番外編 ミラング共和国滅亡物語(77)~第二章 ファブラ侵攻(10)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラは内戦状態となり、フィブルの要請で、ミラング共和国軍が内戦に介入していくのであった。その介入のための軍隊を率いるのはファルケンシュタイロであった。
ファブラの首都リンファルラード。
その中にある統領の屋敷。
そこでは、今日もフィブルが頭を抱えるのだった。
フィブルに迎合する者がほとんどいなかったのだ。
鉱山労働者たちはすでに、鉱山の方に引き籠ってしまっているし、フィブルに協力しようとしなかった。
フィブルに味方はいないのだ。
「何故だ!!! 何故だ!!!」
今日も今日とて、フィブルは喚き散らす。
数々の苦労をしてきたフィブルにしても、今回の内乱の場合、自らに味方してくれる側が多くなければ、意味をなさない。
どうしようもなかったことはあったが、何とか有力な味方がいたからこそ、何とかなったというべきであろう。
だが、もう有力な味方もいないし、事態を打開することもできない。
毎日、毎日がそうなのだから―…。
フィブルは完全に、精神に良くない影響をきたしていると判断した方が正しい。
ここまで、自らにとってはどうしようもできないことが続いている以上、どうしようもない。
本当に、人生とはままならぬものだ。
「フィブル様、落ち着いてください。」
と、ラルガリオは諭すように言う。
ラルガリオとて、このような精神異常をきたした人物に寄り添いたいとは思わない。このようなことにした責任を感じることはなく―…。
ラルガリオが欲しいのは、ファブラの統領という地位である。そう、フィブルが就いているその地位なのだ。
だからこそ、今度のどうしようもないファブラの内乱はラルガリオにとっては、嬉しい出来事でしかない。
それに―…。
「さっき、知らせの者がミラング共和国軍がこの地で起こっている内乱を解決するためにやってくると―…。」
と、ラルガリオは言う。
ラルガリオとしては、これは自らの目的が達成されるチャンスでしかない。そう、自らが統領の地位を得るための―…。
そして、同時に、これはフィブルにとっても吉報であり、現実には凶報であった。そのことにフィブルは気づかない。
「そうか!!!」
フィブルは、ラルガリオの両肩を自らの両手で掴む。それも強く―…。
この知らせを待っていたのだから―…。
「これで、ファブラに安寧が訪れる。」
と、フィブルは頬を綻ばせるのだった。
そう、これから、ミラング共和国の軍の介入によって、ファブラの内乱は治まり、ファブラに安寧が訪れるのだ。その時のリスクに関してはあるかもしれないが、それはきっとフィブルにとってかなり不味いものではないという勝手な妄想を抱きながら―…。
窮地に陥った人間は、助けてもらった人間のどんな理不尽な要求も受け入れてしまうのだろうか。どんな時にも冷静さというものは必要であろうが、もし、このような窮地に陥ってしまったら、本当の意味で冷静になれるかと考えると、フィブルのような反応になってしまって仕方ないと思ってしまう。
落ち着くこと、冷静になることは時には重要だろうと、教えてくれる。
そんななか―…。
(フィブルも落ちぶれたものだ。昔は、賢く、まともな統領とされていたようだが、今はそんな姿すらない。むしろ、昔のままだったら、こっちも付け入る隙すらなかったかもしれないから―…。後は―…、どのタイミングでフィブルを亡き者にするかだな。今はその時ではない。)
と、ラルガリオは気を窺う。
いつ、フィブルを亡き者にして、自らがファブラの統領に就任するのかを―…。
お互いにどういう結果になるのかを知らずに―…。
数日後。
ミラング共和国軍は、ファブラとミラング共和国の国境に辿り着いており、そこから数日をかけて、ファブラの首都であるリンファルラードへと向かう。
その中で、ミラング共和国軍は、ファブラの国内にある村に到達すると兵士たちによる略奪と女性への暴行行為、一部に虐殺行為にはしる者がおり、ミラング共和国軍の横暴行為がファブラの国中に広まることになった。
一部は反抗的な態度を示そうとしたが、ミラング共和国軍の規模ではとても歯が立たないことを理解し、大人しく、沈黙する者たちが増える結果となった。
だけど、ミラング共和国への恨みが浸透していくことになった。
それはいつしか濃くなっていくことであろう。
それに、ミラング共和国軍の者および対外強硬派、シエルマスの者たちは気づくことがない。勝利は快楽、快楽は思考停止の毒をまき散らすのだから―…。視野狭窄と同時に、自らの正当性が示されたという結果の毒に―…。
勝利をするな、というわけではなく、ここで重要なのは、勝利をしようが、敗者側の心理というものも配慮しないといけないということだ。それが時に重要であったりする。自らが滅びてしまうという最悪の結末という未来のある地点で迎えないために―…。
そして、馬に乗って、行軍中のファルケンシュタイロは―…。
(ここは森が多いのか、鉱物資源の国だから、木が伐採されており、不毛の地だと思っていたが―…。こんな多くの木が残っている以上、こちらにも演習場を設け、森の中での戦闘訓練をおこなうことが可能だな。ファブラを支配することに成功したら、ここは軍演習場として、軍部が接収しようじゃないか。)
と、心の中で考えるのだった。
ファルケンシュタイロの思考は、軍に関係あることであり、軍事のことしか頭にないのかということを象徴している。
実際、ファブラという国は、鉱石を輸出している国であるが、歴代の統領たちによって、森林保護などもおこなわれているし、鉱毒に関しての対策に関しても、この地域で出来る限りの対策はしてきた―…。鉱毒対策に関しては、決して、満足のいくものではないし、対策をしなくても結果が変わらないものでしかないが―…。そういう意味では、ダライゼンの持っている武器の中に宿っている天成獣の特殊能力はかなり重宝されても仕方ないほどだということがわかるだろう。
そういう意味で、ソフィーアのクーデターが失敗したことは、鉱山労働者に大きなダメージを与えることになったのだ。そして、ミラング共和国がファブラを支配したとしても、良い結果になることはない。鉱山労働者の平均寿命は短いのだから―…。
そして、ファルケンシュタイロはこの森を見て、軍事演習の場として使えると判断したのだ。この地域は森も多いので、森の中での戦闘になるケースが多くなることがあるから、こういう演習場は必要であったりする。
ミラング共和国の本部拠点にも森はあるが、ファブラの今、ファルケンシュタイロが見ている森は本部拠点の森の数倍もの広さがあるのだった。
鉱山に関しては、クロニードル家が独占するが、森に関しては何もクロニードルが言っていなかったので、ファルケンシュタイロはファブラ侵略を成功した暁には、この森をミラング共和国軍の所有物にしようとしているのだ。森での軍事演習を大量にこなせば、それだけ、いろんな森の中でも戦うことができるからだ。慣れというものがかなり重要であることを認識しているからだ。
そして、ファルケンシュタイロは、鉱山に関して、軍事での武器として必要なことを認識しているが、誰が所有しようが、軍部にちゃんと武器として届いてくれればそれで良かった。
一方、ファルケンシュタイロが見ている森は、誰の所有物でもないし、ファブラの領内にある大事な森であることは確かである。ゆえに、入会地というような概念でこの森は守られているのである。ファブラのこの地域に住んでいる人が食べる野草、動物の肉、家を建てるために使う建材として―…、さまざまな需要があり、森を維持することによって、持続的な使用を可能にしている。
まあ、気候変動によっての変化について、理解しろと言っても、難しいことであろうが―…。そこまで、科学が発展していないのだから―…。
そして、ファルケンシュタイロのこの考えが幸運なのか、悲劇なのか、双方を合わせた結果へとなっていくのだった。
そんななかで―…、
(それにしても、後もう少しでリンファルラードか。現地の状況は、部下どもの報告によれば、混沌とした状態になっているようだが、やるべきことは決まっている。混乱した軍隊の場所は、シエルマスが確実に情報をもたらしてくれるはずだ。ラウナンの野郎も失敗を最も恐れるし、ミスなんて選択肢を絶対にしてこないだろう。もう、ここにはグルゼンがいないのだから―…。)
と、ファルケンシュタイロは妙な自信を抱くのだった。
ファルケンシュタイロは、グルゼンがラウナンによって完全に始末されたかということに関して、疑問に思っているが、それを口に出す気はない。
なぜなら、それを口にすれば、ラウナンによって自身が殺されるのではないかと思ってしまうというか、そういう殺気を感じてしまうのだった。
それに、ラウナンはミラング共和国の中の周辺諸国で最強とされる諜報および謀略機関であるシエルマスの統領なのである。そのような人物がミラング共和国にとっての重要な案件でミスするとは思えなかった。そう、ちゃんと慎重に、丁寧に行動しているはずだと勝手にファルケンシュタイロが思っているのである。
そして、ミラング共和国軍は森の中を進んで行く。
さらに数日後。
場所は―…。
「やっと到着したか。」
と、ファルケンシュタイロが言う。
ファルケンシュタイロは、今回の目的地に着いたことに安堵する。
ここまで、略奪をおこなってきたのは事実であるが、それでも、行軍が予想より長引くということはなかった。
それも、ファルケンシュタイロが世間的に偉大な人物だと認識されており、彼の言うことを聞きやすいものにしていた。
今回の遠征には、勿論、グルゼンの部隊に属していた者も数多くいるので、簡単に言うことを聞いてくれるかと思ったが、略奪などのファブラの住民に対する卑劣な行為以外は普通に言うことを聞いてくれたのだ。ファルケンシュタイロが命じているのだから、略奪もしろよと、ファルケンシュタイロは思ってしまうのであるが―…。
グルゼンの教えが染みついており、現地調達が支配することになる住民の不信をかうことになり、支配に悪影響を及ぼすことを理解している以上、征服する土地であるファブラでそのようなことをするのは良くないと判断したのだ。
ファルケンシュタイロにとっては、気に食わないことであったが、グルゼンの部隊はファブラの内乱に一番先頭で戦わせて、多くの者が犠牲になる作戦を仕込んでいる。なぜなら、グルゼンの部下などいくらいても迷惑な存在でしかないのだから―…。
グルゼンという存在は、ファルケンシュタイロにとって、目の上のたん瘤であるが、もう、ミラング共和国にはいないのだから、そいつのことを気にする必要はない。グルゼンの言葉は、ファルケンシュタイロにとっては、今も禁句の一言でしかないが―…。
(さて―…、ここからはシエルマスを先行させつつも、内乱の介入はグルゼンの部下だった者たちにおこなわせ、俺たちの本隊の介入は状況が好転するその時からだな。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で言う。
すでにやるべきことは決まっている。
「皆の者、第一部隊と第二部隊をリンファルラードの中へと入り、ファブラのフィブル=ファブラ=フォンメルラードの次男のアウトローどもを始末していけ。次に、第三部隊と第四部隊は、フィブルのいる屋敷を包囲するように!!!」
と、ファルケンシュタイロは、自らの部下に命じる。
第一部隊と第二部隊は、グルゼンの部下だった者たちが属している部隊であり、この二部隊を今、内乱を起こしているウォンラルラードについているアウトローの相手をさせ、そのアウトローを殺していくことを命じる。
第三部隊と第四部隊は、ファルケンシュタイロの直接の部下が率いている部隊であり、重要な局面となる統領の屋敷へと向かわせるのである。事態が変わってきた時に、ファルケンシュタイロ自身がしっかりと介入するために―…。
同時に、裏のことはすでにシエルマスがおこなってくれるのだから―…。
それで、功績を得られるのだから、とんでもなく簡単な仕事であることに間違いない。
(ラウナンの野郎の成功を祈ってやることにするか。)
と、ファルケンシュタイロは心の中で思うのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(78)~第二章 ファブラ侵攻(11)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ファブラ侵攻も当初より長くなっているような気がします。
ミラング共和国滅亡物語の序章よりかは、長くならいと思いますし、その半分弱ぐらいになると思います。
そして、『水晶』のネームの方に関しては、第279話まで進みました。
最近はこんな感じで、多く書くことがないような感じです。
では―…。