番外編 ミラング共和国滅亡物語(105)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(13)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようと企むミラング共和国。ミラング共和国は、ミラング共和国の商人達がラフェラル王国へと流す商品に対する関税を撤廃するようにラフェラル王国に要求。それを、ラフェラル王国の支配層の多くが賛成するが、その背景にはシエルマスの工作があったと思われる。そんななか、このような政策に反対するラフェラル王国の王子の一人であるリーガライドは、フィルスーナとともに、傭兵隊「緑色の槍」へと向かい、そこの隊長であるアルスラードと話し合う。結局、フィルスーナのアイデアとともに、クーデターを起こすことを計画し始める。それは、シエルマスにとっても、ラフェラル王国にとっても想定済みのことであった。
だが、シエルマスのスパイで、「緑色の槍」にいる者たちは、フィルスーナによって始末されていくのだった。その後、シエルマスのラフェラル王国の活動拠点へとなっていたラフェラルアートのスラム街にアマティック教の教団本部は―…。
無数の死体のある場所で、女は無表情のまま、それらの死体を処理する。
この女の仲間と思われる人物も加わって―…。
ラフェラルアートのスラム街の中にあるアマティック教の教団のラフェラル王国本部として使われている建物の中では、このような光景になっている。
そして、この惨劇を知る者はスラム街にいる者も知らない。
不審な動きがあったということは分かっているだろうが―…。
知らないということが自分の身のためであることはすぐにでも理解できることだろう。
日々、生き残るのに精一杯であるし、スラム街はギャングやマフィアなどの者たちが交渉に使ったりするのだから―…。彼らに気づかれないように、地味に生きることは絶対必要なことなのだから―…。
そして、死体の処理をし終えると―…。
「ありがとう。というか、かなりの数がラフェラル王国の中に入っていたのね。それに、アマティック教の信者も関わっていそうね。シエルマスとアマティック教、グルだったようね。」
と、女は言う。
女にとって、アマティック教とシエルマスが関わっていることは理解していた。
アマティック教という宗教を利用して、シエルマスの拠点を築くことによって、シエルマスがいることを潜入国に知られないようにしていたのだ。
その拠点を抑え、シエルマスとアマティック教の教団員を始末したということだ。
なぜ、始末するのか?
それは、アマティック教とシエルマスは繋がっており、シエルマスはアマティック教を使って、周辺諸国の謀略および諜報をおこなっていたのだ。隠れ蓑にもちょうど良いという理由もあるのであろう。
それに、彼らはラフェラル王国を侵略するための行動をとっていることは分かりきっているので、さっさと相手に弱点を握らせないために、始末しておいた方が得である。
そして、女の近くにいた裏の者は、
「ですね。彼らはアマティック教を隠れ蓑にして、ラフェラル王国での活動をおこなっていたようです。アマティック教はミラング共和国の国教であり、ミラング共和国のための道具ですから―…。」
と、言う。
この人物は、ラフェラル王国の中でも隠密に長けた部隊の人間の中で中間職にいる人間であり、実行部隊の中では指揮をしたりすることもある。上からの評価も良い。
そして、女の方に対して、敬語のような言葉遣いをするが、女が裏の者でないことは知っている。そして、女に隠密に関して、必要なことを教えたことはある。
それに、女の技量についても認めている。
彼女の生まれから考えて、裏の者の技術など知る必要もないし、貧しくもなく裕福なのだから、幸せな人生を送れたのではないか。この中間職にいる人物のようにスラムの出身ならば、選べる職種の選択肢は限られたものになり、こういう裏の者の職が一番稼ぎが良かったりするのだ。
だからこそ、この女の存在というの不思議としか言いようがない。
「それに、聞き出そうとしても口の中に仕込んである毒を飲み込まれる可能性があるから、こうやって始末するしかないし―…。」
と、女は言う。
女もシエルマスがどうやって自らの情報を漏らさないようにしているのかを知っている。口封じのために殺すだけでなく、ピンチの時は口の中に仕込んである毒の液体が中に入ったボール状の入れ物を噛んで、自殺するということだ。
自らの組織の情報漏洩が一番危険なことであることを十分に理解しているからだ。普通は、自刃用の短剣を渡されるのが習わしであるが、シエルマスは短剣を手渡したとしても、最悪の場合に自刃することはないと怪しんでいるので、確実な方を選ぶのだ。
シエルマスという組織があるということがバレるのは仕方ないと判断している。だけど、シエルマスが何をしようとしているのかが、バレるのは全然良くないし、シエルマスの今しようとしている計画に支障をきたす場合があるのだ。計画を阻止されることを何よりもシエルマスは畏れる。
失敗イコール、最悪の場合、責任者は自らの命をもって償わないといけない。
ゆえに、そのことを恐れるのだ。
そして、女はシエルマスが何をしようとしているのかすでに分かっている。
ラフェラル王国に流れるミラング共和国の商品の関税を撤廃させて、ラフェラル王国の国力を弱体化させて、ラフェラル王国を征服するか、この関税撤廃に反対するラフェラル王国の王子であるリーガライドに反乱を起こさせ、それを利用してミラング共和国軍を派遣し、反乱鎮圧の代償としてラフェラル王国をミラング共和国に併合しようとしていることである。
ラフェラル王国の王族や貴族は、その中で自分達の権益を確保し、それをミラング共和国側から保障を貰い、その権益から得られる利益を永続的に受け続けることを望んでいる。
それをミラング共和国が全員に許すとは思えない。
ミラング共和国は、ラフェラル王国からの上がる利益を望んでいる以上、彼らの権益を完全に確保できるのは一部だけであり、軍事的な支配をして、恐怖政治をおこなうのは分かりきっている。民主主義が恐怖政治をおこなわないというのは間違った考えであり、その可能性はどんな政治体制であっても十分に存在する。結局、政治というのは政体がすべてではなく、国をどうしたいのか、それがその国の中に住んでいる人々の本当の利益に適っているのかということが一番大切なのである。政体はそれを実現するための手段であり、方法であるということを理解すべきであろう。
まあ、言っていることが完全に正しいとは限らないが―…。
そんななか、女はミラング共和国という国には、嫌な感じを抱いているし、ラフェラル王国をミラング共和国が支配している征服地のような状態にしたいとは、これぽっちも思わない。
(シエルマス、ミラング共和国の対外強硬派―…。こいつらは絶対にろくな目に遭わない。)
と、女は心の中で強く思うのだった。
人々に理不尽を強いて、自分の欲求や快楽を満たそうとするのは、女の嫌うことでしかない。自分は我が儘であり、自由気ままに振舞っていることには気づいているが―…。それでも、気持ちの中では、人々の幸せを願ったりする。
心の中の持ちようがミラング共和国の支配層とは、根本から違うのだ。
そして、暫くの間、この場は立ち入り禁止となり、ラフェラル王国の兵士が見張ることとなった。
そうなって以後、この場が何か良からぬことがおこなわれているのではないかという噂がされるのだった。
ミラング共和国。
シエルマスの本部。
その中の西方担当の部屋では―…。
「ラフェラルアートからのシエルマスの報告が一切来ないのだが―…。」
と、西方担当首席のダウラーリ=フィックバーンは苛立ちながら言う。
この人物にとって、心配事として挙げられるのは、ラフェラル王国の首都ラフェラルアートに派遣しているシエルマスからの報告が一切、もたらされていないということだ。
そんな状況をこのフィックバーンがのんびりと待てるわけがない。
上も気づいていることだろう。
ラフェラルアートに派遣されているシエルマスに何かあったのではないか、と―…。
「すみません。いくら待っても、報告は上がってこず、さらに―…、ラフェラルアートにあるアマティック教の教団本部がラフェラル王国兵によって、見張りを立てられているという情報がミラング共和国の商人達からもたらされています。」
と、フィックバーンに言う者がいる。
彼は、フィックバーンに言われて、ラフェラル王国、特に、ラフェラルアートで商売をおこなっている商人達に何かラフェラルアートで変なことが起こっていないかを聞き回っていたのだ。
勿論、シエルマスということを伏せて―…。
情報を集めているなか、今朝、ミラング共和国に戻ってきた商人たちが、自分達がラフェラルアートからラルネへと向かうための旅立ちの日に、ラフェラルアートのスラム街で、アマティック教の教団がラフェラル王国に接収された、とか。ラフェラル王国の兵士がアマティック教の本部を見張っているとか―…。
この情報も正確性の高いものではなかったが、重要だと判断して、フィックバーンに報告している。
(………ラフェラル王国の軍人は、半分以上がミラング共和国側になっているはずだ。それに、シエルマスの動向がバレないように最善の注意を払っていたはずだ。「緑色の槍」に潜入した者たちも、何人、同じ組織に潜入したかをマネージャー以外には伝えていないはずなのに―…。ラフェラル王国に裏の者があるとは言われているが、それでも、シエルマスよりは強いとされていないはずだ。どうなっている? これは、私の権限を越えている。上からの判断を仰ぐしかないか。)
と、フィックバーンは心の中で考える。
報告している者が言っている言葉だけの推測となるが、ラフェラルアートに派遣されたシエルマスに何かあったというのは確かなようだ。
そうでなければ、正確性の高い情報が今、ここに上がっていなければいけないのだから―…。
そして、ラフェラルアートに派遣しているシエルマス全員に何かあったと考えるべきだ。しくじるとは思えないし、ラフェラル王国にいくら裏の者があろうとも、シエルマスに対抗できるほどではないし、シエルマスの実力は周辺諸国において、圧倒的に強いのだから―…。周辺諸国は、シエルマスを恐れているのだ。それは、いろんな外交の場、潜入の場で良く聞かれていることなのだから―…。
そうなってくると、どうして、このような事態になっているのか、その原因を考えることに行き詰ってしまうのだ。
それに、これはかなりの大事になっているのではないかと判断することができる。
そうなってくると、シエルマスの上層部の意見を聞かないといけない。西方担当の首席よりも上となると、統領のラウナン=アルディエーレの意見を伺わないといけないということになる。
そうと決まれば、すぐに行動を起こすに決まっている。
「報告ありがとう。こうなってしまっては、統領のラウナン=アルディエーレ様に意見を伺わないといけなくなりました。私は、統領室の方へと向かいます。」
と、フィックバーンが言う。
その後、フィックバーンは立ち上がり、統領ラウナン=アルディエーレがいると思われる場所へと向かうのだった。
その様子を見ながら、報告者は―…、
(………これは大変なことになってきたぁ~。)
と、心の中で緊張感を醸し出すのだった。
これから起こるかもしれない大きな出来事に自分が巻き込まれようとしているのではないか、ということに―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(106)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(14)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
『水晶』再開です。
まあ、ここからクーデターの内容に入っていくのですが、兎に角長い、ということだけは言っておきます。今の執筆段階でも、クーデターの内容が終わっていないのだから―…。ラフェラル王国でのクーデター編が―…。
では―…。