番外編 ミラング共和国滅亡物語(101)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(9)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国の併合を企むミラング共和国の対外強硬派政権。そんななかで、ミラング共和国の商人達からラフェラル王国へ流れる自国の製品の関税を撤廃するようにラフェラル王国に要請しており、多くのラフェラル王国の王族と貴族が賛成するのであった。だが、その中で反対していたのは王子のリーガライドであり、妹のフィルスーナとともに「緑色の槍」という傭兵隊のいる拠点へと向かい、そこの隊長であるアルスーラドと話し合った。その中で、フィルスーナはクーデターをしようと言い出すのだった。それは、ミラング共和国の対外強硬派も望むことであった。この陰謀渦巻く事態は、どのような顚末を迎えるのだろうか。
数日後の夜。
一人の人物が、組織からの連絡を受け、中で諜報している組織の情報を集める。
この人物は、普段からちゃんと仕事はこなしており、そうすることによって、諜報している組織から信頼を得て、より良い情報を自らが属している組織のために得ようとしているのだ。
理由?
そんなのは、諜報している組織の情報を、自分が所属している組織が欲しているからだ。
このような下っ端の諜報員に教えられる情報なんて、たかが知れている。
それに、バレた時には、見捨てることができるようにしているからだ。
そんななか―…。
(「緑色の槍」が反乱に加わる情報は伝えることができた―…。「緑色の槍」の弱点を探ることができれば―…、俺も―…。)
と、表情には出さないようにしながら、任務成功によって、自らが出世する姿を思い浮かべる。
そういう意味で、まだまだ詰めが甘いというべきであろう。
表情に出ていないとしても、自らの行動が監視されている可能性も存在していることを―…。
だけど、この人物が気づく時は―…、手遅れの時かもしれない。
「こんばんは!!」
と、一人の女性の声が聞こえる。
目の前に、本当に一人の女性がいるのだ。
その女性が着ている服は、隠密部隊が使うような全身を黒で覆うものである。それが女性のサイズにピッタリと合わされている。
ゆえに、この人物は、女性を警戒する。
今、目の前にいる女性が諜報組織の一員であるのを理解してしまうからだ。
あくまでも、女性の声だとこの人物が判断したのであり、この女性がそのようなことを言ったわけではないし、諜報組織に属していると言ったわけではない。
「一体、何の用だ!!!」
と、この人物は言う。
この人物が警戒していることにすぐに、女性は気づく。
(ビンゴ…、私の勘が告げているわ。)
と、女性は心の中で思うのだった。
勘で、相手を疑って、クロだと判断する。
そのようなことをすれば、裏の組織としての恐怖を与えることはできるであろうが、論理に適っていないので、周囲から同時に不満を抱かれるのは避けて通ることができない。
だが、実際に、この人物はクロである以上、この勘も間違っているわけではない。
それに付け加えるなら、この人物の目の前にいる女性は、諜報や謀略をおこなう組織の人間ではない。
「用? あなたの心の中にあるやましい気持ちに聞いてみたら―…。」
と、女性は言う。
その言葉に、この人物は―…、
(何を言っているんだ。)
と、心の中で、呆れてしまうのだった。
この呆れている感じは、表情に出したとしても問題はない。
なぜなら、周囲からこの人物を見たとしても、諜報員であることを怪しまれることはない。
そういう判断がすぐにできている以上、この人物が諜報員として、優秀であることは理解できるであろう。
そして、呆れながらも、すぐに反応することができる。
荷物を持っていないこの人物は、表情を無理矢理に変化させながら―…。
「やましい気持ちなどありませんし、あなたの方が「緑色の槍」への不法侵入者ということになる以上、捕まればタダでは済まないと思いますよ。」
と、この人物は言う。
心の中では、
(……何を言っているんだ。こいつは―…。まあ、不法侵入である以上、こういう輩は始末したとしても、問題はない。私はシエルマスの諜報員だとしても、「緑色の槍」の中では上司からの信用がある。何も問題はない。)
と。
そう、この人物は、シエルマスの一員である。
この人物がシエルマスに属すようになったのは、三年前であり、半年間の訓練の中で実力をつけ、一年前から「緑色の槍」の中へと、潜入していたのだ。あくまでも、「緑色の槍」に対する情報をシエルマスに伝えるためだ。
つまり、この人物から「緑色の槍」の情報が漏れているというわけだ。
まあ、一人だけで「緑色の槍」に潜入しているわけではない。
同じくシエルマスから「緑色の槍」に潜入しているシエルマスで知っているのは、もう一人だけである。この人物が知っているのは―…。
それでも、仲間の情報を吐く気はないだろう。なぜなら、そのようなことをすれば、確実に、見張っているとされるシエルマスの中のマネージャーに始末されかねないのだから―…。
シエルマスの中でマネージャーと呼ばれる者たちは、シエルマスの諜報員の任務の中で失敗した者、不要となった者を始末したりすることができる権限を持っている。
彼らは、ラウナンより天成獣の宿っている武器を与えられ、かつ、天成獣に選ばれた人物なのだ。
この人物のように、天成獣の宿っている武器を扱うことができない者にとって、敵う相手ではない。理由は簡単だ。それだけ、身体能力に差が出てしまうのだ。
それでも、かつてのグルゼンのような例外も存在するが―…。
そして、その人物は、「緑色の槍」の中で、上司からの信頼を得ている。理由、信用を得れば、上層部しか知らない情報を手に入れることができるからだ。ゆえに、聖人のように振舞うし、忠義のある人物のように見せるのだ。
「そうですねぇ~。普通だったら、私の方が怪しまれますが、あなたがシエルマスと繋がっていることぐらいの情報を得られるほどの―…。」
と、女性が言いかけたところで、すぐに、一瞬、女性は後退するのだった。
この人物は、女性のある言葉に反応して、すぐに、かき消すように攻撃をしてきた。手に、短剣を持ちながら―…。
それは、すぐに隠され、女性の方でも確認することはできたが、そのために声を出して言うことができなかった。別に切られたわけではない。証拠を提示しても意味がないと判断したからだ。
そして、攻撃を理由は―…。
(俺がシエルマスの人間だということを知っていやがる。始末するしかない。)
この人物は、心の中でこのように思いながら、すぐに、シエルマスで鍛えられた暗殺術を駆使して、女性の方へと素早く近づき、攻撃をしようとするが―…。
スン。
数秒後。
スン。
その繰り返しを五回ぐらいした後―…。
(なぜ、こうも簡単に避けられてる!!! 俺はシエルマスの中でも隠密や暗殺術では優秀な成績を修めているのに!!! この女、どこのスパイだ!!! シエルマス以上の謀略や諜報の組織があるはずがない!!!)
と、心の中で思いながら―…。
この人物は、シエルマスの訓練の中で、かなり優秀な成績を修めており、将来は上層部へと出世するのではないかと期待されているのだ。シエルマスという組織を維持するためには、優秀な人材は必要なのだから―…。いくらでも―…。
シエルマスという組織の性質上、どうしても諜報や謀略の過程でその存在が何かしらの要因でバレることがある。その時、諜報員が諜報および謀略先から処罰されるか、シエルマスが粛清をはかる場合がある以上、人材不足になりがちだ。情報を漏れないようにするということを優先しているために―…。
そして、この人物は初めて、自らが見てきたシエルマス以外の人間の中で、自分より素早い動きをして、攻撃が当たらない人間を見ているのだ。
どうなっているのだ!!! そのような疑問を心の中で抱きながら―…。
だからこそ、シエルマス以外にも、それと同等の諜報組織があるのかと、一瞬で思ってしまうのだ。
すぐに、その考えを払拭させる。
その理由は簡単だ。
シエルマスでの新人訓練の時の座学の時から耳にタコができるほど聞かされているのだ。
―シエルマスは、周辺諸国の中で、一番の諜報および謀略組織であり、我らを優れている組織も人間も誰一人としていない。異論など存在しない。任務を受けるようになれば分かる。我々の組織に属すことができるようになった者は最強であり、そうでなければならない。そうしなければ、シエルマスの中で消えるのみ―
その言葉を耳にタコができるほど聞かされたのだから、まるで、そう思っていても仕方ない。
それは少しだけ違う。
任務の中で、この座学の時に言われた言葉を何度も何度も確かめて、事実であるという結果になっているのを経験し、その逆はなかったのだから―…。
ゆえに、正解、正しいという妄想でしかない信仰を抱くようになったのだ。
人の言っている言葉に、本当の意味で正解であり、正しいという言葉など存在しないのだから―…。もしも、それを知っているというのなら、その人物の言葉の芯というものを探してみると良い。好都合なことばかりを言っていないだろうか。体を張って示したのだろうか。探れば分かるさ。
欺瞞に満ちていることを―…。
完全に正しいということを実際に、理解できていないのが、そうできないのが人間という生物なのだから―…。
さて、話を戻すと、この人物は、この女性の実力を目の当たりにして、始めての経験をしているというわけだ。
シエルマスが最強とは限らないということを―…。
「シエルマスなら、自分達のことが一番の謀略および諜報の組織だという自負を教え込まされ、そのように信じ込まされているよね。だって、シエルマスのトップにして、そのように思っているのだから―…。私の情報によると―…。」
と、再度、女性の言葉を言い終わらせることなく、この人物は攻撃する。
この人物は、無意識に感じた。
自らのアイデンティティーが崩壊する音を、この女性から発せされることを―…。
聞いてはいけない。精神にダメージがいくほどに効いてしまうから―…。
無意識は告げる。
それを伝える所有者から所有権を奪って―…。
体を動かすことによって、それを声にする。
その攻撃をも、女性は難なく避けるのだった。
(危ないわねぇ~。これはもう、一種の洗脳と言って良いのかしら―…。たぶん、ここから推測できるのは、シエルマスが周辺諸国の中でトップであり、それを否定する可能性のある言葉に対しては、無意識のうちに攻撃をするようになっている。それに、シエルマスに触れることも危険ということかな。だけど、動きはまだまだのよう。)
と、冷静に分析さえしている。
実際は、この人物がシエルマスと関わりがあるということと、シエルマスが周辺諸国でトップであることを否定する可能性のある言葉があると思われると判断すると攻撃するようになっているのだ。
前者は、この人物が分かっている意思で、後者は、無意識で―…。
ゆえに、攻撃する性質が異なっているのだ。
そして、女性は、この人物の動きをまだまだと思うのだった。
この女性、実は、諜報や謀略に関する部隊に入隊したことはないが、そういう訓練を自主的に積んだことはある。とある国の裏の者たちと接触した後に―…。
「そんなすぐ攻撃してくると、事実だと肯定していると思われますよ。」
と、冷静に言う。
この女性は、勘でも判断できるが、このように自分の推測が正しいことになる証拠を聞き逃すこともかなり少ない。逃す方が珍しいぐらいだ。
「何を言っているのか分かりません。我が傭兵隊に侵入した罪を私が裁いて―…。」
と、言いながら、再度、攻撃しようとするが―…。
「分かりました。」
と、女性は言いながら、すでに、この人物の後ろ側にいるのだった。
どうして、そのようになっているのかは、この人物にとっては理解することはできないし、できるはずもない。
そのような思考に辿り着くこと以上のことが起こっているのだから―…。
いや、終わりが―…。
「あなたの動きは―…。そして、さようなら。シエルマスの一員さん~。」
と、女性は言いながら、振り返るのだった。
その間に、この人物は、自らの心の中で思考することはできなかった。
思考する時間がなかったわけではなかった。
正しく、何も考える暇も与えずに、この人物の人生を終わらせたということである。
この人物は前に倒れていくのだった。
(……………近くに、シエルマスの任務を監視しているマネージャーはいないようね。まあ、諜報組織なんて、いつも人材不足ですから―…。それに、この人物から得られる情報はほとんどないでしょうし―…。)
と、女性は心の中で思う。
これで一仕事を終えたのだ。
そこを通りかかってくる人物が一人―…。
「フィルスーナ、まさか、こいつがシエルマスと関わり合いを持っているとは―…。相変わらずシエルマスは油断も隙もないというわけか。」
と、一人の人物の声が聞こえる。
この人物の言葉から、今回、シエルマスからのスパイを一人殺したのはフィルスーナであった。
「ええ、ダーリンの傭兵隊にスパイがいて、クーデターの作戦を失敗させるわけにはいかないから―…。」
と、フィルスーナは言いながら、笑みを浮かべるのだった。
そう、さっき声をかけてきたのは、「緑色の槍」のトップであるアルスラードのことである。
そして、フィルスーナはアルスラードに抱き着くのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(102)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(10)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
番外編の第三章はまだまだ続きます。
では―…。
明日(2023年6月30日)の投稿時間は、いつもの時間ではなく、夜を予定しています。