……………………………………ふざけるな…………ふざけるなって言っているだろ、この女が――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」
と、ぶつぶつと言いながら、途中から叫び出すグラッドスター侯爵。
この言葉を感情もなく見下すのは、フィルスーナとナナーアである。
「私は、グラッドスター侯爵家に生まれ、当主もなった実力者だ!!! 私はこの神聖な王の執務室を非常事態の時に守ることができるぐらいの実力を有しているのだ!!! そして、私がこの国で政治をすれば、きっと、世界のすべてをこの国の領土にすることができるし、かつ、人々は幸せになるに決まってる!!! それができる私をなぜ、宰相にせず、当主の地位から引きずり落とし、あまや、修道院などという場所に放り込もうとする!!! この女は愚か!!! 私には多くの貴族や役人たちが味方がおり、お前ごときの女に味方するはずがない!!! 結婚相手に傭兵隊のトップを選ぶぐらいだから、実は、前王ラフェ=ファングラーデの子どもではなく、どこかのスラムの子が紛れ込んで、実の子と間違われた方が納得がいく!!! それに、私はローギ様やリーガライド様の兄弟を探して、味方に付ければよいのだ!!! 残念だったなぁ~、ア―――――――――――――ハハハハハハハハハハハハハハ。」
と、最後に笑いをあげるグラッドスター侯爵。
グラッドスター侯爵は、多くの人脈を持ち、典型的なラフェラル王国人の貴族の発想を持ち、フィルスーナが自分の思い通りに動いてくれないので、頭にきてしまい、暴言を吐いたのだ。
フィルスーナは、グラッドスター侯爵のこのような性格というものを完全に知っていたわけではないが、薄々気づいてはいた。自分が一番であり、他は自分に従って当然だと思っているような傲慢な人間であり、決して、人々の繁栄にならないような感じの存在であると―…。
だからこそ、ラフェラル王国の王という地位を与える気にはなれなかった。
そして、グラッドスター侯爵の言葉は、フィルスーナにとって、敵だと判断するには十分な材料だ。
そのことに気づいたとしても、油断していることに変わりはない。グラッドスター侯爵の性格を考えれば―…。
グラッドスター侯爵は、ラフェラル王国の一時的な王位ならフィルスーナ以外にもいることが分かっているのだ。リーガライドやフィッガーバードのような亡くなってしまった者以外にもいることを把握している。
(哀れね。)
と、ナナーアは、今のグラッドスター侯爵を見ながら呆れるのだった。
表情に出すことなく、あくまでも、フィルスーナの侍従という感じで振舞っている。
従者が感情を出してしまうのは、あまり宜しいと思われないのだから―…。
そして、ナナーアは呆れながら、この先に起こることがグラッドスター侯爵の破滅であることに気づかないことに、グラッドスター侯爵の思考の限界というものを感じさせてしまう。
「反論の一つでもしたらどうだぁ~。私は、グラッドスター侯爵で、宰相となり、ラフェラル王国の王になり、世界を支配する最初の存在になるのだ。そのための礎とな…。」
と、グラッドスター侯爵は言うが―…。
途中で、グラッドスター侯爵は殺気を感じてしまい言葉を止めてしまう。
これ以上、言ってしまえば、グラッドスター侯爵の命はこの世にはなく、グラッドスター侯爵自身ではどうしようもできないと思わせるものであった。
恐怖。
それは、ファングラーデとかなり昔に会見した時に抱いた感情であるが、初対面という緊張感のものも重なったものであったが、今は純粋な恐れだ。
この人物に逆らうことはできない。
「音もなくグラッドスター=フォンフォンレーぐらいの小者ならさっさと殺すことぐらいできるの。分かったかしら―…。」
と、フィルスーナは冷静な口調で言う。
言っていることは、そのままの意味だ。
グラッドスター侯爵の命ぐらいいつでも奪うことができるし、その証拠隠滅も楽なことでしかない。ここにはグラッドスター侯爵とフィルスーナとナナーアしかいないようなものだ。
いくらグラッドスター侯爵が護衛に何人もおらせたとしても、フィルスーナに勝つことはできない。
(クッ……………、この私が恐れているだと!!! だが、このような恐怖は何かしらの仕組みが―…。)
と、グラッドスター侯爵は心の中で一旦冷静になり、すぐに思考を開始する。
だからこそ、分かったのだ。
フィルスーナは何かしらの方法でグラッドスター侯爵に恐怖を与えているのだと、グラッドスター侯爵は感じたのだ。
ゆえに―…。
「お前ら、フィルスーナ王女を始末しろ。証拠は隠して―…。」
と、グラッドスター侯爵の命令は言い終える前に、尽きるのだった。
首から上を真っ二つにされることによって―…。
それが音もなくおこなわれたことに、潜んでいたグラッドスター侯爵に仕えている部下は何もすることができなかった。動きは見えたが、恐怖のせいか、動くことができなかった。
だからこそ、命を長らえさせることができた。
幸運なのかもしれない。
首が机に落ちることはなく、その近くの床に落ちるのだった。
グラッドスター侯爵の―…。
首を真っ二つした武器は、いつも持っている短剣であるが―…。
「もう聞こえないだろうから、周囲の者に言わせてもらうわ。私…、一応天成獣の宿っている武器も扱えるし、隠密活動は自分で言うのもなんだけど、お手の物だわ。だから、彼のように自らの欲のためだけに国を繁栄を傾けさせようとするなら、こうなると思っていた方が良いわ。」
と、フィルスーナは言う。
まるで、冷静な言い方には恐怖が宿っていた。
今、起こったことがそれを強く、強く補強する。
フィルスーナには逆らってはいけない。
だけど、フィルスーナもこのような狂気なことが好きかと問われれば、嫌だと返答するだろう。殺人鬼でも快楽殺人を好むことなどはない。
グラッドスター侯爵をこのまま生かしておくと、隠れている者たちをもこの場で始末しないといけない状況になってしまっていたので、犠牲の少ない可能性の中で自分ができる最小の被害のものを選んだにすぎない。
人は完全ではない以上、時間という制約が存在している以上、すべての可能性を思考することも比較することもできない。だからこそ、時間内で浮かぶ最大限の選択をするまでなのだ。
そのことを理解せずに、合理的だと完璧だと思っている人はいるかもしれない。
ならば、彼らは自らの存在は完璧でも完全でもないということを理解しておかないといけないのだ。自らの傲慢さを抑えるために―…。
そして、グラッドスター侯爵の部下で、この部屋にいる者たちは降伏するのであった。
その後、ラフェラル王国について述べると、グラッドスター侯爵を始末したことにより、フィルスーナの実力を周囲に知らしめることになり、リオーネがフィルスーナへの王位を賛成したことにより、形勢は完全にフィルスーナのものとなり、フィルスーナが王位に就任することになった。
ラフェラル王国が建国された時から、初めてのことであり、空前の大ニュースとなった。
ラフェラル王国の人々は驚き、そのニュースは諸外国にも発信されることになった。
ミラング共和国の侵略に対する防衛に成功してから、二カ月後―…。
この日、ラフェラル王国の新王にフィルスーナが即位する、即位式の日。
さらに、フィルスーナの婚姻相手は、傭兵隊の「緑色の槍」のトップであるアルスラード。二人は正式に結婚式がこれからおこなわれるだろう。
そして、ラフェラル王国はいろんな意味で新たな変化というものを、制度というものを作り上げていくだろう。後に慣例となるものの―…。
フィルスーナはバルコニーへと向かって歩いて行く。
そこに―…。
「恨みたい気持ちはあるわ。だけど、息子を守ってくれていることに感謝する。」
リオーネがそこにいた。
幼いローギを抱きながら―…。
フィルスーナは思い出す。
―私は、旦那であるリーガライド王子が殺されてしまったことで、フィルスーナ王女を恨みます。だけど、恨みだけで私が政治を執り、この子に与えたとしてもラフェラル王国の繁栄にはなりません。それに、リーガライド王子は、そのような者の政治を望みはしない。これは罰です。政治をする能力を持ちながら、王族でありながら、王族から逃れようとしたフィルスーナ王女への―…。だからこそ、フィルスーナ王女はこの国の王位に就任し、人々に貢献することで、罪滅ぼしをしないといけません。私は、フィルスーナ王女の王位、就任に賛成します―
この時、フィルスーナは、自分の罪を自覚した。
そう、リーガライドを助けられなかったことに対する罪であると―…。
王族から逃れようとした罪だと―…。
だからこそ、王位に就任して、ラフェラル王国と、そこに住んでいる人々の繁栄に貢献し、導かないといけない。
そうすることが、フィルスーナの罪に下された判決であり、罰なのだから―…。
そして、フィルスーナは、
「ローギ王子は、兄様の形見ですから、何があっても守りますよ。」
と、言いながら、アルスラードとともにバルコニーへと歩きを進めるのだった。
これから、ラフェラル王国は中興の時代を迎えることになる。
そのための一歩が今、踏み出されたのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(144)~第四章~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ということで、以上で、第三章は完成となります。
かなり長く、序章と同じくらいという感じになりました。
序章も序章で長いのは事実であろう。
ということで、第四章は2回ぐらいの投稿で終えそうな感じです。
そして、以前から言っているのですが、ここで、暫くの間、『水晶』の投稿はお休みします。
次回の投稿日は、2023年10月3日頃を予定しています。
体を休めたいです。
それにストックも増やしておきたいので―…。
では―…。