番外編 ミラング共和国滅亡物語(76)~第二章 ファブラ侵攻(9)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラは内戦状態となり、ミラング共和国へと介入要請を出すのであった。ミラング共和国が望むものであり―…。
一週間後。
ミラング共和国の首都ラルネは歓喜に包まれていた。
そう、ミラング共和国軍がファブラへと向かって、内乱を鎮圧しに行くのだから―…。
前回のミラング共和国とリース王国との間の戦争で、ミラング共和国軍はリース王国軍に勝利し、アルデルダ領を手に入れたのだから―…。
その出陣式典の中には、対外強硬派の四人が参加していた。
今回のような式典をするのは、ミラング共和国の歴史の中ではなく、初めてのことだ。
このような式典をする理由は決まっている。
ミラング共和国の威光を周辺諸国に示すためということと、国内にいる反対外強硬派になるかもしれない存在を意味のないものに見せるためである。国が栄えていることは、その国の政権を握っている者の力および基盤が安定していることを示すことになり、かつ、国民の支持を得られているということを分からせることができるのだ。
国同士の関係というものは、自らが強いことを示さないといけないことを示しているのだ。ただし、ここで力と思われるものは、武力だけではないことに注意した方が良い。そのことを理解していないものが、一つだけの力に基準を求めて、結果として自らの属している国を滅ぼすもしくは弱体化させる選択をしてしまうのだ。
まあ、関わっている当人たちは後になって気づくことかもしれないが―…。
「では、皆さま、定刻となりましたので、ファブラ遠征のための出発式を開始いたしたいと思います。開幕の挨拶をしてくださるのは、ミラング共和国総統フォルマン=シュバリテ様です。」
と、司会の者が言うと、参加していた対外強硬派の四人の中で、真ん中にいたシュバリテが椅子から立ち上がり、壇上へと向かう。
今回のために対外強硬派には、立派な調度品と言ってもおかしくない高価な椅子が用意され、そこに四人が座り、壇上に近い左側からファルケンシュタイロ、シュバリテ、クロニードル、ディマンドが座っていた。
その中には、シエルマスの統領であるラウナン=アルディエーレはいない。ラウナンは裏で操ることが好きであり、表で目立つようなことは避けないといけないと考えていることから、こういう式典にはやってこない。
というか、裏から見ているというのが正しいのであろう。
シュバリテが壇上へと到着し、そこから言葉を発する。
「今日、この場にお越しいただき感謝いたします。我が誇るべきミラング共和国軍が素早く行動できるために、要点をここを言っておくことにしておきましょう。今回の遠征は、ミラング共和国の隣国の小国ファブラで起こっている内乱に介入することです。この中には、ファブラへの介入に反対する声もあるかもしれません。そう、ミラング共和国と関係のない他国の内乱に介入するなんて、意味のあることには思えない。そのような声が―…。だけど、その人々は重大な勘違いをしています。ファブラという国をご存じの方ならわかることでしょう。ファブラでは、良質な鉱石がある国で、その鉱石はミラング共和国を含め、多くのこの周辺にある国および都市に輸出されています。そのファブラという国で内乱が起こっているということは、この鉱石のミラング共和国への輸入がなされなくなる可能性が存在するということなのです。そのようなことになってしまえば、ミラング共和国の国民の生活にとって、大きな打撃を被るのは確かです。ミラング共和国の産業も困った事態になってしまいます。そのような事態があってはならない。そう、これは、ミラング共和国を危機に陥る可能性があるのを、排除するための遠征であります。それに、我が国はリース王国に勝ち、アルデルダ領を奪ったではありませんか。そのことができる軍事力が我が国にはあるのです。だから、心配などいりません。ただ、勝利を願えば良いのです。我が国には、先の戦争で大きな功績を挙げたファルケンシュタイロがいるのです。期待しましょう。」
と、シュバリテは言い終えると、沈黙する。
その様子はほんの二、三秒で終わりを告げることになる。
そう、一つの声があがるのだ。
「ミラング共和国は最強!!!」
その大きな声に、その後に続いて、高揚感が満ちたのか。
『ミラング共和国最強!!! ミラング共和国不死身!!!』
歓声が上がる。
まるで、何かに操られたかのように、この式典にいる者たちは右手を突き上げ、叫ぶ。
『ミラング共和国最強!!! ミラング共和国不死身!!!』の合唱を続ける。
気分が高揚させているのか、どんどんその声は大きくなる。
『ミラング共和国最強!!! ミラング共和国不死身!!!』の声は続く。
ここは、熱狂感に包まれる。
まるで、何かを信仰し、その信仰の中で重要な人物が強く宣言した後のような―…。そう、アマティック教の教主イルカルの言葉の後のような―…。
シュバリテは椅子へと向かっていくなかで―…。
(政治というものは国民が支配していると勘違いしている奴らが多い。民主主義だろうが、支配するのは選ばれた一部の人間だ。権力者だ。国民に主権を与えているがために、彼らに僅かばかりの便宜を図ってやっているだけだ。お前らなんぞは、俺たちの繁栄のための駒でしかない。まあ、俺らの言っている言葉を信じることしかできないし、そうなってくれる方が俺たちとしては好都合だ。お零れを貰って頑張ってくれ。)
と、心の中で思うのだった。
シュバリテにミラング共和国の国民に対して、繁栄へと導こうという気持ちは殊更ない。あるわけがないだろ。
シュバリテは、権力に完全な執着があるというわけではない。むしろ、すでに亡くなっているシュバリアよりも自分が優れているということを示したいためである。シュバリテは常に、シュバリアに勝負で勝てなかった歴史があり、シュバリアはミラング共和国の総統となっている以上、シュバリテもミラング共和国の総統となり、シュバリア以上の功績を残したいのだ。
そのためだけに、政治をしていると言っても過言ではない。たとえ、シエルマスの統領ラウナン=アルディエーレによって、指示されるようなことがあろうとも、ミラング共和国の国民が偉大な総統と評価されればそれで構わないのだから―…。部下のやった功績は、すべて自分の者なのだから―…。
そして、ミラング共和国の国民は、シュバリテを讃えるための道具にしかすぎない。駒であり、対外強硬派の発展のための礎でしかない。いくらミラング共和国の国民が犠牲になろうと構わない。人などいくらでもいるのだから―…。
そういう意味ではシュバリテは重要な勘違いをしている。人は無限にいるわけではなく、有限であり、犠牲が増えれば増えるほど、補うことは難しくなる。これが現実だ。
だけど、勘違いしてはいけないのは、人は意思を持っており、自我があり、自らの信念に従って生きることができる生き物であるし、自らの命の危機に晒されることに対して、危機感を覚えることができる。
ゆえに、この場にいるすべての者が、本当の意味で対外強硬派のために、犠牲になろうと考えているわけではない。自分の命を守るために最善と思われる方法を主観性を完全に排除することができずに思考しながら、選択して、行動しているすぎない。時間という制約に従って―…。
シュバリテはこの場においても、そのことに気づくことはないだろう。
そして、『ミラング共和国最強!!! ミラング共和国不死身!!!』の合唱が鳴りやむと、司会の者が進行を続ける。
その中で、クロニードル、ディマンドの言葉が終わり、最後に―…。
「最後に、先の戦争でミラング共和国とリース王国の戦争で、あの憎き存在であるリース王国からアルデルダ領を奪うことに貢献した将軍であり、軍人のトップであらせられるヌマディア=ファルケンシュタイロ様のご挨拶です。」
と、司会の者が言う。
その言葉を聞いたファルケンシュタイロは、壇上へと向かうのだった。
壇上で声高らかに言う。
「皆の者、私が紹介に預かったヌマディア=ファルケンシュタイロである。先のリース王国とミラング共和国との戦争により、議員でありながら、特例として軍部に戻ることができた。ゆえに、リース王国との戦争で勝利することができたのだ。皆が応援してくれたからこそ、実現できたのだ。感謝する。」
ファルケンシュタイロは一回、礼をする。
ミラング共和国は、文民統制が軍部に働いている以上、指揮の最高トップはファルケンシュタイロではなく、シュバリテということになる。リース王国との戦争のために、軍事の現場経験者が指揮官にした方が効率が良いということで、ファルケンシュタイロが特例として、最高の指揮官となった。
その結果、リース王国に勝利し、アルデルダ領を奪うことに成功したので、そのまま、特例が続けられることになり、かつ、ファルケンシュタイロが軍部に属しながら議員であることが承認され、今に到っているのである。
そう、ファルケンシュタイロの権力を強化してくれてありがとうという本意の感謝である。
そして、ファルケンシュタイロは言葉を続ける。礼をした後に―…。
「これからは、先の総統や有力な議員の皆様が言われましたように、ファブラという鉱石の豊富な国における後継者の一人によって発生した内乱を介入して、調停させ、我が国にとって素晴らしい結果になることをここに誓います。どうか、皆の応援と支援を頼む。」
と、ファルケンシュタイロは短く言って、終わらせる。
それは、クロニードル、ディマンドの言葉がかなり長かったからであり、軍事行動である以上、終わるまで、このようなパレードのようなことをしないで欲しい。
もし、負けてしまった場合、何で、このような式典をやったのかというので、批判が集まってしまうからだ。
そうなると、一番に批判される対象は、軍事のトップであるファルケンシュタイロなのだから―…。本当に、責められるのだけは勘弁というわけだ。皆だって、あんなに盛り上がっていただろうに―…。同罪だろうが、とファルケンシュタイロは思ってしまうであろう。
そして、ファルケンシュタイロの言葉が終わると同時に、大きな声での歓声が上がる。
「ファルケンシュタイロ、今回も頼んだぞ!!!」
「ファルケンシュタイロ様―――――――――――――――――――――――!!!」
多数の個別の異なった歓声があがる。
要は、これは人々の心からの叫びであることに間違いはない。
ファルケンシュタイロの人気に関しては、先のミラング共和国とリース王国との戦争による活躍が大きい。本当は、一番活躍したのはグルゼンなのであるが―…。もう、ミラング共和国にグルゼンがいない以上、いくらグルゼンが本当に活躍したのだと言っても誰も信じてもらえないだろう。戦いに従軍した者にグルゼンが活躍したことは言うなという箝口令も敷かれているだろうし―…。
シエルマスに命を狙われてしまうのは嫌だからだ。シエルマスから逃れる方法を持っているわけではないのだから―…。
ゆえに、この盛り上がりは、ミラング共和国とリース王国との間の戦争の事実を知らない人々が知っているつもりになっており、そこからファルケンシュタイロは素晴らしい軍人であり、ミラング共和国に勝利をもたらす人物であるということで、持ち上げられているに過ぎないのだが―…。
人という生き物が事実を完全に知ることができないということを示しているに過ぎない。
その後、この式典に続き、出陣が実際におこなわれ、ファルケンシュタイロとラウナンがファブラ国へと向けて出発していくのだった。
そのパレードも歓喜に包まれたことは事実だ。
今回のミラング共和国の活躍を期待して―…。
一方、軍馬に乗りながら、対外強硬派の中の一人の人物。
実際は、裏で一番権力を握っているラウナン=アルディエーレは―…。
(シュバリテ様の挨拶の中にサクラを仕込んだかいがありましたね。あのように勝手に盛り上がってしまえば、シュバリテのことを嫌っている人たちはあの場で反論することができなくなるし、どっちつかずの人々は自分が少数派だと自覚して、自らが悪い意味で目立たないようにするために、自分もシュバリテ肯定派になる。人という生き物は、やっぱり簡単に操作することができる。だからこそ、私の掌の上で踊ってもらいたいものだ。)
と、心の中で思うのだった。
そう、シュバリテの挨拶後に、『ミラング共和国最強!!!』などの言葉はラウナンが仕掛けたシエルマスの者たちによるものであり、これで、シュバリテに反対する者、ファブラ遠征に反対する者たちの言論を封殺し、ファブラ遠征に反対していない人を少数派だと自覚させて、ファブラ遠征賛成派に変えるためである。
人は勝ち馬に乗りたいという気持ちを持っていたりするという概念が存在する。
一方で、判官贔屓のようなこともする。不思議な存在だ。
そして、今のミラング共和国では、勝ち馬に乗ることが重要だと国民は判断しているのだろうか。全員が同じではないと思われるが―…。
結局、ラウナンの作戦勝ちというのが、今の式典の結果であるということだ。
ファブラ侵攻が本格的に始まるのであった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(77)~第二章 ファブラ侵攻(10)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
『水晶』を読んでくださっている皆様、本当に感謝しかありません。
『水晶』の方も本格的な、番外編の中のファブラ侵攻へと話が移っていきます。ここはかなり、理不尽な展開もありますが、ミラング共和国の対外強硬派とか別のところで完全に成敗されますので、しばらく御容赦ください。
では―…。