第28話-4 神と王は対立する
前回までのあらすじは―…、セルティーが気絶しました。
ヒルバスが投げたセルティーの武器である大剣は、持ち主本人に当たった。
そう、投げられた剣は、瑠璃によって形成された空間の裂け目のようなものをセルティーが通ったように通り、持ち主であるセルティーの腹部に直撃したのである。
それを、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは見たのである。
(あれ、死んでないよね…、王女様。)
と、瑠璃が心の中で思った。赤の水晶によって展開された空間の裂け目のようなもののせいで、セルティーがこんな惨めな死に方をしたのではないかという、罪悪感に駆られていた。
ゆえに、
「私……、殺してないよね…。セルティーを…。」
と、不安になりながら、恐怖に怯えながら瑠璃は言う。
「死んだか、どうかは、確かめてみるしかないよなぁ~。まあ、死んでいたとしても、死体さえ誰かにバレないように隠してしまえば、まあ大丈夫だろう。それに、証拠隠滅は俺の得意分野ではないが、もしものときはやらざるをえないなぁ~。共犯として―…。」
と、アンバイドは言う。アンバイドはたぶん、セルティーが死んでいる可能性は低いと何となくであるが感じていた。なので、少し子どもをからかおうとして意地悪めいたことを言ってみたのだ。決して、これは今現在のように、真剣に人を殺してしまったかもしれないという罪悪感を抱いている人に向けて言うべきことではない。アンバイドは、傭兵をやっていたりしたことから、余りにも人の死を見てきたというがために、少しだけ、いや、かなりといっていいほど、ズレてしまっていたのである。ゆえに、このような冗談にもならない冗談が言えたのである。
だから、李章は、
「アンバイドさん。冗談を言うのは止めてください。」
と、声のトーンを少し下げ、相手に自身の気持ちを強く伝え、冗談を言わせない静かな威圧を込めて言った。
「悪かったな…。冗談のつもりでも言うべきではなかった。あまりにも、戦場で人の死を見てきてしまったかもしれない。だが、俺の冗談に怒っている前に確認してきたほうがいいのではないか?」
と、アンバイドは言う。アンバイドは、李章に冗談であることを言うが、同時にこの冗談が良くないことではないと気づき、アンバイドなりの謝罪をした。そして、同時に、アンバイドの冗談につきあうよりも、セルティーが本当に死んでしまったのかどうかを確認するのが大事なのではないかと意味を言葉の後半に込めたのであった。
アンバイドの後半の言葉を聞いた瑠璃は、ゆっくりと歩き始める。それは、恐る恐るともいうほどに―…。
礼奈が瑠璃の後ろからゆっくりついていくのであった。
数十秒は経過しただろうか。
その間、李章、クローナ、アンバイドは、ただただ見守っていたのである。
アンバイドは、まあ、セルティーが死んではいないだろうと思いながら―…。
(瑠璃さんが人を殺しているということの結果になりませんように―…。)
と、李章は真剣に心の中でお祈りをしていた。そう、とても必死な思いを心の中の主要な感情を占めさせるように―…。
(大丈夫でしょうか。もしも、セルティー王女が瑠璃の空間の裂け目から現われたものに当って死んでしまっていたら、リースの人々から追われることになってしまう。う~ん、セルティー王女が生きていてほしい。)
と、クローナもセルティーが生きていることを祈るであった。そう、リースから追われてしまえば、ランシュが企画したゲームに参加することが難しくなるかもしれないと思ったからである。
そして、瑠璃と礼奈は、セルティーが気絶している場所へと移動した。
恐る恐る瑠璃と礼奈の二人は、セルティーを見る。セルティーの顔を覗き込んだ。
「何だろう。気絶しているのかな…。すごい顔してる。」
と、瑠璃は言う。不思議そうな顔をしながら―…。
「ええ、まるでうなされるかような顔しているみたい。それに、目が…、引ん剥かれているんですが……。絶対に、テレビだとアウトのパターンね。王女様のこの顔は、リースの人たちに見せられるものではないね。王女様の黒歴史に新たな一ページを刻むことになるから―…。」
と、礼奈は言う。セルティーの今の目は、および表情は、決してリースの人々に見せられるものではなかったのだ。瑠璃と礼奈は、セルティーの名誉を一応は守ろうとしたのである。
そして、瑠璃と礼奈は、セルティーが生きていることを祈りながら、ほんの少しの時間を使い、セルティーを見つめるのであった。
ここは、黒が支配する世界。
決して白になることはない、生の世界。
それは、一人の少女の見ている景色を映し出す。
自らが生まれ、育ち、王国の中の黒い面も、心許せる侍女たちの会話などの光景も―…。
そして、自らの父がランシュによって殺される場面も―…。
「お父様―――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、一人の少女は叫んだ。父親がランシュによって殺されたということの事実を受け入れることを本当にすることができずにいることを示すかのように―…。
そして、一人の少女は目を覚ます。気絶から―…。
「ふごっ!!」
と、瑠璃は声を出す。それは、何かが瑠璃の頭部にぶつかったからである。
(いきなり、お父様―――――、とか声をあげながら、頭突きですか―……。私は罰当たりなことをしてしまいましたか。もしかして、セルティー王女の祟りが―…。)
と、瑠璃は気絶するほどではないが、セルティーは上半身をつかった起き上がりによって頭部をぶつけられたのである。
一方で、礼奈は、何かを察知して、素早く横にそれることで、セルティーの頭部による攻撃(夢から覚めるために無意識にしたこと)を避けることに成功していた。
「瑠璃!!」
と、礼奈は言う。喰らってしまった瑠璃は、大丈夫なのかを心配しながら―…。
礼奈は気づく。セルティーが目覚めたことを―…。
上半身を起こしたセルティーは、
「はあ…はあ……はあ………。どうして、あんな夢を見ていたのでしょう。」
と、セルティーは心の中で言っているつもりのことを口にする。
それを見ていた、李章、クローナは、セルティーが生きていたことに安堵した。そして、同時に瑠璃がよろめいているのをみて、李章は走って瑠璃の元へと駆けつけるのであった。
「瑠璃さん!! 大丈夫ですか!!!」
と、李章は声をあげらながら言う。少し大きめに強くしながら―…。
「うん、頭は少し痛いけど、大丈夫。」
と、瑠璃は頭を右手で押さえながら言う。瑠璃は、セルティーとの頭部の衝突によって、頭に痛みを負っていて、頭蓋骨に響くものであった。
そして、李章は瑠璃を気にかけながら、セルティーの方を見る。
「う~ん。ここは…、中央の舞台へと向かう場所―…にも似ているな。ここは…地獄ですか? 地獄って私たちの世界とは変わらないのですね…。そうか、私も自らの生涯を終えてしまったのですね。そして、きっと、その―…、私の―…。」
と、セルティーは言う。セルティーは、死んで自分自身が地獄に落ちてしまったのだと本当に思っていた。セルティーが地獄に関して抱いた感想は、そう、私が生きていた世界とは変わらないということだった。
セルティーが、自分が死んだのと勘違いしていることに気づいた礼奈は、
「あの~、すいません。」
と、セルティーに向かって声をかける。
「おお、地獄にも人がいるのか。地獄とは、僧侶たちが言っていたような、人がおらず、悪魔がいて、悪魔による罪人の拷問場所ではないのだな…。で、あなたの名は。」
と、セルティーは地獄に対する感慨を浮かべながら、声をかけて礼奈に名を尋ねる。
「私は、山梨礼奈。あなたはセルティー王女ですか?」
と、礼奈は自らの名を言い、セルティーであるかどうかをセルティーに確認するために尋ねる。
「ええ、私はセルティー=リースです。このリース王国の王女です。あなたは一体、私に何の用ですか?」
と、セルティーは礼奈に言う。
「一応、言っておきます。ここは―…、地獄じゃなくて、リースの競技上の中です。」
と、礼奈ははっきりと言う。
「………………へ?」
と、セルティーは呆気にとられる。
(ここは、地獄ではなく、リースの競技上の中…、ってことは、私は、ヒルバスに蹴られて、空間の裂け目みたいなものに飲み込まれて、地面に衝突した。そして、ここを地獄だと勘違いした私は―…、気絶することを考え―…。)
と、セルティーは心の中で思考を巡らせる。
(って…、本当に気絶したのか、一体どうして…。)
と、セルティーは考えながら、思いながら、辺りを見る。
そこには、瑠璃と礼奈、瑠璃の近くには李章がいる。そして、近くに自らの武器が落ちてあったのだ。
その視線に気づいた礼奈は、
「あれに当たりました、セルティー王女。」
と、言う。
「私の武器に…か。」
と、セルティーは言う。
そして、セルティーは結論に達する。
(私は、気絶しようとして、自らの武器によって気絶してしまったのか…。そして、起きて地獄と勘違い……。)
と、セルティーは心の中で言う。そして、セルティーは、今いる中央の舞台へ向かう廊下を地獄だと思っていたことに対して、急に恥ずかしくなってしまったのだ。それも、地獄だと勘違いしていたのを人によって見られてしまったのだ。
「私―………、ナアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――――――――。」
と、セルティーは叫ばざるをえなかった。周りに発狂したのではないかと思わせるぐらいには―…。
その叫びは、近くにあった丸いものを握っていなかったおかげで、競技場中にいる人々に運よく聞かれることはなかった。なぜなら、セルティーはヒルバスの蹴りを受けて、落下する途中で、丸いもの(握っているものの声が競技場の中に聞えさせるもの)を手から離してしまっていたのだ。そして、丸いものは、空間の裂け目を通って、セルティーから少し離れたところに落下していったのである。
セルティーの叫び数十秒続いた。
瑠璃、李章、礼奈は、急に声をあげたセルティーにビックリしてしまっていた。
そのため、
(((……)))
と、瑠璃、李章、礼奈は言葉も心の中で思うこともできず、思考停止に近い状態に一時的になったのであった。
そして、セルティーの叫びが止むと、
「はあ…はあ……はあ………。」
と、セルティーは肩で息をしていた。それは、叫びをいきなりしてしまったために、地面に落下するときに受けた衝撃の痛みとともに、自身の痛みを増幅させてしまったためである。
冷静なった礼奈は、
「あの~。大丈夫でしょうか~…?」
と、不安そうにセルティーに尋ねた。
(セルティーは、本当に安全な人なのだろうか? 頭のおかしな人で、何か狂気的な性格を実はしているのではないでしょうか?)
と、礼奈は自身の心の中で、セルティーという人が危険人物なのではないかと疑った。現在進行中で―…。
「大丈夫です…。何か変なことしてすみませんでした。どうか、このことに関してはお忘れいただきたい、と。」
と、セルティーは礼奈にむかって両手を合せ、頭を下げた。
「いえ、誰にも言いません。瑠璃、李章君、クローナも言わないと思います。ただ、一人を除いては―…。」
と、礼奈が言う。セルティーの暴走を握って、リースを脅そうとする可能性のある人物に対して礼奈は、その人物にいる方向に顔を向けた。
同時に、セルティーも礼奈の向いて方向に視線を移す。
その視線の先には、アンバイドがいた。
アンバイドは、礼奈とセルティーのやり取りの間に少しだけ、セルティーの方へと近づいていた。そして、礼奈とセルティーに視線を向けられ、さらに、それにつられたのか瑠璃、李章、クローナもアンバイドへと視線を向けたのである。
ゆえに、その視線を感じたアンバイドは、
「何だ。何か俺に言いたいことでもあるか。あるなら、言ってみろ。」
と、アンバイドは言う。アンバイドは、競技場の中央の舞台に繋がる廊下で、中央の舞台の近くの場所で、ここにいてアンバイドに視線を向ける五人に対して、落ち着きながらもなぜ俺へと視線を向けるという怒りに近いものがあった。そして、そのために、何か不満があるのなら、視線を向けるだけではなく、言葉で言えという気持ちを自らに視線を向けている五人に対して言ったのである。
「あの~…、すみません。そこの人、どうか私のさっきの言動に関しては他の人には言わないでください。後生の頼みです。どうか。」
と、セルティーはアンバイドに向かって、アンバイドに声が聞こえるように言った。それも、ものすごく必死さを感じさせるように―…。もし、こんな発狂じみたものが周りにバレてしまえば、リース王国の信頼が落ち、さらに、とくに重要な自分に対する尊敬の念も失われてしまうのではないかと、恐れたからである。
「そうか―…。なら、わかっているだろう? 自分が何をすべきか。」
と、アンバイドはセルティーの顔を見ながら言う。そう、アンバイドは心の中で、悪い笑みを浮かべながら―…。そして、悪戯心を見せながら―…。最終的には、アンバイドはセルティーのさっきのような本人にとって恥ずかしいことを言わないことの約束を守るつもりであった。ただし、無条件というものは嫌だったので、少し悪戯してからにしようとした。たとえ、ランシュがリースで革命を起こすという宣言をしたそのときでも―…。
「……わかりました。条件は何でしょうか。」
と、セルティーはアンバイドに向かって、しばらく考えた後に言う。どんなことをされても、自らの面子を守れるのであれば―…。
このアンバイドに対する意地悪に対しては、セルティーがさっきの言葉を言い終える前に、瑠璃、李章、礼奈、クローナが厳しい視線を向けていた。それらの視線に関しては、アンバイドも気づいていた。ゆえに、無視しようとしたが、
「セルティー王女。あの空気の読めないおっさんは無視して大丈夫です。私たちのほうで、厳しく言わないようにさせておきますから。」
と、礼奈は言う。アンバイドを氷漬けにしてしまうのではないかというほどの冷たいを気持ちを言葉の意味に含ませて―…。
(うっ。こりゃ~、このままふざけると嫌な予感が的中しそうだ。ここは素直に従ったほうが良さそうだ。)
と、アンバイドは心の中で思った。これから、さらに悪戯を進めようとすれば、礼奈が何か恐ろしいことして、ランシュらが攻撃を仕掛けてきたときに対処できなくなるし、今、ここでランシュやヒルバスに対して、自らの手の内と味方の力をばらすのは得策ではない。そう判断したので、素直に従って、
「すみません。セルティー王女のこのような恥ずかしいことに関して、周りに公言しないことをここに誓います。そして、意地悪なことをしようとしてすいませんでした。」
と、アンバイドはセルティーや礼奈に聞えるように謝罪した。
「はあ~。」
と、セルティーは少し理解できていないような返事で返した。
そして、セルティーは立ち上がった。体に少し痛みはあったが、今自分がしなければならないことは、ここにいることではなく、ランシュの元ヘ向かい革命を阻止することである。
ゆえに、近くにセルティーの自身の武器である大剣を握って、
「すみません。私はこれで失礼します。」
と、礼奈や周りにいる瑠璃、李章、クローナ、アンバイドに向かって、セルティーは言う。
そして、セルティーは自らの体に痛みがありながらも、ゆっくりしたスピードで走って、ランシュのいる中央の舞台へと向かって行った。
第28話―5 神と王は対立する に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第28話は、当初の予定よりも長くなってしまいました。
2020年8月30日、「(セルティー(この人)……」の部分の、「この人」を「セルティー」のルビに修正しました。