番外編 ミラング共和国滅亡物語(132)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(40)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
ラフェラル王国におけるクーデター発生後、まず、宰相を中心とする貴族政力がフィルスーナとラフェラル王国の裏の者により、気絶された後、拘束される。さらに、ファングラーデはリーガライドによって捕まることになった。
第一王妃であるヒールの方は―…、クーデターを把握し、誰が起こしているのかを妄想という感じで突き止める。失敗した人間を処分しようとするが、その時、フィルスーナが現れ、ヒールが個人で雇っている裏の者で始末しようとするが失敗し、裏の者を失うという結果となった。その時のヒールの悲鳴によって、衛兵が駆けつけて、逃げたフィルスーナが狂気をはらんだ人間であることを言うのであった。
その後、ヒールは自らの執事長を軍部の拠点へと向かわせる。自らの指示をファングラーデ王の指示としてクーデター側を鎮圧するように、という命令を―…。だけど、軍事貴族もすでにクーデター側に捕らわれており、軍部もたたき上げが指揮するような状態となっており、ヒールの執事長は捕まるのであった。
フィルスーナは、再度、ヒールのもとへと向かい、少しの会話の後、ヒールを殺し、ラフェラル王国のクーデターは、リーガライド側が勝利することになるのだった。
その後、リーガライドは、ラフェラル王国の支配をフィルスーナとともにしていくことを宣言するのだった。フィルスーナにとっては、迷惑なことでしかないが―…。
一方、フィッガーバードの方は、ミラング共和国の首都ラルネへはあともう少しの距離まで近づくのであった。
そんななか、シエルマスの本部では、東西南北と国内担当の首席、報告官、統領による会議がおこなわれる。その会議の間に、報告官の見習いからラフェラル王国の第一王子であるフィッガーバードがミラング共和国の首都ラルネにやってくるのだった。ミラング共和国の総統であるシュバリテと会見するために―…。ラウナンにとっては好機だった。
ミラング共和国の首都ラルネに到着したフィッガーバードは、これからミラング共和国総統シュバリテとの会見を楽しみにするのであった。そして、フィッガーバードとシュバリテの会見が開かれ、シュバリテはラフェラル王国でクーデターが起きたことをフィッガーバードに伝えるのだった。この会見は、フィッガーバードの要請を受け入れ、ミラング共和国軍がラフェラル王国に派遣されることが決まるのであった。
その後、フィッガーバードは、アマティック教の教団本部に向かうのだった。そこで、イルカルと面会することになる。その場で、イルカルはフィッガーバードを洗脳するのだった。これがシュバリテの狙いであり、ラウナンにとって都合が良い行動だと認識しての行動であった。だが、シュバリテの方にも何かしらの意図があるようだ。
時間が経過し、ラフェラル王国軍の方はミラング共和国との国境方面に軍を出征させる。
一方、ミラング共和国では、ラフェラル王国への遠征のための式典が開催されるのだった。そこでのシュバリテの言葉は短いものであり、彼はこの遠征に対して、何かしらの思いがある。それはまだ、明かされることはなく、フィッガーバードの話へとプログラムは進んでいくのであった。最後は、ファルケンシュタイロの話となるのであった。
「さて、今回、この場にいらしゃった聴衆の皆。俺がヌマディア=ファルケンシュタイロだ。」
と、ファルケンシュタイロが言うと、歓声がさらに上がる。
ファルケンシュタイロの言葉は、この場にいる誰もが待ちに待ったものであり、今回の式典の最大の見せ場である。
その見せ場は、ここに集まっている者たちに十分の高揚を与えるにはピッタリのものだ。
ミラング共和国軍の英雄なのだから―…。
その英雄を一目見ることがどれだけ重要なのかは、集まった者たちがどういう感じを抱いたのかを理解するだけで分かるだろう。自慢できるし、少しだけ偉いような扱いを周囲から受けることができるのだから―…。
さて、ファルケンシュタイロは言葉を続ける。
「我々、ミラング共和国軍は、隣国であり、大国であるラフェラル王国へと遠征することが決まった。この遠征には勿論理由がある。それは、さっきの説明もあったようなので、簡単に言わせてもらうと、ラフェラル王国でクーデターがあったようだ。それで、ラフェラル王国の国王はその地位を追われ、クーデターを起こした者たちがラフェラル王国を奪ってしまったのだ。地位を追われた国王の息子であるフィッガーバー何たらが助けを求めてきたというわけだ。」
ここで僅かばかりの失笑が起こるのだった。
ファルケンシュタイロに対してではない。
そう、今回、ミラング共和国の総統であるシュバリテに謁見するためにやってきたラフェラル王国の第一王子フィッガーバードの名前を憶えられていないことに対して、フィッガーバードが馬鹿だからこそ、ファルケンシュタイロが名前を憶える必要がないと思ったからと、この場に集まっている者たちが認識したからだ。
どうして、そのように思うか?
それは、ファルケンシュタイロは、ミラング共和国軍の英雄であり、そのような人の名前を間違えるというミスをするわけがないと、人々の中で築き上げられた偽の事実によって、それが事実であることに矛盾を生じさせないために、それを説明できるようにでっち上げたのだ。
その中で、彼らは判断するだろうし、それ以外の、彼らの築き上げたものを壊される可能性をあり得ないとして切り捨てるのだ。
まあ、そのようなことを詳しく説明しても意味はない。
だけど、憶えておいて欲しい。自分の考えていることが常に正しいとは限らないし、自分の見ている世界という名の経験と知識と周囲からの影響で作り上げられた価値観という完全ではないものに自分の考えを支配されているかもしれない。その価値観で下された判断は、正しいこともあれば、間違いということもある。場合によって異なる。
さらに、人という存在は完全に物事を理解することができないのである。
だからこそ、人は常に、自分には考えやものを理解し続ける必要があるし、自らの考えや価値観に間違いがないかを思考し続けることを生きている中で常に要求されるのである。
人は生きている限りにおいて、それから逃れることはできない。思考を停止させることはできるが―…。思考を停止させた結果がどういうものであるかは、結末を理解できないものを例外として、悲惨なものだ。理解できないものも周囲から見れば悲惨なのであるが、そのことを本当の意味で悲惨であり、間違いであることだと理解することはできないであろう。周囲を恨みながら、自己の無罪を正当化するだけであろう。
さて、話を戻す。
「シュバリテ総統は、フィッガー何たらの境遇を不憫だと思ったのか、彼の属する王国からクーデターを起こした側に反抗するために、今回のラフェラル王国への遠征を思い立ったそうだ。泣ける話だ。」
今の、ファルケンシュタイロが言っている言葉には嘘がある。
そもそも、シュバリテは、ラフェラル王国への軍事遠征に関しては、積極的には賛成していない。むしろ、しない方が良いのではないかと思っているぐらいだ。
積極的にラフェラル王国への軍事遠征に賛成しているのは、クロニードル、ディマンド、ファルケンシュタイロ、そして、ラウナンの方であり、彼らはラフェラル王国を征服することができるという目論見があるからこそである。
そうなってくると、フィッガーバードの境遇を不憫だと思ったということも嘘になる可能性が高い。
現に、シュバリテにとって、ラフェラル王国がクーデター側になったとしても、交渉次第では関税撤廃へと動かすことも可能であるし、過剰に変な要求をするとラフェラル王国との交易から締め出される可能性も存在する。
一番大事なのは、ラフェラル王国との交易を維持しつつ、ミラング共和国の国力をさらに増強することであり、そうすることによって、万全の体制を整え、周辺諸国が同盟を結ぶ前に、周辺諸国を征服することが可能になると―…。
シュバリテの頭の中には、目の前に共通の敵がいれば、同盟を結ぶという選択肢を取る可能性があるが、その前に力をつけて、叩くことができれば、周辺諸国との連続の戦争も制することができるというイメージがある。まあ、そのためには、しっかりと力を蓄えないといけないし、連戦ができない状況で、征服戦争にいたるのは危険な選択肢でしかない。
今の、ラフェラル王国を仮に征服することができたとしても、リース王国の側が他の周辺諸国とミラング共和国がいつ侵略してくるのか分からないということを理由に、同盟を結んでくることになるし、同盟締結に成功する可能性は高いと考えることができる。共通の脅威は、手を結ぶ上で重要な要因となる。
さて、話を戻し、ファルケンシュタイロはここで、最大の嘘を吐いている。
この今、自分が話していることの中で、シュバリテがフィッガーバードの境遇を不憫に思い、ラフェラル王国への軍事遠征にいたった嘘の話に泣けるということである。
言っていることが嘘であり、ファルケンシュタイロにとっては泣けるよりも嬉しいことでしかない。
前にも述べたのであるが、ファルケンシュタイロはこの五年と半年で、ミラング共和国軍における天成獣の宿っている武器を扱う者の数を増やしており、その実戦経験をほとんど積むことができずにおり、ラフェラル王国への軍事遠征は、まさに絶好の機会でしかない。
だからこそ、泣ける話でもないのだ。
「それに、我々、ミラング共和国軍は、この五年半の間、新たな力を得て、それを鍛えることができたのだ。その力を手に入れた者たちは、ミラング共和国軍の中でも兵士千人分の力を持っている。この力を持っている者たちをラフェラル王国の軍事遠征の中で投入され、実力を発揮させることができるならば、我々、ミラング共和国は周辺諸国共よりも強い軍事力を持ち、もう、リース王国のような陰気な嫌がらせをしてくる奴らを完全にこの世から消し去ることができよう。そうすれば、我々は、ミラング共和国は、どの国よりも優れた国となり、誰も我々に逆らってくることもなく、敬意の目で見られることであろう。そう、これは繁栄である。そのためには、君たちがラフェラル王国への軍事遠征に賛成し、私たちが勝利をつかみ取ることができるように支えることだ。できるよなぁ~。」
と、ファルケンシュタイロは言う。
ここまで、長々な言葉なのであるが、誰も彼の言葉を聞かない素振りを見せることはなかった。
見せるわけもない。
ミラング共和国軍の英雄の言葉なのだ。
彼の言葉に間違いがあるか、いや、ない。
間違いのない言葉であり、ミラング共和国に住んでいる人々の多くにとって、ファルケンシュタイロの言葉通りにしていれば、自分も恩恵と繁栄を与ることができる。
それは、過去の経験からわかっている。
だからこそ、今度もそのようになることを―…。
経験とは、時に我々に思考停止という概念をもたらす。
経験から得られた性質を詳しく議論することも、考察することもなく、ただそうなったという理由だけで受け入れるのだ。
環境に適応するということに使うのであれば、良い結果をもたらすこともあろうが、今回ばかりは、そのようになることはない。
これは本当の意味で未来ということを示しているのかを証明することは、この時点では難しいことだ。
ゆえに、経験というものを馬鹿にしたり、低く見ることはできないが、上に見て尊敬の対象もしくは絶対的真理の対象にすることはできない。
ファルケンシュタイロは、溢れ返るような素晴らしい言葉が返ってくることに喜びを感じる。
それは―…。
「できるに決まっているじゃないか。」
「英雄の言葉を聞かないことはない。」
「俺たちは、英雄に夢、見させてもらったから!!!」
「できる!!!」
「できないわけがない。英雄は俺たちに繁栄を与えてくれる。」
この言葉は一部の例でしかないが、ファルケンシュタイロの言っていることを理解し、約束できると返事をする。
それ以外の返事をする者もいるかもしれないが、それは心の中で一部の者しかしていない。
なぜなら、これまでの経験から、ファルケンシュタイロはラフェラル王国の軍事遠征で勝利し、ラフェラル王国を併合し、そこからたくさんの富を得る。
それは、ミラング共和国に住んでいる人々に更なる繁栄をもたらすものであり、その繁栄が素晴らしいものだということを分かっている。
他を犠牲にすることによって、奪うことによって、得られる幸せが素晴らしいものであることを知っているし、ミラング共和国の国民にとって、今、行っていることは正義の行いであり、許されることなのだから―…。そこに、ラフェラル王国にとってはどうなのかという相手の立場に立って考えるという発想は本当の意味で存在しない。できるはずもない。彼らは、今、目の前ぶら下がっている果実に夢中になり、他のことなんてどうでも良くなっているのだから―…。
人という生き物の性なのだろうか、それとも―…。
結局、自分を優位にしてくれるだろうということに対して、人々は何も疑いもしないということを証明しているようだ。まあ、一部の人間を除いてではあるが―…。
そんななか、聴衆の言葉が鳴り止むと、ファルケンシュタイロは言葉を続ける。
「そうか、そうか。………感謝する。私も、このような素晴らしい人々に応援されて、嬉しい限りだ。ラフェラル王国への軍事遠征はきっと、実りの良いものとなろう。期待していてくれ。」
と、ファルケンシュタイロは言い終える。
このファルケンシュタイロの言葉の後、聴衆は大拍手を送るのだった。
時間にして、二分であっただろうが、体感としては一時間ぐらい拍手が続いたのではないかと思わせるほどだ。
これは地響きになってもおかしくはないと思われる大きな拍手の群れであった。
そんななか、ファルケンシュタイロは、総統府の建物の中へと戻っていくのだった。
(………ここまで、簡単に人々というものは乗せられるものなのだな。まあ、ミラング共和国の繁栄は、お前たち国民から発生しているのではない。我ら、ミラング共和国軍の軍事遠征によってなされているのだ。ミラング共和国の国民どもは、大人しく我々に言っていること、おこなっていることに対して、ただ今の拍手を送り、賛成さえしていれば良い。思考し、正しく導く力もないのだからなぁ~。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。
ファルケンシュタイロの心の中など、このようなものだ。
ファルケンシュタイロも人である以上、決して、ずっと正しくあり続けることもできないのに、自らのやっていることが完全に正しいと思っており、かつ、成功体験がそのような基盤をどんどん厚くし、自らが完全に人であることを忘れてしまっているのではないか。
いや、特別な人間と自身のことをみなしているのだろう。
例外という枠組みに自らを置くことで、自分は完璧であり、為すことはすべて正しく、成功するのだと思うことに対する正当性を与えているのだ。
人である以上、完璧にも完全な存在にもなることができず、すべての物事を把握することもできない存在なのだ。だからこそ、人は時にミスをするし、自らを変えることができるのだ。
そのことを否定して、自分を人、いや、普通の人とは違うように分類するのだ。
それこそが、自らの優越感となり、他者より上であるということに満足しているのだろう。
愚かな人だ。
そして、ファルケンシュタイロが総統府の中に入る頃には、今回の式典に集まっていた者たちは自らの高揚感に包まれ、これから始まるパレードに期待を膨らませるのだった。
自らの国の未来の希望は明るいと思いながら―…。
外編 ミラング共和国滅亡物語(133)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(41)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していきたいと思います。
そろそろ、ラフェラル王国防衛戦へと入っていくと思います。
かなり、ここまで長くなってしまいましたが、防衛戦の方はこれよりは長くならないと思いますが―…。
明日は、『この異世界に救済を』を投稿する予定です。興味のある方は読んでいただけると嬉しいです。
では―…。