番外編 ミラング共和国滅亡物語(114)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(22)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
ラフェラル王国におけるクーデター発生後、まず、宰相を中心とする貴族政力がフィルスーナとラフェラル王国の裏の者により、気絶された後、拘束される。さらに、ファングラーデはリーガライドによって捕まることになった。
第一王妃であるヒールの方は―…、クーデターを把握し、誰が起こしているのかを妄想という感じで突き止める。失敗した人間を処分しようとするが、その時、フィルスーナが現れ、ヒールが個人で雇っている裏の者で始末しようとするが失敗し、裏の者を失うという結果となった。その時のヒールの悲鳴によって、衛兵が駆けつけて、逃げたフィルスーナが狂気をはらんだ人間であることを言うのであった。
一時間後。
すでに、多くの貴族に対する尋問は開始されており、ファングラーデ王は幽閉状態となっていた。
ヒールはまだ、捕らえられる状態になってはいないが、着実に不利な状況に追い込まれていった。
本人は、そのことに気づいていないようだが―…。
むしろ、自分が勝者なのではないかとすら思っている。
だけど、このクーデターは即日成功に終わることを知っている後の者たちであれば、まだ、二三転しそうなことぐらいはすぐに分かることであろう。
場所は、王宮の中の第一王妃であるラフェ=ヒールの私室。
「どうなっておる。」
と、ヒールは言う。
その中には、苛立ちというものはあるが、自らの勝利を疑うというような気持ちはない。
なぜなら―…、
(私を殺すことができなかった時点で、あの小娘の敗北は決まったも同然―…。)
と、思っているからだ。
一時間ほど前に、フィルスーナが部屋の中へ入ってきて、ヒールは自らの私的に雇っている裏の者を使ってフィルスーナを暗殺しようとしたが、失敗してしまい、逆に、その裏の者がフィルスーナに始末される展開となった。
だが、ヒールの叫び声によって、衛兵が駆けつけたので、フィルスーナは殺されることも、捕まることもなかった。
そして、ヒールは、自らの権力がラフェラル王国の中でどれぐらいのものかは十分に知っているので、すぐに衛兵に嘘の証言をすることができて、それを衛兵達は、ヒールに睨まれたくないと考え、裏の者と思われる者の遺体を回収していったのだ。霊安室へと運ぶために―…。
そんななかで、ヒールは失態をいくつも犯したが、それは十分に誤魔化すこともできるし、黙らせることもできるほどのものであった。
そういう安心感があるので、こうやって、クーデター側を潰すことはできるだろうし、ヒールの最終的な勝利となり、フィルスーナやリーガライド、クーデターに関わった「緑色の槍」という傭兵隊を始末することができると確信に近い感情を抱いている。
そんななか、執事長の人物が言う。
「クーデター側は、城の方へと到達し、抗議をしている感じです。要求は、ミラング共和国から流れてくる商品に対する関税撤廃の廃止と、アマティック教の排斥であります。軍隊たちは日和見の態度ばかりをとっていたり、指揮官の多くが不在で、混乱しています。」
と。
これは、フィルスーナとリーガライドが指揮するラフェラル王国の裏の者たちとの共同の行動で、宰相を含む多くの貴族達が捕まってしまったからだ。
最初に、ここを抑えたのは、王権側や貴族側の動きを封じるためであり、王権側や貴族側の反撃を封じるためであった。そして、軍事貴族たちがいない以上、軍部は指揮系統で混乱することは避けられない。そうなってくると、リーガライド側の軍人の上級職の者たちが自由に動けるということになるわけだ。
彼らは、今のところ、日和見の態度をとり、クーデターの趨勢を見守っている。負ければ自分達が処分されることが分かっている以上、いの一番でクーデター側に加担することができるわけではない。
だけど、クーデター側が勝利するのではないか、ということは分かっていた。予感という感じで―…。
それでも、万が一ということがあり得るので、確実の段階までは動かないようにした。
そのことをリーガライド、フィルスーナ、アルスラードはしっかりと知っているので、そのことを含んだ上での作戦となっているというわけだ。
そして、現在は、商工業者達が加わってくれているので、数はそれなりになっている。軍事力ではかなり弱いものでしかないが―…。
クーデターが成功するには、軍部の介入が絶対に必要である。軍事力を味方につけなければ、クーデターを成功させることは到底不可能であり、戦いの専門家というものは必要とされる要素なのだ。
さて、執事長の話を聞いたヒールは、軍部に対する苛立ちを感じるのだった。
「軍部ども、日和りやがって―…。あいつらの一部を見せしめにクーデターを鎮圧したら、大々的に処分してやろうか。私の権力の前に恐怖するが良いわ。私はラフェラル王国で一番の権力を持っているのですからねぇ~。それと、お飾りの王は―…。」
と、ヒールは言う。
ヒールとしては、軍部が自らのために動かないということに関して、かなり苛立ちというものを感じている。自身のために動いて当たり前だという考えがヒールにはある。自らはリース王国の王族に生まれたのだから、称賛され、恐れられて当たり前だと思っている。
そのために、軍部が抱いている懸念や未来に対する自らの生き残りのための可能性について、考えるということをヒールがするはずもない。必要すら本人から感じないことであろう。
人が生きる上では、他者との関係というものが重要になることは避けられない。その中で、考えることにも時間というものを消費するし、この場で必要なすべてに頭の方が向くことはできないので、どうしても考えたりすることができない者も発生するし、見落としも十分に存在する。そのことに気づくか、気づかないかということも存在するが―…。
そのため、人は完全にすべてのことについて考えることはできないし、制約の中で、今の状況で自らが求める最大に近い考えをした結論を導かないといけないのだ。
ゆえに、ヒールが軍部のことに関して、考えないという選択肢を一方的に批判することや、馬鹿だなと思うことはできないが、ヒール自身も自分の考えを完全で正しいと思うこともできるはずがない。不確定要素の中に、自らにとって最高の考えになるヒントが存在するかもしれないからだ。
そして、自らを破滅させないための要素も存在するかもしれない。
さらに、人はすべてのことが理解できるわけではないので、自分が思考している考えが、自らの求める結果通りになることはないかもしれないが、決して、すべての面でそのようになるわけではない。ということは、ヒールが考えている希望も本人にとって叶うが、結果として、自らを破滅させることもあるかもしれない。
完全ではないし、完全にもなれないが、完全というものを求めるのが人という生き物なのかもしれない。
さて、話を戻し、軍部の考えていることを無視して、自分の意見を通そうとすることに懸命なヒールは重要な点を見逃すことになるのだ。脅すだけでは、全員が言うことを聞いてくれるとは限らないのだから―…。
ヒールは、自らがラフェラル王国で実質の権力者の中で一番であることを知っている。というか、自覚している。ラフェラル王国の中で、形式上、一番上の権力を持っているのはファングラーデであり、国王である。だけど、歴史は往々にして、国は往々にして、表立って一番上の権力者が実質の国の最高の権力者でないということが存在する。
ラフェラル王国とは、そういう国であり、実質の権力者はヒールということになり、その権力はファングラーデをしのぐほどだ。さらに、その後ろ盾となっている者がいたりもする。そのことに関しては、今は触れないようにしておこう。
ヒール本人も気づいていないようだし―…。
ヒールは、気になっている。
ラフェラル王国の国王であるファングラーデがどんな状態になっているのか? お飾りの王であったとしても、権威というものをヒールはラフェラル王国の中で持ち合わせていないので、ファングラーデの力を権威という面で必要であったりする。
権威という、人を上手く従わせることができる力は自分個人ではどうしようもできないものであるから―…。
「ファングラーデ様に関しては、行方不明になっており、どこにおられるのか―…。私たちでは把握のしようがありません。誠に申し訳ございません。」
と、執事長は言う。
何とか、始末されることを運よく免れたので、今のクーデターが発生している事態である以上、ヒールの方も裏の者が殺された時点で、殺して処分するという選択肢もとることができない。悲しいことに―…。
そうなってくると、生かして、暫くの間、使っていくしかない。役に立った上で、目途がたったなら、何かしらの罪を被せて、始末すれば良いのだから―…。
ヒールという女性は、自分が目立つためなら、部下すら平気で捨てられる人間である。その後に、自分が不利になることが存在しようとも―…。
まあ、そのようなことが実現されるわけではないのであるが―…。
「そうか、どうなっておるのじゃ。」
と、ヒールは若干、怒りを露わにする。
すでに、ファングラーデはリーガライドの方に捕まってしまっていることに気づいていない。それだけ、ラフェラル王国の裏の者を味方にすることができたリーガライドとフィルスーナの側は、優位に物事を進めることができているというわけだ。
ヒールにとってのカードを、しっかりと確保するか、潰しているのだから―…。
そして、ヒールは思考する。
(あのお飾りが行方不明とか―…。どうなっておるのじゃ!! 何か嫌な予感が―…。)
と、ここで、ヒールは自らが追い詰められているのではないかという気持ちを抱き始めるが、それでも―…、
(大丈夫。そんなことはない。勝利は決まっている。)
と、嫌な予感を否定し、自分はクーデター側を鎮圧して、勝利することができると思い込むのだった。
ヒールには、そういうビジョンでないといけないのだ。
勝利以外のことをどうして考える必要があるのだろうか。
最初から敗北を想定して戦うことに何の意義があるのだろうか。
そのようなことを考えの中にある自身の根本に近い原則の中に思っているのかもしれない。
現実は、負ける可能性も考えて、行動しないといけないことは存在したりするのだ。
そういう意味では、ヒールはあまり敗北を知らない、というか敗北を乗り越えることができなかった人物なのであろう。
「では、軍隊を動かして、クーデターを鎮圧するように命令をせい。この時、私からの命令ではなく、ファングラーデ王からの命令ということにするのじゃ。絶対にな!! ファングラーデ王の命令であれば、軍隊も確実に動くであろう。それに、今回の反乱の首謀者は、フィルスーナ、あの小娘だ。あの小娘ごときがファングラーデ王の身柄を抑えることは不可能。勝者は我々の側だ。」
と、ヒールは強く言う。
勝利を確信しており、かつ、その信念は揺るぎないものになっている。
だけど、すでに、リーガライドによって、ファングラーデが捕まっていることは気づいていないし、教えないようにしている。
「だけど―…、そのような嘘の命令がバレてしまった場合は―…。」
と、この執事長は言う。
もしかしたら、今度失敗してしまったら、自分の首が物理的にも飛んでしまうことを恐れて、ここは弱々しながらも意見をするのであった。
これは、自身の命を守るためには必要なことであり、自身の命を守ってこそ、良い未来があるのだと信じているからだ。まあ、要は、自分の命が大事な臆病者であるし、それが人間だと言えるのかもしれない。
自分の命を守れない者に、他人の命は守れないのだから―…。
この執事長の今、言っている言葉を聞いたヒールは、苛立ちを強め―…。
「何度も言わせる気か!!! 私の命令が聞けないというのか!!! なら、今、ここで、自らの命をもって詫びろ!!! 私はリース王国の王族の出であり、ラフェラル王国の王妃となり、王よりも権力を持っている私の言うことは何が何でも聞くのが正しいあり方だろ!!! 嘘なんてバレるわけがない!!!」
と、ヒールは叫ぶように言う。
ヒールは自身がどれだけの権力を持っているのかは、十分に何度も指摘するが知っており、だからこそ、自分の言っていることは、誰もが言うことを聞くし、嘘があったとしても、全員、ヒールの思い通りに動いてくれるのだと―…。
そして、ヒールは短刀を執事長のもとに刃を出したまま投げ、当たれば、執事長が怪我をすることをお構いなしに―…。それで執事長に当たったとしても、それで執事長が死んだとしても、何の心の底から悪いという気持ちを抱くことはない。恐ろしい人間である。
自分に命令を嬉々として聞き、素晴らしい結果を出してくる人物しかいらないのだから―…。
そして、ヒールの言葉によって、執事長は自分が命令通りに動くか、逃げないと不味いことになることを理解させられてしまうのだった。
「わかりました!!」
と、言いながら、執事長は、軍部のある場所へと向かって行くのだった。
ヒールはここで重要な選択ミスをすることになるし、彼女が勝ち誇るような結果になることはないであろう。クーデターが成功したということを知っている者であれば―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(115)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(23)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
PV数が無事に増えました。ありがとうございます。
では―…。