番外編 ミラング共和国滅亡物語(100)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(8)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国の併合を企むミラング共和国の対外強硬派。ミラング共和国の商人達が、ラフェラル王国にミラング共和国から流れて来る商品に対しての関税を撤廃するように要求。その要求は、ラフェラル王国の王族や貴族の中で賛成して受け入れられていた。しかし、王子の一人であるラフェ=リーガライドの反対により、実行に移すことができなかった。そんななかで、リーガライドは妹でありフィルスーナとともに、傭兵隊「緑色の槍」に向かい、アルスラードと話し合い、その中で、フィルスーナはクーデターをしようと言い始めるのだった。これは、ミラング共和国側、宰相側も望んでいることであった。
一方、ミラング共和国のシエルマスの本部では―…。
この三人の会話から三日後。
ミラング共和国の首都ラルネ。
その中の、シエルマスが拠点としている場所では―…。
「なるほど、王族の中の一人が反乱の可能性があると―…。」
と、この統領執務室の中で、部下からの報告を聞いていたラウナンは聞き返すように言うのだった。
すでに、フィルスーナの言っていることは漏れてしまっているのだ。
シエルマスの情報収集力を侮ってはいけない。
「はい、今回、クーデターの中心となると思われますのが、ラフェラル王国で、我が国の商品がラフェラル王国の中に入る時の関税を撤廃する要求に対して、反対している王族の一人ラフェ=リーガライドと思われます。彼が過去に所属していた傭兵隊「緑色の槍」も関わっているようです。」
と、報告者は告げる。
報告者は、シエルマスの一員から伝えられた情報を正確に、シエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレに伝える。
この言葉を聞いたラウナンは考える。
(「緑色の槍」か―…。過去のシエルマスの統領が痛い目に遭ったことのある傭兵隊か―…。あいつらは、諜報もおこなうことができる傭兵隊の中でもオールラウンダーな組織か。まあ、規模は大きくはない。だからこそ、気にする必要はないだろうが―…。念のため、ということはある。)
と。
僅かばかりでも危険を感じる可能性があるのなら、警戒しておくには越したことはない。
ほんの少しの油断が、自らの勢力にとって、致命的な望まない結果になることは十分にあり得ることなのだから―…。
そういうことを懸念しないというのは、ラウナンとしては有り得ない選択である。
「…「緑色の槍」に関しても、十分に監視しておくように―…。取るに足らない勢力であるが、場合によって、我々にとって脅威になる可能性があるのだから―…。」
と、ラウナンは言う。
ラウナンの言葉は命令であり、絶対服従で聞かないといけない。
「そのようにお伝えいたします。」
と、報告者は返事をして、消えるのだった。
シエルマスの中の、ラフェラル王国の担当に伝えるのだろう。ラウナンの指令を―…。
ラウナンは、さらに、考えるのだった。
(「緑色の槍」か―…。ラフェラル王国にいて、我らの味方をしないということは―…、確実に敵対してくることになろう。まあ、「緑色の槍」の中にシエルマスの一員がいることには一切、気づくことはないだろう。「緑色の槍」は所詮、傭兵どもの集まりでしかないのだからなぁ~。そして、次は、ラフェラル王国の併合に関しては、反対派の王子に反乱を起こさせて、軍事的介入をラフェラル王国側からミラング共和国に向かって軍事的介入をさせるようにお願いさせる。そして、その要請を受けて、ミラング共和国は議会でラフェラル王国への軍事介入への全員賛成で可決させるように工作する。可決後は、ミラング共和国軍を素早く編成し、ラフェラル王国へ軍事介入して、ラフェラル王国の反乱を鎮圧し、王子と「緑色の槍」の傭兵どもを見せしめに公開処刑にした後、………いや、その前に、戦闘で殺しても構わない。王子の死体から首から上のみを回収して、ラフェラルアートの中央広場に置いておくか。そうすれば、ミラング共和国に反乱を起こすような馬鹿な行為がどれだけ無謀なのかを示すことができよう。我々、シエルマスに逆らうことがどうなるのか―…。我々はこの地域において、最強であり、誰も逆らうことのできない一番の影の中にある組織なのだから―…。)
と。
ラウナンの歪んだ考えは、この五年と半年の間に、さらに増幅した。
理由は、失敗という経験をなかったことにして、成功という体験をより素晴らしいものとして美化したからだ。
いや、失敗という経験をなかったことにすることが完全に心の中でできなくて、成功という体験をより心の中で強調することで、自分のやっていることの正しさを無理矢理に自分の中で納得させ、正当化しようとしているのだ。
失敗はシエルマスの中で、時に、自らの破滅を意味するのだから―…。
そう、自らの命をもって償うというような感じで―…。
ゆえに、先のミラング共和国とリース王国との戦争で、ラウナンは戦争に勝利することができたが、グルゼンに敗北するという結果を招いたことをなかったことにして、グルゼンの始末が失敗したことなど過去に存在しないことにして、自分は失敗していないと無理矢理思うことで、自身の存在とシエルマスでの統領の地位の安定を望むのだった。
そのように務め、裏から人々を操って、自分のためだけに動く駒であることを他者に押し付けるのだった。
この歪んだが考えは、ラウナンが自らの命を落とすその日まで治ることはないだろう。
歪んでしまった精神を治すのには、かなりの労力と覚悟が必要なのだから―…。
一方、シエルマスのある本部の中。
そこの通路では―…、さっき、ラウナンに報告した者が歩いていた。
そして、彼が向かった場所は、東方担当室と呼ばれる部屋だった。
シエルマスは、ミラング共和国の諜報および謀略のための機関である。
そのシエルマスの組織は、東西南北と、国内担当という五つの部署に分けられている。
それは、自らが担当する地域に分けられている。ミラング共和国を中心として、東西南北の方角に分けて、その方角にある国を担当するという感じで決められている。
ミラング共和国の西側にあれば、西方担当ということになり、東側であれば、東方担当ということになる。
ミラング共和国内を担当する部署として、国内反体制担当というものがある。
そして、今回、ラフェラル王国に関することであり、ラフェラル王国はミラング共和国の東側にあるので、東方担当の役目というわけである。
(……………統領様は、完全に歪んでしまっているな。)
と、報告者は心の中で思うのだった。
この人物は、ラウナンに良く報告をおこなっているので、ラウナンがどういう状態であるのかを何となくだけど理解し、察することができるようになっていた。
それでも、詳しいことが分かるわけではない。
曖昧であるが、歪んでいる、機嫌が良い、とかそのような感じである。
ゆえに、どうしてそのようになっているのかまでは分かっていないということだ。
この報告者も、すでに、シエルマスに属すようになってから、十年ほどが経過している。多くの機関を諜報や謀略ではなく、報告者として歩んできた。
その理由は、彼自身の身体能力が高くはなかったが、それでも、機密をしっかりと守るという面で重宝されているし、かつ、運が良かったと言える。
シエルマスでは、五年も務めることができれば、十分にベテランと内部では分類されるぐらいに、人の出入りが多い組織である。
現在のシエルマスで最も長くいるのは、ラウナンであるが、次はこの報告者である。
なぜ、このように人の出入りが激しいのかと言われると、組織の目的からも推測できる者はいるであろう。シエルマスは諜報や謀略をおこなっている関係上、バレると捕まったりすることもあるし、それらが失敗するとシエルマス内部で、情報の漏洩を防ぐために始末されてしまうからだ。
それに、目的を達成したとしても、組織の情報および概要を掴まれないようにするために、その者を始末するということは過去にあるぐらいだ。
年間に、数百人が殉職しているという具合だ。
だからこそ、つねに人知れずに、人員募集をかけているのだ。
シエルマスに属すのは、特に、ミラング共和国の首都ラルネの貧困層であり、スラムに住むような者であり、暴力的な人間であったりする。
それなのに、シエルマスの統率が取れているのは、その組織の中で淘汰もあるが、統領という絶対的地位にある存在があまりにも強く、それを最初に、新人は理解させられ、屈服させられるので、嫌でも従うことになるのである。
要は、暴力で服従させ、規律で恐怖を刷り込ませ、忠実に任務をこなすことで敬意を払われ、出世することができるということだ。
これが原因で、シエルマスで生き残ることができる者は、組織のやり方に忠実になり、それを下の者たちに押し付けるのだ。自らの成功は、他者に押し付けることができる、という具合に―…。
そういう面があり、シエルマスは周辺諸国の中で一番優れた諜報および謀略機関として君臨して居られる。まあ、それが完全に保障されることはないだろうが―…。
そして、この報告者は、東方担当室に到着する。
部屋の中に入ると―…。
そこには、多くの黒い服で覆われた者が慌ただしく仕事をしていた。事務の者、諜報員たちの中でも上の者たちが―…。
「ラウナン様からの指令です。」
と、この報告者は言う。
その言葉を聞いた東方担当室のトップ、東方担当官首席のダウラーリ=フィックバーンが反応する。
「ディルマーゼ報告官か。ラウナン様の指令とは何だ?」
と、フィックバーンは言う。
フィックバーンは、二十代後半の年齢で若く、五年以上も勤めているベテランの域にいる者だ。
ラウナンも実力は認めている一人であり、天成獣の宿っている武器を扱うことができる者の一人だ。
見た目は、弱々しそうに見えるが、声は威圧的なものがあり、機転が利く人物である。
「ラフェラル王国と傭兵契約を結んでいる「緑色の槍」を監視せよ。そして、彼らの動きで重要なものがあれば、シエルマス統領であるラウナン様に報告を上げること。」
と、ディルマーゼは言う。
この指令は、ラウナンの言葉の中にある意図を理解した上で言っている言葉だ。
ラウナンは、ラフェラル王国と傭兵契約している「緑色の槍」をかなり警戒している。勢力としては大したことはないが、それでも、僅かばかりでもミラング共和国のラフェラル王国の侵略に対して、邪魔になる可能性があるのなら、監視して情報を集めておく方が得策である。
そして、同時に、ディルマーゼは分かっていた。
(ファブラと同様に、「緑色の槍」および関税撤廃反対派のラフェラル王国の王子に反乱を起こさせ、そこにミラング共和国軍が介入することで、征服しようと考えているのでしょう。グルゼンの師団に属していた者たちの数を減らすことはほとんどできませんでしたし、軍はなぜ女を出世させたのだろうか? 意味不明としか言いようがありません。)
と。
ラウナンの意図を完全に読み取れるわけではないが、ある程度を理解することができる。そうでなければ、シエルマスで生き残ることは到底不可能としか言いようがない。
そして、最近、気になっていると言えば、ミラング共和国軍の中で、なぜか、女性の軍人が隊長クラスに出世したということだ。名前はイルターシャであり、ディルマーゼにとっても不思議なことでしかない。というか、疑問にしか思えない。
ミラング共和国は、男尊女卑の考えが浸透している結果、女性が社会的な公職の地位で出世するのはかなり難しかったりするし、不可能としか言いようがない、と言ってもおかしくはない。
その理由をディルマーゼは一生、分かることはないだろうし、イルターシャという人物がどういう方法を用いて出世しているのかは、一切、知る由もないだろう。
そんなことを考えている中、シエルマスの東方担当の職員は、忙しくしていた。次から次に集まる諜報員からの情報を纏めており、重要な情報かどうか、真偽を確かめているのだった。まあ、それがこの部屋にいる者たちの大事な仕事であるが―…。
「そうか、「緑色の槍」か―…。規模はそこまでないが、今のラフェラル王国と繋がっている以上、監視は重要だな。我らの関税撤廃政策に反対している王子もかつて所属していたから―…。」
と、フィックバーンは言う。
このような会話がなされた後、ラフェラル王国のラフェラルアートの郊外に拠点を構えている「緑色の槍」を監視しているシエルマスの一員の監視数が増員されるのだった。
そのことに、「緑色の槍」の関係者は―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(101)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(9)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
2023年6月30日の投稿時間は遅くなるか、投稿しない可能性があります。いつもの時間には投稿することができない可能性があるので、念のため、時間を別にします。
では―…。