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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
431/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(85)~第二章 ファブラ侵攻(18)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラで内戦が発生し、どうにもいかなくなったファブラの統領フィブルはミラング共和国に救援を要請する。ミラング共和国側は軍をファブラへと派遣し、首都のリンファルラードで内戦を起こしているアウトローの鎮圧をしていく。それは成功する。

その後、ファブラとミラング共和国の交渉の中で、ミラング共和国は事実上の併合の要求をし始めるのであった。

 フィブルは警戒する。

 ファルケンシュタイロの笑みからは、恐怖を感じてしまうものであることを理解しているからだ。

 笑みという恐怖は、フィブルの心に怯えを植え付けるが、フィブルは自らがファブラの統領であるという意識が何とか耐えさせる。

 「しかし、ミラング共和国側の介入が我が国の併合しようというのは理解しましたが、私たちにとってはファブラ国のトップには統領がいて、歴代の統領が鉱山労働者と上手く関係を築くことによって、何とか国を維持しているのです。ミラング共和国側にそのようなノウハウがあるとは思えないし、それに、ミラング共和国がファブラを併合した場合、周辺諸国がミラング共和国を警戒して、交易に悪い影響が出るに決まっています。だからこそ、ミラング共和国はファブラを併合せずに、ファブラから報酬を貰うのが一番、ミラング共和国にもファブラにとっても都合が良いことではないでしょうか。」

と、フィブルは言う。

 フィブルとしても、自身の言っていることに間違いはない。

 なぜなら、ファブラをミラング共和国が併合した場合、周辺諸国が黙って、ミラング共和国のこのような行為に従うとは思えない。

 ファブラが小国であるからこそ、周辺諸国もお互いに自制を働かせて、ファブラへ進攻せず、ファブラから鉱物資源を輸入することができたし、鉱物資源を採掘するために必要な資材や人材に対して、投資する必要がなかった。特に、鉱物資源の採掘において発生する、鉱毒に対する対策を―…。

 だけど、ミラング共和国側は、鉱物資源の採掘に関する知識はないと思えるし、鉱山労働者がミラング共和国に味方するとは思えないし、ソフィーアのクーデター以後、鉱毒による被害が再度、発生しているのだ。

 そのような情報をミラング共和国側が知らないということは有り得ないことであろうと、フィブルは推測した。

 ならば、ファブラを併合しないようにして、報酬を貰った方がミラング共和国にとっても利益がある。それに、フィブルもマイナスの益を被らないということだと思っている。

 勿論、ミラング共和国側もそのようなことは理解している。行政側の役人たちは―…。

 だけど、理解していない。というか、鉱物資源の輸出による利益に目が眩んでいる対外強硬派の有力者の一人にそのデメリットなど関係ない。実際に、鉱物資源を採掘するのは自分ではないし、自らは鉱物資源を輸出したことによる利益を自身の懐に入れたいだけなのだ。鉱物資源の採掘によるデメリットなど関係ないというか、見る必要もないことだと認識している。

 利益というか、自分達にとって益となるものが目の前にぶら下がっていると、簡単に、その益の方しか見えなくなり、そのことによる不利益というか、周辺への悪影響というべきものが見えなくなるのだ。こんなに簡単に視野狭窄に陥るのだ。見事に―…。

 そして、そのような益を欲している人物に権力があり、視野狭窄に陥り、かつ、自らの利益しか望んでいないような場合は、最悪としか言いようがなく、下からの自制をも無理矢理に排除してしまうので、最悪の結果へとまっしぐらということになりかねない。

 人の世の中とは、時に、理不尽なものだ。

 どこに彼らの考える合理的なものがあるというのか。

 いや、そもそも分かっていない、比較すらできないことを、さも、比較できるように言っているのだから、傲慢としか言いようがない。

 さて、話を戻すと、鉱山労働関係のノウハウをミラング共和国側は持っていない。そこは、併合したファブラの鉱山労働者を使うのだろう。自分達の言うことを聞く。いや、無理矢理に聞かせるという方法で―…。

 未来は完全には不確定にならないでも、完全に運命のごとく明確になっているわけでもない。

 それでも、明確であるかのように感じるのだ。

 まさに、ファブラを併合して、自らにとって素晴らしい未来、明るい未来があるような感じしか見えないようにさせる。実現していると思う。

 だけど、そのような完璧に素晴らしい未来も、明るい未来も訪れるわけではない。そのようにするためには、大変な労力を要するのだ。実現できないというケースがほとんどだ。

 そして、ファルケンシュタイロは、自らの属する対外強硬派の目的を達成させるために動く。

 「まだ、そんなことを言うのか。周辺諸国が怖いから、ファブラを併合しない方が良いだと!! 笑わせるな!!! 俺らミラング共和国軍はなぁ~、先のリース王国との戦争で勝利するほどの軍事力を誇っている。これが分かるかぁ~。つまり、俺らはこの地域で一番の強国とされるリース王国の軍事力よりも上だということだ。周辺諸国を恐れる意味はない。つまり、俺らの要望はすべて実現できるということだ。分かったか、大人しく、我々の案を受け入れろ!!! 内戦を起こした時点で、お前なんか統領でも何でもないんだ!!! ファブラは俺らミラング共和国に任せて、大人しく余生を過ごすのが賢明だろ!!! まあ、統領の息子二人はすでに、俺らのところに身柄はある。その意味、分からないわけがないだろ!!!」

と、ファルケンシュタイロは言う。

 最後の言葉は、フィブルがもしも、ミラング共和国側の要望に従わない場合、どうなるのかということを示すためだ。

 ファルケンシュタイロにとって、相手を脅すということはそこまで苦でもなく、罪悪感も抱かない。抱く必要はない。ファルケンシュタイロは、人を拷問することが何よりも好きだからだろう。というか、希望を抱かせて、絶望の淵に陥れることに快感を感じるのだから―…。酷い人間だ。

 そして、ラウナンの方は、恐怖で顔を顰める。

 (…………………………………。)

 言葉にできないほどの絶望。

 心の中においてさえも―…。

 だからこそ、ラウナンの考えていることを地の文で書かせるのなら、絶望であり、思考停止である。

 いくら一国のトップであったとしても、自らの後継者候補であり、自身と血が繋がった子どもである以上、情が湧かないわけがない。ただし、湧かない者もいるだろうが、フィブルはそういうわけではない。

 情と同時に、親としての息子二人の安全じゃないことを感じ、どうすべきかという思考を見失ってしまっていた。

 国を守るためなら、息子二人を切り捨てるしかない。そうすることで、国を救い、一族から別の統領の後継者を作れば良い。それに、今後、このような事態である以上、そうなっていくだろう。

 だけど、息子たちの命を切り捨てられるほどに、冷酷な人間ではなかった。

 「どうすれば、フィンラルラードとウォンラルラードは助けてもらえるのでしょうか?」

と、フィブルは涙を流しながら請う。

 結局は、国ではなく、二人の息子の方を選択した。

 ファブラの国の者がそれを知ったなら、フィブルのことを非難するだろう。

 なぜなら、国を守らず、家族をとったのだから―…。

 だけど、フィブルの事情を考えると簡単に非難することはできないであろう。非難する権利は十分にファブラに住んでいる者たちにはあったとしても―…。

 人という生き物は、自らが分かっている事情において、判断を下し、選択しているのか、時間という制約の中で―…。

 ゆえに、完全な情報を集めた上で、判断を下しているわけじゃない。そのことを理解しないといけない。

 そして、ここで敢えて言うのであれば、フィブルの家族をとった選択は最悪の失敗をもたらすことになるのだ。人の裏というものを考えないといけない。

 家族という存在は重要な基盤になることもあれば、枷になることもある。

 そして、今、枷となっている。

 「それは、簡単だ。リーナルの言うことを聞けば分かるだろ。」

と、ファルケンシュタイロは言う。

 ファルケンシュタイロは、もう十分にフィブルを絶望させることができたと感じ、後のことは交渉担当のリーナルに任せれば良いと判断するのだった。

 「ありがとうございます。ファルケンシュタイロ様直々に、素晴らしい交渉をさせたところに、私の未熟さを感じます。これからも精進していって、ファルケンシュタイロ様のように素晴らしい交渉をおこなえるようにしていきたいです。では、フィブル=ファブラ=フォンメルラード様、私が言うことはすでに、最初に提示した通りです。ファブラ国の統領の地位をフィブル=ファブラ=フォンメルラード様からフォルマン=シュバリテ様、ミラング共和国の総統へ譲渡していただくことと、ファブラ国が所有する鉱山はクロニードル家に移すことにサインしてください。それと、その他、諸々に関しては、ミラング共和国側が請け負います。それに周辺諸国への対策も、鉱物資源採掘に関する投資もこちらでおこないます。ひいては、フィブル=ファブラ=フォンメルラード様には、ミラング共和国のフォルマン=シュバリテ総統に会談していただきます。」

と、リーナルは言う。

 これで、ミラング共和国側の要望の全てが受け入れられたということになろう。

 そう、確信を抱くことができるほどに―…。

 そして、フィブルは、

 「わかりました。」

と、言ってしまうのだった。

 こうして、ファブラは事実上ミラング共和国に併合されるのだった。

 そのための正式な条約は、後に発行されることになることを記しておく。


 それから一時間ほどの時間が経過する。

 ラルガリオは自身が所有する統領の屋敷の部屋の中にいる。

 そして、悪態をつく。

 「ふざけるな!! ふざけるな!!」

と。

 ラルガリオは、結局、何もすることができずに、かつ、ファブラの統領という地位を得ることができなかったのだ。

 実質、ミラング共和国と併合するファブラ国の統領の地位を手に入れても意味がないからだ。

 そして、ファブラを支配することができない可能性を悟らされるのだった。

 いや、そんなことはないかもしれないが、繋がっていたシエルマスに騙されたのだと、思っている。

 「ミラング共和国の~。」

と、言っている最中に―…。

 「あなたがラルガリオですか。まあ、そのように悔しがるとは、よっぽど、今回の内戦でご自身にとって不都合なことがあったようですねぇ~。」

と、不意にラウナンが姿を現わすのだった。

 その光景に、ラルガリオは言葉をしばらくの間、発することができずに、恐怖に支配されるのだった。

 思考を取り戻すと―…。

 (こいつは何なんだ。俺が今までに会ったことがない。どうしてこのような存在が―…。)

と、ラルガリオは心の中で、動揺するのだった。

 「今まで、ありがとうございました。私、ラウナン=アルディエーレと申します。疑問に感じているかもしれませんが、こう言えば、分かってもらえるのではないでしょうか? ミラング共和国の諜報及び謀略組織シエルマスの統領だと言えば―…。」

と、ラウナンは自己紹介する。

 その自己紹介を聞いたラルガリオは、

 (……シエルマス………。シエルマスの組織は噂でしか聞いてないけど、トップは統領と言ったはずだ。つまり、こいつがシエルマスの頭―…。)

と、心の中で、ラウナンがどういう存在かを理解するのだった。

 その理解があるからこそ、ラルガリオは恐怖に震えながらも、言わなければならないことを言う。

 「ふざけやがって!! 今回、後継者候補達を煽らせて、内戦まで持っていき、そこから、ミラング共和国の介入を要請させて、統領一族を排除した後は、俺にファブラの統領の地位をくれるって!!!」

と。

 ラルガリオは、この約束のために、行動していたのだ。

 希望は見事に打ち破られた。

 それだからこそ―…。

 「ファブラの統領は、すでにあなたが名乗ることもできるでしょ。ただし、それは自称でしかありませんが―…。それと、あなたというアウトローは本当に、我々にとって使いやすかった。これまで、本当にありがとうございます。感謝の言葉しかありません。こうやって我々の望んでいることを叶えてくれる手助けをしてくれたのだから―…。だからこそ、私の手で葬ってあげましょう。」

と、ラウナンは言った瞬間に、ラルガリオに近づく。

 「さようなら。」

 そして、ラウナンの言葉を聞いた瞬間、ラルガリオの視界は永遠にこの世界を見ることはなくなった。

 ラルガリオの首から上下に切り分けられることによって―…。

 その後、ラルガリオの遺体は、血が地面に到着する以前に、シエルマスによって袋の中に遺体とともに入れられるのだった。

 ラルガリオという存在は、ファブラでは行方不明扱いとなるのだった。

 もう、この世にはいないのだが―…。

 「さて、行くとしましょうか。」

と、ラウナンは言うと、姿を消すのだった。

 シエルマスも含めて―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(86)~第二章 ファブラ侵攻(19)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では―…。

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