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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
436/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(90)~第二章 ファブラ侵攻(23)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラの内戦は終了し、ファブラを事実上併合することに成功したミラング共和国では凱旋式典がおこなわれた。

その一方で、フィンラルラードとウォンラルラードは、軍に捕らえられているのだった。その中で、ファルケンシュタイロの欲望を満たすための残酷なことがおこなわれ、ウォンラルラードは命を落とすのだった。


 フィンラルラードはやっと言葉を取り戻す。

 (…………ウォンラルラードがこうも簡単に殺されたぁ~。まあ、私は何でもできるから大丈夫だけど―…、万が一、万が一のために剣術での勝負は避けるべきだ。)

と、心の中で考える。

 フィンラルラードは、認めたくはないが、心の奥底では認めてしまっているのだ。

 ファロネンズには、剣術で勝つことができないし、勝てなければ、自らのウォンラルラードと同じ道を歩むことを―…。

 そんな道を望むはずがない。

 フィンラルラードの中にあるのは、これからファブラの統領となって、ファブラを自分の思い通りに支配することであり、鉱山資源の輸出によって得られる利益で、優雅で、豪華な生活を送ることである。

 そして、フィンラルラードは自身が優秀であり、何でもできるという妄想に囚われており、そのことに満足しさえしているし、そこから解放されることを拒む。

 解放されれば、自身の無力さというものに気づいてしまうのだろうか。

 心の奥底では気づいているのかもしれない。

 それに気づいたら最後、自身というものが崩壊してしまう。心の中であるが―…。

 「さて、次はフィンラルラード……お前の番だ。だが、剣術というものでお前と勝負をしたりはしない。ここは一つ、別の勝負はどうだ?」

と、ファルケンシュタイロが言う。

 ファルケンシュタイロとしては、絶望は十分に与えているし、フィンラルラードの視野はすでに狭くなっていることを理解している。

 ゆえに、ファルケンシュタイロは、再度、フィンラルラードの希望という名の絶望への餌を与えることだ。

 フィンラルラードに関して、何が得意かをラウナンに聞いた時、返ってきた言葉が―…。


 ―リット=ファブラ=フィンラルラードさん? ですかぁ~、……………彼は私が集めた情報によると、小さい頃から周囲の人間に甘やかされたことですかねぇ~。リット=ファブラ=フィンラルラードさんは、何かにつけて優秀というふうに言われて育てられたのですが、実際は、何も特技やら得意分野を見つけることができなかったという哀れな存在のようです。周囲もリット=ファブラ=フィンラルラードから悪い印象を貰いたくなかったのでしょう。その父親からしたら、困ったものでしかないが―…。これで宜しいでしょうか、ファルケンシュタイロ様―


 そのラウナンの言葉を信用している。

 ラウナンは、自らが一番であることを大事にし、それは表立ってではなく、裏で操り人形にしているということで―…。

 そのことを完全ではないけど、そこそこ理解しているからこそ、ファルケンシュタイロは今の場合、自分に嘘を吐くことはないだろうという確信を持てた。

 それに、ラウナンは実際、ファルケンシュタイロにさっきの言葉で嘘は一切、吐いていない。吐く必要がないからだ。

 そして、ファルケンシュタイロは、これからフィンラルラードとゲームをしようと考えるのだった。

 「これからゲームをしよう、フィンラルラード。」

と、ファルケンシュタイロは言う。

 その言葉を聞いたフィンラルラードは、

 「私は昔から、周囲からは優秀だと評価されたのだから、どんなゲームをしても負けることはないよ。だけど、ゲームというからには、勝った場合の私のメリットは何だい?」

と、言う。

 のんびりとした一言であり、ファルケンシュタイロも十分に聞き取ることができたが、それでも、ゆっくりであったため、イラつきを感じたりした。早く話せ!! という感じで―…。

 「メリットかぁ~。まあ、俺に勝つことが一回でもできれば、フィンラルラード、貴様をファブラの統領に推薦してやろう。俺の推薦を受けたのなら、ファブラの統領にすぐにでもなれることは確かだ。俺は、ミラング共和国の中でもかなりの権力を持っているのだからなぁ~。」

と、ファルケンシュタイロは条件を提示する。

 まあ、フィンラルラードが万が一、勝つことは有り得ないと、ファルケンシュタイロは思っている。

 だからこそ、「勝つことが一回でもできれば」ということを平然と言うことができる。

 仮に、フィンラルラードが勝ったとしても、ファルケンシュタイロは言いがかりをつけて、ズルをしたから勝てたのだとフィンラルラードを責め立てることであろう。

 つまり、このゲーム自体が、フィンラルラードの敗北が決まっているかのようである。まさに、決まった未来であり、運命であるかのように―…。

 さて、話を戻し、ファルケンシュタイロは、フィンラルラードから提示されたフィンラルラードにとっての今回のゲームのメリットに関して、である。

 ファルケンシュタイロは、フィンラルラードをファブラの統領にする気はない。ファブラという国は、ミラング共和国に併合されてしまっているのだから―…。

 ファブラのトップは統領でなくなっているし、統領という役職もなくなってしまっている。ミラング共和国からの軍政官がトップとして、旧ファブラの領土を統治していくことになる。そこに関わるのは、ファブラの鉱山採掘利権を持っているクロニードル家の関係者である。

 ゆえに、フィンラルラードの望むファブラの統領という役職は存在しないし、勝っても意味はないのだ。

 そういうことを知らずにいるフィンラルラードは、今、第三者で、冷静に見ることができる者がいれば、フィンラルラードのことを馬鹿にするであろう。なぜ、そんなことにも気づけないと―…。

 人という生き物は、得られる情報がなければ、判断を下すことができないし、経験というのもまた得られた情報にすぎないと考えれば、結局、知ったことによってしか判断を下せないのなら、与えられない情報に対して、どう判断すれば良いのだろうか。

 フィンラルラードが馬鹿で、愚か者であることに合意はするが、自らという存在もまた、そのようになる可能性をしっかりと考慮に入れておかないといけない。

 考慮に入れない、それこそが、油断であり、傲慢であることの証左であろう。

 「分かった、私はファブラの統領になるために存在しているのだから―…。ゲームを受けるよ。」

と、フィンラルラードは言う。

 そして、ゲームのルールが説明されるのだった。

 「さっきの真剣を使うものではない。例の物を用意しろ。」

と、言うと、手で押すことができる車輪付きのテーブルが一つ運ばれてくる。

 そこには、大量の武器が積まれている。

 「この中には、一つだけ天成獣の宿っている武器がある。天成獣を知らないようだから説明しておくと、その天成獣に選ばれた者は、人よりも優れた力を手に入れることができる。フィンラルラードがファブラの統領となって支配するようになったら、確実に必要なものとなろう。自分に逆らってくる者を容赦なく潰すことができるし、言うことを聞かせることができる。この武器はかなり珍しく、それを扱える者は世界にごく僅かしかないそうだ。つまり、俺と勝負し、天成獣の宿っている武器を引き当てることができれば、勝てるのだ。簡単だろ。」

と、ファルケンシュタイロは言う。

 ファルケンシュタイロにとっては、確実に、勝てる戦いなのだ。

 理由は、フィンラルラードが天成獣の宿っている武器を引き当てることができないということではなく、引き当てたとしても扱うことはできないと判断しているからだ。

 まあ、完全に、フィンラルラードが天成獣の宿っている武器が扱えないとは限らないが、それでも、今回に限ってはない。理由はすでに決まっているから―…。それは、後にわかることになるので、ここでは割愛する。

 (天成獣~、それが宿っている武器を引き当てれば―…。)

と、フィンラルラードの中で希望を抱く。

 フィンラルラードは、自分が優れていない存在だとは思っていない。優れていると思っている。

 天成獣の宿っている武器を引き当て、扱いこなすことができれば、このような今の惨めな思いをしなくても済むと考えているし、アーレイを殺したラウナンをも従わせることができると思い―…。

 「私は、周囲から常に優れていると言われているからね。運も良いから、一発で天成獣とやらが宿っている武器を引き当て、その力を簡単に扱ってみせるよ。」

と、フィンラルラードは言う。

 その言葉を本気で、そう思っているのは、フィンラルラードのみであり、他のファルケンシュタイロの部下たちは嘲笑さえ浮かべている。

 こいつは何て馬鹿なんだろうか? という具合に―…。

 その理由は、ここにいるファルケンシュタイロの部下たちは理解することができている。物凄く簡単なことだ。

 意地悪い性格であるということをヒントにした上、用心深いということを考えた上、自らが確実に負けないようにするため、ということのいずれかを疑うことができれば、答えにいたる可能性は高い。

 知れば、フィンラルラードは絶望するだけだが―…。

 どちらの絶望を選ぶか、ということになりそうだ。

 「そうか、そうだと良いな。」

と、ファルケンシュタイロは皮肉を言う。

 ファルケンシュタイロにとって、今、フィンラルラードは獲物に過ぎない。これから起こることのための―…。

 「じゃあ~、もう始めても良いんだねぇ~。」

 「ああ、構わん。」

 フィンラルラードはすぐにでも始めたかった。

 希望に対して、耐え忍ぶほど、疑うほどの気力を持ち合わせていない。持ち合わせるわけがない。自らが正しいと思えることは、絶対に正しく、実現されるものなのだから―…。

 一方で、ファルケンシュタイロにとっては、いつ始めても結果というものは変わらないので、いつ開始しても変わらない。ならば、良いタイミングで希望を抱いたフィンラルラードがゲームを開始してくれれば良い。

 フィンラルラードは、車輪付きのテーブルに置かれている大量の武器を見ながら、武器を選択するのだった。

 それは―…。

 (へぇ~、運が良いのは事実だなぁ~。)

と、ファルケンシュタイロは心の中で思う。

 フィンラルラードが手に取った武器は、天成獣の宿っている武器である。

 その武器は、一メートルも刃の長さのない剣であり、柄のところに何の獣かと分からないが、そのような獣の柄が彫り込まれているというものである。

 そして、フィンラルラードはその当たりを引いたのであるが―…。

 (あれ、何か反応があるものかと思ったけど、全然、反応がない。天成獣の宿っている武器とは、触れたからと言っても反応のない類のものなのかな。まあ、これで目の前の偉そうな軍人を倒せるはずだ。)

と、フィンラルラードは心の中で思う。

 天成獣に関する知識は、さっきのファルケンシュタイロの説明ぐらいしか知らない。ファブラという国の中で、天成獣に関するものを知っているのは、ダライゼンぐらいだろう。彼は自らが天成獣の宿っている武器を扱うことができる関係上、知っておく必要があったからだ。そのような理由のためである。

 この異世界の世間一般では、天成獣という言葉は知らないのが常識であり、知っている人間は確実に少数派となる。まあ、そういう人々を超常的な人間という扱いをしていたりするし、能力者だと勘違いする人もいる。

 さて、フィンラルラードを武器を選び終え、ファルケンシュタイロへと向かって剣を構え、ファルケンシュタイロに斬撃が可能な範囲に入ると、すぐに剣を振り下す。

 ズン!!!

 という、音がなってもおかしくはなかったが、それは空振りに終わるのだった。

 「!!!」

 そのことに気づき、フィンラルラードはビックリするのだった。

 動揺と言っても良い。

 ファルケンシュタイロがどこに消えたのかを探そうとすると、手に握っている剣がヒュルっと空気に置き換わるような感覚に襲われる。

 フィンラルラードはその感覚で一瞬の間、硬直してしまう。

 それは結果として隙となる。

 「残念ながら、ここにフィンラルラードが扱える天成獣の宿っている武器はない。この武器の中にいる天成獣は、俺を選んだのだからなぁ~。」

 そう、フィンラルラードが持っていた剣は、ファルケンシュタイロがファブラの侵攻の後に、手にした武器なのだから―…。報酬の一部として―…。

 そして、今のファルケンシュタイロの言葉を考える暇もなく、フィンラルラードは剣を構えたファルケンシュタイロに真っ二つに左、右に体が割れるように斬られるのだった。

 フィンラルラードの意識は真ッ白になり、そして、生の終わりを迎えるのだった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(91)~第二章 ファブラ侵攻(24)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


残酷な最後を迎える人が多い、第二章ですが、それでも、何とか残りは次回と次々回だけとなりました。今週の2023年6月11日の投稿で完成すると思います。

第三章は、第二章よりも長くなりそうな予感だらけです。

気持ちが沈んでしまう回は完全ではないけど、残酷なエンドには第三章ではあるのかどうか分かりませんが、第二章より悲惨になるかは、読んでもらった人の判断になると思います。私自身としては、第三章ビターエンドみたいな感じになる予定です。書いてみないとどうなるかを完全に言うことはできませんが―…。

2023年度中に、この番外編が終わるかは、かなり怪しくなってきています。終わらない可能性が高そうです。今年の目標に設定したのに―…。

『ウィザーズ コンダクター』の第10部まで仕上がることの可能性の方が少しだけ高いけど、終わる確率は高くない。第9部は確実に仕上がると思いますが―…。

こんな感じとなっている、近況です。

『この異世界に救済を』に関しては、そもそも3000文字ぐらい想定して書こうとしましたが、最初から5000文字越えとなって、最近は1000文字~4000文字ぐらいの間を行き来していました。次回、2023年6月10日の投稿分は久々に5000文字ぐらいの投稿となります。

これぐらいかな。

では―…。

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