番外編 ミラング共和国滅亡物語(108)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(16)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようと企むミラング共和国。ミラング共和国は、ミラング共和国の商人達がラフェラル王国へと流す商品に対する関税を撤廃するようにラフェラル王国に要求。それを、ラフェラル王国の支配層の多くが賛成するが、その背景にはシエルマスの工作があったと思われる。そんななか、このような政策に反対するラフェラル王国の王子の一人であるリーガライドは、フィルスーナとともに、傭兵隊「緑色の槍」へと向かい、そこの隊長であるアルスラードと話し合う。結局、フィルスーナのアイデアとともに、クーデターを起こすことを計画し始める。それは、シエルマスにとっても、ラフェラル王国にとっても想定済みのことであった。
だが、シエルマスのスパイで、「緑色の槍」にいる者たちは、フィルスーナによって始末されていくのだった。その後、シエルマスのラフェラル王国の活動拠点へとなっていたラフェラルアートのスラム街にアマティック教の教団本部はフィルスーナとラフェラル王国の裏の者の手により壊滅されるのだった。
ミラング共和国では、シエルマスの方にラフェラル王国のリーガライド側のクーデターが成功したという知らせが届くのだった。それは、シエルマスにとって想定外でしかない。驚きである。
なぜ、リーガライド側のクーデターは成功したのだろうか?
同時刻。
ミラング共和国の領内。
そこでいくつかのテントが見られる。
そんなテントの中の一つには―…。
(密かに私が、ミラング共和国の総統に会見し、ミラング共和国の裏の組織であるシエルマスの力を借り、関税撤廃の反対派を武力で排除し、その手土産に後継者としての地位を不動のものにする。長男である私こそが王になるのが相応しいのだから―…。)
と。
この人物が、ラフェラル王国の次期王として、最有力候補であるフィッガーバードである。
見た目は若かりし頃の優しい表情はすでになくなっており、悲惨にも皺がただれているのではないぐらいに、顔の彫が深くなっている。このように表現するのが正しいかどうかは分からないが、あまり人から好かれるような顔ではなくなっている。
それに、この人物がラフェラル王国の次期王の候補者の中で一番有力でなければ、ただの邪魔な存在としてしか認識されていなかったであろう。
馬鹿ではないが、本来、凡庸で、誰にも優しい性格をしていた。
その優しい性格は、人を傷つけることを好まないぐらいであった。
だが、長男に生まれたこと、周囲から後継者として期待され、厳しい教育を受けてきたせいで、王道とは何か、王はすべてを支配することができるほどに強い権力、人格的にも強くないといけない。優しさなど必要のないもので、一切、人々に与えてはならないという教えを無理矢理に受けさせられたのだ。
父親であるファングラーデは、フィッガーバードの優しい性格に付け込む者がいるということを確実に理解していたので、それに対処するために、厳しく教育せざるを得なかった。長男以外の人間の中で、優秀な人物はいるかもしれないが、人格的な面で問題を抱えるの多かった。
リーガライドは、ステレオ的価値観が強いが、それを除けばそれなりに優秀であったが、今の第一王妃と第二王妃の仲が悪かったため、リーガライドを後継者として養育することはできなかった。第一王妃は、自分の子どもである長男こそをラフェラル王国の次期王にして、第一王妃一族が権力を握りたいと画策していたのだ。
それに連なる一族の中に、今の宰相であるファッグライドがいる。彼は、第一王妃の後ろ盾によって、宰相の地位に就くことができた。優秀であることに間違いはないが、欲深い一面も兼ね備えている。
第二王妃の方は、すでに亡くなってしまっているので、その勢力であった貴族はほとんど、現在において、力を持っていない。それに、フィルスーナの奇行と貴族たちに呼ばれているもののせいで、勢いは完全に衰えてしまっているのだ。
まあ、それでも、リーガライドの後ろ盾になることはできているのだが―…。
そして、ファングラーデから見ての問題面は、貴族たちの主流派の認識、第一王妃側の認識と同じ面から判断したものであることを補足しておきたい。
さらに、厳しい訓練のせいで、自分の本来の性格を否定されたフィッガーバードは次第に、人格を崩壊させていくことになり、いつの間にか、第一王妃やファングラーデが望む性格を受け継ぎながらも、そこに残酷さという恨みの牙をも生やして―…。
人という生き物が他者の理想のために与えられた生き方しかできず、自らの選択肢を完全に排除し、合わないような生き方をしたのならば、人格は歪み、自らの意図を越えたものを生み出すこととなり、それを時に化け物と呼ばれてしまうぐらいの存在になるのだ。
これは、人、個々人、グループであったとしても、完全にすべてのことが理解できずに、その現象と結果という観念を完全に満遍なく計算することができないことによって、余ってしまった部分が表面化することに過ぎないからだ。
これに気づく者はいない。
だからこそ、化け物を育ててしまったと言えてしまうのだ。
自らの完璧性というものを否定することができずに―…。
歪んだ人となったフィッガーバードは、そのようなことを理解できない者たちによって、人格を改造された存在なのだ。
可哀想と思うかもしれないが、周囲の人々へとかなり悪い影響を及ぼすのであれば、時と場合による、非情な決断を下さないといけない時はある。
だけど、それを正当化することだけは絶対にしてはいけない。自らがそれに良い対処をすることができなかったことの恥なのだから―…。そのことをしっかりと理解して欲しいし、自慢するような奴、表立って言っている者は絶対にその行為の正当化という邪なことしかせず、危険を呼ぶ人物でしかないのだから―…。その危険に対して、最後はどうにもできなくなって、逃げるだけの―…。
そして、フィッガーバードは、自らにラフェラル王国の王位が来ることを必ずにするために、こうやって、密かに、ミラング共和国を目指し、ミラング共和国の総統であるシュバリテに会おうとしているのだ。会見すれば、それ即ち、王位への大きな得点になるのだから―…。
フィッガーバードはそう思いながらも、不安がないというわけではない。
だが、彼は知らない。
(さて、リーガライドの排除はそこまで時間はかからないだろう。私がミラング共和国でシュバリテ総統に会見に成功して戻ることができれば、その権威を利用すれば良い。なぜ、父上の言っていることに反対しているのか分からない。宰相も賛成しているのだから―…。)
と、続ける。
ミラング共和国がラフェラル王国に対して、何をしようとしているのかを完全に理解できていないようだ。関税撤廃の内容に関しては、理解しているし、そのことによって、ミラング共和国からの物産がより多く流れるようになることは分かっている。そのことによる、経済的影響については一切理解できているとは言い難い。
そして、そのことに対して、賛成に回っているラフェラル王国の現国王であるファングラーデ、宰相のファッグライドになぜリーガライドが反対しているのか分からない。王位が欲しいのなら、賛成するのが良い行動のはずなのに―…。
そこから、リーガライドがラフェラル王国を乗っ取ろうとしているのではないかという結論に数カ月前に達したのがフィッガーバードである。だからこそ、ラフェラル王国の自らの母親である第一王妃の後ろ盾に加えて、ミラング共和国の総統のシュバリテの後ろ盾も手に入れておくのだ。そうすれば、王位は安定して、自分のところに舞い込むことになるのだから―…。
ミラング共和国で、総統であるシュバリテの会見を終え、ラフェラル王国に戻れば、すぐにでも、リーガライドを中心とする旧第二王妃派を完全に排除することができる。その時に、リーガライドが反乱を起こすかもしれないが、その時はミラング共和国の後ろ盾と自らの権威をもってして、圧倒的な実力で潰す予定だ。
その予定が成り立たなくなる未来でしかないが、それにまだ、フィッガーバードは気づかぬままだ。
(さて、朝も早い以上、寝よう。)
と、フィッガーバードは眠るのだった。
フィッガーバードは、後に、自らの国がクーデター勢力によって乗っ取られたことを知ることになる。
それは、数日後のことである。
翌日。
その朝。
ラフェラル王国の首都ラフェラルアート。
その市場の通りで、いつものように商売の準備をしている他国からの貿易商たちは、いつもと違う場面に遭遇するのだった。
それは―…。
「おいおい、何だよ、あれは―…。」
と、一人の商人は驚く。
今日、この日も、自国から買い付けてきた商品を売ろうとしていた。
商品の需要がある場所だと、少し高くても売れるからだ。
そんな中、今日もいつも通りの日々だと認識していたが、その認識は覆されることになる。
(軍人―…、いや、あれは「緑色の槍」とかいう傭兵隊の者じゃないか―…。どうなってやがる。ろくでもないことだけは分かる。)
と、一人の商人は心の中で驚きながらも、状況を把握しようとするのだった。
そう、「緑色の槍」がラフェラルアートの街中を行進しているのだ。
まるで、これから何かを起こそうといているのではないかと思えるぐらいに―…。
この商人は、どうなっているのかを完全に把握することはできないが、それでも、これから起きようとしていることが大変なことであり、巻き込まれるわけにはいかないと思えることであることは理解できた。
こういうのは商人としての勘なのであろうか。
ゆえに、「緑色の槍」の行進を、ただ、ただ、……眺めることしかできなかった。
ただ、眺めるという表現はよろしくないが、どういうことなのかを少しでも自分の見る目から情報として得ようとしている。
(俺らに危害を加える気はないのだろう。)
と、商人は心の中で思う。
行進している「緑色の槍」の兵士たちは、商人達に目を向けることなく、目的地を目指していく。
そして、商人の人物は、もう一つあることに気づくのだった。
(軍服を着ていない者が後ろからぞろぞろと行進の真似事をしていやがる―…。どうなっていやがる。関わるべきではないな。嵐が過ぎ去るのを待つのみか。)
と、判断し、商人はこの行列が過ぎ去るのを眺めるのだった。
そう、「緑色の槍」の後ろには、商人は軍人でない者が一緒に行進していることに気づきはしたが、その人物たちがどういう階層であり、身分の者であるかには気づきはしなかった。
その「緑色の槍」の後ろにいたのは、商人や工業労働者であり、一人の商人のような貿易商ではない。
そして、彼らが目指す目的地は決まっている。
あの場所しかない。
それから数十分後。
「緑色の槍」がラフェラルアートの城へと向かっている時―…。
宰相らがおこなう会議室では、多くの者が集められていた。
緊急会議が始まるのだ。
「さて、いよいよ「緑色の槍」がクーデターを起こした。予定より少し早いかもしれないが、予定通りに軍隊を動員して、鎮圧していくことにする。分かっているだろうな、我々の目的を―…。」
と、ファッグライドは言う。
彼は朝早く、眠い時間に無理矢理起こされたので、苛立ちを感じてしまっていたが、「緑色の槍」がクーデターを起こした情報が舞い込んできたので、こうやって嬉々として、会議を開いたのだ。他のミラング共和国派の貴族も同様の気持ちを抱いている。
これから、彼らはクーデターを鎮圧して、それに加担した者たちを捕まえていき、処分するのだ。そうすれば、晴れて、自らに反対する者たちはいなくなり、自分達の目的を達成されることになるのだ。
こんな素晴らしい日なんて、いつ以来だろう。
そう、彼らは嬉々として喜び、自らの危機というものに関して、無感知になってしまったのだ。
ファッグライドが言いかけたところで、この会場に一人の黒い装束を着た女性と思われる人物が姿を現わすのだった。
そのことに皆が驚く。
そして、その服装からあることが推測できた。
ゆえに、ファッグライドが代表して再度言い始める。
「これはシエルマスの方ですか。勿論、聞いていたのであれば、あなた方の活躍にも期待しています。ミラング共和国軍の介入がなくとも、シエルマスの皆さまが介入していただけるのならば、私たちは最大限、ミラング共和国側の要求を受け入れますよ。我々の利益を保障してくれるのであれば、是非とも―…。」
と。
ファッグライドは、今回のクーデターの規模から推定して、ラフェラル王国の軍隊で簡単に鎮圧することは十分に可能であると判断できるからだ。
そうなってしまうと、ミラング共和国に活躍の場をなくなってしまうのは仕方ないが、こうやってシエルマスがいる以上、この人物に活躍の場を与えないといけない。
ゆえに、活躍してもらうこと、特に、クーデターの首謀者を捕まえてもらうことに期待している。ラフェラル王国がミラング共和国に併合されることぐらい平然と受け入れられる。結局、身をとるのは宰相を中心とする勢力なのだから―…。
そういう気持ちを抱いているファッグライドは、自らの勝利と繁栄を確信するが―…。
「どうも皆様は集まっていただき感謝いたします。」
と、黒い装束をしている女は言う。
言い終える前にすでに行動に移っていた。
この場にいる者たち、全員が一瞬のうちに気絶させられるのだった。
一応、殺すことを目的としていないのだから―…。
いや、最後にはその責任を負ってもらうことにはなるだろうが―…。
「ふう~、私をシエルマスだと思うのなら、シエルマスの死人の服装を使うのは作戦としては良かったのかな。」
と、女は言う。
女はシエルマスではない。
シエルマスの服を着ていただけに過ぎない。
この場で、ミラング共和国派の貴族を捕まえるために―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(109)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(17)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
本格的に第三章の一つの山に入ってきました。
これからの展開はいろんな意味で、どうまとめるのか大変でした。
まだまだ、第三章は続きそうな感じになってしまいそうです。
『水晶』は、この番外編が終了しだい、休んだ後に、第136話から再開という感じになります。第一編の主人公の話へと戻したい。しばらくは無理そうですが―…。
明日は、『この異世界に救済を』の投稿をすると思います。
では―…。