番外編 ミラング共和国滅亡物語(83)~第二章 ファブラ侵攻(16)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラの内戦が発生し、それでどうにもいかなくなったフィブルはラルガリオの助言によりミラング共和国に介入を要請するのだった。その要請によって、ミラング共和国は軍をファブラに派遣し、軍事介入に踏み切るのだった。ミラング共和国軍は、ファブラの首都であるリンファルラードでアウトローを鎮圧していくのだった。
一方で、ミラング共和国の諜報および謀略機関であるシエルマスの統領であるラウナン=アウディエーレが裏から行動するのであった。
「ラウナン=アルディエーレ?」
と、フィンラルラードは疑問に感じる。
この姿を現わした人物の名前であることは分かる。
その名前を名乗ってくるけれども、失礼な人物であることに間違いないと感じる。
フィンラルラードは、自分が一番偉いと思っているし、優秀だからこそ、このような行動をとる人物が嫌いだ。
話しかけてきて欲しくもない。
(ラウナン=アルディエーレ? 一体、何者だ。ここから急に姿を現わしたということは、かなりの実力者であることに間違いはないが、どうやって侵入してきたんだ。誰にも気づかれることなく―…。)
と、アーレイは心の中で、どのようにして、ラウナンがこの別邸、この部屋へと侵入したのか不思議に思うのだった。
アーレイとしては、その芸当が本当に可能であるかさえ、疑問に感じてしまう。
アーレイの裏の者達であったとしても、そのようなことはできない。
大抵、動けば何らかの音が残ってしまうのではないかと思う。足音など―…。
それすらもないということから、ラウナンという人間の実力が分かってしまう。危険であると―…。
ゆえに、アーレイは警戒するのだった。
その警戒が意味のないことだと気づいてしまえば、自らの心の中に絶望が生まれる可能性があるのだから―…。
まあ、それだけでなく、ラウナンを味方にすることができるのであれば、すぐにでもフィンラルラードを切り捨てて、自らがファブラの統領になっても良いと思っている。
そんななか、ラウナンは、
(ここにいる馬鹿そうで、トロそうなのがリット=ファブラ=フィンラルラードということで宜しいでしょうか。ラウーラ=ファブラ=ウォンラルラードとそんな歳が離れているようには見えないし、似ている雰囲気もありますし―…。彼を連れ去ることは簡単にできそうですが、あの近くにいる側近をどうにかしないといけませんねぇ~。)
と、心の中で思う。
ラウナンにとって、フィンラルラードを連れ去ることは、そこまで難しいものではなく、あまりにも簡単なことでしかない。素早く移動して、アーレイが対応する前に連れ去ってしまえば良い。そうすることは簡単なことだ。ラウナンは、天成獣の宿っている武器を扱うことができるのだから―…。
だけど、フィンラルラードを連れ去っても、アーレイをどうにかしておかないと、後顧の憂いを残すことになる。それに、ここに来た時点で、アーレイの処分に関しては、ラウナンが自由にして良いということになっている。
ファルケンシュタイロとの会話で、フィンラルラードを連れ去って、ファルケンシュタイロのいる本陣へと戻ることが必須事項であるので、アーレイの対処は重要なことになる。
「ええ、私の名前はラウナン=アルディエーレでございます。」
と、ラウナンは言う。
自らの名前を二度も言わないといけないのは、あまりにも苦痛なことでしかない。
そう、自らの名前を二度言わないと理解してもらえないのは、ただの馬鹿でしかなく、役に立つことがないとラウナンは思っているからだ。
頭が良すぎるのも問題であるが、あまりにも馬鹿すぎるのも困ったものである。組織を率いるのは大変なことである。
それでも、その苦労さえも補って余りあるメリットが存在する。
そのメリットとは、自らの権限を自由に行使しやすいという点であり、同時に、裏から人を操り、自分の思い通りにできるという快感が十分に得られるのだ。
ラウナンにとって、これほど重要なものはない。
「ラウナン=アルディエーレと言ったか。名前は覚えた。こんな場所に来るということは、侵入者と判断しても良いのだな。」
と、アーレイは言う。
アーレイは、警戒しながら、どういう人物であるかを探ろうとする。変な組織であると困ったことになってしまうからだ。
選択できる時は、慎重に相手の情報を調べないと大変なことになってしまうことだってある。アーレイの知り合いで、選択をミスをして、行方不明になることが過去にあったからだ。
他人の経験から、自分はどういう行動するのが良いのかを学ぶという点で、アーレイは優れているのかもしれない。だが、自分のことばかりなので、結局、報われることはないだろうが―…。
アーレイの表情を見ながら、ラウナンは、アーレイが警戒していることに気づく。
(警戒していますねぇ~。どういう警戒はまだ分かりませんが―…。)
と、ラウナンは心の中で思う。
ラウナンは、アーレイが警戒している類のことについては理解しているが、どういうものかを完全に確定させることができていなかった。
ラウナンの頭の中にあるのは、アーレイはフィンラルラードのことを守るために、侵入者であるラウナンのことを警戒しているのか。ラウナンがフィンラルラードのことを殺しに来た人物であるということを―…。
フィンラルラードを暗殺する気はない。連れ去る気はあるが―…。
次に考えたのは、アーレイを守るフリをして、この機に乗じて、自分がアーレイを殺して、統領とならんとするため、クーデターを起こそうとしていることだ。この場合、アーレイがミラング共和国に服従するなら、そこまで気にしないことであるし、統領の地位にならないのならば、殺す意味はないだろう。もしも、ファブラの統領になると考えていたなら、ここで始末しようと―…。
最後に考えたのが、ミラング共和国の侵攻を利用して、自分が権力を掌握し、住民と軍隊を率いて、ミラング共和国に対する攻撃を企てていることとか。そうなれば、確実に、アーレイは始末だ。そこに考える余地はない。
そんなことを考えながらも、アーレイの考えを推測していくのだった。
「ラウナン=アルディエーレ…とか、言ったか。ここまで、何も音をたてずに侵入するとか、素晴らしい。私よりも下であるし、私もやろうとすれば、音をたてずに移動することは簡単だ。そして、私は優秀だから、ラウナン=アルディエーレ。私の部下になることを許そうではないか。」
と、フィンラルラードは言う。
フィンラルラードは、自らが一番優れていることを自覚している。というか、そういう風に妄想と言っても差し支えないことを抱いている。自分が本当はどれぐらいの能力の持ち主なのか理解せず、自分を過大評価してしまっているのだ。幼少期の環境がそうさせているのかもしれないが―…。
そんななか、アーレイとラウナンは双方ともに、フィンラルラードに対して、怒りの感情を浮かべるのだった。
(何てことを言ってやがる。このバカは!!! 煽ててやってれば、良い気になりやがって!!! 今、テメーがどういう状況に置かれているのか分かっているのか!!! ラウナン=アルディエーレはテメーの命を狙う、暗殺者かもしれないんだぞ!!! こいつを統領にしたら、殺してやって、その悪評と馬鹿伝説を広げてやる!!!)
と、アーレイは心の中で思うのだった。
アーレイにとって、フィンラルラードの今の言葉は怒りでしかない。怒りの感情を湧きあがらせる。
今の状態がどれだけ危険なのかを一切理解できていないことに―…。
アーレイは、ラウナンのことを警戒しない理由は、ラウナンが姿を現わした時から、しないといけないのに―…。利用できるとは思っているようだが―…。
その怒りのせいか、今までの蓄積のせいか、いつか、フィンラルラードが統領になり、その後、フィンラルラードからファブラの統領の地位を奪った場合、フィンラルラードの数々の優秀じゃない、馬鹿な話を広めようと考えるのだった。こんなに馬鹿なことを言うとは、アーレイは思わなかったのだ。
フィンラルラードの馬鹿さ加減を見破ることができなかったのは、アーレイであるし、アーレイの落ち度がないと言ったら嘘になる。それでも、アーレイにとっては、このような自らのミスは眼中にない。自分中心というか、自分が一番なのだから―…。
そういう自分が一番という意味では、フィンラルラードと共通点を持っているのであるが―…。
まあ、これをフィンラルラードに言えば、とんでもない反論が返ってくることは避けられないだろうが―…。
一方で、ラウナンは、
(こいつは馬鹿すぎる!!! 馬鹿でも俺の権威に大人しく従ってもらう馬鹿は、私の好意を向けることができますが―…、ここまで自分が一番で他が下だと思うとは―…。操る駒にすることもできません。さっさとファルケンシュタイロのところに持って行って、奴に裁いてもらった方がマシだ。リット=ファブラ=フィンラルラードとは、もう二度と顔を会わせたくない。)
と。
ラウナンにとって、馬鹿全員が嫌いなのではない。
馬鹿でも、自らの操り人形することができる従順になれる者は、嫌いとは反対の感情で、むしろ、上手く表向きは仕えてあげましょうということになる。
だけど、自分が一番だと宣伝し、かつ、ラウナンを部下に加えてやろうと考える、今までに会ってきた中で、ストレスにしかならない。それが過去の経験から分かっているからこそ、フィンラルラードのことはさっさと終わらせたいと思うのだった。
怒りは、人の行動のエネルギーへと変えていく。
感情とは、そういうものか?
そして、ラウナンは、
「分かりました。私の任務を実行しましょう。」
と、言うと、すぐに、自らの武器である短剣を取り出す。
その様子を見たアーレイは、
(暗殺者か!!!)
と、心の中で思い、すぐに、この場から逃げることを考えるが―…。
すでに、そのように思ってしまった時点、アーレイの命は―…。
音はならない。
無音映画のワンシーンを見せられているようだ。
そう、音はいらない。
このシーンに―…。
すでに、時の流れという動きだけでわかってしまうのだ。
目の前で繰り広げられている光景を―…。
(アーレイ…?)
と、フィンラルラードは心の中で思う。
そう、アーレイは、ラウナンの短剣によって、首から下と上が分かれてしまったのだ。
アーレイの世界はそれが起こったほんの数秒で、自らの意識を永遠の白へと陥らせていくのだった。
これがアーレイという名の人物の最後だった。
自らは、ファブラの統領という地位を望み、現在の統領の長男であるフィンラルラードに取り入り、フィンラルラードの腹心になることができた。
そして、自らがファブラの統領になるための道筋も見えていたが―…。
そんな野望は、簡単に散っていった。
人という生き物の自らだけの利益にしかならない欲望は儚く、時に、叶わぬ方が幸せということもあろう。
アーレイがファブラの統領となっていたら、ファブラという国が衰退していったのは間違いないことなのだから―…。それを確実という言葉で言うのは間違いであろう。未来は仮定でしかないということを理解しているのならば―…。
そして、話を戻し、ラウナンは、素早く、どこかに潜んでいた部下に命じて、アーレイの遺体を処理させるのだった。床にアーレイの血の跡ができたのは仕方のないことだと割り切って―…。
どうせ、この別邸もミラング共和国のファブラの代官が利用する建物になるだけであろうし、さらに、この代官には対外強硬派、特に、クロニードルの親族が入ってくることになろう。ならば、いくらでも証拠を誤魔化すこともできる。
一方で、黒い服の人物を見てしまったフィンラルラードは、
(へぇ~、味方も姿を隠せるなんて、私の部下にしたらどれだけ良いメリットが得られるだろうか。)
と、いうような呑気なことを心の中で思っていた。
自らの状況理解することができていなかったし、アーレイの死を何とも思っていなかった。
アーレイを殺すことができるぐらいに優れているのなら、自分の部下にしてしまった方が得だと考えた。
そういう意味で、フィンラルラードは血も涙もない人間と周囲から言われてもおかしくはないのであろ。
だが、血も涙もある人間である以上、人らしさが完全にないというのは嘘になる。
そう思っている途中で、ラウナンがフィンラルラードの方へと一瞬で近づき―…。
フィンラルラードは心の中で思っていることを言うことというか、反応することができずに、一瞬で、手刀で首を打たれ、気絶させられるのだった。
その後、ラウナンとシエルマスの者たちは、ファルケンシュタイロの元へ戻るのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(84)~第二章 ファブラ侵攻(17)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
さて、フィンラルラードの部下も同様の結果となりました。
そして、ファブラという国は―…。
残酷だなぁ~。
それでも、ミラング共和国も次の章で次第に追い詰められていくと思います。
では―…。