番外編 ミラング共和国滅亡物語(99)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(7)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を併合しようと企むミラング共和国。一方、ラフェラル王国では、そのような動きを警戒している王子のリーガライドは妹であるフィルスーナとともに「緑色の槍」の拠点としている場所へと向かい、その傭兵隊の隊長であるアルスラードと話し合うのだった。
「ふう~、兄様。拳骨はないでしょ。レディーに暴力を振るうなんて―…。人として最低です!!!」
と、フィルスーナは言う。
さっき、勝手に人様の家の食事を食べてしまったので、兄であるリーガライドによって拳骨を一発、見舞われることになった。
それは、リーガライドのシスコンの態度に、アルスラードが呆れているのが終わった後、アルスラードがリーガライドを正気に戻して、リーガライドがフィルスーナの無礼に怒ったからである。
「暴力も何も、人様の家の食事を勝手に食べるとは、無礼にもほどがある!!! 仮にも、俺らはラフェラル王国の王族である以上、国民の模範でなければならない。それを―…、自らの婚約者の家で、このような醜態を晒すとは―…。」
と、リーガライドの怒りはまだ続いているようだ。
リーガライドとして、こんな妹を嫁にいや、パートナーにしようとしているアルスラードの行動に、お前、大丈夫か? という気持ちを抱いてしまったりする。
リーガライドの思っていることは、ラフェラル王国の王族や貴族も思っていたりする。まあ、腹黒い計算をおこなわせ、自らの利益を最大化させたい王族や貴族らがそのようなことを言う気にはならないが―…。
「大丈夫だ。まあ、私の昼飯はなくなってしまいましたが―…。」
と、アルスラードは言う。
アルスラードも忙しいので、執務室で、食事をとることが多かったりする。
そして、今、フィルスーナが食べてしまったものが、アルスラードの昼食であったのだ。
そのため、アルスラードは、夕食の時間まで、食事をとることができなかったりする。
実際は、ちゃんと昼食をフィルスーナに横取りされたと言えば、代わりの料理を作ってもらえるが、そのようなことをすれば、食事当番に迷惑をかけてしまうので、そういうことをアルスラードはしたくないと、考えているからだ。
アルスラードは、こういう事務仕事の時は、あまり自己主張を激しくしないのだ。指揮官になると、かなり優秀でハキハキと喋るのであるが―…。
「………………………………すみません。」
と、リーガライドは謝罪するのだった。
(今度、美味しいところを見つけたら、アルスラードと一緒に行って、奢ろう。不憫でならない。)
と、リーガライドは謝罪しながらも、一緒に食事に行く時はアルスラードに奢ろうと心の中で決意するのだった。
たとえ、妹がやったことであったとしても、兄である自分が責任を取らねばと思っている。王族としての責務として、一族の恥は一族の誰かが―…。
まあ、妹を甘やかし気味であるが―…。
「アルスラードなら大丈夫。昼食を奪われたとしても、三日ぐらいは生き残っていけるぐらいの度量はある。」
と、フィルスーナは悪びれもせず言う。
その態度に―…。
ピキィ。
さすがのリーガライドもかなり腹を立て、フィルスーナのもとへ行き―…。
「どの口がそのようなことを言う~。たとえ、勝手知ったる仲であってもなぁ~、そういうところはちゃんとしないといけないだろうがぁ~、あ~、分かってるのかぁ~。」
と、リーガライドは言う。
それも、フィルスーナの頭部をぐりぐりしながら―…。
「痛い、痛いから~、グリグリは止めて~。さっき拳骨を食らって、これ以上、頭に痛みを受けたら、馬鹿になってしまう~。」
と、フィルスーナは抗議する。
理由は、グリグリされるのが嫌だからということと、勝手知ったる仲なので、こういうことをしても許してくれるという気持ちがあるからだ。
それでも、リーガライドは止めないだろう。
人様に失礼をはたらいている以上、反省させるのは自分の役目だと完全に認識しているからだ。
「頭が馬鹿になったら、しっかりと言うことを少しは聞いてくれるだろうなぁ~。」
と、リーガライドは言う。
言いながら、フィルスーナの頭をグリグリすることを止めない。
その光景をしばらくの間、見ることになってしまったアルスラードは―…。
(兄妹仲が宜しくて、結構ですねぇ~。)
と、慣れてしまっているのか、その間に、自らの職務を片付けるのだった。
数十分後。
「はあ……はあ………女性に暴力を振るのは、道徳に反することですよ、兄様。」
「これは残念ながら暴力ではない。躾けだ!!!」
この兄妹はまだ、言い合っているようだ。
リーガライドは、兄として、王族として、今の自分のおこなったことは正しいことであると自覚している。
人様の食べ物を奪って、食うなど、言語道断としか言いようがない。
なので、このように反省を促し、悪いことだと認識させることに間違いは一切ない。
ゆえに、フィルスーナの言っている言葉に反対するのだった。
暴力ではなく、躾けであることを―…。
そんななか、呆れてしまっているアルスラードは、仕事を終え、完全に自由な時間であるので、二人の馬鹿な争いを止めにするのだった。
「喧嘩をするなら、城の中でやってくれ。それよりも重要な事があるのではないか。昼食をフィルスーナに食べられてしまったことに関しては、気にしていないから―…。ということで、フィルスーナ、ラフェラル王国の中でのミラング共和国に共鳴している勢力はどんな感じですか? その対処法は?」
と、アルスラードは言う。
アルスラードは、重要な話でフィルスーナの意見を聞きたいとリーガライドが言ったところで終わっていたのだ。
ならば、フィルスーナの意見を聞くことが大切だ。
「うちの国の中でミラング共和国に共鳴しているの…。あ~、王族と貴族のほとんどはそんな感じ。貴族の多くは、うちの父親がミラング共和国に協力的だから、それに従っているだけに過ぎない。彼らも自らの領地を守るだけで、精一杯だからね。領民のことを思って―…。本当に、領民のことを思うのなら、ミラング共和国に反抗して欲しいけど、その行動も今の時点では馬鹿な行動にしかならない。悲しいことにね。」
と、フィルスーナは言う。
フィルスーナは、王国の事情はメイドから聞いたりすることもあるし、たまたまメイドの親や、執事の家族と話して聞くこともある。
その情報は、会話の中で漏れたものというべきなのが情報源となっている。リーガライドやアルスラードでは手に入れることのできない情報である。
そして、フィルスーナも領地貴族たちの行動に関して、ラフェラル国王であるファングラーデの意のままに従っている理由は何となくわかっている。
領地を守り、発展させていくのが領地貴族の役目である。
ゆえに、彼らは、それに忠実な行動をしているのだと―…。
だからこそ、今、ここで反抗的な態度をとるのは望ましくない領主貴族の行動に理解を示す。
そして、ここで付け加えないといけないことがある。
ラフェラル王国の貴族制度に関してのことである。
ラフェラル王国の貴族は、大まかに二つに分類することができる。一つはさっきも出たように、ラフェラル王国の中に領地を与えられている領地貴族。もう一つは、領地は与えられないが、王国から俸給をもらい、国政の事務を補佐する官僚貴族である。
これらの二つの貴族は、基本的に両者のことを恨んだりすることもあるぐらいに、仲はよろしくない。領地貴族は、自らの領地にとって得になることを望むし、不利になることは嫌う。ゆえに、中央集権のような政策よりも、分権政のような政治を好む。領主の権限の拡大の方が自分達にとって都合が良いのだから―…。
一方で、官僚貴族は、ラフェラル王国の王の権力が増長することを望む。王に雇われており、自らの権力を拡張させていくには、王の権限を強くしていく必要があるからだ。そのため、中央集権体制を好み、この面で地方に権力が移譲されていくことを好まない。
だからこそ、この領主貴族と官僚貴族の望む方向に違いが真逆であることにより、仲が悪くなっているというわけだ。それを上手く御すのがラフェラル王国の国王の役目の一つでもあるというわけだ。
今回、それができているのは、領主貴族の側が、官僚貴族の裏にいる危険な存在を嗅ぎとっているからだ。
その存在は―…。
シエルマス。
その存在がいるのを領主貴族は知っているし、シエルマスがどういう存在なのかを理解しているし、逆らうことが領主貴族にはできない以上、大人しく従い、嵐が過ぎ去るのを待つしかない。好機を窺いながら―…。
それに、領主貴族は領地を守ることが第一だから、勝てない勝負をして、自らの領主の地位を失うことは一族を路頭に迷わすことになるので、絶対に避けないといけないことだ。
その気持ちをフィルスーナは、理解できてしまうからこそ、彼らの行動に文句を言うことはできない。彼らが動こうとする機会を与えないといけないのだから―…。
領民というものを建前として―…。
「そうだな。」
と、リーガライドは頷く。
領主貴族という存在が、どういうことを一番にしているのかを知っているからだ。それに彼らが、自らの領地のために、一番良い選択肢は何かというのを考えての結果であることを理解しているからだ。
そう思うと、領主貴族を攻められなくなる。
「さらに、付け加えるのでしたら、貴族と王族のほとんどがミラング共和国のシエルマスという組織に飲み込まれてしまっていますが、軍部の方に関しては、完全に掌握できているというわけではないみたいだし、商人勢力や工業労働者勢力は取り込めていません。それに、この商人勢力や工業労働者の勢力はむしろ、今のラフェラル王国のミラング共和国への妥協的な態度には不満しか抱いていません。本当に、私と商店の奥様方と井戸端会議をすると、毎回、旦那がラフェラル王国に対する不満が出てくるんだよねぇ~。私、一応―…、王族なのに―…。」
と、フィルスーナは言う。
今、ラフェラル王国の中で、ミラング共和国に対して敵愾心を抱いている勢力は、商人のグループ、工業生産に携わっているグループだ。この二つのグループは、ミラング共和国にとって有利な関税が実現されると、対抗することができないからだ。
ミラング共和国とラフェラル王国の工業製品における品質はそこまで差があるわけではなく、そうなってくると価格差が重要になってくる。それに、ラフェラル王国の側は、これまで、ミラング共和国にとってあまりにも不利な状態にしていたわけではないし、周辺諸国も同様に、平等に扱っているのだ。文句を言われる筋合いはない。
そういう意味では、ミラング共和国は侵略に成功したという体験が、悪い意味でミラング共和国の政府首脳陣を狂わしているのであろう。
何となくではあるが、そのことに気づいてしまっている。
一方、ラフェラル王国の軍人勢力に関しては、官僚貴族もいるが、それ以外のたたき上げの将校たちはミラング共和国に対して、飲み込まれていないと言える。なぜなら、ミラング共和国が軍事的に危険であると認識しているからだ。
特に、ここ数年のミラング共和国の征服活動を見ていれば、嫌でも理解できてしまうのだ。
そんななか、リーガライドもアルスラードも、フィルスーナの話しを聞きながら、考え込むのであった。
(………まだ、チャンスはあるというわけか。だが―…、仮に反乱を起こすことになったとして、どれだけ軍部が味方になってくれるのか? いや、ミラング共和国の介入は避けられない。ラフェラル王国の王族や貴族の多くがミラング共和国に取り込まれている以上、介入要請をしてくるはずだ。ミラング共和国は、ファブラでこの介入を利用して、ファブラ内戦を鎮圧し、その後、交渉の過程で、脅したか何かをして、ファブラをミラング共和国に併合した。そう考えると―…。俺らが反乱を起こして鎮圧した後、そのような交渉になるはずだ。ミラング共和国は侵略に成功していて、勢いがあるから、どんな無謀なことでもやってくる可能性は高い。成功という体験が毒のような感じになって―…。ふう~、しっかりと考えて行動しないとな。たぶんだが、俺たちは―…。)
と、リーガライドは心の中で思っていると―…。
「こうなってきますと、私たちは、ギャンブルにでるしかありませんねぇ~。クーデターを起こして、勝利するしか、ラフェラル王国を救う方法はありません。」
と、フィルスーナは言ってしまうのだった。
その答えに、二人は驚くのだった。
その理由は、二人も頭の中では考えていたが、それを口に堂々と出して、言って良いものではないことを理解しているからだ。
リーガライドとアルスラードは、呆れるしかなかった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(100)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(8)~
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ふう~、次回で、この番外編一つで、100回も書いてしまうとは―…。
この番外編が終わる頃には、200回とか投稿してそうな気がします。
こんなにも長くなるとは想定していなかった。40回くらいだと思っていたのに―…。
では―…。