番外編 ミラング共和国滅亡物語(95)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(3)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
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(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国はラフェラル王国を征服しようと企むのであった。その中で、ミラング共和国の商人が、ラフェラル王国に、ミラング共和国から流れる商品の関税を撤廃しようと王国に画策し、ラフェラル王国は多くの者がその意見に賛成するのであるが、一人の王子は頑なに反対するのだった。
「つまらないことを言う。このミラング共和国側の要求は、至極当然のものであろう。」
と、ファングラーデは言う。
その言葉に、リーガライドの方が呆れるのだった。
呆れない方がおかしいと周囲に思わせるぐらいに―…。
「さっきも言いましたが、ミラング共和国と我が国の今回の関税撤廃は片務的なものでしかありません。ミラング共和国から我が国へと流れる商品に対しての関税撤廃であり、我が国からミラング共和国へと流れる商品に関する関税撤廃ではありません。不公平としか言えないし、このようなことを許せば、周辺諸国も同様の要求をしてきます。最恵国待遇を与えろとか、そういうことを言ってきます。そのようなことになれば、我が国の交易経済はガタ落ちしてしまうのは目に見えています。国力が弱れば、ミラング共和国にとって、我が国を征服するのに都合が良いだけです。彼らは、三つの小国の併合という成功体験で、増長しています。だからこそ、一つでもミラング共和国にとって利することは認めるのは避けた方が良いです。これは、我が国を守るために必要なことです。お分かりください。」
と、リーガライドは言う。
ミラング共和国の商人たちによる横暴な要求を受け入れるわけにはいかない。今の交易でも、十分に双方にとって利得があるのは確かだ。裏の人間をミラング共和国の有力商人の中に潜り込ませているが、そこから得られる情報から、彼らの収支が赤字になっている者たちは少ないどころか、征服した国から搾取することによって大幅利益を得ており、黒字なのだ。
そのことをリーガライドは理解できているからこそ、ミラング共和国の商人の要望を絶対に受け入れるべきではない。さらに、国力がダウンすれば、ミラング共和国にとって得になって、ラフェラル王国の損になることは分かりきっているのだ。
そんなことを普通の感覚というか、ラフェラル王国に関係している人であれば、そのような選択を選びはしない。
だけど、彼らの多くは、このような選択をすることをまるでやるべきことだと認識している。
(………やっぱり彼らは、自らの益のために、ラフェラル王国に住んでいる人々の安全を売るつもりか。その益に溺れてしまっているというのだろうか。王も貴族も含めて―…。)
と、リーガライドは心の中で悲しむ。
リーガライドは、愛国心というものは教育されるべきものではなく、自らの行動によって周囲に示すべきものであることを理解している。愛国心とは何かを上から強制的に教える気はない。
なぜなら、国の中に住んでいる者を本当の意味で守っていることを行動することによって示すことが重要であり、かつ、そのために必要なことを学び続けることも重要であるからだ。口だけでは、誰も説得することができないと理解しているからだ。
心の中で思っていることでもあるが、相手国の意図というものを理解したとしても、自分だけの益のために動くことが本心であり、その他がどうなっても良いと思っている今の王族や貴族の奴らのようにはなりたくないし、彼らの判断を嘆くのであった。
リーガライドは知っている。こういう自分の益のための奴らが声を大にして、愛国心とはこうだの、自分を大きく見せるために過激な言論を繰り返したりと、目立つことばかりはするが、国を守るための地味なことに関しては、何も関心を示すことなく、さらに、自らのミスに関して、本当の意味で反省せず、同じことを何度も繰り返す。
だからこそ、今の王族や貴族を見ながら嘆き悲しむし、感じの良いことしか言わない。いや、受けの良くないことを言いながら、自分だけは得をしたりするようなことを平然としたりするのを見て、腹立たしい気持ちになる。
「リーガライド。お前はなぜ理解することができない。ミラング共和国は今、勢いのある国だ。その国を敵に回して、良いことなんてあるのか? そんなことあるわけがないだろ。お前ほどの者が!!! リーガライドの意見によって、我が国の国民を不幸にすることに、責任を持てるのか?」
と、ファングラーデは言う。
ファングラーデは、どのような選択をすることがラフェラル王国にとって、都合が良いかを理解している。ミラング共和国に従属するようなことになったとしても、ミラング共和国の首脳部と繋がっていれば、ちゃんとこちらに恩恵があるのは分かっている。
それに、ミラング共和国の官僚の人数だけでは上手く、ラフェラル王国を支配できない以上、結局、ラフェラル王国の貴族および役人の力を借りないといけなくなることを想定している。
この時、ラフェラル王国の住民がどのような扱いを受けるのか、というのは想定の中に入っていない。そこがリーガライドとファングラーデの違いであろう。
そして、力を借りないといけない以上、そこにラフェラル王国の意見を組み込むことができるということだ。そこへ組み込めれば、王族も貴族も、役人も将来は安泰というわけである。
それに、戦争で戦ったところで、戦死するのはラフェラル王国の住民であるし、戦死者が増えれば増えるほど、負ければ負けるほど、戦死者の遺族が王族や現体制に対する反乱を起こすかもしれない。
そのようなことになれば、信頼を回復することはできないであろうし、最悪の場合、王族は全員処刑場で首を括らされるという結末を迎えるのだ。
ファングラーデはそのことが嫌だし、そのような責任を取りたいとは思っていない。無責任かもしれないが、その方が死者を出さない以上、結局、得なのだ。
ミラング共和国に支配された人々がどのような扱いを受けているのかというのを、知らないわけではないが―…。少しの犠牲で済めば、ラフェラル王国の損害は少なく、建て直すのも早かったりするのだ。
そういう読みを抱きながら、今回のミラング共和国の商人たちによる要望を受け入れるのであった。
そのことによる不利益に対するリターンはちゃんと、王族のファングラーデの中に入ってくることになっているのだが―…。
どんな綺麗事を並べたとしても、自分の命が可愛いのだ。一国の王であろうが―…。
「責任を持つ、持たないことを議論しているのではありません。ミラング共和国に支配された三国は、軍事行政官たちによって悲惨な生活を、そこに住む住民は送らされているのです。時には、餓死者や、耐えられず反乱を起して、捕まり、殺される者たちもいるそうです。そのことを考えると、ミラング共和国と対立および対決することになったとしても、将来のラフェラル王国の繁栄のために、ミラング共和国の商人たちによる要望は受け入れるべきではありません。たとえラフェラル王国の王が賛成するものであったとしても、今回の件に関しては譲る気はありません。」
と、リーガライドは言う。
リーガライドの言っていることは犠牲者がかなり出る可能性もあることである。それは認めないといけないことである。
それに、リーガライドだって、なるべく犠牲者が少ない方が良いと思っている。ラフェラル王国に住んでいる人々は、自分が守るべき存在だと認識している。
ゆえに、この関税撤廃問題で悩まなかったことはなく、悩んだ上で、ラフェラル王国にとって、本当の意味で国益となり、住民たちの将来の利益になるのは、ミラング共和国の商人たちの要求を断ることである。
ラフェラル王国の商人の多くも、この関税撤廃の片務的であり、ラフェラル王国にとって、不利になることは明らかであり、商売あがったりで不満しか残らない。ミラング共和国から輸入してラフェラル王国で売ることを基本としている商人ぐらいしか儲けることはできないであろう。
工業の面では、不満しか残らないだろうが―…。
そして、ミラング共和国に支配された三つの国では、かなり酷い扱いをされており、死者すらも出ている。リーガライドが集めた情報の中では、アマティック教とか言う良からぬ宗教が蔓延っており、彼らに反抗する者は殺されるという噂すら流れている。その噂が事実であることも把握している。
だからこそ、リーガライドは絶対に、ミラング共和国の要求は受け入れるべきではないし、たとえ、戦うことによって犠牲者が出たとしても、戦わないといけない相手であることは分かっている。
それに、リーガライド自身―…。
(私が主導している以上、私自らが前線に赴かなければ、我が国民に示しがつかない。)
と、今のこの場でも、何度も何度も心の中で言葉にする。
リーガライドは、言い出しっぺが命を失ってしまうことを命令したとしても、安全な場所でのほほ~んと自分だけが助かるようなことはせずに、自分自身も命をかけるぐらいのことをする気でいる。
自らが範となってしっかりと国を愛するとは何なのかを示さないといけないと思っているからだ。
ゆえに、責任を持つ、持たないという言葉だけでなく、行動によってちゃんと形にした上で、示そうとしているのだ。リーガライドは―…。
そのリーガライドの意図を理解できないのか、ファングラーデは、
「責任を取る、取らないが関係ないなどとぬかすな!!! 責任が取れない者の意見など聞いてられるか!!! ファッグライド宰相!!! お主の意見は!!!!」
と、怒鳴るように言う。
リーガライドの言葉の中で、一番頭にきたのは、責任を取るか、取らないか、である。
物事をなす以上、成功もすれば、失敗もする。
ゆえに、そのことに対する責任を取ることがファングラーデにとっては重要だ。責任を取る者がいなければ、誰も信用しないし、失敗した時、自分が責任を負わされると思っているのだ。
現実は、大きな問題でもなければ、王という地位にいる者がその身分を失うことはないのだが―…。その可能性を少しでも出さないために、要注意しながら、自身の地位に固執し、責任から逃れようとするのがファングラーデである。
リーガライドの方も、自らが失敗した場合の責任を取らないと思っているわけではない。過去に、責任を取るような失敗を犯したこともある。そして、責任を取ることがどういうことなのかも知っている。
ゆえに、責任を取るとか取らないとか、安易な口だけの言葉は言わないようにしている。
言葉は相手に何かを伝えるためには重要だが、行動を伴わなければ、誰も動いてくれなくなるということだ。
責任を取って以後から、周囲の信頼を得るための日々は、簡単なことではなかった。
その日々も知っているからこそ、責任を取るとは余計に言えなかった。
別に、リーガライドは無責任な人間ではない。責任の取り方というのは失敗した時の仕方によって、決まるのだから―…。重ければ重いほど、その責任は重くなり、取る方もより重いものになる。
そして、リーガライドはここで責任を取るという言葉を偽りでも言えば、この場にいる者たちは納得はしないが、良いように利用できると思ったことであろう。
そのことも理解した上で、リーガライドは言わなかった。
そして、同時にファングラーデは、自らの懐刀であり、宰相であるファッグライド=インペンスに意見を聞く。
「ファングラーデ王、私としては、王の意見に賛成でございます。我が国の富に目が眩んでミラング共和国はこのような要求をしているだけに過ぎません。それに、ミラング共和国が我が国を支配することはできません。簡単なことです。我が国は大国であり、国の広さも、遠国であるリース王国と変わらないぐらいの規模です。リース王国は先の戦争で、ミラング共和国に敗れたとしても、ミラング共和国が支配することができたのは、リース王国の一部の領土だけであり、後は和平で解決されました。ゆえに、リーガライド様が言っていることは、空論でしかありません。リーガライド様は、あの忌まわしき傭兵隊に属したがゆえに、傭兵隊の活躍のために、戦争の危機を煽っているだけでございます。本当に悲しいことです。」
と、ファッグライドは言う。
まるで、その動作すべてが演技であるかのように―…。
だけど、誰もがそのようなことに気づいていたとしても、指摘する者はいない。
ここにいる者達全員が、ファッグライドとファングラーデからの恩恵を受けており、二人の人物の意見を聞くだけのイエスマンなのだから―…。
リーガライドは悔しい思いもしてしまうが、それでも、この会議に出られるのは王族であるからのみだ。
ファッグライドは続ける。
「ゆえに、リーガライド様は、暫くの間、この会議には出席されないことが宜しいでしょう。反省していただくという意味で―…。」
と。
その後、リーガライドは、ラフェラル王国の会議への出席が禁じられることになった。
リーガライドは、その決定を聞いた時、かなりの悔しさのあまり、その表情を見せてしまうのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(96)~第三章 傲慢も野望が上手くいくことも長くは続かない(4)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
昨日、体調を崩しましたが、何とか外を歩けるぐらいには回復しました。
なんで、あそこで体調が崩れたのか疑問に感じています。
精神的なものなのかなぁ~、と考えてしまいます。
ご迷惑をおかけしました。
何とか、『水晶』を投稿していきたいと思います。
読んでくださっている皆様、本当に感謝の念しかありません。
どうか、『水晶』、『この異世界に救済を』、『ウィザーズ コンダクター』をよろしくお願いいたします。
では―…。