表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
44/745

第28話-2 神と王は対立する

前回まで、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、リースの競技場の近くまで来た後、見て、そして、近くで今夜からの宿について話し合うのであった。

 リースの競技場から少し離れた場所。

 瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、悩んでいた。

 「今日からの宿はどうしようか?」

と、礼奈は尋ねながらも考える。

 瑠璃、李章、礼奈は、異世界で一度も一泊より多くの宿泊をしたことはなく、宿泊に関してはアンバイドが手配していたのだ。

 「まあ、お前らの今日の宿泊となると、俺が用意した資金では何とか足りるかもしれないが―…。特訓するための広場が必要となる。特にそれを合わせてある宿泊所がいい。」

と、アンバイドは言い始める。

 続けて、

 「しかし、そうなってくると、数は少ないし、それに料金は膨大な額になる。さすがの俺も、これからのことを考えるとな~。」

と、頭を悩ませるアンバイドであった。そう、瑠璃たちが特訓するということになると、それなり広さの訓練場などのような場所が必要なのだ。つまり、それなり、大きな旅館やVIPが泊るような宿泊所でなければならなくなる。そうなると、宿泊料金自体の単価が高くなってしまう。

 ゆえに、悩むのだ。もし、リースにある城のような場所に泊まることができるのならば、さらに、リースの王家との縁で城に泊まることができるのならば―…、そうすれば、特訓する場所と宿泊するところを一気に確保することが可能だ。

 しかし、現実はそんな甘くはなかった。

 結果として、修行できるほどの広さがあり、かつ宿泊できる安い宿は一切見つからなかった。

 ゆえに、

 「修行なしだな。ぶっつけ本番となるが、とにかく負けそうであれば、降参することだ。」

と、アンバイドは言う。そう、修行をやめざるをえなかったのである。今日の夕方にでもしようとしたのが―…。そして、瑠璃、李章、礼奈、クローナは、修行なしに明日を迎えなくてはならなくなったのだった。


 瑠璃たちがリースに着いた日の夜。

 リース近郊にある場所。

 「いよいよ明日か。なあ、ヒルバス。」

と、ランシュは月を眺めながら言う。この廊下からは、ちょうど月が見えているのだ。

 「はい。ランシュ様。月が奇麗で、明日以降はきっと青という寒さを感じさせる色とは反対のものでたくさんになりましょうか。」

と、ヒルバスは言う。その表情は、楽しいそうな顔というわけではなく、あくまでもやるべきことであるという信念が感じられるものであった。

 「間接的な表現でえげつないことを言うなぁ~、ヒルバス。でも、明日以降は、ベルグのために最高の時間稼ぎといこうか。」

と、ランシュは、最後のほうで声を高らかに大きくするのであった。そう、自らの勝利を確信し、ベルグの時間稼ぎなど無意味で、心配するほどのものではないことを―…。自らが瑠璃、李章、礼奈(三人組)を討伐してみせようということを考えて―…。


 翌日のリース。

 宿泊所から出てきた瑠璃、李章、礼奈、クローナ、アンバイドは、昨日下見をした競技場へと向かっていた。

 今日から行われるのだ。ランシュが催したゲームが―…。

 (今日は、ランシュって人を倒して、ベルグの居場所を―…。)

と、瑠璃は心の中で思う。ベルグに会い、現実世界の石化を解く方法を聞きだすために―…。すでに、ランシュが現実世界の石化をしたのがベルグであると認めたから―…。あの三・四日前のルーゼル=ロッヘの近郊の森の中で―…、招待状とともに―…。

 (だから、私は―………、このゲームに参加して、絶対に勝つ。ランシュという人たちに…。)

と、瑠璃はそう心の中で呟いた。自らの決心を確固たるものにするために―…。

 一方で、李章は、表情を強張らせ、

 (倒しにいきます。)

と、多くを言葉にせず、心の中の呟きに多くの意味と強い意思をのせた。

 礼奈もクローナも真剣な表情であったことは言うまでもない。

 そして、

 (さて、いかせてもらいますか。俺の本気と奥の手をださずに済めばいいが―…。もし、ださねば勝てないのであれば、このときは素早くそうするか。)

と、アンバイドは心の中で言う。そう、アンバイドは、自らの復讐(目的)のために、競技場へと一歩を踏み出しながら決意したのであった。


 その後、瑠璃たちは、競技場の入り口にいる守衛に止められ、ランシュからの招待状がだすと、すぐに案内されるかたちで競技場のなかへと入っていった。

 そして、競技場の中の中央にある戦闘領域(バトルエリア)の前で止められる。

 「ここで、時間になるまでお待ちください。これで私たちは失礼します。」

と、案内をした守衛の一人が言って、元の場所へと戻っていった。

 「ありがとうございます。」

と、礼奈と李章はお礼を言った。それに続いて瑠璃とクローナが守衛の一人に向かってお礼をした。

 アンバイドは、守衛の一人が去るのを確認しながら、辺りを警戒する。

 (競技場でのゲーム…。たぶん、中央の舞台である戦闘領域(バトルエリア)内での戦いとなる。こっちとしては、二対二のような複数で一気に戦うほうがいい。そうすれば、こいつら四人の実力をまだまだとしても俺一人でカバーできる。あとは、運のみということか―…。)

と、アンバイドは心の中で呟きながら、複数で一気に戦う戦闘方式であることを祈る。そうすれば、確実にアンバイド自身の力で相手を大量に倒すことが可能であり、瑠璃、李章、礼奈、クローナが倒されることによる負けを回避することができる。そう、アンバイドが最もここで嫌ったのは、一対一による戦いであり、その勝利の数で判定されるものであった。ゆえに、ランシュがどう来るのかがわかっていないことが心配の種でもあった。

 (私は―…、とにかく守るべき人を守らなければ―…。)

と、李章は心の中で呟く。自らにとって大切な人を守りたい。ただそれだけだ。このランシュの催すゲームであったとしても―…。


 そして、時間は過ぎていった。

 そう、ゲームが始まる時間まで―…。

 その中で、ランシュが企画したゲームが何なのかを見たさに多くの人々が競技場に集まってきていった。それは、時間がゲーム開始時刻に近づくほど、競技場の観客席は埋まっていった。そう、円形の競技場は、中央の舞台である戦闘領域(バトルエリア)以外に、それを囲うように、観客席があるのだ。観客席は、戦闘領域(バトルエリア)よりも高い位置にあり、戦闘領域(バトルエリア)から離れるほど順々に高くなっていた。そう、スタジアムなどの観客席のように―…。そして、観客席は、ゲーム開始時間になる頃には、満杯といっていいほど、席が埋まっており、一番上のほうでは、立ち見もでていたほどだ。

 なぜ、彼らがここに集まっているのかというと、一週間前ほどから、ランシュが騎士同士の対決を今年はせず、自身のゲームを今日からおこなうことをリース中に布告したのである。

 当初は、リースの人々にとって戸惑いしかなかった。なぜ、あの盛り上がる騎士同士の戦いを今年は止めてしまうのか、と疑問を感じていた。その疑問が解決されることはなかったが、ランシュの企画したゲームがどんなものであるかを、どんなものかを見てみたいと思い、競技場に来たというの大勢であった。ゆえにどうなるのか、というのが気になったのである。

 そして、ゲームの開始時刻となる。

 競技場に集めっている人々は、ゲームの開始時刻となり、ざわざわする。

 何が始まるのだろうか、と。ワクワクと期待とを―…。

 そんななか、一つの声が、

 「みなさま、ご静かに―…。」

と、大きな声をして聞こえた。

 その声を出した主は、競技場にいる人々に向かって言うのだった。現実世界におけるマイクが異世界にないが、競技場中に聞こえるようにすることができるものがあった。それは、この競技場だけにはるか昔から備え付けられている上空にある結界であった。この結界は、競技場内のすべてに、中央の舞台の声が伝わるようになっているのだ。そのために、一つの声が、観客席のすべての人および瑠璃たちにも聞こえた。

 そして、その一つの声の言葉によって伝わるのだ。まるで、静かにしなければいけないかという雰囲気を観客席にいる誰もが共有していき、実行しなければならないかように―…。

 観客席が静かになるのに、数十秒程度の時間を要した。

 結果として、誰もがこれからランシュ企画したゲームがどのようなものなのかと集中して見るようになった。

 そして、

 「では、みなさん、お待たせしました。ご登場してもらいましょう。では、登場してください。」

と、観客席を静かにするように言った人が言う。そう、彼はこのゲーム進行の役割を担う、司会者であったのだ。

 そして、司会者の言葉を聞いて、上段にある貴賓席に一人の少女とその従者と呼ばれる人たちが現れた。

 現れた一人の少女に対して、観客席の誰もが、

 『セルティー王女、セルティー王女』

という、大きな声を上げた。そう、喝采しているのだ。

 セルティー=リースという人物は、リース王国では王女であるのだ。ただし、女王という君主の位についているわけではない。そう、まだ即位していないのだ。

 (ランシュ!! あなたは何を企んでいるのですか。私の父を殺して、実質上国を乗っ取ってもまだ満足しないのですか。)

と、セルティーは心の中で、ランシュの目的について考える。セルティーにとって、ランシュは父の敵である。そのランシュはセルティーの王である父を殺した後、王制を維持しながら、セルティーを即位させずに、実権をリースの王家からほとんど奪ってしまったのだ。それも、リースの人々のごく一部にしか知らないほどとし、リースの市民に漏らそうとした者を始末するほどに―…。

 そして、

 「セルティー王女。ゲームの企画者であるランシュ様のお前をお呼びください。」

と、司会者は言う。

 (……何を企んでいるのかわかりませんが、ランシュ、あなたの好き勝手にはさせない!!)

と、セルティーは強い意思をもちながら、心の中で呟いた。

 「我がリース王国―…、騎士にしてその団長、ランシュ!!!」

と、セルティーは言う。その目は、ランシュに対する最大限に警戒している鋭さのあるものだった。

 「はい、セルティー王女。」

と、セルティーに聞こえないが、近くいる者には確実に聞こえるように言う。

 そのような言い方で続け、

 「リースの王制は、そろそろ終わりにしないとなぁ~。()()()()()()()()のために―…。」

と、ランシュは言う。そして、ゆっくりと競技場の中央へと向かって進んでいった。

 ランシュは数歩を歩き、中央の舞台へと自らの姿を観客にさらした。

 ランシュは、手をあげ、観客席へと向かって手を振る。それは、自らが英雄であるかのように振る舞う。

 競技場の観客は、拍手喝采でランシュを迎える。そう、応援や敬愛に近い感情を抱くような気持ちを乗せて―…。

 その次第に、沈黙とざわざわというこれからの期待に変わっていった。

 「セルティー王女。ゲームの前に少しだけ余興でもしましょうか。」

と、ランシュは言う。不敵な笑みを観客席に気づかれないように浮かべながら―…。

 「余興とは何だ。」

と、セルティーは言う。ランシュに向かってはセルティーが王族であるためか、セルティーは敬語を使うことはなかった。自分と臣下であるランシュとの身分の上下を形だけでも示すために―…。

 このセルティーの言葉もランシュには聞こえていた。セルティーははるか昔に作られたこの競技場だけで使用できる丸いものを持っていた。それは、握った者の声が、競技場の中のすべてに響き渡るということだ。その原理についてはわかっていない。ただ、わかっているのは、この競技場でのみ使え、リースの王家に一つしかないということだった。

 「行け。」

と、ランシュは、声は小さいがはっきりと言う。

 そして、ランシュが中央の舞台へと出てきた場所から影が一つ出てきた。それは、目にも見えない速さで駆け、セルティーがいる貴賓席へと向かって行った。

 「!!」

と、セルティーは気づく。

 そう、何かがこちらへと向かって来ていたのだ。

 「気づくのが遅いですよ。セルティー様。」

と、一つの影が言う。

 「この声…、ヒルバスか!!!」

と、セルティは一つの影の正体を言う。声で気づいたのだ。影から聞こえた声がヒルバスであることを―…。

 「ご名答!!!」

と、ヒルバスは言う。

 言うと同時に、セルティーの護衛の一人がヒルバスの蹴りの攻撃を受ける。

 「ガァッ!!!」

と、攻撃を受けた護衛の一人が倒れる。

 そして、一秒も経過しない時間のうちに、さらに護衛の一人を蹴りだけで倒した。

 ほんの数秒で、セルティーの護衛のすべてがヒルバスによって倒されたのである。

 この状況を見たセルティーは、ただ、動揺するしかなかった。

 (私の護衛が、こうも簡単に全滅するなんて!!)

と、セルティーは心の中で呟くしかできなかった。それほど、セルティーにとってありえなかったのである。護衛といっても騎士としての特訓を積み、実力を認められている者たちでのみ構成されていたのだ。それが、こうもあっさりと全員が倒されてしまったのは、セルティが見る限りで初めてのことであったから、なおさらだった。

 ヒルバスはすぐにランシュの後ろに控えるように戻った。

 それを、見て確認したランシュは、セルティーの方を向き、

 「セルティー王女。どうですか、ヒルバスの実力は?」

と、挑発するようにセルティーに質問するランシュであった。

 この光景は、観客に動揺を広げるものであった。観客は今何が起こっているのか理解できていないのだ。貴賓席近くにいた観客は、衛兵が一瞬で倒されたことを知っている。ただし、誰によってなされたかまでわかっていない。言葉から推測して、ヒルバスという人が何かをしたのではないかということぐらいだ。観客の同様は収まることはなかった。

 そして、ランシュはさらに(ほう)るのである。動揺を拡大する言葉を―…。

 「セルティー王女。」

と、言いかけたところで言葉が返ってくる。

 「ランシュ!! お前は一体私の護衛に何をした!!!」

と、セルティーは怒り込み上げながら言った。冷静を保ちながらであるが―…。そう、セルティーは、自分の護衛がヒルバスによって簡単に倒されたことに対して、怒りしか感じなかった。セルティーの父を殺してリースの実権をほとんど奪ったにもかかわらず、まだそれでも満足せずに今度は王国をも自らの手中にしようとしているのか? と。つまり、セルティーは、

 (リースに対する反逆か? ランシュ!!)

と、心の中でランシュのさっきの行動をリース王国への反逆であると、自ら結論を下す。

 「セルティー王女も気づいているでしょう。私、ランシュが何をやりたいのか。ええ、言いましょう。私は、リース王族からリース王国を奪うことを―…。そして、それは、腐り切ったこの国の王たちからリースを解放せんがために―…。」

と、ランシュは言いながら、そして、声を大きくして、

 「リースへの革命をここに宣言する!!!!!」

と、宣言した。


第28話-3 神と王は対立する へと続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


捕捉:リースの競技場の中央の舞台について。中央の舞台は円形になっていて、その中央に戦闘領域(バトルエリア)があります。中央の舞台の直径は100メートル前後あります。戦闘領域はだいたい直径50メートルというところです。さらに、中央の舞台と観客席の最も低いところの段の差は、5メートルあり、観客席のほうが中央の舞台よりも高くなっています。

捕捉をうまく説明できなかったところに関しては、反省していきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ