番外編 ミラング共和国滅亡物語(141)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(49)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
ラフェラル王国におけるクーデター発生後、まず、宰相を中心とする貴族政力がフィルスーナとラフェラル王国の裏の者により、気絶された後、拘束される。さらに、ファングラーデはリーガライドによって捕まることになった。
第一王妃であるヒールの方は―…、クーデターを把握し、誰が起こしているのかを妄想という感じで突き止める。失敗した人間を処分しようとするが、その時、フィルスーナが現れ、ヒールが個人で雇っている裏の者で始末しようとするが失敗し、裏の者を失うという結果となった。その時のヒールの悲鳴によって、衛兵が駆けつけて、逃げたフィルスーナが狂気をはらんだ人間であることを言うのであった。
その後、ヒールは自らの執事長を軍部の拠点へと向かわせる。自らの指示をファングラーデ王の指示としてクーデター側を鎮圧するように、という命令を―…。だけど、軍事貴族もすでにクーデター側に捕らわれており、軍部もたたき上げが指揮するような状態となっており、ヒールの執事長は捕まるのであった。
フィルスーナは、再度、ヒールのもとへと向かい、少しの会話の後、ヒールを殺し、ラフェラル王国のクーデターは、リーガライド側が勝利することになるのだった。
その後、リーガライドは、ラフェラル王国の支配をフィルスーナとともにしていくことを宣言するのだった。フィルスーナにとっては、迷惑なことでしかないが―…。
一方、フィッガーバードの方は、ミラング共和国の首都ラルネへはあともう少しの距離まで近づくのであった。
そんななか、シエルマスの本部では、東西南北と国内担当の首席、報告官、統領による会議がおこなわれる。その会議の間に、報告官の見習いからラフェラル王国の第一王子であるフィッガーバードがミラング共和国の首都ラルネにやってくるのだった。ミラング共和国の総統であるシュバリテと会見するために―…。ラウナンにとっては好機だった。
ミラング共和国の首都ラルネに到着したフィッガーバードは、これからミラング共和国総統シュバリテとの会見を楽しみにするのであった。そして、フィッガーバードとシュバリテの会見が開かれ、シュバリテはラフェラル王国でクーデターが起きたことをフィッガーバードに伝えるのだった。この会見は、フィッガーバードの要請を受け入れ、ミラング共和国軍がラフェラル王国に派遣されることが決まるのであった。
その後、フィッガーバードは、アマティック教の教団本部に向かうのだった。そこで、イルカルと面会することになる。その場で、イルカルはフィッガーバードを洗脳するのだった。これがシュバリテの狙いであり、ラウナンにとって都合が良い行動だと認識しての行動であった。だが、シュバリテの方にも何かしらの意図があるようだ。
時間が経過し、ラフェラル王国軍の方はミラング共和国との国境方面に軍を出征させる。
一方、ミラング共和国では、ラフェラル王国への遠征のための式典が開催されるのだった。そこでのシュバリテの言葉は短いものであり、彼はこの遠征に対して、何かしらの思いがある。それはまだ、明かされることはなく、フィッガーバードの話へとプログラムは進んでいくのであった。最後は、ファルケンシュタイロの話となり、その自信満々さと一部の嘘が吐かれるのであった。
そして、少し時間が経ち、ラフェラル王国軍の方も国境に軍を配置するのだった。
その後、リーガライドとフィッガーバードは対面する。戦いは火ぶたをきるのであった。
その中で最初に死者となったのは、フィッガーバードであった。フィッガーバードを護衛していたシエルマスの東方担当首席のフィックバーンは、フィルスーナと対峙することになる。
一方、リーガライドは「緑色の槍」に合流し、一緒に行動するのだった。ミラング共和国軍にとって最もダメージを与えることができる場所に向かって―…。
ミラング共和国軍とラフェラル王国軍、双方の遊撃を担当する部隊が衝突し、天成獣部隊を有するミラング共和国軍は大損害を受けるのだった。
一方で、ラフェラル王国軍は、ある人物が攻撃を受けてしまい―…。
「緑色の槍」のいる場所。
そこには、倒れているリーガライドを中心として、多くの者が集まっていた。
数分前に合流したフィルスーナもいた。
「兄さん、兄さん!!!」
と、強く叫ぶようにリーガライドの名をフィルスーナは呼びかける。
リーガライドは、ミラング共和国軍から矢の攻撃を受けて、瀕死の状態にあった。
その矢には、かなり遅効性の毒を盛り込ませて―…。
「フィルスーナか。俺はもう駄目みたいだ。「緑色の槍」の治癒ができる者に診てもらったが、毒が回ってしまっていやがる。油断した。これが命取りになるとはな。」
と、リーガライドは言葉をゆっくりと言う。
言葉を発することさえも、何とかギリギリになりかけていると言った方が正しいだろう。
いくら天成獣の宿っている武器の能力だとしても、リーガライドにもどうしようもない。リーガライドの天成獣には状態異常を回復させる能力はないのだから―…。
リーガライドは死に対する恐怖は今もあるが、少しだけ気持ちが楽になりかけていた。
これを幸福と呼ぶのだろうか。
そのような感じを抱かせるが、幸福なのではない。
人の体に備わった機能が痛みを和らげようとしているだけにすぎない。
「何を言っているのですか!!! ラフェラルアートの医者なら、治してくれるかもしれません!!! それまで、生き永らえてください!!!」
と、フィルスーナは必死に言う。
フィルスーナに打算がないわけではないが、それでも、リーガライドに生きていて欲しいという気持ちはある。純粋な思いとしても―…。
「それは無理だ。フィルスーナ。リーガライドの受けた毒は遅効性だが、かなり強力だし、どんな急いで運んだとしても、こちらに医者を呼んだとしても、それまでに助かることはない。私がしっかりと周りを見ておけば―…。」
と、アルスラードが言う。
アルスラードは後悔している。
もっと自分が周囲を見渡していれば―…、リーガライドがこのようなことになることはなかったのに―…。
後悔先に立たず。
後に悔いるから後悔という。
人の人生に後戻りということができない以上、過去に戻ってやり直すことなんてできない。
「あなたのせいではないわ。」
と、フィルスーナは言う。
アルスラードだって、戦っているのだから、見落とすことぐらいあっただろう。
フィルスーナがもっと早く来ることができれば、何とかなっていたかもしれない。
結局、ありもしないことを想像しても事態を打開することはできないし、すでに、時遅しという感じだ。
それでも、リーガライドは毒矢を放った奴を自分の手で始末しているのだから、その人物から毒の対処法を聞くことはできない。
「…………俺は死ぬ。もうどうしようもできない。だから最後の遺言だ。フィルスーナ……、お前がラフェラル王国の王になれ。今のラフェラル王国を纏められるのは、お前しかいない。男だとか、女だとか、そんなことを政治に俺は求めたことはない。なぜなら、政治をおこない国を繁栄させる者に男も女も関係がないことが多いからだ。それに、自らの権力ばかりにしか目のない奴は政治をすべきではない。ろくなことにならないし、相手に愛国心を持てとか言う奴らもだ。愛国心は教えられるものじゃないし、教育できるもんじゃない。愛国心とは、国という人々の集合体に対して、その構成する人々全体に渡って本当の意味で繁栄を手に入れるためにおこない、それを理解した者に宿るものでしかない。だから、教育なんてできないし、教えられない。そんなことに気づきもしない馬鹿な輩が愛国心だの言いやがる。国のためだと言いやがる。そんなのを許せるわけないだろ。だからこそ、そいつらに支配されるなら、優秀なもので馬鹿をしないフィルスーナに託したい。そして、アルスラード……。」
と、リーガライドは言いながら、アルスラードと呼ぶ。
その言葉は次第に、弱々しくなることはなかったが、それでも限界はとうに越えている。
「俺ならここにいる。リーガライド―…。」
と、アルスラードは呼びかけに反応する。
アルスラードもリーガライドの近くにいるので、すぐに反応することができる。
そして、アルスラードは、リーガライドから何を言われるのか予想することができた。
「そうか。お前との出会いは、俺が「緑色の槍」の傭兵隊に入れられた時だな。その時の俺は、世間知らずの馬鹿だったし、王族という馬鹿なプライドしかなかったな。だから、やらかして、皆から大目玉。お前ぐらいだったよな。文句を言いながらも、洗濯やら掃除やら、料理に関して、教えてくれたのは―…。そんななかで、交渉することの方に才能があったのか、フェルディアルドでの戦いで、休戦交渉した時、あいつらの要求がえげつないものだったなぁ~。それを何となく、相手の意図を探ることで休戦へと結びつけた時は大変だった。」
リーガライドは思い出す。
自分が交渉を始めて担当したのが、その敵方の大将の要求が、「緑色の槍」だけでなく、国の一部の関税特権と領事裁判権を渡せというものだった。
これを聞いた時には、いくら何でも無茶だと、その時のリーガライドは思った。
それでも、相手の意図が何を調べ、製品の品質が良いのに販路が確保できなかったことと、安く買いたたかれていたことをつきとめ、何とか妥協策を出して、上手く事を収めることができた。
そういうところに、リーガライドの才能はあったようだ。
そのことは、アルスラードも知っている。
今、なぜ、このような話をしたのかという意味の方が重要になる。
どうしてだろうか?
「だけどさ、あの経験で自分が何をすべきかを理解することができて、真面な人間になれた。だからこそ、恩返しに「緑色の槍」のために尽くそうとしたけど―…。傭兵としての俺の存在が国の中で議論になって、そのせいで、俺は「緑色の槍」から離れないといけなくなった。それが悔しかった。恩返しできなかったのだから―…。そして、ここで俺の命も終わりかけているのに、恩を返すことができなくて申し訳ない。そんな俺が不義理を承知でお願いだが、アルスラード………、フィルスーナのことを頼む。フィルスーナは頭が良いけど、自分本位なところがあるから、それを諫めて欲しいし、大切にしてやって欲しい。俺がいなくなると寂しく思うだろうから―…。」
と、リーガライドは言う。
その言葉に嘘偽りはない。
「兄様。最後の最後で私に対して、失礼なことを言わないでください。」
と、フィルスーナは言う。
フィルスーナは自身が、そのような性格をしていることは知っているけど、それを面前ということではないだろうに―…。
それにオブラートに包んだ言い方もあるのに―…。
そういうところが、女性に対して気を遣えないと言われている所以だと―…。
それを指摘したとしてももう意味はない。
助からない命にそれを言及することほど意味のないことだし、それよりも最後の遺言を多く言わせる方が大事である。
「はは、それと―…、リオーネとローギには申し訳にない。ここに死んでしまうことになってしまって―…。不甲斐ない。だからこそ、二人のことも頼んだ。」
と、リーガライドは言うと、目を閉じるのだった。
そう、リーガライドは、自らの終わりの瞬間が来たと理解してしまったのだ。
これは珍しいことかもしれない。
彼は心の中で、
(済まない。私はここまでのようだ。死後に行くのは地獄だろう。この手で人を殺し過ぎた。それでも、国の未来にとって、繁栄のためならば、私は犠牲になろう。だけど―…、共に老いることができなかったことが唯一の心の残りだ。)
と。
それ以後、彼の言葉はなく、命の灯は消える。
まるで、穏やかな最後だ。
だからこそ、静かに燃え尽きたのだ。
人の人生は良い生き方をすれば報われると言われるが、決して、そうだとも限らないし、悪い生き方をすればその仕返しを受けるだとか、ということになるとは決まっていない。
だけど、人の生き様を馬鹿にして、他者の強制することこそ愚かなことはない。
それが、リーガライドが危険だと思っていることなのだから―…。
一人の命の灯が消えたとしても、形を変えながらも、受け継がれるものはある。
忘れてはならない。
人は完全に他者を理解できる存在ではないが、完全に他者を理解できない存在でもない。
だからこそ、人の意思や意志を受け継ぐことができる。
そして、この場で、多くの者たちに受け継がれるのだった。
その日の涙とともに―…。
二日後。
ラフェラル王国に訃報と同時に、勝利が伝えられた。
ラフェラル王国の王子でクーデターを首謀したラフェ=リーガライドの戦死と、ミラング共和国軍を国境から戦闘で、追い払うことに成功したことだ。
涙とともに、人々に受け止められ、それと同時に、文官貴族の半分近くが、後継者の後ろ盾になり策謀を開始し始めようとする。
そして、ラフェラルアートの王城。
そこには、ナナーアがフィルスーナの執務室にいた。
すでに、リーガライドの戦死は聞いている。
(これからが本当の勝負という感じね。先手必勝ということ。これでフィルスーナ様はラフェラル王国の統治から逃げることができなくなりました。それに、リーガライド様の奥様であるリオーネ様も権力欲に塗れた貴族どもによって、権力闘争に巻き込まれるかもしれない。そう、リーガライド様とリオーネ様の子息ローギ様はまだ幼少で、王国を率いることもできませんし、リオーネ様もそのような経験はございませんでしょうし、子育ての方で手一杯になると思います。政治という世界は、常に欲望が混じって人間らしい腹黒いものです。そうなると、フィルスーナ様にやっていただくしかないでしょう。)
と、心の中で思いながら、すでに手を打っている。
ナナーアは領主の母ということで経験したことがここで生きる。
リーガライドを王にしようとする勢力が今回のクーデターによって占めるようになったし、さらに、リーガライドは国を守るために戦って自らの命を散らしてしまった以上、彼の地位というものは神格化に近い状態になり、ラフェラル王国の新たな象徴になるだろうし、それから逃れることはできない。
そうなると、多くの貴族かは分からないが、リーガライドとリオーネの子どもであるローギに王位を継がせようとするだろうし、他のリーガライドの兄弟に王位を、という感じで、貴族同士が派閥争いをするだろう。フィルスーナの味方になる貴族勢力は少なかったりする。
ラフェラル王国は、王位は男性が継ぐべきだという考えになっている人々が多いだろうから―…。
そして、ミラング共和国がいつまた攻めてくるかも分からない状況で、優れていた家臣も王の器たる人物かも分からないような者、政務に携わったこともない者、国を守ることがどういうことかを本当の意味で知らない者に王位を渡すわけにはいかない。
そうなると、優秀で、頭の回転の早いフィルスーナがラフェラル王国の王位を継がせるのが妥当となる。今は、実力を発揮させられる者が求められているのだから―…。
そして、フィルスーナが望んでいるアルスラードとの間の、平和な日々は一切、保障されることはなくなるだろう。リーガライドは、フィルスーナにラフェラル王国の王位を継がせるべきだと望んでいるのだから―…。
だからこそ、ナナーアはリーガライドの戦死を聞いたと同時に、ローギとリオーネを保護し、彼女達を唆そうとする貴族たちが来ないように厳重警戒をさせている。二人が馬鹿な政争に巻き込まれ、命を奪われないようにするために―…。
さらに、ナナーアは領主として子育てをしながら、同時に、政務をおこなうことはかなり大変なことであり、腹黒い者たちを相手にしなければいけない。心労は通常の育児の比ではない。そんなことをするのは、よっぽどのことがなければ避けるべきだし、育児は馬鹿で腹黒い者たちが思っているよりも大変なのだから―…。そういう奴らが唱える男が優れ、女が劣っているという言葉ほどは空疎なものはない。何もない嘘でしかない。
リオーネの大変さを自分のことのように理解してしまうのだった、ナナーアは―…。
そして、ナナーアは帰還したフィルスーナを出迎えに行くのであった。
フィルスーナのスピードであれば、そろそろ戻ってくる頃だろうと想定して―…。
すでに、ラフェラル王国の政治からフィルスーナは逃れられないということは決まりきっているのだから―…。
(さて、嫌でも、うんと言わせないといけないのかしらね。)
と、ナナーアは心の中で溜息の一つを吐きながら、歩く。
その姿は、王の執事長に相応しい威厳のあるものであった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(142)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(50)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
かなり長くなってしまった第三章ですが、もう少しで完成します。
ビターエンドの理由が分かっていただけたと思います。
番外編で、あまりハッピーエンドを書いていないような―…。
第四章が二回の投稿で終わった後は、最終章ということになります。あくまでも番外編の最終章です。
本編の最終章ではないので、お気をつけください。
では―…。