番外編 ミラング共和国滅亡物語(106)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(14)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようと企むミラング共和国。ミラング共和国は、ミラング共和国の商人達がラフェラル王国へと流す商品に対する関税を撤廃するようにラフェラル王国に要求。それを、ラフェラル王国の支配層の多くが賛成するが、その背景にはシエルマスの工作があったと思われる。そんななか、このような政策に反対するラフェラル王国の王子の一人であるリーガライドは、フィルスーナとともに、傭兵隊「緑色の槍」へと向かい、そこの隊長であるアルスラードと話し合う。結局、フィルスーナのアイデアとともに、クーデターを起こすことを計画し始める。それは、シエルマスにとっても、ラフェラル王国にとっても想定済みのことであった。
だが、シエルマスのスパイで、「緑色の槍」にいる者たちは、フィルスーナによって始末されていくのだった。その後、シエルマスのラフェラル王国の活動拠点へとなっていたラフェラルアートのスラム街にアマティック教の教団本部はフィルスーナとラフェラル王国の裏の者の手により壊滅されるのだった。
ミラング共和国では―…。
統領執務室。
そこでは、今日もラウナンが執務をこなしていた。
(………リース王国の方は、まだ、動きというものはないですねぇ~。戦力もさほど強化されているというわけではありませんが―…。リーンウルネの側が若干、戦力を増強しているような感じですか。それでも、リーンウルネ側が勝手にミラング共和国に戦争を仕掛けてくることはできないでしょう。リース王国を牛耳っているのは、ラーンドル一派なのですから―…。)
と、ラウナンは西方担当の報告を聞いた後、そのように思うのだった。
現在、リース王国では、リーンウルネ派の勢力が拡大してきている。政治の場では変化はないが、それでも、リース王国軍の中の一部にはリーンウルネの息がかかった者たちが何人か出世するようになり、大軍の指揮権を獲得していた。
その指揮権を獲得した人物は、かなり優秀なのではないかという情報がラウナンにももたらされている。その人物の名前も含めて―…。
いくら、リーンウルネが勢力を拡大しようとも、リース王国の実権を握っているのは、ラーンドル一派であり、ラーンドル商会を中心とする勢力であることに間違いはない。ラーンドル一派にとって、リーンウルネは迷惑な存在であり、常に牽制をしていたりするのだ。その警戒度合いは、ミラング共和国がリース王国へ侵略してくるよりも高い。なぜなら、リース王国の実権を奪われることが、ラーンドル一派の破滅に繋がるからだ。
さらに、リーンウルネに戦争を起こす権利は存在しない。実権を握っているラーンドル一派に、そのような権限が事実上存在する。形の上では、リース王国の国王に侵略行使権限があるのだから―…。
リーンウルネは、過剰に戦争というものを起こしたいとは思っていない。というか、ラーンドル一派と対立もあるのに、うかうかと他国と戦争なんてしないし、リース王国は交易国である以上、戦争で他国を征服するのは交易関係の利得から考えると望ましいものとは思えない。ただし、防衛には全力をつくすが―…。
そして、今回、ミラング共和国へと攻めてくる気はない。リース王国は―…。
リース王国のラーンドル一派は、金にならない旧アルデルダ領を譲渡して、財政が少しだけ良くなったのだから―…。旧アルデルダ領に支払っている支援金を払う必要がなくなったので―…。
ゆえに、ミラング共和国には感謝しかない。言うわけがないが―…。
ラウナンとしては、リース王国が攻めてくることはないと感じており、安心というものはしないわけではないが、それでも、西方方面で戦争を起こす気はない。二つの国を相手にするほどの馬鹿なことを犯したいわけではない。ミラング共和国の破滅を望んでいるのではないのだから―…。
(南方担当、北方担当の報告も問題なく、順調のようだ。そして、国内の方も問題はない。そして、東方担当―…。ここだな。)
と、ラウナンがこれから西方に関することを考えようとした矢先。
トントントン。
ノックがなされる。
「何だ?」
と、ラウナンは少しだけ苛立ちながら言う。
ラウナンとしては、気配からして、自分を暗殺したり、亡き者にしようとしているわけではないとすぐに、理解した。
そういう警戒すべき時と、そうじゃない時を瞬時に理解することができるからこそ、シエルマスの中でも生き残ることができ、出世して、統領という地位に就任することができたのだ。
実力者であることは分かるだろう。天成獣の宿っている武器を用いての、ということではないことには注意が必要だ。
そして、ラウナンの言葉を聞いたフィックバーンが部屋の中に入ってくる。
フィックバーンの顔をラウナンが確認すると―…。
(東方担当の首席フィックバーンか。ラフェラル王国で、何かあったのかもしれないな。)
と、心の中で思うのだった。
ラウナンとしては、ラフェラル王国のことでないことを祈りたいし、些細なことであることだと思いたい。だけど、それを許してはくれないだろうということだけは嫌でも理解できてしまう。
………しばしの沈黙が続いた後、ラウナンの近くへと来たフィックバーンは、自らの用件を言い始める。
「統領。ラフェラル王国から定期報告が一切、来ませんでした。」
と、フィックバーンは言う。
その言葉でラウナンのさっき心の中で思っていることが当たってしまい、苛立ちの感情が現れるのだった。
ラウナンとしては、シエルマスという自らが率いている組織にとって、失敗ということはあってはならないし、それを脅かす存在を許せるはずがない。
ラウナンは、自らが最強であるが、裏で糸を引くということのみ注力し、人々を裏から操りたいと思っているのだ。ラウナンの掌の上で―…。
なぜなら、自らが表に立ってしまうと、もし仮に何かに失敗してしまうと、その責任を取らないといけなくなるのだ。そうなるのが嫌なので、裏で糸を引き、もしもの時はそいつに責任を押し付けるのだ。
ラウナンにはそのようなことができる力がある。
物理的な力と同時に、実質の権力というものが―…。
そうであることを認識しているので、ラウナンは自らの世だという認識を抱きながらも、自分の脅威となる存在を見逃さないようにしている常に天敵に怯えている動物のような存在に過ぎない。
それが、ラウナンがここまで生き残れている要因の一つでもあるが―…。
「どういうことだ。それだけのことで、私に報告をしに来るわけではないだろ。」
と、ラウナンは言う。
フィックバーンがわざわざ、ラフェラル王国からの定期報告がないからという理由だけで、ラウナンにこのように自ら報告をしに来ることはない。ということは、何かそれよりも重要なことがラフェラル王国で起こったのではないかという情報を掴んだからだ。
「ええ、それだけなら、私の部下を派遣します。私自らが来たのは、ラフェラル王国の首都ラフェラルアートのスラム街にあるアマティック教のラフェラル王国本部にラフェラル王国軍の兵士が見張っており、中に入れないようにしていました。この情報は今朝、ミラング共和国のラルネに戻ってきた商人たちから集めた情報です。これは、東方担当だけで手に負える範囲を超えています。ですから、統領の意見を戴きたく存じます。」
と、フィックバーンは言う。
フィックバーンは、自分が言うべき用件を言い終える。
これ以上の言葉で、言う必要がないくらいにして―…。
ラウナンはしばらくの間、考え始めるのだった。
(ラフェラル王国に派遣したシエルマスからの報告がないということ―…。そして、ラフェラル王国の首都ラフェラルアートの中にあるアマティック教のラフェラル王国本部がラフェラル王国の兵士によって、入れないようされている。あそこは、ラフェラル王国に派遣されたシエルマスの者たちが作戦基地としても使っている場所だ。我々が、工作活動をおこなっていることがバレたのか!!? そんなヘマをするような奴を私はシエルマスに入れた気はない!! それに、ラフェラル王国とは戦争する関係で、東方担当に所属する者の中で、優秀な成績なものを送っている。どうしてだ!!! 思っていた以上に、我々の活動にとって、危険な存在がいるに違いない、ラフェラル王国には―…。そのことを前提として、考えないといけないということになりますか…?)
と、心の中で思う。
ラウナンとしては、ラフェラル王国に派遣したシエルマスの存在に気づき、シエルマスの工作活動を妨害することができるほどの実力者がいるのではないか。いや、そういうことができる組織が存在するのかもしれない。そのような組織や実力者によって、シエルマスの者たちの活動拠点および活動内容がバレて、始末されたのか。そういうなのではないか、推測しながら―…。
フィックバーンもそのようなことに至ったからこそ、フィックバーンの手に負えるものではないと判断し、ラウナンに直接相談に来ているのだ。指示を伺いに―…。
フィックバーンの意図というのを、すぐに、ラウナンは理解できるからこそ、そのための解決策を考えるのだ。
ラフェラル王国に派遣したシエルマスは、成績の優秀な者を中心としての派遣であり、工作活動でしくじる可能性はよっぽどの可能性がなければあり得ないという具合のものだ。
そうなってくると、今回の活動を妨害した存在は、かなりの実力者もしくはそういう人がいる組織ということになる。考えさせられるのは、それほどの実力のある組織および実力者を知らないということだ。ラウナンは周辺諸国における工作活動を妨害できるほどの実力があるものを完全に把握しているわけではないが、それでも、かなりのほどの情報をもっていることから、大体わかっている。
そこから結論を提示するのであれば、ラウナンやシエルマスの工作妨害ができる実力者および組織を知らないのである。現に、存在はするのだが、ラウナンが理解できていないだけだ。例を挙げれば、アババなどは簡単にラウナンを始末することができるし、工作活動をしたとしても、ラウナンより上手くこなすことができるだろう。
さて、ラウナンの頭の中にある前提で考えるならば、今、この場面ではあり得ないことが起こっているのだ。怒りの気持ちを露わにしていてもおかしくはないが、こういう脅威の前では、怒りという感情が良い結果をもたらすために動いてくれる可能性が低いということを知っている。突発的なことであれば、ラウナンも簡単に怒りという感情を出してしまうであろうが―…。
そんななか、部下の目の前である以上、冷静にならなければならないという感情を抱くことができた。現に、冷静さを保ったままだ。
ラウナンは、さらに思考を深めていくのだった。
(対処するために必要なことは決まっているが、ここで、まだ訓練中の者達や、新人達をラフェラル王国に派遣するのは危険なことでしかない。我々の一員の工作を妨害することができる実力がある組織もしくは者が存在しているからこそ、慎重にならねばならない。フィックバーンでは手に負えないと判断するだけのことはある。最悪の場合は、私自身もラフェラル王国に向かわないといけなくなる可能性があるな。だが、シエルマスの規模から考えて、私自身が赴くべき時は、かなり危険な状態でないといけなくなる。どう判断すべきか―…。失敗するわけにはいかない。失敗しないからこそ、私はこのシエルマスの統領の地位に居続けられるのだ。そうなると―…。)
と、さらに考え続ける。
結論が出ないのだ。
今回の状況は、かなり特殊な事例であり、ラウナンは一度もこのような状況に直面したことがないからだ。ないものの対処を考えるのは、かなり難しい。
近似の例を探さないといけないし、過去のシエルマスにその近い状況が存在したのか。そういうことをするようになった場合、かなりの時間をそれに費やすことになり、肝心の工作活動ができなくなるのだ。悲しいことに―…。
それをラウナンは望まないし、予定通りにこなして、自らが統領を務めているシエルマスをミラング共和国の中で、絶対的な存在たらしめんとしないといけないのだ。
そうすると判断を下すのは、早めの方が良いことになるのは分かりきっている。
そんななか―…。
(ラウナン様がこのように考えているとは―…。よっぽどの事態ということになりましょう。我々、シエルマスの活動をここまで妨害することができる存在は、一体、どこのどいつだ。見つけ次第、始末しないといけない。我々、シエルマスは他国から恐れられないといけない。そのために、我々の脅威となる存在は許されてはならないのだ。ラウナン様を困らせるようなことはあってはいけないのだ。)
と、フィックバーンは心の中で思う。
フィックバーンとしては、自らが担当しているラフェラル王国の工作活動で、シエルマスのトップであるラウナンの手を煩わせてしまったことに、悔しい気持ちを抱くのだ。
フィックバーンもシエルマスに入ってから長いが、このようにラウナンが困ったような表情をすることは一度も見たことがない。ラウナンという存在は、完璧で、すべての作戦を成功させるカリスマ的存在なのだ。
その存在が、このように困ることがあるのは許されないのだ。
そして、事態はさらに、彼らの予想斜め上をいくのだった。
バタン。
という音がして、ラウナンの部屋の中に入る者がいるのだった。
「緊急事態です。」
と、息を切らしているにも、かかわらず、大きな声で部屋の中に入ってきた者が言い始めるのだった。
その者は、シエルマスの中でも新人であるが報告官の見習いがやってくる。
「ラフェラル王国でクーデターが発生し、クーデター軍が即日、勝利いたしました!!!」
と、報道官見習いは言うのだった。
これは予想外の出来事でしかなかった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(107)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(15)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
さて、次からは本格的にラフェラル王国で起こったクーデターに関する内容に入っていきます。
やっとその内容を書き終えたという感じで、第三章の一つ目の大きな波となっていきます。
フィルスーナの活躍にご注目を―…。
では―…。