番外編 ミラング共和国滅亡物語(125)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(33)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
ラフェラル王国におけるクーデター発生後、まず、宰相を中心とする貴族政力がフィルスーナとラフェラル王国の裏の者により、気絶された後、拘束される。さらに、ファングラーデはリーガライドによって捕まることになった。
第一王妃であるヒールの方は―…、クーデターを把握し、誰が起こしているのかを妄想という感じで突き止める。失敗した人間を処分しようとするが、その時、フィルスーナが現れ、ヒールが個人で雇っている裏の者で始末しようとするが失敗し、裏の者を失うという結果となった。その時のヒールの悲鳴によって、衛兵が駆けつけて、逃げたフィルスーナが狂気をはらんだ人間であることを言うのであった。
その後、ヒールは自らの執事長を軍部の拠点へと向かわせる。自らの指示をファングラーデ王の指示としてクーデター側を鎮圧するように、という命令を―…。だけど、軍事貴族もすでにクーデター側に捕らわれており、軍部もたたき上げが指揮するような状態となっており、ヒールの執事長は捕まるのであった。
フィルスーナは、再度、ヒールのもとへと向かい、少しの会話の後、ヒールを殺し、ラフェラル王国のクーデターは、リーガライド側が勝利することになるのだった。
その後、リーガライドは、ラフェラル王国の支配をフィルスーナとともにしていくことを宣言するのだった。フィルスーナにとっては、迷惑なことでしかないが―…。
一方、フィッガーバードの方は、ミラング共和国の首都ラルネへはあともう少しの距離まで近づくのであった。
そんななか、シエルマスの本部では、東西南北と国内担当の首席、報告官、統領による会議がおこなわれる。その会議の間に、報告官の見習いからラフェラル王国の第一王子であるフィッガーバードがミラング共和国の首都ラルネにやってくるのだった。ミラング共和国の総統であるシュバリテと会見するために―…。ラウナンにとっては好機だった。
ミラング共和国の首都ラルネに到着したフィッガーバードは、これからミラング共和国総統シュバリテとの会見を楽しみにするのであった。そして、フィッガーバードとシュバリテの会見が開かれ、シュバリテはラフェラル王国でクーデターが起きたことをフィッガーバードに伝えるのだった。この会見は、フィッガーバードの要請を受け入れ、ミラング共和国軍がラフェラル王国に派遣されることが決まるのであった。
シュバリテの言葉にフィッガーバードは歓喜する。
(………………これで、私はクーデター側に勝つことができる。)
と、心の中で確信させる。
フィッガーバードは、ミラング共和国軍の力を借りることができるのだ。
ミラング共和国軍がどれだけの強さを誇っているのかは、王子として国際情勢を知っておく必要があるため、最新の情報をつねにいろんな方向から仕入れており、知っていてもおかしくはない。常識である。
ただし、リーガライドのように、ミラング共和国の意図というものは何も分かってはいないし、その情報の多くがアマティック教からもたらされるものだ。
ゆえに、ミラング共和国にとって、不利になるような情報や、ラフェラル王国にとって不都合な周辺諸国の情報をフィッガーバードに教えるわけがない。自分達の本部のある国が企んでいる計画なんて―…。
そういう意味では、ミラング共和国にとって都合の良い情報をフィッガーバードは知っているということになる。
次に、クーデター側に対する勝利を確信できる理由は、ミラング共和国軍の強さと同時に、シエルマスの力を借りられるからだと、思っているからだ。
本当は、借りられない可能性も存在するのに、借りられるという言質および現実が存在していないので、確信するのはおかしいことでしかないが―…。
一方で、シュバリテは―…。
(まあ、一応、注意を言っておく必要があるか。)
と、心の中で思いながら言い始める。
「フィッガーバード第一王子。我が国が民主主義であり、総統がどんな強い権限を持っているとしても、議会の承認がなければ、フィッガーバード第一王子の思いに対して、ミラング共和国軍が協力することはない。我が国の憲法で決まっていることであり、何でも思い通りにできるラフェラル王国のようにはいかないのだ。まあ、大丈夫だろうが―…。」
と、注意するように言う。
ミラング共和国は、民主主義国家である。
ミラング共和国の憲法の中には、議会の承認がなければ、他国と戦争をおこなうことができないようになっている。その歴史に関しては、過去に戦争をしすぎて、国自体をぼろぼろにしたということがあり、このような議会の承認が必要とされる条文が加わったのであるが―…。さらに、その条文を定める時の議会の一人の有力議員が自分で判断できないことに対する不満があったというのは、歴史として知られることではなく、闇の中に葬り去られていたが、後の歴史家が発見した史料によって、証明されることになったのであるが―…。
さて、逸脱しそうなので、話を戻すと、シュバリテとしては、ミラング共和国がフィッガーバードに協力するには議会の承認が必要であるし、議会の承認さえもらうことができれば、協力することができるということなのだ。
そして、議会の承認は、ミラング共和国の議会を対外強硬派が握っている以上、貰える可能性はかなり高いものとなっている。
なぜなら、対外強硬派にとって都合が良い議会となっており、その対外強硬派のトップはシュバリテであり、事実上の権力はシエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレである以上、承認が得られない可能性はかなり低いし、そうなったとしても、裏で動いて、最後は承認可決をさせることができるからだ。
シュバリテの言葉を聞いた結果、フィッガーバードは心の中で安堵するのだった。
(注意するかのように強めに言うから、できない可能性を示されるのかと思ったが、可能性の低いことか。まあ、気にしなくても、協力してもらえるということだ。)
と、心の中で安心しきるのだった。
ここで、予想外の展開が起こるわけではない。
だが、それでも、未来、どうなるか完全に分からない以上、万が一の可能性を想定しておくことは必要なことであり、そうすることで、失敗した後でも次の行動をとりやすくすることができるのだから―…。
シュバリテも政治の世界で生き残るために、必要なことはちゃんと身に付けたのだから―…。
「感謝いたします。」
と、フィッガーバードは感謝の意をシュバリテに伝えるのだった。
感謝をしっかりと言葉にして伝えるのは、こういう場では必要なことであるのだから―…。
「そうか。ここラルネには、フィッガーバード第一王子の母親であらせられるヒール王妃が信仰しているアマティック教教団の本部があり、そこに教主のイルカルがいる。会いに行きたいのであれば、こちらから護衛を付けよう。」
と、シュバリテは言う。
心の中では、
(こいつはもう手遅れだろう。ラウナンの話によれば、ヒール王女は完全にイルカルの能力によって、洗脳状態にされてしまっており、イルカルの言葉しか聞けなくなっているという―…。こいつもラウナンの手駒でしかないのなら、さっさとイルカルに洗脳された方が良いだろう。少しぐらいはラウナンのサポートをしてやろう。だけど、今回は、上手くいく可能性は低いだろう。身の丈の行動ができない者は、政治の世界では生き残れない。だが、身の丈に合わない行動がとんでもない成功を持ち込むことがある。ラウナン……、お前はどっちだ。)
と。
シュバリテは、政治というものを知っている自負することができるほどに、政治と関わっている。
だからこそ、政治の世界で身の丈の行動がどれだけ重要か、ということを認識している。力が上の者には従うべきだし、変な反抗を企てるのは返って危険であることを知っている。そうすれば、自らが生き残る確率を上昇させるし、力の上の者が弱まった時に自由に行動できるように、ベッタリと権力者に引っ付かないようにすることも大切だ。
目立たない、これは政治においての美徳であるとシュバリテは思っている一面もある。だが、ある派閥のトップに立てば、返って、逆に目立たないといけないことも知っている。そう、自分がより周囲に支持されているのだというふうに見せることが、人を引き付けるための大事な要素であることを知っているからだ。
票を手に入れるためには、目立つようにすることと、地盤というものを確立するという泥臭いことも必要なのだ。
ここで補足を付け加えるのであれば、政治における力は権力であり、相手の物理的実力、背後の人脈とありとあらゆるものを加えた上で、状況の変化を加味して判断する必要がある。これが難しく、人という生き物はその状況というもの、いや、すべてを完全に把握することができないからこそ、決めつけによって、ミスをしてしまうのだ。仕方のないことであるが、そのミスが命取りになることはある。
さて、話を戻し、身の丈にあうことは、状況に合わせた行動がとれるという意味に通じる。その基本をおさえた上で、次に、この原則には例外が存在することだ。
これは、人という生き物が完全にすべての物事を理解することができないし、完全に正しい道ということを判断する方法を知らないことによって、発生することである。
そう、身の丈に合わないと思われる行動をとることで、思いもよらぬ成功を手にすることがあったりするのだ。原則と比べるとこの例外は、はっきりと言って少ないケースとなってしまうが、発生しないというわけではない。
この例外というものが、恐ろしいのであり、偶然というものである以上、自分が予想以上に強いと勘違いをおこして、ミスを誘発する可能性が存在するからだ。このような例外は原則よりも起きる可能性がかなり低いものであり、続けて起こるのはさらに低いことである。だからこそ、より慎重に行動をしなければならなくなる可能性が存在するのだ。細心の注意を払って―…。
この例外に溺れて、最悪の場合、自らの命を散らしてしまうという人までいるのだから―…。
シュバリテは、ミラング共和国はラフェラル王国よりも実力が上であると思っているが、ラフェラル王国を完全に征服できるほどの力があるとは思っていない。
だからこそ、ラウナンが、シュバリテの予想を良い意味で裏切るのかどうかを見ようとしているわけだ。
操り人形が、人形師を見定めるかのように―…。
その後、会談はすぐに終わり、フィッガーバードが会談の場から出て行き、護衛を付けて、アマティック教の教団本部へと向かうのだった。
シュバリテは執務のため、総統執務室へと戻っていく。
総統執務室。
そこに戻ってくると、ラウナンがいた。
「ラウナンか。」
と、シュバリテは言う。
シュバリテは若干の驚きもあったが、ラウナンならこういうこともできるとすぐに納得し、いつも通りの表情になる。
「フィッガーバード第一王子との会談は上手くいきましたか。」
と、ラウナンは言う。
「知っていることだろ。フィッガーバード第一王子は、ラフェラル王国の政権を掌握したクーデター側を倒すために、俺らの軍に軍事介入を要請してきた。ラウナン、お前の望んでいるように、なぁ~。」
と、シュバリテは言う。
ラウナンが望んだ結果をちゃんと取ってきたぞ、という意味を込めて―…。
同時に、ラウナンの思い通りにしたのだから、ちゃんと成功するんだよなぁ~、という意味を含んだ上で―…。
「ええ、ありがとうございます。シュバリテ総統。」
と、ラウナンは感謝するのだった。
ここに、二人の間、僅かばかりではあるが、火花が飛び散ったかのように感じられてしまう。完全に対立しているのか、どうかはまだ分からないが―…。
その後、ラウナンはシエルマスの本部へと戻っていくのだった。
自らの望んだ通りの結果になったことに安堵しながら―…。
シュバリテの方も執務に励むのだった。
ラルネの街中。
そこに、フィッガーバードとそのお付きの一団が歩いていた。
その歩みは軽やかなものであり、一つの仕事が終わって、思い通りになって、うきうきの気分になっていた。
気分が良い。
だって、これから念願のあの場所に向かうのだから―…。
そのウキウキを見た、フィッガーバードの腹心たちも僅かばかりか笑みを浮かべるが、外にいる多くの人々がまるで珍しいものを見るかのように、見ているのである。
一部はヒソヒソ話をしている感じだ。
どういうことを言っているのか、フィッガーバードとそのお付きの一団には、聞こえるはずもない。
彼らは―…。
「あの一団は一体―…。」
「聞いていないのかよ。あいつらは、隣国のラフェラル王国のからの使節で、数日前にクーデターでやられた側の生き残りだって―…。」
「マジかよ。使節として意味がないんじゃないのかしら―…。」
「噂なんだけど、ラフェラル王国のクーデターを潰すための援軍をうちの国に頼ったとか―…。」
「えっ、そうなの!!!」
「つまり、ミラング共和国軍が派遣されて、ファブラのようにラフェラル王国も手に入れられるというわけか。また、我らがちゃんと国とはこういうものだと、教育しないといけないなぁ~。」
この会話は一部でしかない。
彼らの中には、情報を正確に把握できているわけではないが、重要な情報に関しては分かっているようだ。
そして、そこから、ミラング共和国がラフェラル王国のクーデターを鎮圧するための軍を派遣するのではないか。
そうなれば、五年と半年前のファブラと同様に、ラフェラル王国をミラング共和国の支配下に置くことができるのではないかと思いながら―…。
その思いは、彼らの身勝手さというものが表れており、これをラフェラル王国の者が知ったならば、怒りの感情が湧き出してきてもおかしくはないし、ミラング共和国に敵対する者を、ラフェラル王国内で増やす結果でしかない。
だけど、ミラング共和国の国民の中には、リース王国との先の戦争での勝利とアルデルダ領を手に入れたこと、ファブラを征服したことなどによって、完全に増長してしまっているのだ。次も、成功するのだという気持ちで―…。
勝利は時として毒となる。
これに気づかない者は、勝っている時ほど多くなるものだ。
その噂に気づくことなく、フィッガーバードとそのお付きの一団は、ある場所へと向かって行く。
「彼らが向かっているのって―…、アマティック教?」
と、一人の人物は小さな声で口にする。
そう、フィッガーバードが向かっているのは、アマティック教の教団本部であり、その教主であるイルカルに会うためだ。
このような機会は、もう二度とないかもしれないので、後悔しないために、イルカルに会いに行くのだった。
母親が信仰している宗教の教主に会うために―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(126)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(34)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していきたいと思います。
PV数が増えました。
ありがとうございます。
『水晶』をこれからもお楽しみください。
では―…。