表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
456/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(110)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(18)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようと企むミラング共和国。ミラング共和国は、ミラング共和国の商人達がラフェラル王国へと流す商品に対する関税を撤廃するようにラフェラル王国に要求。それを、ラフェラル王国の支配層の多くが賛成するが、その背景にはシエルマスの工作があったと思われる。そんななか、このような政策に反対するラフェラル王国の王子の一人であるリーガライドは、フィルスーナとともに、傭兵隊「緑色の槍」へと向かい、そこの隊長であるアルスラードと話し合う。結局、フィルスーナのアイデアとともに、クーデターを起こすことを計画し始める。それは、シエルマスにとっても、ラフェラル王国にとっても想定済みのことであった。

だが、シエルマスのスパイで、「緑色の槍」にいる者たちは、フィルスーナによって始末されていくのだった。その後、シエルマスのラフェラル王国の活動拠点へとなっていたラフェラルアートのスラム街にアマティック教の教団本部はフィルスーナとラフェラル王国の裏の者の手により壊滅されるのだった。

ミラング共和国では、シエルマスの方にラフェラル王国のリーガライド側のクーデターが成功したという知らせが届くのだった。それは、シエルマスにとって想定外でしかない。驚きである。

なぜ、リーガライド側のクーデターは成功したのだろうか?

 「お前という息子は、こんなことをして、タダで済むとは思うな!!!」

と、さらに、ファングラーデは叫ぶ。

 その声は、部屋の中で威勢をともなって放たれるように―…。

 だからこそ、周囲の兵士は少しだけビビッてしまうのだった。

 さすが、ラフェラル王国の王になるだけの実力を持っているといえる。

 だけど、そのようなものはリーガライドには通じない。

 「御父上様。あなたは重要な間違いを犯してしまいました。私はなぜミラング共和国からラフェラル王国に流れてくる商品に対する関税に反対したのか。それは、何度も言ってきていますが、ミラング共和国がラフェラル王国を併合しようとしているからです。そのようになれば、ラフェラル王国で暮らす住民は、ミラング共和国の軍政官のもとで、酷い扱いを受け、酷い場合は死んでしまう者が出るかもしれないからです。現に、ミラング共和国に征服された国では、そのような事態が現実に発生しています。何度も申し上げました。そのような目にラフェラル王国に住んでいる者が遭わないようにしなければならない。これは国家の責務です。そのために、今回のクーデターを起こさせていただきました。」

と、リーガライドは言う。

 リーガライドが言っている理由に嘘はない。

 嘘を吐く必要はない。

 リーガライドは、本当の意味で、ミラング共和国に併合されようとしているラフェラル王国を、ミラング共和国から守ろうとしているのだ。その結果、自らの命が散るという結果になろうとも、後悔はないだろう。いや、後悔ぐらいはあるかもしれないが、自らの生き方を恥じることはない。

 そして、その生き方を他者に押し付ける気はない。押し付けるような奴は、自分で自分の命をこういう賭けないといけない場で、他人にそれを押し付けて、逃げ出して、自分は偉いと偉ぶるような臆病者だ。

 臆病者であることを恥じだとは思わないが、人の生き方を他者に押し付ける権利はない。そのことを理解して欲しいし、自分が一番優れているという馬鹿な妄想は止めて欲しいものだ。

 リーガライドの表情は、落ち着いたものであり、適度にしっかりと警戒している。

 まだ、何が起こるかは分からないのだから―…。

 そして、ファングラーデは怒りを心頭させながらも、冷静に考える。

 (………リーガライドがここまで反乱を起こせるとなると、勢力はそれなりにいるのか、裏の者が確実にバックにいる。リーガライドの後ろに、あのお転婆娘がいるのは間違いないはずだ。リーガライドの頭は悪くないが、一番というわけじゃない。あのお転婆娘の方がどっちかっていうと、王という権力を求め始められば、確実に、我など簡単に追い落とすことができるだろ。その時は、どういう国家にしたいかという理由を聞いた上で、判断させてもらうが―…。だけど、あのお転婆娘が王になる気はないということは、リーガライドを王にしようということか。それで、クーデター………。)

と、一部の答えを理解しながらも、まだ、完全には理解できていないようだ。

 ファングラーデもリーガライドが頭の良い人物であることには気づいている。

 フィルスーナの家庭教師は、彼女の優秀さ、物覚えの良さというものをファングラーデに報告してきた。その優秀さの話と現実にこっそりと目の当たりにした結果、フィルスーナが王位を目指すのであれば、確実に、ファングラーデなんて追い落とすことは簡単にできると思った。

 これは男とか女とか関係なく、フィルスーナの将来の実力というものを理解してしまったのだ。

 それでも、フィルスーナが王位という地位を求めていないことは把握済みだ。数々の王女にあるまじき行動をとっていることと、裏の者の仕事をこなしているという情報もしっかりと知っている以上、ラフェラル王国の地位を求めているよりか、自由に生きようとしているのは分かっていた。城の外に出ることも多かったからだ。

 そうなると、フィルスーナがリーガライドの後ろ盾になっている可能性が高い。フィルスーナは傭兵隊「緑色の槍」の隊長であるアルスラードと結婚することが決まっており、そのことからも王位を望んでいないことがわかる。傭兵隊の隊長は、スラムの出身であり、王族の結婚相手としては分不相応でしかない。そのような人物と結婚しようと考えているのだから、王位なんて興味がないことは丸わかりだ。そして、フィルスーナが裏で支配しようと考えた場合、リーガライドはうってつけの人物であることがわかる。

 リーガライドとフィルスーナは同じ母親から生まれた兄妹であり、双方とも仲が良いことはわかっている。つまり、両者が協力関係にあったとしてもおかしくはないのだ。

 そう、考えると、フィルスーナが裏で、リーガライドに王位を継がそうとして画策していてもおかしくはない。あまりにも王女の行動としておかしいので、周囲から彼女のことは色物という感じの目線で見られ、余計な事を勘繰られにくいからだ。

 本当に良く考えて行動していると、ファングラーデは感心してしまうものだ。というか、それぐらいの頭脳を持っているのであれば、王位を目指せば、周囲からの支持を得られるだろうに、リーガライドも傭兵隊として、交渉担当を経験しているから外交でも活躍してくれるだろうし、裏の者の表のトップにもなっているから、他国に対して、恐れられる存在になるのに―…。

 本当に、王位を目的としない理由が分からない。

 だが、その結果、第一王妃の長男を王位の後継者として有力にすることになっているのだが―…。

 まあ、ファングラーデとしては、自分の地位が全うに終わり、次の世代に安定的に受け継がれれば問題はないのだが―…。まだ、その時期ではないと把握していた。

 王位にいることによる利益を得たいし、それを手放すには、まだ短い自らの治世であることを十分に理解できているからだ。

 「お前たち、王に対して、このようなことをして、兵たちよ!!! 反乱者はここにいる!! 反乱者どもを捕らえろ!!!」

と、ティナーグは大声を叫び出す。

 それに、兵士たちは動揺を示すことはない。

 すでに、ミラング共和国に支配された場合、どういうことになるかをフィルスーナやリーガライドから話されている以上、今のおこないは、国を守るためだけでなく、自分の大切な家族を守るために大事なことであることを理解している。

 国王や地位よりも、家族の安全を考えることを大切にしているのだ。しっかりと教育された者たちであろう。勿論、嘘による洗脳教育ではないし、自らの意志を誰かの意思によって動かされている存在になってもいないのだから―…。

 自分で考えて、自分で行動することができるぐらいには、ちゃんとした理性というものは持っている。

 そして、その大声を叫んでも誰もやってこない。

 「残念ながら、軍事貴族のすべてかは分からないが、そいつらはすでに、こちら側に捕まっています。今回のクーデターがタダで済むとは思っていません。私たちはラフェラル王国を守るための行動である以上、今回、私たちの要求を飲んでもらいます。」

と、リーガライドは言う。

 リーガライドの目には、雲の一点も存在しないほどの晴天であるかのように、自らの意志を貫き通そうとするぐらいに強い眼力と、気持ちというものが感じられる。この場は、王と王が本当の意味で対峙しているのではないかと、思われるぐらいだ。

 兵士も、ティナーグも息を飲むのである。

 (リーガライド―…。このままでは俺は―…。)

と、ティナーグは心の中で苦々しくする。

 理由は簡単だ。

 これ以上、リーガライドが有利な状況となってしまえば、王の記録が探られた場合、第一王妃の私的流用などの情報が書かれた帳簿および文書がリーガライドに知られてしまうのではないかと思っているのだ。

 これは、現実的に考えたとしても、間違ったことではない。

 その文書や帳簿をリーガライド側が手に入れた場合、第一王妃をその文書や帳簿に書かれていることを使って、アマティック教と関係をもっていたことで修道院送りにすることは分かりきっているし、反乱を起こそうとするのであれば、すぐにでも裏の者を使って第一王妃を始末する。

 そんな目に遭ってしまえば、第一王妃で成り立っていた派閥は崩壊することになるし、権力を失うこととなり、第二王妃の子どもであるリーガライドを中心としたグループがラフェラル王国の実権を握ることになる。

 そして、静かに何かを悟ったのか、口を開くのだった。

 「そうか。お前はミラング共和国と戦争がしたいのか。あの国は、すでに小国であるが、三つの征服することに成功している。軍事力では大国のリース王国をもしのぐほどだ。そんな相手、勝てるとでも思っているのか。勝てない戦争を戦うことこそが、どれだけ無用の犠牲を出すのか分かっておらぬな。それに、ミラング共和国に支配されたとしても、その苦痛に耐えていれば、どんな国もいつか弱ることになろう。そうすれば、そこを突けば、必ずや再度の独立を獲得することができる。その時の犠牲の方が、国としての利益を奪われずに済むのだから、長期的に見て得だと思わないのか。若さと勢いだけでは、国を運営していくことは難しいのだよ。分かるか、リーガライド。」

と、ファングラーデは言う。

 この言葉は、リーガライドのしていることは愚かなことであることを示そうとするために言っていることだ。諭すような感じで―…。

 犠牲と利益という二点から考えた場合について詳しく説明しておく必要がある。国が侵略され、征服された場合、考えられる行動は、いくつかあるがここでは二点を挙げる。

 まず、第一の点では、征服した国は、征服された国の人を含めて略奪をする場合がある。その時、建物が燃やされたり、人々が虐殺されたりする場合がある。

 だけど、この場合、支配を持続的におこなう必要がなく、その領地から撤退するのであれば、妥当な策となりうるが、永続的に支配する場合には一番まずい選択肢になる。なぜなら、支配するということは征服された国の領地の人々の面倒をちゃんと見ないといけない。そうなると、支配された国の人々の恨みをかってしまえば、その領地の統治が上手くいくということはなくなる。場合によって、恨みが反乱を呼び、返って、征服を実行した国の国力を低下させるか、逆に、征服された国に征服した国が支配されるという結末も十分にあり得るのだ。仕返しは、数倍どころではなく、それよりも大きく返ってくるのだから―…。カウンターが生易しいぐらいに―…。

 第二の点では、征服した国は、征服された国の一部の人々と協力し、あくまでも征服した国から過剰に利益を吸わないようにして、統治することだ。

 この場合、間接統治も含むことができるであろう。その支配の中では、征服した国に悪影響が出ない範囲での征服された国の中の人々の利益が許されたりする。さらに、分割して統治せよ、という概念を突き合わせれば、征服された国の中に階層を作り、上の階層、征服した国に従順な者たちに彼らが望む利益を与え、下に下がるほどその利益は得られなくしていき、最下層では貧しい生活をさせるのだ。そうすれば、征服された国は分断することになり、階層どうしで争うことになるから、征服した国に向けられる目は緩んだりする。

 これも、征服した国の国力が弱体化すると、一致団結するか、一部の階層が独立に行動を舵を切る場合は十分に存在する。

 さて、話を戻し、ファングラーデが言おうとしていることは、第二の点を想定したものであることは確かだ。つまり、自分達が奪われる利益は少ない方を選び、その中で耐えながら、ミラング共和国が弱るその時まで待とうという感じだ。弱まれば、少ない犠牲で独立を再度確立できるのだから―…。

 そして、ミラング共和国は、第二の点での支配をあまりしようとは考えていない。というか、自信たっぷりなので、第一の点での支配で、ラフェラル王国を永続的に支配できると確信しているのだ。妄想の類と思ってもらっても構わない。

 そういう支配になる可能性を理解しているからこそ、リーガライドはミラング共和国と戦うことになる選択をしないといけないと判断するのだった。

 「残念ながら、御父上様のような考えをしてくれる保証はミラング共和国側にないものと思われます。私が裏の者たちを使って、調査をしている以上、確実です。」

と、リーガライドは言う。

 リーガライドは調べているからこそ、報告を聞いているからこそ、このことを確信を持って言うことができる。

 つまり、ミラング共和国が、決して、穏便な支配をしてくれることはないということがわかっているからだ。

 そのために、ミラング共和国と戦うことになり、犠牲を強いるようなことになったとしても―…。

 その目の強さに―…。

 (…………嘘を言っているわけではない、リーガライドは―…。だけど―…。)

と、ファングラーデは思い出すのだった。

 あの言葉を―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(111)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(19)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


次回の投稿日は、2023年7月18日頃を予定しています。

では―…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ