番外編 ミラング共和国滅亡物語(142)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(50)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国はラフェラル王国を狙うが、フィルスーナ達により失敗にきしてしまい、かつ、ミラング共和国内でラウナンから権力を事実上手に入れようとした総統のシュバリテが、逆に殺される事態となった。
一方で、ミラング共和国軍を退けて、フィルスーナ側は、兄であるリーガライドを失うことになり、リーガライドの遺言によって、フィルスーナはあることを決意するのだった。
フィルスーナは、ラフェラルアートに一足先に戻るのであった。
「お帰りなさいませ、フィルスーナ様。」
と、ナナーアは言う。
場所は城門ではなく、フィルスーナの私室の前であった。
「ただいま。兄様は―…。」
と、フィルスーナが言うと―…。
「分かっております。戦死されたのですよね。すでに、話は聞いております。リオーネ様とローギ様は私の元で保護しております。ローギ様は幼少の身であり、政治をおこなうことはできませんし、リオーネ様もそのような経験はございませんし、興味もないでしょう。つまり、言わせていただきます。」
と、ナナーアが言いかけたところで、フィルスーナは言うのだった。
「わかっているわ。兄様の遺言も、私をラフェラル王国の王位に就けることを言っていたから―…。あの場には、記録官が数人おり、メモしていた。彼らは嘘を吐く気はない感じだった。まるで、兄様の言葉にでもあてられたかのように―…。私は兄様ように、人を導くような言葉を言うことはできないし、王ようなトップには向かないのに―…。こんなことにはなって欲しくないけど、私が継ぐしかないのよね。ラフェラル王国の王位に―…。」
と。
フィルスーナは、こうなってしまうことを二日の間というか、リーガライドが戦死した時から、嫌でも理解させられていたのだ。
アルスラードとの間で、のんびりと過ごそうとした計画は完全パーになり、王国政治の中で欲望塗れの貴族たちと周辺諸国と戦わないといけなくなったのだから―…。
フィルスーナにとって、これほどの不幸はないだろう。
だけど、気づいている。
リーガライドの息子で、自らの甥に政治ができるほどの力はまだない。
幼く、まだ、人の黒い一面を知らない純粋無垢な子どもなのだから―…。
ゆえに、腹黒に純粋無垢が合体し、純粋無垢の方が洗脳されてしまうと、最悪の結果になってしまうことが往々にしてある。
文官貴族の中でも、クーデター側に加担しなかったが、王やヒール側にいなかった貴族にもろくでもない奴はいる。仕事をこなすので、簡単に追放することができなし、失脚させることができない。
それは仕方ないと思っている。
結局、フィルスーナが蒔いてしまった種でもあるので、責任を取るしかない。
自己責任だから当たり前だろうと、安易に口にしてしまう者達がいるが、彼らは愚か者であり、物事の原因と起こっていることに対する理解がない者が多い。自己責任がすべてかというとそうではないのだ。自分の行動に対するそれ以外の行動の重なりによって、ある時点での結果というものが生じている以上、簡単に自己責任ということはできずに、いろいろとその事象を多方面から分析しないといけないのだから―…。
これに気づけるかどうかで、自己責任に対する考え方も変わるかもしれない。
他者に責任を押し付けることしかできない者が、他者に対して、自己責任だと平然と言っているような社会に、本当の意味での繁栄など存在はしない。紛い物であり、嘘で張りつけられた偽物の繁栄でしかないのだから―…。
それでも、自己責任という言葉がなくなるわけではないし、自身の失態に対する責任がなくなるわけではないことを注意して欲しいし、自分の失敗に対する責任をしっかりと感じて欲しい。
それが成長のための第一歩となるのだから―…。
そして、責任を感じてるからこそ、フィルスーナは自ら政治の道へと進む。
甥やリオーネを馬鹿な貴族という政治家たちの無責任な火遊びに巻き込ませないように―…。
「わかりました。お供ぐらいいたします。」
と、ナナーアは言う。
ナナーアとしては、少し驚きの解答であり、少しぐらいごねるのかと思っていたぐらいだ。
王様なんてやりたくない、とか、面倒くさい、とか、という感じで―…。
だけど、ラフェラル王国の王位を継ごうと発言したので、予想とは違っていたのだ。
それでも、フィルスーナがラフェラル王国の王位を継ぐしかない。
なぜなら、ミラング共和国が撤退していったとしても、再度、攻めてくるという可能性はまだ消えていないのだ。ミラング共和国の軍事力は、まだ衰えたとは思えないのだし、ラフェラル王国軍もそれなり痛手を負っているのは事実だ。
もしもプラス勘定できるのであれば、若い指揮官の育成のための実践経験が積めたことと、同時に、ミラング共和国軍から自国を守ることができるという成功体験を得たということだ。
だけど、同時に慢心という不安材料を伴う可能性があるので、それがでないように注意しておかないといけないであろう。
慢心は、思考を狭めるのだ。
そして、フィルスーナとナナーアは王の執務室へと向かうのだった。
王の執務室。
そこには、一人の貴族がいた。
その貴族は、元々はヒール派の派閥に属しながら、あまりヒールから寵愛されることのなかった人物である。
そして、今ここにチャンスが巡ってきたというわけだ。
自らが王位に就任することも考えながら―…。
(グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。俺様にも偶然にもチャンスが巡ってきたというわけか!!! 今、ラフェラル王国軍はミラング共和国の奴らとの戦いで出張っているし、リーガライドが戦死した以上、そいつの息子ではなく、その王弟を適当に祀り上げて王にし、準備が整い次第、そいつから禅譲させて、私が王に就く。そうすれば、何でもやりたい放題だ。ミラング共和国軍も今回の失敗で混乱するだろうがな。)
と、心の中で思っている。
この貴族は、自らの未来のまだ起こっていないことに対して、妄想を膨らませる。想像図と言っても良いだろう。
この貴族には野望がある。
(この世界は、すべて私のものだ。昔、読んだ世界を支配した英雄の物語。彼は私のように人の隙をついて、策を用いて、支配させていったのだから―…。私にはできる。私は特別。私はこの世界の頂点立つ男だ!!! グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。)
と、心の中で笑い上げる。
自分は世界を支配するに相応しい人間だと思っている。
昔、読んだ物語に憧れ―…。
ああ、こいつは自分という存在の限度というものを知らないのだろう。
そして―…。
「へえ~、王の執務室に無断で入る者がいるとはねぇ~。」
と、声が聞こえるのだった。
そして、この貴族は、王の執務室の方へと振り向くと―…。
「これはこれは、フィルスーナ様。今、我が国には王が不在である以上、他の馬鹿たちに乗っ取られないようにしないといけませんので、私が守っておりました。」
と、この貴族は言う。
フィルスーナが入ってきたので、王の執務室にいる理由をこの場ででっち上げたのだ。
理由は、王の執務室には王の関係者以外の入室は禁じられているということだ。
その部屋に無断で入っているのだから、それなりの理由が必要であったりする。
自分がラフェラル王国の王位を取りたいですとか、言えるわけもない。反逆者にしかならないのだから―…。
「そうですか。今まで、そこを守っていただきありがとうございます。もう、守る必要はありません。この執務室は、私が使用いたしますので―…。その意味………、分かりますよね、グラッドスター侯爵。」
と、フィルスーナは言う。
フィルスーナもグラッドスター侯爵と呼ばれている目の前にいる貴族が考えそうなことぐらい分かっている。
だけど、その目的を言う必要はない。
それよりも、グラッドスター侯爵が言っていた理由にわざと乗っておく必要があるし、同時に、感謝を伝えて、もう、王の執務室が守る必要がないことを伝えるのだった。
「フィルスーナ様が王位を継がれるのですか? しかし、ラフェラル王国で女性の王位は認められていないはずですし、周囲の貴族や役人が納得することもないでしょうし、国民に認められることはまずないです。皆、男性の王をお求めですし、フィルスーナ様の奇行を知っている者も多いので、認められることはありません。」
と、グラッドスター侯爵は言いながらも、頭の中の思考を前回にし、自分にとって都合が良い状態にしようと画策する。
「だが―……。」
と、言いながら、グラッドスター侯爵は、あることを提案する。
「私の根回しさえあれば、多くの貴族たちがフィルスーナ様の王位に関して、賛成してくださると思いますし、私が宰相としてお仕えすれば、きっと、フィルスーナ様の王位もこの国の未来も明るいものとなりましょう。」
と。
(……………女ごときが王位を目指すな。この王位は俺のものだ。まあ、一時的にではあるが、夢ぐらいは見させてやるよ。私の人脈は素晴らしいぐらいに広いのだ。私を敵に回すことは、そいつらも敵に回すことだからなぁ~。)
と、心の中で思う。
グラッドスター侯爵も典型的なラフェラル王国の王位は男性を望んでおり、さらに、自分が扱いやすい人形を求めていた。
だけど、フィルスーナが王位に就任するということを宣言している以上、フィルスーナがどれだけ王位に相応しくないかを述べながらも、フィルスーナに取り入って自分の野望を成就させようと考えるのだった。
狡猾貴族の一人であるが、同時に、権力を握ることしか考えていないし、世界を征服することしか頭にないので、どうやって国を統治するのかという観念が抜けてしまっている以上、ろくな政治をしないことは分かりきっている。
夢想家は、結局、国を長く持たせて維持することは不可能である。現実に考え、かつ、国の将来性をしっかりと定められて運用し、維持できる後継者がいれば、話は別となるが、今のところ、グラッドスター侯爵にそのような後継者はいない。
自らがおこなった行動によって起こる結果を、ある程度まで予測することができないというか、していないのだ。哀れ。
そして、グラッドスター侯爵はヒール派の中で冷遇されながらも、他の貴族たちの人脈関係は優れている。まあ、侯爵という地位であるから、この人と敵対したくないし、何か言われた時に面倒だからという理由で、仲良くしている振りをしているだけだ。グラッドスター侯爵がピンチになるような時は、進んで、グラッドスター侯爵を見捨てるであろう。こういう奴にも忠犬がいないわけではなかろうが、いたとしてもピンチの面を打開できるとは限らない。いない可能性も十分にあるのだが―…。
「明るい未来ねぇ~。………………う~ん。」
と、フィルスーナは考え始める。
その間に、グラッドスター侯爵は、
(考えているようだな。私の人脈を知らないはずがないだろ。私を宰相にして、力を借りることができれば、一時的ではあるが、王位を堪能することができるんだ。フィルスーナ程度なら、すぐに奇行を責め立てれば、すぐにでも王位から突き落とすことができる。)
と、心の中で思う。
完全に舐めているのだろう、フィルスーナのことを―…。
グラッドスター侯爵は、狡猾ではあるが、王との器に足るかと言うと、そうでもない。
権力そのものが欲しい人なのだから、憧れるだけで終わらせれば良いし、世界を征服することは夢の中だけにした方が良い。
そのことに気づくことはないだろう。夢中なのだから―…。
「フィルスーナ様。彼、グラッドスター侯爵はいろんな貴族および有力な役人との人脈を持っていることで有名ですし、味方にしておくのが得策だと思います。」
と、ナナーアは言う。
若干、演義っぽいような言い方であるが、グラッドスター侯爵はこのことには気づいていないようだ。
(元イルハード伯爵家のトップの真似事をしていただけのことはある。女の身では優秀なのだろう。だが、私には劣るが…な。まあ、イルハード伯爵家のナナーアの言うことを聞くのが得策だ。)
と、心の中で歓喜しているのだ。
ナナーアを見下している気持ちはあるが、ナナーアの今のフィルスーナに言っている言葉は、さすがに分かっているのだと思えるほどなのだ。グラッドスター侯爵にとっては―…。
グラッドスター侯爵は、自分が褒められていると感じ、他のことを気にしてもいない。
だからこそ、グラッドスター侯爵は爪が甘いのかもしれない。
自分にとって都合が良い言葉が聞こえれば、それ以外は見ようとしないのだから―…。
「へぇ~、そうなの。なら―…。」
と、フィルスーナは考えを決める。
(そうだ、そうだ。私を宰相にしろ、フィルスーナ。)
グラッドスター侯爵の心の中では、自分は宰相になることが決まっているかのような表情になる。
これから始まる自らの世界支配への物語の序章が―…。
それはパッピーエンドを自分が迎えることができる素晴らしく、自分にとって優しい物語を―…。
「グラッドスター侯爵を宰相にせずに、グラッドスター侯爵家の当主から引退させて、どっかの修道院にぶっこんでしまいましょう。」
と、フィルスーナははきはきと言う。
その言葉は、グラッドスター侯爵に絶望を与えるには十分だった。
現実をしばらくの間、受け止めさせられない程度には―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(143)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(51)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
明日(2023年9月21日)は、投稿時間が遅くなる可能性があります。理由は、いろいろとやらないといけないことがあり、それが投稿時間前に終われば良いのですが、そうじゃない可能性もあるからです。
では―…。