第28話-3 神と王は対立する
前回までは、ランシュが革命を宣言する。
一方で、中央の舞台にあるランシュとは、別のところでこの様子をみていた人が五人。
それは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドである。
(おいおい、ゲームはどうなってしまうんだよ。ゲームの前の余興とか言って、革命かよ!! 冗談ねぇーぞ。どうなってしまうんだ。)
と、アンバイドは心の中で呟く。いきなり始まってしまったリース王家に対する革命を目の当たりにして―…。
クローナは、「?」マークを浮かべて、若干動揺していたし、頭の思考が追いつかず、思考停止状態になっていた。
礼奈は、
(革命!! 異世界に来て見るなんて……、とにかくゲームはどうなるの?)
と、革命よりもランシュの企画したゲームが開始されるのかが気になって仕方なかった。革命によって中止されてしまうのではないかという心配をしていた。
李章は、
(革命って。ランシュは一体何がしたいのですか? 恨みか何か知りませんが、こんなことすれば、ランシュ自身が主宰するゲームができるのですか? 行動が矛盾しています。革命となれば、血で血を洗う争いになってしまいます。そんなことになってしまえば、リースも危険になり、瑠璃さんたちの身も危険になってしまいます。ここは―…。)
と、心の中で呟き、前へ歩こうとする。それを、アンバイドは李章の前に手をだし止める。
「李章、お前じゃあの状況はどうにもできない。それに、迂闊に手を出せば、最悪、こっちにも大きな被害がでる。」
と、アンバイドは言う。声は真剣そのもので、李章もそれを感じることができた。
ゆえに、李章は止めたのである。中央の舞台へ向かうことを―…。
それは、瑠璃たちを巻き込まないようにするために、どっちがより可能性が高いかということを李章自身が比較して、中央の舞台へ行くことを止めることがその可能性が高いと判断したからだ。
瑠璃は、
(……、革命……、えっ!! ゲームの前の余興が革命って!! 何が何かわけわからないよ!!! どうすれば―…、ッ!!!!)
と、心の中で呟き、ある事に気づく。ヒルバスが何かしようとしているのではないかということに―…。これは、瑠璃の勘にでしかなかった。
(あのセルティー王女っていう人が危ない!!)
と、瑠璃は心の中で大きく言う。
そのことについては、瑠璃が気づくのと同時に李章のほうも気づいたのだ。緑の水晶が李章に対して、危機が迫っていることを―…。そう、セルティー王女が自分たちのゲームに勝つために必要であることを―…。
一方、中央の舞台と貴賓席では。
中央の舞台にいるランシュとヒルバス、貴賓席にいるセルティーは対峙していた。
「革命―…。なぜ…、いや、ランシュ、お前が革命を望むのであれば、我、王の代わりとして、ランシュを反逆の罪で、我が剣で葬ってみせよう。」
と、セルティーが言って、近くにおいていた大剣を握り、鞘から抜こうとする。
しかし、
「甘いですよ。ルース王国の王女セルティー様。いや、もうただセルティー様ですか。」
と、ヒルバスは言う。そう、ヒルバスはすでに、再度、セルティーの近くまで接近していたのだ。
「ッ!!」
と、セルティーは声を漏らし、
(さっきまで、ランシュの傍にいたのに、もう!!)
と、心の中で呟く。そう、セルティーは、危機を感じていた。自らに危害を加えられることを―…。
「では、さようなら。憐れな姫。」
と、ヒルバスは言いながら、セルティ―を中央の舞台の上空へ右足で蹴ったのである。それも腹から―…。
その蹴りの痛みは、セルティー自身の思考を空中に自身がいることではなく、痛みへとセルティーの意識を向けさせた。そのため、自身が空中にいて、落下すれば命を落としてしまう状況になっていた。
(痛い!! ランシュ…、お前は革命まで地位が欲しいのか。だが、リースの王というのは、ここに暮らす人々を栄えさせるための地位であり、私欲のためだけの地位ではない!!!! ランシュの本音のための地位でもない!!!)
と、セルティーは痛みへの意識の集中から、今度はランシュの起こした革命へと意識を向けてしまった。それゆえ、さらにセルティー自身の状況に自ら気づくということに遅れてしまったのだ。
そして、セルティーは気づいた。
(!! ウッ…、このままでは、落ちていってしまう―…。くっ、無念。)
と、セルティーは今の自らの状況にやっと気づき、後悔し、自らの命の終わりを覚悟した。
このような、セルティーがヒルバスに蹴られ、競技場の中央の舞台へと飛ばされたのを、観客の多くはセルティーが中央の舞台の上空にいるときに気が付いた。
それは、観客の誰もが見ていることしかできなかった。声も勝手に静寂になっていたのだ。いた、ならざるをえなかった。
(さあ~て、どうなるか。このままでいけば、セルティーは死ぬ。だが、これは確定的な未来ではない。俺の考えでは、たぶん、瑠璃が何かをしてくるはずだ。明らかに、人のピンチを放っておけることができないタイプの人間だ。それに、瑠璃なら可能だ。俺の勘だが…。)
と、ランシュは心の中で言う。そう、ランシュの勘は正しかった。そう、決定づけられるのだから―…。
中央の舞台の入り口付近。
「たぶん、貴賓席にいたのは確かセルティー王女だから―…、それが上空にいるっていうことは、こりゃ~、死んだな。」
と、アンバイドは言う。冷静に目、そして気持ちを落ち着かせて―…。
「じゃあ、助けないと!!」
と、クローナは言う。その表情は鬼気迫るものがあった。表情にでてくるのは、それほどもなかったが、心の中では特にそうであった。
アンバイドは、
「ダメだな、俺のスピードからしても無理だ。李章のスピードをもってしてもな。だが、死ぬことはない、ないかもしれないな。」
と、セルティーが自らでは助けることができないという。
しかし、セルティーが助かる可能性はあったのだ。
「赤の水晶。」
という、声が聞こえた。その声はクローナも気づいた。
そう、瑠璃の声である。
中央の舞台の上空で落下しているセルティーの真下に、空間の裂け目が形成される。
その裂け目は徐々にセルティーよりも大きくなっていった。
この光景に、観客席に誰もがこの空間の裂け目に驚かずにいられなかった。そう、それが空間の裂け目であるということを理解せずに、何かが出現したという認識で―…。
ゆえに、観客席で気づいた者は、周りにいる知人や家族に声をかけ、空間の裂け目をさす。
そして、誰もが見るのであった。あれはどうなるものか、と。
一方で、ランシュは、何の驚きもなく見ていた。そう、たぶんあれが、セルティーのこの上空からの落下による命の終わりを免れさせるためのものである、と。
(まあ、俺はその空間を消す気はないがな。これで、ゲームの進行がしやすくなるし、他の奴らによってあそこにいる五人が殺される可能性は減らせた。そして、あいつら五人に観客は、リースの命運を託さなければならなくなった。)
と、ランシュは心の中で呟く。そう、別にセルティーを今、ここで殺すことは真の目的ではない。あくまでも、これは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドがゲームの参加者であり、リースの命運を握ることのできる実力のある人間だと証明させるための余興であった。
革命などのそのための口上にすぎない。ランシュは、革命という言葉や出来事さえも、ベルグの命令の達成のためにならば、平然と躊躇することなく成すことができる。そう、時間稼ぎをするための―…。
そして、ランシュの復讐という目的を完全に果たすための―…。
セルティーは、目を閉じる。
命の終わりを覚悟していた。そのため、無様であろうとも、その無様な姿を一つでも減らせるのであれば、そのように行動する。王族としてのせめてもの抵抗であった。リースの民に恥になるような姿を見せないために―…。
セルティーは、地面へと落下した。
「ガァ!!」
と、セルティーは声を出す。それも、短く。
背中の骨を含め、全身に痛みがはしった。それは、痛いと感じるほどであった。
(痛ッ!! これが死の痛みなのか―…。死というのは、こんな痛すぎるほどのものなのか?)
と、セルティーは心の中で呟く。痛みで立ち上がることはできなかったのだ。
(天国はきっと楽園なのだから痛みはないのだろう―…。そうすると、私には痛みがあるから、私はきっと地獄に落ちたのだろう。たとえ、日々善行を積んだとしても、私の罪は大きかったのだな。神は私を天国に受け入れてくださらなかった。無念。)
と、セルティーは後悔しながら、意識を失っていくようなことをしていった。それは、今のセルティーにとっては不可能なことであった。
貴賓席にはヒルバスがいた。
「あ~あ。侍従さん、すみません。そこのセルティー様の大剣を渡してください。別に、奪ったりはしません。ただ、セルティー王女のもとへその武器を置いてくるだけです。」
と、ヒルバスは言う。そう、セルティーの武器である大剣を、ヒルバスの蹴りの対象にならなかった侍従の一人が持っていたのだ。
「本当に、そうなのか。」
と、セルティーの武器を持っている侍従が、ヒルバスを怪しい目で見ながら言う。
「ええ~、それに関しては約束します。私は、あくまでもランシュ様の守護者であり、それに反しない限りは人を無暗には傷つけたりはしません。しかし、セルティー王女を蹴り飛ばしているので、信用してもらうのは侍従さん、あなたからすれば難しいことでありますが―…。あと、セルティー王女は死にませんよ。中央の舞台の方を見てください。」
と、ヒルバスは言う。それは、セルティーの武器をもっている侍従を信頼させるためである。
セルティーの侍従は見る。空間の裂け目を―…、それとは理解できずに…。
「なんですか。あれは―…。」
と、セルティーの武器を持っている侍従は、驚きながら言う。
「たぶん、次元、もしくは空間の裂け目みたいなものですかね。たぶん、空間移動ができると思いますよ。」
と、ヒルバスは正確に赤の水晶の能力を言う。それは、ランシュの勘に気づいていたのである。セルティーを中央の舞台の上に蹴ったとしても、セルティーが助かることを―…。そう、ランシュの意図を読んでいたのだ。ゆえに、そこから考えられるセルティーが助かる方法の一つとして空間移動の可能性があることを―…。
確定させたのは、セルティーのいる場所に空間の裂け目と思われるものがでたことだ。空間の裂け目が出た高さから推測して、防御系やテントのようなキャッチ系のものではないことはわかった。そうなってくると、可能性として高いのは、空間移動系のものとなる。ヒルバスはそう推測したのであった。
「それで、変な所にでも…。」
と、セルティーの武器を持っていた侍従は言う。そう、持っていたのである。
「うん、じゃあ、これはセルティー様のもとへと送り届けますか。」
と、ヒルバスは言って、空間の裂け目に向けて、セルティーの武器を投げたのだった。
ヒルバスの言葉で、侍従は気づく。自らが持っているはずのセルティーの武器が自分の手元になくなっていたことを―…。
そう、ヒルバスは言葉を言いながら、侍従からセルティーの武器を奪ったのである。侍従に気づかれずに、素早く、丁寧に―…。
ゆえに、ヒルバスがセルティーの武器を空間の裂け目に投げたのが見えた侍従は、
「貴様!! 何をする!!! それはセルティー様の武器であらせられるぞ!!!!」
と、侍従は激しく怒気をはらませて言う。
「はいはい。だから、セルティー様のもとへ送り届けると言ったでしょ、セルティー様の武器を―…。」
と、ヒルバスは言う。さっき言ったのに―…、という雰囲気を漂わせながら。
「では。」
と、続けてヒルバスは言い、ランシュのもとへと戻っていった。
「こら、待て!! 貴様―――――――――――――――!!!」
と、侍従からの怒りの言葉が聞こえた。
しかし、ヒルバスはそれを無視していったのである。用事を済ませて、ランシュのもとへと戻って、隙があればランシュをいじろうと。
中央の舞台のランシュのいる側。
ヒルバスが戻ってきた。ランシュも気配でそれがわかった。
「で、セルティーの武器は奪ってきたのか。」
と、ランシュは言う。
実は、ヒルバスはランシュからセルティーの武器である大剣を奪うように命令していた。
「はい、奪おうとしましたが、やっぱり、セルティー様のもとにご自身の武器があったほうがいいので、あの上の空間の裂け目みたいなものに投げ込みました。」
と、ヒルバスは言う。そう、ヒルバスは、ランシュの命令に違反していたのである。
それを理解したランシュは、
「はあああああああああああああああああああああああああああああ。」
と、大声で言わざるを得なかった。
「ヒルバス!! お前―――、俺がせっかく、武器をその後、セルティーが起き上がって、こっちに向かって視線を合わせた時に、投げて返そうとしたのにぃ――――――――――。」
と、ランシュは大声でヒルバスに言う。
それを聞いて、ヒルバスは満足そうな顔をする。
(この締まらなさこそが、ランシュ様です。)
と、心の中で笑顔で呟くのだった。良いことをした人のように―…。
それを聞いてしまった観客たちは、
(革命しようとしている人間がこれってどうなのか?)(ランシュ様って……。)
と、呆れるしかなかった。
中央の舞台への入り口付近。
ガサッと、人が落ちる音がなる。
そして、一人の少女が落下してきた。そう、セルティーである。
その様子を見ていたのは、瑠璃を除く李章、礼奈、クローナ、アンバイドであった。
瑠璃は赤の水晶を使うときに、中央の舞台にいるセルティーを確実に助けるために、大きな空間をつくったため、瑠璃の後ろに大きな空間を開かなければならなかった。
そう、瑠璃が見ている方法は、中央の舞台の方であり、ゆえに、その後ろに大きな空間の裂け目が出現したのだ。あまりにも、急いでしないと落下スピードが上昇して、セルティーに重い傷を負わせてしまうと思ったからだ。ゆえに、場所をとにかく地面近く以外がとにかく、適当にしてしまったのだ。
そのため、セルティは、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドの後ろから10メートル~20メートルぐらい離れたところに落下したのだ。
そして、李章が助けにいこうとするが―…。
「「「「えっ」」」」
と、瑠璃を除く、李章、礼奈、クローナ、アンバイドが言う。
セルティーにハプニングが起こったのだ。
セルティーは自らの意識を失わせるようなことをしていた。
そう、自分は現世での命を終え、地獄へと向かったのだと思ったからだ。
セルティーにとって、地獄とは罪を犯した者が、さまざまな刑罰によって、苦しめる場所であると思っていた。そして、地獄の刑罰は、非常な痛みを伴うものであり、それを防ぐには意識を素早く失うことだと昔から、お世話係の人や宗教僧侶たちによって教えられてきたのである。
ゆえに、自らの意識を失わせようとするが、できなかった。
セルティーの残ったのは、意識と、痛みであった。
それでも、セルティーは挑戦する。
(ここが地獄であれば、痛みを消すために意識を失わなけれないけません。目を閉じて…、より強い衝撃を感じるのです。例えば、ヒルバスから受けた蹴……ガッ!!)
と、セルティーは心の中で呟く。そう、意識を失わせるためにヒルバスにさっき受けた蹴りの痛みを思い出そうするのであった。しかし、そう言いかけたときに、ものすごく強い衝撃を受けたのだった。
セルティーはこの瞬間には気づくことはなかったが―…、ヒルバスが投げた、セルティーの武器である大剣を腹部に受けて―…。
そう、本当にセルティーは意識を失ったのである。気絶するという形で―…。
第28話-4 神と王は対立する に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
セルティーは、どうしてこんなカッコ悪い展開になったのだろう。不思議です。ランシュとともにカッコイイというイメージが崩れていっています。物語を制作することは、不思議で、何が起こるかわかりないと思ってしまいます。
前回までで、文字数は20万をこえました。