番外編 ミラング共和国滅亡物語(98)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(6)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ラフェラル王国を支配しようとするミラング共和国。そのなかで、ラフェラル王国の方では、ミラング共和国からラフェラル王国に流れてくる商品の関税を撤廃しようとするのだった。それに反対するリーガライドは、フィルスーナとともに、傭兵「緑色の槍」のある場所へとやってくるのだった。そこにいるあの方に会うために―…。
アルスーラド=クロマード。
傭兵隊、「緑色の槍」の現在の隊長である。
隊長に就任したのは、三年前ほどであり、先代からの指名による。
アルスーラド=クロマードは、三十近いが、童顔というわけでもなければ、厳つく、年齢よりも歳をとっているように見えるわけでもない。年相応の顔だ。
だけど、鍛えられているのは分かるが、ムキムキというわけではなく、戦うことに適した感じで鍛えられている。毎日、鍛錬を怠っていない証拠だ。
傭兵である以上、いつ戦争に従事するかもしれないということが分からないゆえに、準備を怠らないというわけだ。世界の情勢の情報収集と武器などの貯蔵、整備に関しては―…。
アルスラードの特徴に戻ると、イケメンというわけではないが、人を惹きつける感じのある魅力を持っている。それはカリスマ性と言っても良かろう。本人は、そういうことを自覚しているが、必要以上に使おうとは思わない。
アルスラードは、傭兵隊「緑色の槍」を運営していくことを今、大事にしているのだ。先々代に孤児であったのを拾われて、軍事訓練と同時に、勉学、あらゆる地方の見聞をさせられたことにより、いろんな人がいることを理解しているし、考え方が存在していることを理解している。語学も抜群である。
ゆえに、教養もあり、リーガライドともそういう会話ができたりする。
その見聞だけでなく、軍事的才能もあり、「緑色の槍」の中で出世していき、若手の中でトップの実力者になることができた。先代も、アルスーラドを可愛がり、いろんなことを教えてきた。
そして、先代が戦争で右足を失ったことにより引退せざるを得なかったので、引き継いだというわけだ。さっきも述べたように、先代の指名もあって―…。
アルスーラドに「緑色の槍」の隊長を勤めることに反対する者はいたが、それでも、彼ほどの実力があるわけじゃないので、結局、排除されて、アルスーラドがその職に就任することになった。
アルスーラド率いる「緑色の槍」はここ一年ほど、ラフェラル王国と傭兵契約を結び、いざという時のための首都防衛や侵略してきた軍に対して、先陣をきったりするような仕事を請け負っている。月額と同時に、戦功があれば、追加でラフェラル王国からボーナスが貰えるようになっている。
この一年間、周辺諸国からの侵略はなく、ボーナスも貰える機会はないという感じだ。
「緑色の槍」は、過去にもラフェラル王国と一時的な傭兵契約を結んでいたこともあり、ラフェラル王国の事情についても詳しい。
この傭兵隊は、この周辺地域の傭兵組織の中では、僅かばかりであるが有名であり、名が知られていたりする。
そんな傭兵隊の隊長とリーガライド、フィルスーナがこんなに親しいのか。
それは―…。
「リーがここに来たのは、ラフェラル王国の中で、不味い動きでもあるのかい。」
と、アルスーラドが言う。
アルスーラドは、リーガライドのことを略して、リーと呼ぶ。一々、リーガライドと呼んでいると、戦場で危険な目に遭ってしまう可能性がある。呼び名はなるべく短くしておいた方が命令をする上で、時間を省略することができるからだ。
戦場では、一分、一秒が生死を分けることがあるのだから―…。
そして、すでに分かっているかもしれないが、リーガライドは過去、「緑色の槍」という傭兵隊のメンバーでもあった。正規の―…。
このことは、ラフェラル王国では有名なことであり、今のラフェラル国王と貴族たちがリーガライドが後継者として頭角を現しているのを恐れて、傭兵隊の「緑色の槍」に入隊させたのだ。
その頃のリーガライドは、国王や貴族に反抗するヤンチャ坊主であったが、「緑色の槍」入隊後、前にも書いたが、大失敗をすることになり、その後、「緑色の槍」の中でも孤立するようになった。その時、一番の対立相手は、今の隊長であるアルスラードであり、それが半年ほど続いた。その後、リーガライドの方も反省し、「緑色の槍」の中でも有名な王族の土下座と言われる事件であり、そこからしばらくの間、リーガライドは馬鹿にされるのだった。
リーガライドはそこで、かなりの雑用をさせられることとなり、料理やら掃除などを覚えるようになったのは事実だ。その後、軍事的才能はほどほどにあり、軍事的活躍もするようになったが、それよりも目立ったのが交渉の才能であった。交渉に関しては、相手側の情報や意図を読む力が求められ、それに対する解決策というものが重要になる。
その才能があることで、次第に、馬鹿にされることはなくなり、「緑色の槍」の中でも、交渉させるならリーガライドを派遣すれば良いということになった。
そのせいで、ラフェラル王国の王子が傭兵隊で交渉役なんかやっているぞ、ということになり、それを知ったラフェラル王国は、今から二年前にリーガライドを呼び戻したのだ。ラフェラル王国の王子が前線で交渉をしているのは、王国の面子に関わると判断したからだ。
それから、リーガライドは王国の王子の一人として過ごすことになっている。
「あるな。ミラング共和国って、知っているか?」
と、リーガライドは尋ねるように言う。
「ああ、知っている。ここ最近、他国への侵略を繰り返している共和政の国家だな。あそこはシエルマスと、それと手を結んでいる対外強硬派が領土拡大を国家の方針としている。その結果、小国の三国、ファブラ、ヒッパーダ、アルセルダが征服されたという感じだ。内戦をシエルマスが扇動することによって征服する国に起こさせ、内戦を解決させることを目的に、軍事遠征で介入するという。小国では、ミラング共和国軍に太刀打ちできないだろう。それに、ファブラ侵攻以後、ミラング共和国軍の中には天成獣の宿っている武器を使っている者たちが増えたようだ。シエルマスも同様だろう。あの国、ミラング共和国は実態、シエルマスの統領ラウナン=アルディエーレが支配しているみたいなものだ。あの人物の意のままという感じだ。そして、今度はラフェラル王国を狙っているという噂がある。」
と、アルスラードは言う。
アルスラードは、傭兵隊の長である以上、周辺諸国の情勢を知っておく必要がある。表も裏も合わせて―…。
情報を知っているかどうかによって、傭兵隊「緑色の槍」の組織としての生存率に格段の差が生じることがあるのだ。
ゆえに、ミラング共和国の裏の情報まで知っていたりする。
そして、ミラング共和国の実質の支配者がシエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレだということも分かっている。
さらに、ラフェラル王国を狙っていることを―…。
「そこまで知っていて、ありがたい。俺としては、ラフェラル王国の中にも、ミラング共和国に通じる勢力が拡大しているのではないかと感じてしまう。」
と、リーガライドは言う。
こんな不平等な条約にも貿易協定を結ぶなんて、一国を守る国がするとは限らないからだ。まあ、歴史上、実際にそのような選択をして、国を弱体化、もしくは協定を結んだ国に従属化させるということになった話は枚挙にいとまがない。
そのことは歴史を勉強すれば、十分に分かることだ。
何故、彼らはミラング共和国にとって優位になるようなことをやろうとしているのか?
疑問でしかない。
「だろうな、リーガライド。ラフェラル王国の中にも、ミラング共和国のシエルマスと通じてしまっている貴族はいるようだ。王族はそういうところを避けていたようだが、ここ数カ月前からそのような傾向が見られなくなった。ある筋によると、ミラング共和国の中で流行っているアマティック教の教主が王族を洗脳したのではないか…と。だけど、アマティック教の教主がラフェラル王国に入ったという情報はどこにもない。どうなっているのか、原因が掴めないでいる。俺の方としても―…。」
と、アルスラードは言う。
アルスラードの収集した情報の中では、ミラング共和国のシエルマスが貴族の一部に取り入って、いや、彼らを意のままにしているのは分かっている。裏の情報屋には、ゴロゴロと転がっているし、商人達もかなりミラング共和国を警戒しているようだ。
ミラング共和国に支配された領地にも商売で行ったこともあるかもしれないからこそ、その支配の実情というものを肌身で感じているのだろう。その言葉には、実際に見てきたという感じの雰囲気が感じられたのだから―…。
さらに、ミラング共和国では、アマティック教が流行っているという。いや、流行らされているという感じだ。
アマティック教の教会がミラング共和国にたくさん建設されて、どれも豪華なものであった。さらに、ミラング共和国の支配に関して、絶対に逆らえないようにしている。建物の豪華さに関して補足すると、その建設のための資金は、無理矢理住民から徴発した税金がふんだんに注ぎ込まれているという。
アマティック教は、この五年と半年の間、対外進出を図るようになっているが、それでも、ミラング共和国のように勢力を拡大できているわけではない。
ミラング共和国のシエルマスの拠点になっていることは確かだ。アマティック教の教会が、シエルマスの拠点となっているのだ。各地の―…。
ラフェラル王国にも、アマティック教の教会があるが、その建物は豪華ではなく、質素なものである。目立つと、何か勘繰られる可能性があるからだ。
勘繰られると、自分達のしようとしていることがバレて、妨害される可能性も存在するからだ。そうなってしまえば、計画に支障が出るのは避けられない。
それを望むはずはない。シエルマスも、ラウナンも―…。
そして、アマティック教の教主は、アルスラードの言う通り、ラフェラル王国に入国したことは一度もない。なぜなら、アマティック教の教主イルカルは、ミラング共和国の首都ラルネにいるか、ミラング共和国の郊外に出るぐらいしかしないのだから―…。
その様子を人に見せないようにしている。
その様相を簡単に四字熟語で言うのなら、酒池肉林。まさに、この言葉がぴったりという感じだ。
それ以上に、言うことがない。
なので、アルスラードの予測は正しい。
だけど、アルスラードは、録音機をミラング共和国が持っていることを知らない。録音機を作れる技術はこの周辺諸国にはないし、手に入れるのも困難だ。知らなくてもおかしくない。
それを通せば―…。
もう、言いたいことは分かるだろうが、この答えに関しては、後々、分かってくることなので、ここでは言及しない。
「そうか―…。肝心なところが分からず仕舞いということか。こういう場合は、フィルスーナの知恵でも借りるとするか。で、フィルスーナ……。」
と、リーガライドはフィルスーナの意見を聞こうとする。
リーガライドはフィルスーナのいる場所に視線を向けると、そこで―…。
「何、食っているんだ。」
と、リーガライドは、フィルスーナにもう一つ、目の前で起こっていることを尋ねるのだった。
「いや~、ここに、美味しそうなものがあったので、食べていました~。」
と、フィルスーナは答える。
「………………………………。」
「………………………………。」
リーガライドとアルスラードは呆れるしかなかった。
アルスラードの方も、フィルスーナの方へと視線を向けているのだった。
そう―…。
「何、人様の家で食べ物があるからと言って、勝手に食べてるんだよ!!! 本当に済まない!!! もう、この馬鹿妹との婚約も解消して大丈夫だからな!!! 今すぐ、しろ!!!」
と、リーガライドは怒りながら言う。
リーガライドは、アルスラードに謝っているが、その中で、自分の要求もしっかりと入れるのだった。
フィルスーナは、アルスラードと婚約している。
いや、無理矢理フィルスーナの方が王族や貴族に認めさせたのだ。
それに、こんな行動的な王族の娘をお嫁さんとして欲しいか、という一方的なあまり表現が宜しくない考え方をしている人々にとっては、フィルスーナは欲しくない。
制御できないからだ。
そのことが分かっている以上、王族もフィルスーナの貰い手はないということを考えていて、だからこそ、渡りに船で、アルスラードとの婚約は好機だったのだ。
アルスラードが率いる傭兵隊、「緑色の槍」と縁を結ぶことができれば、永続的に危険な戦闘では「緑色の槍」が使え、自軍のダメージを極力減らすことができるという思惑もあるのだ。
そのような理由を、フィルスーナもリーガライドも、アルスラードも理解している。
上流層の結婚なんて、家同士の腹黒い計算に基づいておこなわれるものよ。そこに愛などのようなものが入る余地はない。入ることの方が稀かもしれない。
そんななか、フィルスーナは珍しく、自分の好きな人と結婚できるので、恵まれているのかもしれない。
そして、リーガライドは自覚していないが、これでも、若干のシスコンを患っており、以上のような貴族や王族の腹黒い計算によって承認されていることを理由に、婚約の解消を狙っているのだ。どうしようもない理由であるが―…。
妹のフィルスーナが御嫁に行くことは、何かこ~う、感情の中で―…。
例えるのなら、娘をお嫁さんに出したくない父親の気持ちのそれである。
「いや……、リーガライド―…。君もそろそろいい加減、妹離れした方が良いと思うよ。」
と、アルスラードは呆れるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(99)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(7)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ということで、『水晶』の番外編第三章の主要人物が登場したということです。
まあ、ここから話は進んでいくと思います。
ミラング共和国の欲望に上手く対処することができるだろうか。
次回の投稿日は、2023年6月27日頃を予定しています。
では―…。