番外編 ミラング共和国滅亡物語(121)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(29)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
ラフェラル王国におけるクーデター発生後、まず、宰相を中心とする貴族政力がフィルスーナとラフェラル王国の裏の者により、気絶された後、拘束される。さらに、ファングラーデはリーガライドによって捕まることになった。
第一王妃であるヒールの方は―…、クーデターを把握し、誰が起こしているのかを妄想という感じで突き止める。失敗した人間を処分しようとするが、その時、フィルスーナが現れ、ヒールが個人で雇っている裏の者で始末しようとするが失敗し、裏の者を失うという結果となった。その時のヒールの悲鳴によって、衛兵が駆けつけて、逃げたフィルスーナが狂気をはらんだ人間であることを言うのであった。
その後、ヒールは自らの執事長を軍部の拠点へと向かわせる。自らの指示をファングラーデ王の指示としてクーデター側を鎮圧するように、という命令を―…。だけど、軍事貴族もすでにクーデター側に捕らわれており、軍部もたたき上げが指揮するような状態となっており、ヒールの執事長は捕まるのであった。
フィルスーナは、再度、ヒールのもとへと向かい、少しの会話の後、ヒールを殺し、ラフェラル王国のクーデターは、リーガライド側が勝利することになるのだった。
その後、リーガライドは、ラフェラル王国の支配をフィルスーナとともにしていくことを宣言するのだった。フィルスーナにとっては、迷惑なことでしかないが―…。
一方、フィッガーバードの方は、ミラング共和国の首都ラルネへはあともう少しの距離まで近づくのであった。
そんななか、シエルマスの本部では、東西南北と国内担当の首席、報告官、統領による会議がおこなわれる。
(私もツキには見放されていないようだ。)
と、ラウナンは心の中で思う。
そして、言うべきことは決まっている。
「報告をありがとう。下がってくれたまえ。」
と、ラウナンが言う。
そうすると、報告官見習いはすぐに会議室から出て行くのであった。
報告を聞いただけで十分だ。
ラウナンにとっての大義の駒が増えたのだから―…。
いや、大義の大駒がここに揃ったのだから―…。
(グフフフフフフフフフフフフフフフフフ、来てくれたようだ。私の新たな幸運を起こす駒が―…。)
と、ラウナンは心の中で笑みを浮かべる。
フィッガーバードは、ラフェラル王国の王子の中で、次の後継者として一番の候補に挙げられるほどであり、この人物が今、この時、ミラング共和国にやってきたということは、ラウナンにとってラッキーなことでしかないし、でっち上げをするようなことをほとんどしなくても良い。
つまり、ミラング共和国は、ラフェラル王国へ侵攻するための大義を得たのである。一番大きな―…。
だからこそ、心の中でラウナンは大興奮する。
自らにとっての目的を達成されるための大きなものを―…。
だけど、一人だけ慎重になるべきだと思うものがいる。
(どんな素晴らしい駒を手に入れたとしても、そいつがラフェラル王国での信頼度がどれだけあるかということになる。国民の支持しない人間に誰もついてくるはずがない。こいつだけは力で何とかすることもできることもあるが、力がなくなると簡単に脆く崩れ去ってしまう。信頼はそれとは異なり、結構、強力であったりするからな。)
と、ディキッドは心の中で警戒しながらも思う。
ディキッドは、フィッガーバードがミラング共和国の首都であるラルネにやってきたとしても、フィッガーバードがラフェラル王国の国民にどれだけ支持されているのか疑問に感じるのだった。
判断を下すことがここではできないので、言わないが―…。
(そうなると、一番ベストの選択はラフェラル王国のクーデター政権を認めることだな。)
と、ディキッドは心の中で続けて言いながらも、それを口にはしない。
ラウナンよりも弱い者に意見を言う資格はないし、これ以上、沈むかもしれない船に乗り続けるのは難しいという思いも抱く。
今は、その嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
ラウナンという人を自らの掌の上で踊らすことにしか興味のない人物の破滅への行動から―…。
脅威は正しく理解しないといけない。
そのことができていないのではないかと、ディキッドの勘は告げており、それを無視することはできないと判断しているからこそ、ラフェラル王国の件に自身が関わらないようにする。
気配を消しながら―…。
ラウナンは、心の中で思った後、言い始める。
「さて、これから作戦に関して、決める時間が必要だな。フィックバーンには関わってもらわないといけないということと、北方担当からも幾人か助っ人としてフィックバーンの下につけさせることにしよう。今回のラフェラル王国の裏の件は、フィックバーン、お前に任せることにした。私も同行するかもしれないが、最近、怪しい動きをしている奴らがいるからなぁ~。その中心となっている奴を見張らないといけない。」
と。
ラウナンは、最近、ラフェラル王国以外にもミラング共和国内に怪しい存在がいることを理解している。裏の者であるという感じではないが、それでも、同様のことができ、かつ、ミラング共和国の総統であるシュバリテと関係があるのではないかという情報が国内担当から流れている。
(シュバリテの奴が、私のラフェラル王国の征服に賛成したことに対して、不満の感情が若干にでも見られたからな。一応、念のために見張っておくか。操り人形ごときが私から逃れようなどとは、どういうことか分からせないといけないなぁ~。)
と、ラウナンは心の中で思う。
言葉に発することではないが、最近、怪しい動きをしているのがどういう奴らで、誰が中心なのかはある程度分かっている。だからこそ、そいつらが動かないようにするために、見張らないといけないということだ。
ラウナンとしても、シエルマスという組織はしっかりと拡大した以上、ラウナンに任せることもなく、今回のラフェラル王国の件はちゃんと片付くであろうと―…。
そう、自分達にとって、都合の良い結果になることを思って―…。
そして、次の騒動の伏線は張られていく。
ラウナンは、
「では、会議はここまでだ。私としても、見張るのと同時に、フィッガーバード王子にも会わないといけませんから―…。」
と、言って会議室から出て行くのだった。
その様子をキールバは見ながら思うのだった。
(私がフィックバーンの下に向かえば、ラフェラル王国の件に関わることができるかもしれない。功績があれば、フィックバーンに代わって東方担当首席になることも夢ではない。……………………………………面白いことになってきたぁ~。)
と、キールバは、心の中で笑みを浮かべる。
その笑みは、自分が出世するためのことと、自分がラフェラル王国の件に関わった方が上手くシエルマスの都合の良い結果になることは分かりきっているのだ。
そういう予感に対して、正直というか、素直というべきか、行動力があるといえる。
キールバは、自分がラフェラル王国の件に関わるために、わざとフィックバーンの下になろうと模索し始める。
東方担当首席と北方担当首席の地位は、同じ位置であり、一般的な人間というか、その地位に出世した人間がわざわざ、自らの下の地位になっているように見せたいと思うことはほとんどないし、自尊心がある者はそのようにしたいとも思わない。
なぜなら、自分という存在が相手よりも優位であることを見せたいと思っているのなら、尚更であり、かつ、自分が相手と比べて不利になるようなことをしたいとは思わない。下に見られることを嫌がるのだから―…。
自分が下に見られることをしたとしても、何等かの目的を達成しようとするキールバは、ある意味で大物になれる素質を持っているかもしれない。若いが優秀な存在であることを示してくれている。未来において、それが保障されているとは限らないが―…。
そして、キールバもディキッドも、会議室の外に出て行くのだった。
これ以上、ここにいる理由がないからだ。
そんななか、会議室に残されるのは西方担当首席のドグラードと、東方担当首席のフィックバーン、国内担当のアルクマールである。
アルクマールは、何か考え事をしており、二者の険悪な雰囲気に介入する気はないようだ。
ドグラードは、フィックバーンに向かって言う。
「フィックバーン。ラフェラル王国の件でここまで失態を演じるとはなぁ~。俺だったらこんなことにはなっていない。リース王国からも多くの者が生き残って、俺やラウナン様にちゃんとリース王国の情報提供したり、工作もおこなったりすることができている。俺のところには、優秀な天成獣の宿っている部下がおり、そいつによって、敵の兵を有効活用した上で、味方にすることができるからなぁ~。まあ、お前には、できやしないが―…。東方担当の方には、天成獣の宿っている武器を扱う者は、フィックバーン以外、いないのだからなぁ~。それだけ、ラウナン様から良い評価を受けていないということだ。」
と。
ドグラードの表情は、勝ち誇ったようになっており、フィックバーンを見下して言っている。
フィックバーンは、ラフェラル王国に派遣したシエルマスの諜報員のすべてを行方不明にさせられてしまったのだ。ドグラードの中では、完全にラフェラル王国に派遣された者たちはバレて始末されたのではないかと思っている。
そういう失態を演じたフィックバーンはすぐにでも、粛清処分が下されていたとしてもおかしくはないのだ。だけど、まだ下されていないことに対して、ドグラードは不満を抱いているのだ。
ラウナンからの寵愛を一番受けているのは、自分であると思っているドグラードは、それと同じかそれ以上の寵愛を受けているとみなしているフィックバーンに関して、恨みたい気持ちしかない。
だからこそ、フィックバーンの失敗はドグラードにとって、都合が良いし、フィックバーンよりもラフェラル王国の件でも、自分が関わることができれば、良い結果を残すことができると思っているのだ。
そこに疑うという気持ちは一切、存在しない。
自分がフィックバーンより優れていることは既定路線でしかないのだから―…。
「今回の大きな失態に関しては、私の責に帰することがあるのは確かです。それを否定する気はございません。しかし、天成獣の宿っている武器に関しては、天成獣に選ばれるということも関係しているので、ラウナン様からの評価が良いと決めつけるのは良くないと思います。そういう常識をちゃんと言えないというのは、自らの諜報員としての能力が低いということを言っているものですよ。」
と、フィックバーンは言う。
今回の失敗に関しての責任が自分にあることはちゃんと理解している。理解したくないと思ったとしても、逃れることはできないのだから―…。
なら、認めて、次に進んで行くしかない。
まあ、粛清されてしまえば、意味のないことではあるが、生きている以上、粛清される可能性はなくならないが粛清されない可能性もなくならない。
要は、今できることを最大限やって、進んでいき、前よりも良い結果を残すために考え、実践するということだ。完璧に物事を人は把握することができない以上、その反対になる結果にも気を付けないといけないが―…。
そして、フィックバーンは、ドグラードに批判されることに対しては、自分の責任でもあるのだから、仕方ないという気持ちを抱きながらも、心の奥底では、ドグラードに対する怒りという感情で、いつかこいつを潰してやりたいという気持ちを昂らせられていたが、それでも、諜報員という経験からこそ、自らの心の中で落ち着けるのだった。
冷静さを失ってしまえば、最悪の結末を迎える可能性を高めることになるし、隙をつかれることは避けられなくなる。そのことを理解しているからこそフィックバーンはここでも落ち着いているように見せることができるのだ。
そんななか―…。
(俺に対して、怒りの感情を向けようとしていることぐらいわかっているんだ。こっちとしてはなぁ~。もう少し怒らせた方が―…。)
と、ドグラードは心の中で思っていると―…。
「お二人さんさぁ~。いがみ合うの勝手だけど―…。もう少し協調性を持たないといけないのではないか。そんな醜い争いをしたところで、フィックバーンが抱えるラフェラル王国における問題が片付くわけでもないだろうに―…。ドグラードもお前のところは、リース王国も管轄に入っているはずだ。あの王国は、ラーンドル一派に次ぐ王妃の勢力が完全に把握できていないのだろ。あの王妃は女のクセに俺たちに対して、尻尾を出してこない。ああいうのが一番厄介なんだよなぁ~。ということで、馬鹿ないがみ合いは止めて、さっさと自分の仕事に取り掛かる事をお勧めするぜ。シエルマス、いや、ラウナンさんのためにも…な。」
と、国内担当首席であるアルクマールが言う。
この人物は、典型的なミラング共和国の男性がしそうな思考に染められているが、実力がない者を認めないわけではない。諜報員として優秀であり、ラウナンに次ぐぐらいの実力を有しているからこそ、ドグラードもフィックバーンも彼の言葉に口を挟むことはできなかった。
できるはずもない。シエルマスのナンバースリーとも言われているぐらいだ。ナンバーツーは、報道官の人物であることに間違いはないが―…。
そして、ドグラードは、アルクマールの今の言葉で、これ以上フィックバーンを貶めても意味はないと思ったのか―…。
「チッ!!! 興が削がれた。」
と、ドグラードはイラつきながらも、会議室を出て行くのであった。
そして、その後、フィックバーンは、
「助けていただきありがとうございます。なぜ、ドグラードは私を責めるような口調をいつも―…。」
と、疑問に思うように言う。
理由が分かっていないわけではないが、同じ組織である以上、敵対的なことをしても意味はないだろう、と思ってしまう。
ゆえに、ドグラードの行動に、合理性というものを感じることができなかった。
そのフィックバーンの気持ちを理解したのか―…。
「フィックバーン。お前も気づいているだろうが、ラウナンからの寵愛を一番に受けたいのさ、ドグラードは―…。そういう奴だから、寵愛を受けている奴の失敗を大きな言葉で、強気に攻めたいのさ。そして、ラウナンに自分が一番あなたの部下として相応しいということを示したい、…そういう気持ちなのだろう。まあ、ムキにはなりなさんな。冷静さを失えば、見なきゃいけないものも、見えなくなるさ。さあ、仕事に取り掛かった方が良いんじゃないか。」
と、アルクマールは言う。
「分かっている。」
と、ぶっきらぼうに言いながら、フィックバーンも会議室から出ていくのだった。
(ふう~、感情ってやつは難しいねぇ~。)
と、アルクマールは心の中で思うのだった。
そう、人の感情は合理であり、不合理的なものに過ぎず、ただ、完全になれないがゆえに、起こることを無意識に理解しているか分からないが、自分の感情を揺り動かすものに強く反応してしまい、強く出てしまうものだ。
要は、人の感情というものは、自分の心を強く動かすものに反応し、良い方向に対処しようとするものだ。あくまでも、そこに主観性というものを完全に排除することができずに―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(122)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(30)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。