番外編 ミラング共和国滅亡物語(103)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(11)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国の併合を企むミラング共和国の対外強硬派政権。そんななかで、ミラング共和国の商人達からラフェラル王国へ流れる自国の製品の関税を撤廃するようにラフェラル王国に要請しており、多くのラフェラル王国の王族と貴族が賛成するのであった。だが、その中で反対していたのは王子のリーガライドであり、妹のフィルスーナとともに「緑色の槍」という傭兵隊のいる拠点へと向かい、そこの隊長であるアルスーラドと話し合った。その中で、フィルスーナはクーデターをしようと言い出すのだった。それは、ミラング共和国の対外強硬派も望むことであった。そして、「緑色の槍」の中に潜んでいるミラング共和国のスパイをフィルスーナは始末するのだった。
その日の夜。
一つの遺体が「緑色の槍」の拠点の中にあった。
その遺体を何人かの人物が眺める。
「レイロードと繋がっている人間で、シエルマスからのスパイだったとはな!!」
と、一人の人物が言う。
この人物は、ラフェラル王国のリーガライド王子である。
彼もまた、アルスラードからシエルマスからのスパイの話を聞き、このように「緑色の槍」の拠点に来ているというわけだ。
その死体を見ながら、シエルマスのスパイがいることを確かめるために―…。
「そうだな。シエルマス…いや、シエルマスのトップであるラウナン=アルディエーレは確実に、ラフェラル王国を併合しようとしている。ミラング共和国の政権側も意気揚々に―…。」
と、アルスラードは言う。
アルスラードは、リーガライドにシエルマスのスパイに関する説明をした。
アルスラードにとって、これからラフェラル王国でクーデターを起こす以上、ミラング共和国が軍事介入してくることを避けることはできず、シエルマスとぶつかることになるということは分かっている。
ゆえに、警戒して、会談は三人だけとなっている。
「緑色の槍」のメンバーは、一切、この部屋の中に入れさせないようにしている。
まだ、完全にシエルマスのスパイを捕まえたとは思っていないからだ。
そして、このような場所で、何か重要な話をしていることは、すぐに、シエルマスに知られることであろう。シエルマスからミラング共和国の政権側へと情報が伝わるのは避けられない。
そんななか、アルスラードは冷静に、すべての可能性を頭の中に浮かべながら、リーガライドと話を進めていく。
「ミラング共和国は侵略国家だな。完全な。正義の味方の面して戦争を煽る奴がいるのは、物語や年代記、歴史書の中でたくさん見てきたが、侵略国家は内乱の中で軍事介入を平然としてくるものだと、つくづく思わされてしまう。年代記にも、歴史書にも書かれているか、それは―…。それでも、こちらとしてはなるべく平和の方が好きなのだが、ミラング共和国が増長してきてしまった以上、仕方ない。正当化はできないが、戦わなければ国が亡ぶのだから―…。」
と、リーガライドは不承不承ながらに言う。
リーガライドも戦争好きではない。
傭兵隊として戦闘経験がある以上、戦争というものがどんなものかを知っている。この地域における戦争は、国民が起こすものではない。起こすのは大概、欲に目が眩んだ者達だ。自らが得られる利益が最大になること、自分が社会の中で優位になれることを望んで―…。
そのような欲望が一つの要因としてなされるのが戦争であり、その被害は敗者と戦争の時にその場にいた者たちなのだ。当事国の国民という表現はかなり正しいであろうが―…。
そして、巻き込まれた者は、最悪の場合、自らの人生を終了させる結末を迎えることになるのだ。その中には罪のない者達がいる。大多数の―…。
いや、戦争を望む者もいるかもしれない。巻き込まれる者の中に―…。彼らは、戦争を望む者であり、権力者達によって扇動された者であるかもしれない。そういうのは厄介で、自分の言っていることを完全に正しいというあり得ない幻想を抱いていたりする。都合の良い情報をもとにして―…。
そして、世界の国の中には、自分の欲を満たそうとするために、潜在的な危険な存在を自分達の妄想の中で作り上げ、そのことを現実だと過信して、自らが敵視している国が戦争を仕掛けるように煽るのだ。その時、自らの国が煽っていることを伏せた上で、国民に伝え、あたかも敵視している国は自分達の国を攻めて侵略しようとしているという印象を植え付けるのだ。国民など、情報を得る手段が限られており、国家の前では非力な存在に過ぎないと見下して―…。その結果、敵視している国が自らの国を守るために戦争を仕掛けた時、その国を侵略国家だと名指して批判しながら、国民を戦争に巻き込むのだ。動員すると言っても良い。そうして、国民に悲劇を与えていき、最後はどのような結末になるにしても、国民は国家のために死んだのだという、多くの者が望んでもいない称号を付けられるのだ。これは悲劇でしかない。
そのことを、リーガライドやアルスラードが完全に理解しているわけではないが、戦争が良くないものであるし、あくまでも、その戦争を望む者の欲望から身を守るための傭兵だと認識している。軍隊に仕事がないことが、一番社会にとって望ましいことなのだから―…。
そして、今のラフェラル王国は、ミラング共和国と戦わないと自国が守れない状態にある。これは、証拠を積み重ねていけば、誰でも分かることであろう。
ラフェラル王国には、ミラング共和国を征服する理由はない。
だけど、ミラング共和国には、ラフェラル王国を支配する理由がある。それは、ミラング共和国にとって、大国を支配することによって、周辺諸国の中で一番強い国家となり、世界のすべての国を支配していくための第一歩にするためだ。対外強硬派の今の目標になってしまっている。
「ああ、分かっている。兵力に関しては、軍人のいくつかと、商人および工業労働者を味方にできるようだな。」
と、アルスラードは言う。
アルスラードとしても、「緑色の槍」だけでは数が少ないので、粘ったとしても、一日で鎮圧されるのが関の山だ。一人、二人多いというのであれば、十分に「緑色の槍」でも対応することができるが、数倍を超えると対処することもできなくなる。対処できる数にも限界があるのだ。
そして、今回のクーデターでは、軍人のいくつかの部隊、商人および工業労働者が味方になってくれる。
「まあ、彼らを信じるのはかなり危険だが、商人は金銭や他国からの武器を提供してくれるだろう。兵器の材料とか―…。工業労働者は生産とデモの要因になってくれる。彼らには期待したいが、本当の意味で味方になってくれるかは信用しない方が良い。こちらの大勢が良くなければ、降伏する可能性が高い。」
と、リーガライドは言う。
リーガライドとして、彼らが大勢の良い側につくことに裏切られたという気持ちを抱くことはない。なぜなら、彼らにも自らの命や安全がかかっているのだ。それを否定することはできない。忠義を誓った軍人なのではないのだから―…。
「そうだな。フィルスーナ、何か他に意見はないか。」
と、アルスラードは言う。
この場の中にいるもう一人は、フィルスーナである。
今夜、シエルマスのスパイを仕留めたのはフィルスーナ。
そのフィルスーナは、ただ、二人の話を聞いているだけで、自分から意見を言ってくることはなかった。
「私ですかぁ~。クーデターを起こした時点で、国王はミラング共和国のシエルマスの圧力を受けて、いや、その圧力にある家臣の圧力を受けて、ミラング共和国に軍事介入を要請して、ミラング共和国議会で全員賛成で可決。そして、ファルケンシュタイロ率いる軍部とラウナン=アルディエーレ率いるシエルマスが軍隊の準備をほとんど完了させて、数日でラフェラル王国の領土内に侵入。それまでに、今の国王をその地位から追放して、クーデター政権をこっちは確立して、国の防衛のための軍隊を投入させて、防衛戦争ということになるわ。シエルマスは、私たちを探しに、というか、命を狙ってくるでしょう。兄様の裏の者は兄様の命の守ることが優先の任務になりますね。という流れになる可能性が高いでしょう。私としては―…。」
と、フィルスーナは言う。
その後―…、フィルスーナは、自身の作戦と相手の動きの予測を伝える。その理由もはっきりと説明して―…。
それを聞いたリーガライドとアルスラードは―…。
「俺が大変なことになるのは分かった。それでも、俺が王族である以上、国を守るために、この命を使わないといけないからな。あ~、これ、絶対に怒られるやつだぁ~。」
と、リーガライドは気が重くなりそうな表情となり、それでも、明るく振舞うのだった。
「フィルスーナ。リーガライドにそのようなことをさせて良いのか。君の兄である以上―…。」
と、アルスラードは不安そうな表情をする。
その理由は、フィルスーナの言った言葉に、アルスラードは怒りの感情もあるが、それが一番、自分達の計画が成功し、ラフェラル王国を守る可能性が一番高いと理解してしまっているからだ。
「私としても、こういう作戦は取りたくはない。だけど、兄様は、普段からラフェラル王国を愛しているのです。そして、多くの国民を危険に巻き込みたくないとも思っているのです。だからこそ、自分の身をここまで傷つけることができるのです。愛国心なんて詐欺的な言葉を自分から実行できる人ですから―…。私の最悪の予想が外れて―…。」
と、フィルスーナは最後に言葉を詰まらせる。
これ以上は言えない。
これから起こることになることを思うと―…。
世界とは残酷だ。
時に、他者を犠牲にさせることを強いるのだから―…。
それを正当化して、自らが正義をなしたと思う者達がいる。
それを喜んでおこなう者たちがいる。
自分は犠牲になりもせずに―…。
その覚悟すらないだろう。
あるのは、人を利用して儲けて、自分の富によって膨れ上がることしか考えていないのだ。そのような人物を称賛するのは、そういう人物の本性を何かしらの方法で覆い隠されてしまっているからであろう。そうなってしまうと、それを暴くのはかなり難しかったりする。
そういう奴が権力を持っている場合は、なお潰すのが難しかったりする。場合によって不可能、これがゲームであれば、無理ゲーと言ってもおかしくはない。
フィルスーナは、なるべく犠牲になる者が少なくなることを望んでいる。犠牲の上で成り立っているのかもしれないが、望んで為したいとは思わない。
そのような奴らと一緒にはされたくない。
そして、そのことを理解できているからこそ、アルスラードはフィルスーナの方に寄り添う。
(一番辛い選択をしているのは、彼女だろう。そのことを知らない人間は、好き勝手言うかもしれないが、その時は―…。)
と、アルスラードは固く誓う。
もし、この選択に関して、好き勝手言って、フィルスーナを貶めようとしている奴らがいるのなら、そいつらを潰そうと―…。
愛する者を守るために―…。
一方、城の中。
とある薄暗い部屋の中。
ラフェラル王国の宰相であるファッグライドを含む、多くの貴族がいた。
そして、会議は始まる。
「では―…。我々の意向通り順調に、傭兵どもを使った反乱の準備は整っております。彼らは我らの意図を知る由もなく、反乱へとことを進めております。軍部の一部を味方にしたようですが、大したことではありません。軍事貴族の方はすでに我々の賄賂によって、買収済みです。商人の一部にも裏切り者はいる模様ですし、工業経営者の中にも―…。だからこそ、そこまで心配する必要はございません。」
と、報告者は言う。
彼にとって、ラフェラル王国がミラング共和国に併合されることなど、どうでも良い。利益になる方に付いて、その利益を得る方が大切なのだから―…。他がどうなっても構わない。
ラフェラル王国がミラング共和国に併合された場合、王族が助かるということはないだろう。今までの小国の併合の中で、支配者一族が生き残った者はほとんどいない。併合される前に逃げ出した者ぐらいだ。
彼は、これからの会議をのんびりと眺める。
「まあ、そのような展開になってもおかしくはない。というかなるべくしてなっているのだ。ミラング共和国に併合されて、責任を取らされるのは、王族のみであり、我々貴族は貴族のまま、生き残ることができるのだ。ミラング共和国に支配されようとも、ラフェラル王国の地を安全に支配するには、我らの力が必要なのだから―…。」
と、ファッグライドは言う。
その言葉は、未来において確実に実現されるものだと、ファッグライド自身、この会議に参加している貴族自身も思っていることだ。
腐敗していると、この会議を見ている真面の者なら思うことであろう。
だが、これから得られる利益という名の甘い蜜には、人の視野を狭くさせるという作用があるようで、そのことに気づかせない副作用が効いているようだ。
気づくこともないだろう。悲しきことに―…。
そして、彼らは、
『我らに永遠の益を、我らに永遠の幸福を、我らに永遠の繁栄を。』
と、唱えながら―…。
その言葉は、一種の宗教の信仰者が唱える章句のように―…。
何かにとりつかれてしまったかのように―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(104)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(12)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第三章の内容が動き始めてきました。
ということで、『異世界に救済を』の投稿の準備があるので―…。
では―…。