番外編 ミラング共和国滅亡物語(111)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(19)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようとするミラング共和国。ミラング共和国でラフェラル王国で活動している商人達は、ミラング共和国からラフェラル王国に流れる商品の関税の撤廃を要求する。
ラフェラル王国の王族と貴族の多くは、その関税の撤廃に賛成するが、王族の一人であるリーガライドは反対する。そのせいで、冷や飯を食わされるのであった。リーガライドは―…。
リーガライドはそんななか、妹であるフィルスーナとともに傭兵隊「緑色の槍」のトップのアルスラードに会う。かつて、リーガライドは傭兵隊「緑色の槍」に所属したこともある。
その中で、三者の話し合いとなり、フィルスーナによって、クーデターを起こすことが決定されるのだった。計画へと移行する。
そのようなことを起こすことが都合が良いと思っているのは、ミラング共和国と繋がっている貴族達や第一王妃の勢力であった。そんななかで、シエルマスも活動をおこなっており、「緑色の槍」に派遣しているシエルマスのスパイから情報を得るのだったが、フィルスーナやアルスラードに気づかれており、スパイらは粛清されていくのだった。
その後、そのスパイが関係していたラフェラルアート(ラフェラル王国の首都)のスラム街にあるアマティック教の教会で、教会の主要な信者とシエルマスのスパイをすべてフィルスーナとラフェラル王国の裏の者達によって始末されるのだった。そのことにより、情報が遮断されることになる。
ラフェラル王国から情報が届かなくなったことに対して、シエルマスの西方担当首席がラウナンに報告し意見をもらおうとするが、その頃、ラフェラル王国ではリーガライドらのクーデターは成功するのだった。
それはどのような過程であったのだろうか?
一からあらすじを書いてみました。久々に―…。
かなりの文章量になってしまいました。
―私の言う事を聞け。アマティック教の信者からの言葉は、私、フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンドの言葉である。お前は、それが正しいと信じ込まなければならない。そうしなければ、神は天罰を与えるだろう。お前とお前の家族とこの国に―
その言葉は、嘘であったとしても聞かないといけないと思うのだった。
ファングラーデにとっては―…。
天成獣の宿っている武器を扱うことができないファングラーデにとって、この言葉に対抗することはできない。できるはずもない。
そして、ファングラーデは、さらに―…。
「王様!! 私、ティナーグはアマティック教の信者であり、ラフェラル王国を守るためには、リーガライドを始末しないといけません。これは神の言葉です!!!」
と、大きな声で、ファングラーデに聞こえるように叫ぶ。
これは毒だ。
破滅への道を避けることができなくなる。
破滅こそが我が進むべき道であるかのように―…。
抗えぬものだ。
だからこそ、体が正直に口を動かし反応する。
「我は、アマティック教の信者が言っていることが神の言葉であるのだ。だからこそ―…。」
と、言いかけた時に、ファングラーデは気絶するのだった。
それを成したのは―…。
「……………昔の親父ならこんなこと、言わなかった。」
と、リーガライドが言う。
そう、ファングラーデを気絶させたのは、リーガライドである。
リーガライドは、これ以上、ファングラーデに言わせるべきではないと判断したからだ。
それに、軍人にファングラーデを気絶させるわけにはいかなかった。
彼らにも家族がおり、その者たちの未来を守らないといけないからだ。彼らの将来は王族として、保障しないといけない。
国があるからこそ、人々は生きられるのではない。人がいなければ、そもそも国など成り立たないのだ。国という安全を必要とするが、それは保障されるということがなければ意味をなさない。
だからこそ、国を支配する者は、国に住んでいる者の生命と安全、生活を守らないといけないのだ。それが自分達が支配者の地位にいられることを保障してくれるのだから―…。
それができないものは、現実と真実という波にいつか、嘘諸共沈められる運命が来るのを怯えて待つしかないのだから―…。嘘を塗り固めるという土塁の防波堤を築く方法に頼るしかなく―…。そこに、完全な安全は存在しないのに―…。
リーガライドは、もう一方で、ファングラーデという存在がこんな、アマティック教に狂信しているのではないかと思われる一言を言わないはずなのに―…。そう、危険な宗教など信仰したり、妄信したりはしないのに―…。
それが分かっているからこそ、リーガライドはこれ以上、自らの父親の名誉のために、言葉を発せないようにしたのだ。
ゆえに、今の言葉が出てくるのだ。
同時に、ファングラーデがどういう状態にあるのかを理解してしまったのだ。アマティック教によって、洗脳されてしまい、もう真面に王の職務をこなすことはできないということを―…。
せめてもの思いで、命と生活だけは保証しようと心の中で、強く決めるのだった。
自身の身に何かあった場合には、フィルスーナが何とかしてくれるだろう。ファングラーデが完全に駄目な場合はしっかりと始末してくれるだろう。
こんな選択肢をしないといけなくなったことに、リーガライドは悔しく思いながら、自身は完璧ではないし、すべてのことができるわけではないことを何度目の理解をさせられるのだった。
弱い、それが人なのだから―…。
そして、そのような思いに暮れている最中に、ティナーグは、
「これは許されざる反抗である!!! 王の息子でありながら、王の庇護のもとで育ちながら、このような王を殴り、気絶させるとは―…。ラフェラル王国の歴史の中でもなかったこと!!! 兵士達よ!!! もし、リーガライドを捕らえることができれば、お前らの今の罪を不問してやろう!!! 今すぐ、その賊、リーガライドを捕らえろ!!!」
と、命令口調で言う。
ティナーグは、自らの権力というものがどれぐらいなのか分かっている。
なぜなら、第一王妃の派閥にいる存在であり、ラフェラル王国の中でファングラーデを除けば、実質、一番上の実力、権力を持っているのは、第一王妃なのだから―…。彼女の後ろ盾さえあれば、ラフェラル王国では多くのことが実行に移すことができる。
まあ、ファングラーデが洗脳されてしまっている以上、第一王妃が国を仕切っているという感じだ。アマティック教を信仰している―…。
ゆえに、ラフェラル王国は、アマティック教の国家だと言われたとしてもおかしくはない。
そんななかで、第一王妃の派閥に属しているティナーグの言葉を聞く者は多いし、第一王妃に近づいて、出世したいと望む者は多いはずだ。
そして、リーガライドを捕らえることができれば、第一王妃にお願いをして、リーガライドを捕まえた者の罪を免罪にすればよいし、できなくてもティナーグの権力が揺らぐわけがない。
ティナーグはそのように思っているし、リーガライドが今、ティナーグの言った言葉によって、捕まえられることは十分に分かっている。だって、権力の前には、誰もが服してしまうのだから―…。
だけど、ティナーグはあることを計算に入れていなかった。
それは―…。
………………………………数十秒経過。
…………………………………………………………数分経過。
沈黙が流れ続ける。
この王の私室だけ、時間が止まったのではないかと思えてしまうほどに、誰も言葉を発するだけでなく、音も発することはなかった。
リーガライドはその間も、余裕の表情を浮かべる。
まるで、このような状況になることが分かっているかのように―…。
その沈黙は、じわりじわり、ティナーグの方に精神的なダメージを与えていく。
そして、ダメージは焦りというカウンターをティナーグに与えていく。
(どうして動かない。リーガライドは、この兵士達を洗脳したのではないか。そうじゃなければ、このように、王が気絶させられた後、リーガライドを捕まえないということはしないはずだ。リーガライド、ここまで落ちぶれてしまうとは―…。)
と、ティナーグは心の中で思う。
ティナーグは、リーガライドのことを、卑怯で、卑屈で、悪い人間に落ちぶれたと思っている。妄想なのではないか、ぐらいに―…。
そして、自身も同様のことをしているのに、それに対しては、悪びれもしないで―…。
そういう意味で、ティナーグは、自身のおこなっていることはすべて許されるが、それ以外の人物がおこなっているティナーグ自身を貶める行為は許されないものであり、罪であると認識している。
何て、我が儘な言葉なのだろうか。
それが通用するはずもないのに―…。
「兵士達よ!!! どうして、反逆者リーガライドを捕らえようとしない!!! それでもラフェラル王国の兵士か!!! ファングラーデ王がこのような目に遭っているのに!!!」
と、ティナーグは怒声をあげるように言う。
この怒声は、王の私室に五月蠅いと思えるほどに響き渡る。
その声を聞いた兵士達は、一切、リーガライドを捕らえるような動きを見せない。
その様子に―…。
「ふざけるな!!! お前ら兵士は、逆賊リーガライドによって、洗脳されてしまっているのか!!! 可哀想に―…。リーガライド…、お前はそこまで落ちぶれてしまったのか!!!」
と、ティナーグは言う。
その言葉を聞いた兵士達は、またしても動こうとはしない。
そのことに、ティナーグは焦りとともに、どうしてこうなっているのかと思えるほどに恐れるのだった。
「ティナーグ……、お前は知らないようだな。軍事貴族と一般兵士の確執というものを―…。」
と、呆れながらリーガライドは言い始める。
「軍事貴族の中でもましな奴はいる。そういう奴は、一般兵士からも人気があるし、一般兵士の中でも有能な者を将軍や自身の参謀長、副官として起用しているが、一方で、多くの軍事貴族が自分は貴族だから偉いし、優秀だと勘違いしている奴がおり、そういう奴は一般兵士に冷や飯を食らわせている。自分は日々、豪華な食事ばかりして―…。さらに、軍事訓練さえ怠るから、体が戦闘向きの体形でなくなっていやがる。キレがないし、持続的に動くことができないほどに―…。メンタルの方も我慢強さというものがなくなっていやがる。軍人として、軍系の貴族としてどうかと思うぜ。そういう奴らを一般兵士は、憎々しく見ているせいで、そこに大きな溝が発生していることを軍事貴族の多くは無視していやがる。自らのプライドのせいで、見えなくしていやがる。それがどれだけ危険なことだということも理解せずに―…。馬鹿だろ、って言ってやりたい。俺もそれに近い経験があるから言うけど、その溝を埋めるのはかなりの苦労を強いられるようになる。その苦労を知っている俺が軍事貴族ならああいうことはしない。もうこりごりだ。だからこそ、軍事貴族は、貴族であろうとも、一般兵士と変わらない食事をとったり、一緒に訓練したりして、連帯感を高めるようにする。信頼は、一朝一夕で、簡単に作れる機会なんて早々になかったりすることが多い。そして、軍事貴族のましな奴は、それを理解しているからこそ、すぐに一緒の食事と軍事訓練をする。そうやって、信頼を繋ぐことと、一般兵士のそれぞれの個性を知ることによって、どういう場が適職かを判断し、適用する。こうすることで、軍事貴族の名誉もあがるし、有能な兵士も出世して、ラフェラル王国にも大きな利益を及ぼす。それを知らない者が多すぎるから、ラフェラル王国への恨みとなり、今、この場にいる兵士達は、その一般兵士の中で強い恨みを持っている奴らだ。」
と、続ける。
さすがに言葉は長いが、要約すると、軍事貴族も一般兵士と同じように過ごし、その一人一人の個性を見つけ、どういう軍事場面で上手く活用できるかを判断して、起用することによって、ラフェラル王国にとって大きな利益をもたらすことができるし、かつ、ラフェラル王国への忠誠を獲得することができる。
それができなかったがゆえに、今、王とティナーグを囲っている者達は、軍事貴族を恨んでいたりして、国すらも恨んでいるのである。
そして、リーガライドについていたのかというと、そういう意見があるのをフィルスーナから聞いており、懐柔したというわけだ。信頼を獲得する方法や、交渉方法は、傭兵隊「緑色の槍」にいた時に学んでいるし、得意としている分野だ。一般兵士と一緒の飯も普通に食べることができるからだ。
苦労したことが報われているというか、経験が生きているというわけだ。
だからこそ、一般兵士との亀裂がどれだけ危険な事なのかを知っている。
そして、ティナーグは、一般兵士がどう思っているのかを知らない。なぜなら、ティナーグは第一王妃の方へと視線を向けており、一般兵士がどう思っているのかという情報を知る機会がないし、知ろうともしない。知りたいのは、自分の出世にとって、必要な情報なのであるから―…。
そういうことばかりではなく、いくら一般兵士がどう思っているのかを言ったとしても、無駄なことを言いやがってと言って、聞く耳を持とうとはしないであろう。聞く耳を持ったとしても、第一王妃の派閥の出世の中で、評価される項目には入っていないのだから―…。
そして、このような状況になったとしても、理解することはできていないようだ。
「何を言っていやがる。一般兵士は、国のために死ぬのが本望だろう。折角、お前らには勿体ないほどの金を払って雇ってやっているんだ。それで、失業者を減らしてやっているんだ。非難される筋合いはない。褒められこそすれ―…。こいつらは、横暴だ。我々は、アマティック教の立派な信者である。この信者に手を加えるということは、アマティック教を敵に回すことになる。それは神に反抗する不届き者でしかない!!! 許されると思うな!!!」
と、精一杯に叫ぶ。
ティナーグは、最後の手段として、自身がアマティック教の信者であるということを生かして叫ぶのだった。
アマティック教の信者に危害を加えれば、ミラング共和国にいる本部が、そして、そのアマティック教の後ろ盾になっている存在が、ラフェラル王国に介入する口実になるのだ。
願ったり叶ったりだ。
信仰のために死し、幸福の世界へと導かれるのだ。
そして、目の前にいるティナーグを苦しめようとするリーガライドは、地獄へと落ちるのだ。
勝者はティナーグで、敗者はリーガライド………、そのような意味をなさない妄想を本当に信じながら―…。
そして―…。
「残念だ、ティナーグ。兵士達よ、ティナーグを捕らえよ。王もだ!!!」
と、リーガライドが言うと、兵士達は二人を完全に捕え、牢屋へと連れていくのだ。
リーガライドは、
(報われることとか、神を信仰することとか、勝手にしやがれ。どうせ、死んだその時まで地獄に行くのか、幸福の世界に行くのかは分かりやしないのだから―…。見てもいないことを勝手に決めつけるな!!)
と、心の中で思う。
リーガライドは、当たり前だと思われるかもしれないことを心の中で思いながら、王の私室を出て行くのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(112)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(20)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ファングラーデ王やら宰相さんは早めの退場となってしまいました。
だけど、ここからなのだよ。
ラフェラル王国で起こったクーデターの内容は―…。
では―…。