番外編 ミラング共和国滅亡物語(82)~第二章 ファブラ侵攻(15)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラで内戦が勃発し、事態の打開のためフィブルはミラング共和国に介入を要請する。ミラング共和国側は軍隊を派遣し、アウトロー達を追い詰めていき、勝利を得るのだった。その中でラウナンは暗躍するのだった。
ファブラの軍隊に属す兵士の一人は、
「ミラング共和国軍だ。統領様が要請して、来てくださった!!!」
と。
この兵士だけでなく、多くの軍の兵士はミラング共和国軍が来てくれたこと、ファブラの内戦に介入してくれたことを心から感謝している。
かつては、ソフィーアとともに、この後継者二人を廃し、フィブルから統領を奪おうと協力した下っ端の兵士もいるが、内戦になってしまい、内戦の凄まじさを理解し、早く平和になることを願っていた。
ゆえに、その内戦を終わらせる可能性のあるミラング共和国軍に期待する。
ミラング共和国軍にとっては、勝手に期待されていることにしか思えないだろうが―…。
そんな期待に応えてやる義理はない。
そんな風に双方の思惑は、違う方向を見ていた。
「ファブラ国の兵士の者かな。アウトローどもは我が軍によって直に制圧されることだろう。」
と、ミラング共和国の現場指揮官の一人が言う。
この指揮官は、ファルケンシュタイロの直属の部下の一人であり、軍務に実直な人間である。人としては、略奪や強姦などを容認する残忍な一面を持ち合わせている。
この指揮官からの理由を述べるとすれば、すべて軍隊の士気を維持するために仕方ないというものだ。その理由のせいで、ファブラの者の多くがその犠牲者になってしまったのだ。現実とは、時に惨いほどに残酷だということを示すかのように―…。
そんなことを、今、目の前にいるファブラの軍隊に属す兵士は知らない。
今まで、内戦状態にあり、ミラング共和国軍の悪行を知るよりも先に、リンファルラードのアウトローをどうやって抑えるか、もしくは、二人の後継者と目される人物が関係しているのではないか、ということの方を優先しないといけなかったからだ。
人にできることには、限界というものが存在するし、割けるは増やすこともできるかもしれないが、同時に、限界というものがなくなるということはないのだ。
増えることによって無限の可能性とか言うかもしれないが、それは、限界というものがなくなるわけではなく、限界の上限が上昇していることを言っているだけに過ぎない。
そうであるならば、結局、できることにも限りがあるということもなくなるわけがない。そういうことだ。
「そうですか。」
ファブラの軍隊に属する兵士の一人がそう返事をする。
これは、ファブラの多くの軍隊に属する者、国民が希望として抱いている者であり、それが叶うのであり、彼らから見たらミラング共和国軍は救世主のような存在になってしまう。そう、希望を抱いてしまう。
人が集められる情報には限度というものがあり、それは時間というものを情報収集する時に消費しており、そして、その時間にはタイムオーバーというものが人々に知らせられずに存在していたりするのだ。ある一定の時間内に集められる情報から人は判断していることになり、人々が言う合理的なものは、そういう状態で下された選択した方法が合理的であるかどうかを判断しているに過ぎない。
結局は、完全な合理性というわけではないことに注意しないといけない。
期待の目を浮かべているファブラの軍隊に属する兵士の一人を見て、ミラング共和国軍の現場指揮官の一人は―…。
「ファブラの統領の屋敷の方には、アウトローはいるのだろうか?」
と、尋ねる。
アウトローがいれば、制圧する任務が統領の屋敷の中でも発生することになる。そうなるのかどうかを確認する必要があったからだ。
そして―…。
統領の屋敷の敷地にあるフィンラルラードの住んでいる別宅。
その中では、アーレイとフィンラルラードがおり、ある情報がもたらされるのだった。
「報告します。ミラング共和国軍が統領屋敷を包囲していたアウトローを鎮圧した模様です。フィンラルラード様。どのようにいたしましょうか。」
と、報告者は告げる。
その報告を聞いたフィンラルラードは、
「そうなんだぁ~。まあ、こっちの兵士を死なせないで済んで良かったぁ~。」
と、のほほんとした答えを言う。
そんななかで、考える人物がいた。
(アウトローどもが―…。私の側は、ちゃんと逃げてくれたんだろうなぁ~。あいつらは、貧しい場所で生まれたから、頭が悪く、一回だけで俺の言う事を理解してくれもしない。とにかく、バレたとしても知らぬ存ぜぬで突き通してやる。それに、兵士どもを派遣して、俺と関係のあるアウトロー達は始末することにしよう。アウトローがいくら殺されたとしても、ファブラの国民が悲しむことないどころか、感謝されさえする。アウトローはそれだけ、迷惑な存在なのだからなぁ~。ゆえに、使い勝手が良いのだがなぁ~。このフィンラルラードを含め―…。)
と。
この人物はアーレイであり、フィンラルラード側の重要な後ろ盾のような人物であり、アーレイもまたファブラの統領の地位を目指しているということを隠している。
その野望のために、フィンラルラードを利用し、挙句の果ては、フィンラルラードが統領になった後、自身が統領となり、権力、地位、名誉を自らの手に入れようと頑張るのであった。そこには野望はあるが、ファブラを良くしようという気持ちは存在しない。
そして、アーレイは、自らの力を得るために、裏で、アウトローの一部と繋がってもいる。そう、ラルガリオとも―…、だ。
だけど、ラルガリオもアーレイがファブラの統領になることを好んでいない以上、一時的に協力関係になったとしても、どこかで裏切ろうと考えていたりする。
そして、アーレイもラルガリオのことを信用していない。
だからこそ、今回のアウトローがミラング共和国軍によって鎮圧されるという事態を聞いて、アーレイは自分と繋がりのあるアウトローを始末した方が得策だと判断する。自らがアウトローと繋がりがあることを周囲に知られるわけに、世間に表立つことを恐れて―…。
そういう所は、自らの頭が回ったりするのだ。自分の危機に対して、敏感と言った方が良いのかもしれない。自分のことばかり考えているからこそ、そういう自分の危機を敏感に感じ取ることができるようになったのだろうか。その真相をここで解き明かしても意味はない。
さて、アーレイは、アウトローの始末をしよう考える。勿論、アーレイだって私的に裏の仕事をなす人物を何人か雇っていたりする。ゆえに、彼らに命じて、実行することになろう。
まあ、アーレイの裏の者の実力は、シエルマスよりもはるかに劣るのは間違いないことであるが―…。
そして、アーレイは少しだけ思考した後、答える。
「確かに、こちらの兵士の死者を多く出さなくて済んだのは確かに素晴らしいことでございましょうが、ミラング共和国軍にとって何か旨味でもあるのだろうか? フィンラルラード様のお父様であるフィブル様が、ウォンラルラード様が引き起こした内戦の中で、ミラング共和国に軍の派遣を要請したようですが、こんな小さな国を陥れる理由が分かりません。」
と、アーレイは言う。
アーレイは、すべて、本当のことを言っているわけではないが、それでも、疑問に感じるのは事実だ。
そんななか、報告者は、
「では、報告を終えましたので、外に出て行ってもよろしいでしょうか。」
「ああ、構わない。」
と、アーレイが返事すると、報告してきた者は部屋の外へと出て行くのだった。
フィンラルラードが私室で、アーレイとフィンラルラードが二人となるのだった。
「アーレイ、ミラング共和国軍って凄いねぇ~。ファブラよりも強いなぁ~。だけど、私は優秀だから、もっと上手くミラング共和国軍を扱うことができるんだよねぇ~。」
と、変な妄想をフィンラルラードは言い始める。
本当に、フィンラルラードはそのように思っているのである。適度の挫折がなかったということが、彼の人格形成において、マイナス方向に作用したのは確かのようだ。自分が何でもできるという万能感に浸かりきってしまっている。
そのようなことに、アーレイの方が気づかないわけがない。
(変な妄想に浸りやがって―…。まあ、良い。ミラング共和国軍の偉い人間に取り入って、俺をファブラの統領にさせてもらうようにすれば良いか。そのために、ファブラが不利になることも、理不尽な要求を突きつけられることもあろうが、それは、俺が被害を受けない程度ならいくらでも譲歩して構わないということにしよう。メリットがなければ、このような要請に応えるはずはない。)
と、アーレイは心の中で思う。
ミラング共和国側としても、メリットがないから、この要請を受け入れたわけではない。そこに気づくということは、アーレイの頭もしっかりと回転しているだと思わせるが、だけど、決定的なことに気づいていない。
ファブラという国には当たり前に存在して、それは他国の人間が欲しがる物があるということを―…。
そして、ミラング共和国が欲しい物は分からないけど、メリットをファブラ側へと要求してくることは分かっているので、アーレイのところで被害がもたらされないようにすれば、ファブラに住む国民がどうなっても構わなかった。自分の富とか権力とかなどを手に入れば問題はないのだから―…。
そして、アーレイは、少しだけ考え、言葉を発する。
「フィンラルラード様、ミラング共和国はファブラよりも強い国でございます。そのような国である以上、簡単に操ることはできないと思います。しかし、フィンラルラード様なら、いずれは扱うことができると思いますよ。」
と。
アーレイの言葉を聞いたフィンラルラードは気分を害し、アーレイに不信感を抱くのだった。
だけど、アーレイにとっては、ファブラとミラング共和国の規模を比較したら、フィンラルラードが率いることができるとはとても思えない。
フィンラルラードの馬鹿さ加減を理解すれば、簡単に分かることだ。
自分がまるで分かりきっていないフィンラルラードは、結果として、自分の価値というもの、能力というものでできることの判断を間違えるのであった。それに、能力を成長させることもしていないので、その経験すらないから、できないことの方が大きいし、大きなことを夢見ても、ろくな結果にならない。地道で、地味で、辛い苦労というものを経験して、やっとの思いで華やかなものにできるということを―…。
このように、フィンラルラードのないことをこれ以上指摘したとしても、フィンラルラードは理解をするどころか、精神的な変調をきたし、暴走するかもしれない。
そして、フィンラルラードのことを正直に述べるだけに留まるのではなく、希望を与えることをアーレイは忘れない。そうしなければ、フィンラルラードから恨まれる可能性だって存在するかもしれないのだから―…。
そのような結果となり、フィンラルラードの信頼を失えば、ファブラの統領の地位が自らのもとにやってくる可能性を減らすことになる。そんなことをアーレイは望まない。
だけど、アーレイは、フィンラルラードから不信感を抱かれるようになった。今、この発言で―…。
それを察したのかアーレイは、
「フィンラルラード様、あなた様の優秀であることは私も十分に知っております。さっきの自らの配下にある軍隊を活用せずに静観したという先見の明があるのを、私、アーレイは十分に見させていただきました。フィンラルラード様は、優秀であり、その優秀さをさらに伸ばすことができるからこそ、今すぐにミラング共和国を操ることができるとは言わなかっただけです。」
と、アーレイは言う。
その表情は、しまった、という感じの言葉が似合うような感じだ。
そんななか、フィンラルラードは不信感を少しだけ落ち着かせ、
「ならば、言えるよねぇ~。私が今すぐにでもミラング共和国軍を十分にしっかりと操ることができることを―…。」
と。
この言葉には、アーレイが賛成しなければ、アーレイをどう処分しようかというものが含まれていた。
その言葉に―…、アーレイは、
(チッ!! こいつは、調子の乗せるといつもこのようなことを言ってきやがる。もう良い加減に―…。)
と、心の中で思っていると―…。
「ミラング共和国を操るとは、たいそう、馬鹿なことを言う人物がいるんですねぇ~。」
と、どこからともなく、声が一つ聞こえる。
(!!! どこだ!!! この部屋には私とフィンラルラードのみだが!!! 一体!!!)
と、アーレイは心の中で思う。
アーレイとしては、自分とフィンラルラードしかこの部屋にいないことを把握している。なのに、二人とは違う声が聞こえたということは、この部屋のどこかにアーレイとフィンラルラード以外の人物がいるということになる。
そして、その人物は姿を現わすのだった。
「始めまして―…。私はラウナン=アルディエーレと申します。」
と、その人物は名乗るのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(83)~第二章 ファブラ侵攻(16)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。