番外編 ミラング共和国滅亡物語(112)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(20)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
一方、第一王妃の私室。
「大変です、ヒール王妃!!!」
と、走りながら、私室に入室してくる執事服を着た者が慌てながら言う。
その様子を不快そうな表情で、ヒール王女と呼ばれる人物は見る。
この人物は、第一王妃でラフェ=ヒールという。
彼女は、リース王国の王族の出であり、ラーンドル一派の政略によって、ラフェラル王国の今の王であるファングラーデに嫁いできた人物である。
つまり、政略結婚であることに間違いはない。
そして、性格は権力欲が強い人物であり、ラーンドル一派としても、さっさと他国に渡して、勝手に権力を握ってもらうことを期待した。その通りの結果になっているからこそ、ラーンドル一派にとっては大喜びであった。
リース王国とラフェラル王国との間で、貿易が増えるだろうという期待があった。
だけど、ヒールには、リース王国への恨みというか、ラーンドル一派に対する恨みがあった。
それは、ラフェラル王国に嫁がされてしまったということである。本当であれば、リース王国の王であるレグニエドへと嫁ぎ、リース王国の権力を手中におさめ、政治的実権を行使したかったのだ。権力欲が強く、目立ちたがり屋なだけある。
そのことを、ラーンドル一派が見透していたからこそ、他国へと渡したかったというのもある。
だからこそ、ヒールは、王妃になった直後から、リース王国との貿易を増やすのではなく、若干ではあるが、減らす方向へと持っていったのである。
ラーンドル一派としては、困った事態になったが、それでも、王妃になった当時のヒールの権力はそこまで強いものではなく、前王の正妻が権力を掌握していたため、そこまで成功することはなかった。前王の正妻は、第二王妃を可愛がっており、彼女の聡明さはラフェラル王国にとって重要になることを常々、貴族や民衆に言っていたほどだ。
この前王の正妻は、側室との関係がなぜかよく、リーダーとして取りまとめることができる稀有な才能があり、ラフェラル王国の中では「最高の女性」という意味の称号で呼ばれていたほどだ。
その前王の正妻も、このクーデターの日から十年前ほどに、病死してしまったのだ。その死は、多くの側室、家臣、民衆が悲しむほどであった。彼女がいた時代は、ラフェラル王国の中でも、貿易以外にも農業、漁業で栄えることができるほどの時代だったのだ。リース王国との関係はそこまで良いものではなかったが、彼女の政治手腕と前王をたてることができるぐらいの実力は誰もが尊敬するほどだった。
そして、同日に、第二王妃も毒によって死んでおり、当時は、第二王妃が前王の正妻を殺したのではないかという噂が王宮のなかで広められており、かつ、そのような結論であると、公文書に記載されてしまったということだ。だけど、ファングラーデによって、前王の正妻は病死という扱いになったのであるが―…。
そこから、ヒールは、自らの権力を握るために、数々のことをしだすのであった。
「何事だ!!! このように慌てふためてやってくるとは!!! 私は、そのような落ち着きのない行動をするものは嫌いじゃ!!! 用件を申した後、処断してくれよう。」
と、ヒールは苛立ちながら、怒声で言い始めるのだった。
我慢というものは苦手ではないが、あまりしたいとはヒール自身思っていない。
ヒールは、自分が目立ち、誰からも称賛されることを望んでいるのだから―…。それをいくら浴びたとしても、快楽を得ることはできるが、同時に、満足することはない。称賛というものに依存しているのだ。
そして、ヒールが嫌うのは、落ち着きのない者であり、すぐに、このように処断という名の殺しの判決を下そうとする。彼女自身に戦闘力はないし、戦闘なんていう野蛮なことをしたいとも、見たいとも思わない。
それをするのは、ヒールが雇っている私的な裏の者の仕事であり、その人物はヒールの見えない場所へと対象を連れて行って、対象者を処分するのだ。
このことによって、処分された者の数は、手がいくらあっても数えきれないほどだ。
そのことに関しては、一部では噂という形で知らされているが、それでも、情報は漏れていない。なぜなら、情報統制をしっかりとさせているからだ。ヒールによって処分されたくないと考えているからだ。
そして、ヒールに処断されてかねないと思った執事服を着た老齢の男性は怯えながらも、すぐに冷静になることができた。
(ヒール様、私を処分してしまえば、あなたではこの部下や派閥を統制することはできないのに―…。まあ、そのことに関しては、後で説得させることにしましよう。今は、事態が事態です。こっちの方を解決しなければ、どうにもなりません。二人同時に、終わってしまいます。)
と、老齢の男性は心の中で思う。
というか、その老齢の男性は、執事長の役職にあり、長年、ヒールに仕えているのだ。ヒールの扱い方も十分に承知している。
「ヒール王女、クーデターが発生しました。」
と、短く言う。
「そうか、クーデターか。主犯はリーガライドと言いたいところだけど、あの男一人だけでこのようなことを起こせるわけがない。後ろには「緑色の槍」とか卑しい身分の者が自らの部を弁えることもできずに、のうのうと我が国の首都に居座りおって―…。あいつらは、我が王国を滅ぼしにきた下民ども。許されてはならない。支配者とは高貴な血統をもち、かつ、その地位になる運命を神によって授けられた者しかなってはいけないのじゃ。なのに、なのに、下民とあの卑しい第二王妃の餓鬼どもがぁ~。………絶対に、クーデターの主犯はフィルスーナ…、第二王妃にますます姿、形が似てきてぇ~。それになぜ、私よりも人々から支持されてしまっている~。許せない、許せない、絶対に叩き潰してやるぅ~。」
と、ヒールは怒りの感情を爆発させる。
ヒール自身、頭が馬鹿ではなく、普通に思考することはできるのであるが、嫉妬深いという一面のせいで、それを上手く使いこなせていない。
さらに、権力欲と自分が目立つことを優先してしまうせいで、本当の意味で自分の才能の使い方というものを理解できずにいるということになってしまっているのだ。悲しいことに―…。
そのことに、本人は気づくこともなく、自分の欲望にまっしぐらという感じだ。
我慢をし過ぎるのは良くないが、全くしないのは良いとは言えない。人同士との関係がある以上、我慢を強いられることも発生するのだから―…。そこから、どうやって、自分の利益になることを手にしていくのかが重要になってくる。
ヒールの性格の面で追加しなければならないのは、ヒールが身分差別の意識をしっかりと持っていることである。
彼女は、リース王国の王族の生まれであり、決して、王族の中で優遇されるような立ち位置でなかったし、王となる一族が尊敬されており、幼い頃からそれを羨んでいた。だからこそ、自分もそのような扱いを受けるべきであり、かつ、リース王国のラーンドル一派の教育の中で、ラーンドル一派以外の庶民は、取るに足らない存在であることを教えられており、そのことに共感を抱いたのだ。自分が王族であることが、唯一の誇りのようになってしまい。
それが、ファングラーデとの政略結婚後も、継続されてしまい、さらに、自分は一番偉くなれると思ったのだが、周囲の権力のせいで、自分の思い通りにすることができず、苛立ちの日々でしかなかった。第二王妃と比較されたことも、ヒールの恨みを助長させる原因となった。
そして、第二王妃の死後は、その息子であるリーガライド、娘であるフィルスーナを徹底的に冷遇した。権力もヒールの手に渡った。
特に、フィルスーナへの恨みはかなり強い。それは、容姿が第二王妃に似ており、そこから、嫌でも第二王妃のことを思い出してしまい、ヒールを不快な思いにさせるのだ。さらに、変な行動をしており、王族らしくないということで少しは溜飲は下がっていたが、フィルスーナの庶民の評価がヒールよりも高いために恨みが止まることはなかった。
増幅していくばかりなのだ。
そして、ここ最近は、リーガライドに反乱を起こさせて鎮圧し、ミラング共和国からラフェラル王国に入ってくる商品に対する関税撤廃に反対する者はいなくなり、実現することができれば、数年前から信仰しているアマティック教の中で、より良い地位を貰うことができるのだ。そうすれば、より良いことが起きるようになり、ヒールは誰からも尊敬され、称賛を送られる人物になると言われているのだ。
それを信じないなんてありえないと思えるぐらいに、狂信的にアマティック教をヒールが信仰しているのである。あのイルカルの精神を安定させる言葉はきっと、私は神に選ばれたのだと思わせる言葉と相まって、ヒールの精神を高揚させるのだ。安寧とはここにあるのだと思わせる。
ヒールは、何も知らないわけではないことは分かってもらえるし、ヒールの偏見もあるが、リーガライド個人でクーデターを起こそうなんて考えられない。だからこそ、二つの可能性を疑った。リーガライドが過去に所属していた「緑色の槍」という傭兵隊の者に唆されたのか、フィルスーナに唆されたのか。そこで、一番可能性が高いのはフィルスーナなのではないかと結論しているのである。
まあ、ヒールの想定は、当たっているのだから、フィルスーナへの恨みが凄まじいのは分かっていただけることだろう。
だからこそ、フィルスーナをこの機会に叩き潰して、第二王妃の血統を絶やそうと考えるのだった。
「報告をありがとう。では、連れ―…。」
と、言いかけたところで、初老の執事長は反論する。
「私を連行して、始末してしまえば、このクーデターを鎮圧することはできません。ヒール王女、あなたがラフェラル王国の一番の権力者であるのなら、私の話を聞いて、私が作戦で全面指揮をした方が必ずや、このクーデターを鎮圧することができましょう。どうか、チャンスをください。私は、クーデターを鎮圧することに成功すれば、手柄はすべてヒール王女のものといたしますので―…。どうか、どうか―…。」
と。
執事長としても、ここで自らの生の終わりを迎えたいとは思わない。
まだ、生きたいし、権力を笠にきたい。
それぐらいに野心というよりも、ヒールという後ろ盾を使って、やりたい放題したいのだ。
それに、クーデターの情報のすべてをヒールに教えていないのは、クーデターの鎮圧をこの執事長が自ら先頭に出てしたいと思っているからだ。あくまでも、殺されたくないという気持ちによって発せられているのであり、手柄を立てて、表立ちたいと思っているわけではない。
理由?
それは、クーデター鎮圧で手柄を立てて、目立ちすぎれば、必ずや次の標的を執事長に向けて来ることを理解しているからだ。
ヒールが目立ちたがり屋であることを知っているからこそ―…。
執事長の言葉を聞いたヒールは考えるのだった。
(こいつは~、今更、自らの命を惜しむのか。まあ、こいつが執事長である以上、細かい差配ができるこいつは使わないといけなくなるのか。ふう~、役立たずだが、使わないといけないのが嘆かわしい。もっと、ましな奴を連れてこないとな。)
と。
ヒールは、この執事長のことをそれなりに評価しているが、それでも、自分にはこの程度の人材ではなく、もっと優秀で、ヒールに従順な人物がいるはずだと思っているのだ。
今は、そのような人材が目の前にはいないので、この執事長に任せるしかない。
だからこそ―…。
「任せたぞ。クーデターの鎮圧を―…。だけど、くれぐれも、私を裏切らないようにの~う。裏切れば、分かっておるじゃろ。」
と、圧をかけながら、執事長に向かって言う。
これは、正真正銘の圧であり、ヒールを裏切ることを許さないという意味を込めたものであり、確実に、クーデターを鎮圧することを実現せよ、と言っているのだ。
失敗は許されない。
だが―…。
「そのクーデターは成功し、ヒール王女は失脚するでしょう。」
と、どこからともなく声がする。
ヒールは勿論、この声を知っている。
聞きたくもない声。
嫌でも、あの第二王妃と姿をかぶせてしまう女の声。
「フィルスーナ…。」
と、怒りの表情すら隠すことなく曝け出し、取り繕うこともしなかった。
それほどに、フィルスーナのことを憎んでいることが、何度も、何度も理解させられるのである。
これほどの怒りを別のところに上手く向けることができていれば、ヒールの人生は最高の結末を迎えられたのではないだろうか。
まあ、そのことを言ったとしても、ヒールの人生が良くなるのか、悔い改めるのかは分からないものであるが―…。
フィルスーナは、ヒールの目の前に姿を現わし、軽蔑する目で見るのだった。
両者対峙する。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(113)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(21)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
5000文字近くを二時間ぐらいで書こうとすると、かなり疲れるし、集中力がきれたりします。
体力がないなと感じた今日の昼頃でした。
では―…。