番外編 ミラング共和国滅亡物語(74)~第二章 ファブラ侵攻(7)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ソフィーアはクーデターに失敗し、ダライゼンとともにファブラから逃亡し、リース王国にいたる。そして、リーンウルネのいる場で話し合いがおこなわれるのだった。
「私は、物心ついた時から、小さな子どもを纏める人物に命令され、盗みを働き、そこから得られる報酬を受け取って、何とか食つなぐのがやっとでした。まあ、当時は、子どもながらに知りませんでしたが、報酬というものがかなりピンハネされていたのです。それでも、子どもであり、盗みや暴力以外しか知らない以上、どうしようもなかった。纏める人物は子どもが敵うはずのない大人なのだから―…。そんななか、私は喧嘩で強くなることを学びながら、その纏める人物を倒し、次第にリンファルラードのアウトローの中で重要な人物となっていきました。その時に、近くにいたのが今のアウトローのトップであるラルガリオです。彼は頭が良く、狡猾に動き回ることが得意でした。私もそこまで、自画自賛になってしまって申し訳ないのですが、頭はそこまで悪くないと思っています。そんななかで、ラルガリオがリース王国で有力者の縁をつくれと言われてリース王国にしばらくの間、過ごしたというわけです。そんななか―…。」
と、ダライゼンは言いよどむ。
これは、話さないためのものではなく、言う時に一回、気持ちを入れる必要があるからだ。嘘を言わないために、正確に自らの思い出せる記憶を照合させながら―…。
そして、その間、ソフィーアとリーンウルネが口から言葉を発することはなかった。
ほんの数秒の後、ダライゼンは続きを言い始める。
「俺たちはアウトローである以上、リース王国のスラムとかでも活動するわけだ。裏での繋がり重要だということも認識できるから―…。リース王国でもそこそこ力をつけて、調子に乗っていたため、市街でカツアゲしようとしたら―…、そこに、偶々、城から出ていたリーンウルネ様が御見かけになり、私はことごとく倒されたというよりも、一撃もリーンウルネ様に攻撃を当てることができずに敗北してしまいました。」
そう、ダライゼンは、あの時、リーンウルネに、
―何をしておるんじゃ、お主は―…。そんな馬鹿なことをしても良いことはないじゃろうに―…。カツアゲなんてチャチなことをやるよりも、人助けの一つぐらいしてみたらどうじゃ―
と、言われた。
そのことは今でも、ダライゼンの中では正確に思い出せることである。
そして、リーンウルネの言葉に頭にきていたのか、腹の虫が悪かったのか、ダライゼンは、
―うるせぇ、黙ってろ。どこの人間かは知らないが、俺は最近、ここでも有名なダライゼン様だ。俺との喧嘩に勝てるのかぁ~―
と、リーンウルネの挑発する。
だけど、リーンウルネにとって、ダライゼンの言葉は、只々、世界の一部を完全に世界の真理を知ったと思っている人物と同じのような感じがした。
ゆえに、ダライゼンを哀れんだのだ。
身なりから見るに、決して、裕福な家庭の生まれではないということがすぐにわかったからだ。服の一部が引きちぎられていたりすることから―…。
この異世界では、ファストファッションと呼ばれる安価で良い服を手に入れることができるわけではない以上、どうしても、服一着の値段は高くなるし、富裕層はオーダーメイドで服を注文することが多い。さらに、田舎では、多くの場合、女性が服を編んだりすることが多い。糸を紡いで―…。
そして、服を作る暇というものはほとんど存在しない以上、農閑期の時期になることが多く、大量に服を作ることもできない。ミシンとか服飾のために使用できる機械や生産システムをほとんどの地域で持ち合わせていないのだから―…。
補足すると、ファストファッションという概念と思われるものも、この異世界では原則として存在しないが、ローファッションと呼ばれる低価の服もしくは無料に支給される服というものは一部の地域で存在していたりする。
ゆえに、この異世界の多くの地域では、お下がりの服が多かったり、破れた場所を補修した服が着られていたりする。服を作る技術がそこまで発達していないことによって、発生しているのである。
さて、この異世界における服の事情はここまでにして、話の内容を戻す。
その挑発を受けたリーンウルネは、
―そうか、喧嘩かぁ~。儂はあまりそういうことをしたいとは思わないけど―…。お主、儂にちゃんと攻撃を与えることができるかの~う―
と、憐れむのだった。
別に、リーンウルネがダライゼンを舐めているわけではない。
これは事実を述べているだけに過ぎない。
リーンウルネは天成獣の宿っている武器を扱うことができ、当時のダライゼンは天成獣の宿っている武器を扱っているわけではなかった。
この時点で、明確な差があるのは事実だった。
一方で、ここに集まっている多くの野次馬たちは、リーンウルネが勝つことを理解していた。理由はわかっている。
わからないのは、ダライゼンだけであった。
―舐めやがって!!! 殴られても文句を言うなよ!!!―
と、言いながら、ダライゼンはリーンウルネに攻撃しようとして、パンチを繰り出すが―…。
まったくもって無意味であった。
というか、リーンウルネに触れる前で、固い何かに当たって、返って、ダライゼンは腕を痛めるのだった。
どうなっていやがる、と当時のダライゼンは心の中で思いながらも、その原理を理解することができずに、焦りの表情を見せる。
―どうしたのじゃ?―
まるで、防ぐことが当たり前だと言わんばかりに、リーンウルネは言ってくる。
ダライゼンが、リーンウルネに攻撃を当てられない理由を探りあてることはできないということを理解していた。
というか、ダライゼンが天成獣という存在が知識の中にあるとは思えなかったからだ。
天成獣の宿っている武器を扱っているのであれば、すぐに、焦りの表情を見せながら、「天成獣」か何か、それに関連する言葉を発してもおかしくないのだから―…。
まあ、決して、すべての面でそうなるとは限らないが―…。
そして、ダライゼンはその後も攻撃を続けるが、一切、リーンウルネに自らの攻撃を与えることができず、それどころか、逆に、ダライゼンの方がダメージを受ける始末であった。
それから数時間が経過し―…。
―ふざけるな!!! ふざけるな!!!―
ダライゼンは悔しい表情をする。
今まで、喧嘩に勝てないことはあったかもしれないが、それでも、相手に一発も当てられないということはこれまで一回もなかった。
ゆえに、絶望するのだった。
―世界は広いぞ~。お主の知っている世界なんで、小さい、小さいの~う。それに、ここまで根性があるのは見上げたものだ。名は何という―
リーンウルネとしては、当時、ここまで根性があって、何度も何度も、同じ攻撃をする者はなかなかいなかった。過去にはいたのであるが―…。
そういう意味で、鍛えれば、それに加えて、世界に対する知識と道徳性と、考える力をつけられるようになれば、良き人材になることはわかっていた。
だけど、気にならない部分が当時、リーンウルネになかったわけではない。
それは、ダライゼンが喧嘩という武力が強いということを価値基準としており、武力が弱い者に対して何でも自らの言う通りにして良いという考えを変化させることなく、より悪化させるのではないかと―…。
そして、時間軸は現在に戻る。
「その後も、何度も、何度も、リーンウルネ様を待ち伏せして戦いを挑んだのですが、まったく勝てず―…。勝つために教えを乞うたのですが、教えられるのは喧嘩の作法ではなく、勉学ばかりで、さらに、慈善活動も含まれていて、そんななか、リーンウルネ様の私的な部下に一時的に雇われることになりました。まあ、それからというもの、剣術は仕込まれるわ、勉学はかなりさせられたので、世界に対する知識はかなり身に付きましたが―…。」
少し恨めしそうに言うのである。
だが、そんな恨めしそうな気持ちとは裏腹に、少しだけ嬉しそうに語るのであった。ダライゼンは―…。
その様子にソフィーアはすぐに気づくのだった。
だけど、まだ、ダライゼンの話は終わっていないので、しばらく黙って、ダライゼンの言葉を聞き続ける。
「そのおかげで、私自身の世界観というものがかなり狭いものであったことを理解させられました。五年後、私はラルガリオの要請によって、ファブラへと戻ることが決まりました。この時には、ファブラのアウトローの一員というよりも、リーンウルネ様の部下であるという気持ちの方が上でしたが―…。それでも、私の故郷はファブラである以上、リーンウルネ様の部下であることを辞めて、ファブラへ戻ることにしました。その後、ラルガリオと縁を切り、鉱山労働者となりました。リーンウルネ様のところにいた時、たまたま流れてきた天成獣の宿っている武器に適性があり、その武器が地の属性であり、特殊なもので、毒の操作や生成、解除などが可能なものでした。ゆえに、鉱山労働は、確実に毒やら粉塵との戦いですから、それを操作することができる私は重宝されるというわけです。それに、私は能力者じゃありませんから―…。」
と、ダライゼンは続ける。
ダライゼンの天成獣の属性は、地であり、毒に関する操作、生成、解除などを得意としている。ゆえに、地の属性の中でも特殊であり、かなり強い天成獣の能力であることに変わりない。
ダライゼンは、リーンウルネの部下になってから一年後に、たまたまリースの市場へと流れてきた不思議な武器があり、それをたまたま武器屋で見たリーンウルネは、それが天成獣の宿っている武器であることをすぐ理解し、その武器を購入後、自らの部下の中に適性がある者がいるのではないかと考え、扱わせてみた。
その結果、ダライゼンに適性があったというわけだ。
ダライゼンは、その天成獣の宿っている武器を扱えるようになるため、かなりの厳しい訓練が課された。まあ、根性があったので、上手く扱えるようになったのである。斥候兵ならば、かなり優秀な働きをするのは分かるし、それを戦いではなく、鉱山労働に活用した点を考えると、元々、考えに対する応用ができる能力を持ち合わせていたのだろう。それが発揮されたというわけだ。
その能力が天成獣の宿っている武器であることは、鉱山労働者たちには言っていない。あくまでも、情報を漏らさないためだ。もしも、そのことを言ってしまえば、ラルガリオは確実に、ダライゼンを利用してくることはわかっていた。無能なフリも重要だし、さらに、鉱山労働者を味方につける必要がある。
「最初は、鉱山労働者に受け入れられるのは無理でした。私がアウトローの出身であることを知っている人間がいたから―…。彼らを黙らせることもできましたが、そういう手を使ったとしても、後々、良くない結果になることはわかっていました。黙らせた側の不満がなくなるということはありませんし、彼らが私を陥れることを考えると、真実の一部を話すことと、アウトローと縁を切ったということを宣伝する方が重要ですから―…。縁を切らずに鉱山労働者の中に入ることができたとしても、いずれはバレたと思いますので―…、鉱山労働者の幹部の人たちは馬鹿じゃありませんから―…。人を見る目はあるので―…。その後は、もう話すことはないと思いますが―…。」
と、ダライゼンは重要なことを言い終えたと思い、話すを止める。
ダライゼンとしては、これ以上というか、話す内容はソフィーアの方からと合わせての方が良いと思っているからだ。
だけど―…。
「ソフィーアとの馴れ初めとか、諸々は話さないのかの~う。」
と、リーンウルネは言う。
興味津々である。
「いや、それは―…。」
と、ダライゼンは誤魔化そうとする。
だけど、それは無理な話であり、結局、洗いざらい話される結果となった。
一時間後。
ダライゼンは完全に疲れ切っていた。
「ふむ、たまには男女の色恋沙汰はええの~う。」
リーンウルネは、満面の笑みを浮かべる。
こういう王宮にいる以上、政治に関するドロドロとした話ばっかりで、ピュアな話をきけるチャンスが少なかったりする。
まあ、外に出ていたりするので、いろんな話を聞けるのだが、当の本人から聞ける話というのは格別だ。
そして、ソフィーアは、照れくさそうにしているのであった。
その後、数時間、いろんな話を両者の間、交わされることになった。
ソフィーアとダライゼンは、数年の間、リース王国のリースで暮らすことになった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(75)~第二章 ファブラ侵攻(8)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の投稿日は、2023年5月中旬を予定しています。
投稿日の再開に関しては、活動報告ですることにします。
では―…。