番外編 ミラング共和国滅亡物語(72)~第二章 ファブラ侵攻(5)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ソフィーアは現在のファブラ統領であるフィブルにクーデターを起こすが、それはラルガリオが先回りしていたことによって失敗する。その場に現れたのは、ソフィーアの婚約者であるダライゼンであった。
ダライゼンは安心する。
総長が命を奪われているのを確認すると、かなり危険な状態であることを理解する。
「ソフィーア。生きていてくれて良かった。」
「ええ。」
「だけど、ソフィーア。今回のクーデターは失敗だ。鉱山労働者の幹部の人たちも軍隊によって殺された。ラルガリオの奴が、軍部の中にまで自らの意のままになる存在を送り込んでいたようだ。」
その言葉はソフィーアにとって、ショックの一言だ。
そして、同時に、この情報を事前に漏れた可能性として一番高いのシエルマスが、鉱山労働者の幹部の動向を監視していたせいかもしれない。
そのように、推測するしかできなかった。
「だったら私は―…。」
と、ソフィーアが言いかけると―…。
「鉱山労働者の幹部の人たちからの伝言だ。俺たちの作戦が失敗した時点で、ソフィーア様はファブラ国内にいられない。だから、遠くへと逃げて、再起を図って欲しい、と―…。ソフィーア様が儂らの希望だ、とな。俺もソフィーアを愛しているからこそ、今の犠牲に目を瞑る愚かな行為をするかもしれないが、その罪を償うことができるのは、いつか起こるかもしれないファブラ奪還のチャンスの時に成功させることだけ。そのチャンスのために、力を蓄えるんだ。」
と、ダライゼンは言う。
ダライゼンは、クーデターが成功しない可能性は十分にあった。
だけど、このクーデターが一番最高の結果になる可能性が考えられる中で最も高いものであった。
だからこそ、余計な事を言わなかった。
実際は、今、見たように、フィブルとラルガリオが繋がっていることとなると、完全にシエルマスによって操られていることは事実だ。本人たちはそのことに対して、どう思っているかダライゼンにとっても、ソフィーアにとっても分からないことであろう。
ダライゼンは、シエルマスのことは分かっているとしても、噂話程度ぐらいしか思っていないだろう。シエルマスの存在は、周辺諸国でも知っているのは一部の中枢で権力を握っている者だけである。
フィブルが統領を務めるファブラでは、その情報が噂程度しか入っていないし、その程度で認識している。だけど、軍部の総長やソフィーアは、シエルマスが実態のある組織であることを知っている。諜報から入ってくる情報によって―…。
そして、シエルマスの情報がフィブルに入ってくるのをラルガリオは避けているのだ。シエルマスと繋がりがあるからだ。このミラング共和国のファブラ侵攻を利用して自分が統領になるために―…。
「フィブル様。ソフィーア様はもらっていきます。あなたはただ、ファブラという国が滅んでいくのをじっくりと眺めれば良いですよ。フィブル様は当事者だから、良く分かると思いますよ。誰の言うことを聞くべきだったかを―…。」
と、ダライゼンはそのような言葉を残し、ソフィーアとともにどこかへと消えていくのだった。
ラルガリオは苦しみながら、それを見ていることしかできなかった。
(あいつは~、ダライゼン。元は俺らと同じアウトローの人間だったのに、リース王国に行ってから変わりやがった。あいつに何があった。)
と、心の中で苦々しく思いながら、のたうちまわるが、ダライゼンが離れて、ある一定距離に達すると苦しみがなくなっていった。
今回、ダライゼンがかけた毒はダライゼンに周囲十メートル前後にいるダライゼンが指定した人物以外は、毒で苦しむことになるのだ。
そのせいで、フィブルもまた、毒に苦しむ結果となったのだ。
(毒が抜けた。どうなっていやがる。ダライゼン、一体、何か特殊な体質なのか? そんなことを考えても仕方ない!!!)
と、心の中でラルガリオは思うと―…。
「お前ら!!! 今すぐ、ソフィーアとダライゼンを追え!!! あいつらは反乱者だ!!! 捕えろ!!!」
と、叫ぶように命令する。
そして、フィブルの執務室にいた軍人はすぐに、ダライゼンとソフィーアを追いかけるのだった。
そして、ラルガリオは、フィブルの方へと向かう。
そこに辿り着くと、
「フィブル様、お体の方は大丈夫でしょうか。」
「ラルガリオ、お前はアウトローなのか?」
フィブルも娘であるソフィーアの言っていることを完全に嘘であるとは思えなかったので、ラルガリオに聞くのだった。フィブルはリンファルラードのアウトローのトップに関する名前がラルガリオというのは知っていたが、同名の人ではないかと思っていたのだ。同名ということだけで排除するのは良くないと考え―…。
「何を言っているのですか? アウトローたちが、このような場にいるわけないじゃないですか。アウトローに学や教養があるわけじゃない。できるのは、せめて街で悪さや理不尽な振る舞いができるだけです。ソフィーア様も変な情報を吹き込まれただけです。」
と、ラルガリオは嘘を言う。
ラルガリオは同名というか、アウトローのトップの本人なのだから―…。
ラルガリオはファブラにおける公式の職務に就いていないが、有能な家臣が暗殺されて以後、自分からフィブルを支えたいと思い、志願して、タダでファブラの宮廷で働いているのだから、普段は勘の鋭い人間にバレないような変装道具を使ってであるが―…。その変装道具の費用は、シエルマスから渡される資金を使ってであるが―…。
そして、どんな仕事もこなした上で、フィブルからの信頼を獲得することに成功したのだ。まあ、アウトローたちを使って、上手くやっているように見せていただけだが―…。場合によって、虚偽報告もしていたのであるが―…。
「そうだな、そうに決まっている。ラルガリオがアウトローどものボスなんかではない。」
と、フィブルは安心するのだった。
ラルガリオの嘘に対して―…。
(こいつは良い子過ぎるんだよ。まあ、これで、俺は都合良く行動することができるんだがな。そして、とある天成獣の宿っている武器を使う人物の声を収録したものを使って、ここまで簡単に俺の言葉を聞かせることができるようになっているなんてなぁ~。あの黒い服を全身を覆った奴ら、どんだけの資金を持っていやがるんだぁ~。)
と、ラルガリオは心の中でほくそ笑む。
ラルガリオが何もただ真剣に頼み込んだだけで、このようなことが上手くいったわけではない。ちゃんとそれなりの要因というものは存在する。
シエルマスから渡された録音機と呼ばれる機械を利用しているのだ。
録音機に関しては、まだ、この地域では確立されていないが、それでも、技術に関しては、別の大陸に存在しており、サンバリア経由で運び込まれていたりする。かなり高価なものであるが、シエルマスは必要経費で買うことができる。数に限りはあるが―…。
そして、この声に吹きまれている声の主は、勿論、アマティック教の教主イルカルのものである。彼に依頼して、吹き込ませたのだ。
―ファブラの領主フィブルよ。お前は、ラルガリオのことを忠実な家臣であり、信頼しているのだと。だからこそ、彼を部下にして、ラルガリオの言うことを聞くのだ。ファブラの繁栄のために―
その言葉を聞いた時、フィブルはすでに、洗脳されてしまっていた。
そのことにフィブル自身は気づきもしない。
当たり前のことを当たり前のようにやっているという自覚しかない。
ゆえに、ラルガリオの言うことは何でも聞くし、アウトローでないという嘘も簡単に信じてしまう。人は環境に適応できるからこそ、起こることかもしれない。
だけど、そのようなことをしても、望んだものの利益をずっと得られるわけではない。人は完璧ではないからこそ、自分を変えられるのだから―…。
「フィブル様。今は反乱を起こしたソフィーア様と鉱山労働者にどのような対応をするかが大事です。」
と、ラルガリオの言葉に対して、フィブルははっと冷静になる。
「そうだな。反乱者に関しては、捕まえた上で、裁判にかける。」
「わかりました。」
ラルガリオは、フィブルの命令を受け、その通りに動いているように見せる。フィブルは気づかないだろう―…。
(あの機械は素晴らしい。あの声を聞いた人物は、言うことを聞いてくれる。後は、邪魔な連中を追い出して、フィンラルラードとウォンラルラードの馬鹿の後継者争いを激化させて、内戦へと持ち込み、それを理由にミラング共和国軍を受け入れる。そうすれば、平定後は、ファブラは私のものだ。)
と、ラルガリオは、まだ、決まってもいない未来に対して、妄想を抱くのだった。
幸せというか、手に入れられると分かっており、その利益が本人にとって確実性の高いものと思うものであれば、このように手に入れた気分になってしまうのだ。本当に、欲望に忠実だと言うべきだろう。
そして、同時に、ラルガリオは自らがしないといけないことをこなしにいくのだった。
一方、ソフィーアは―…。
ダライゼンとともに逃げるのであった。
追手はいるが、なぜか、追手は急に苦しむのだった。
ソフィーアはダライゼンに手を引かれながらも、考えるのだった。
なぜ、ラルガリオはフィブルにあんなに信頼されてしまっているのかを―…。
そんな中、ファブラの国境を越え―…、ミラング共和国の方へと侵入する。
「ソフィーア様、暫くの間、野宿に―…。」
と、ダライゼンが言うと、そこに―…。
「本当に国境の外にいるとは―…。」
と、ダライゼンは、何かの気配に気づく。
「ダライゼン。そして、そこにおられるのソフィーア様ですか。私は、リース王国の王妃の部下であるフォート=ファイナインと言います。さっそくですが、リース王国に案内いたします。」
と、ファイナインは言う。
ファイナインは、ダライゼンがリース王国のリーンウルネ側に送った情報により、リーンウルネから最悪の場合は、統領の一族の中で真面なものを亡命させるように―…。
リーンウルネとしては、ファブラでは統領であるフィブルが真面であり、その人がミラング共和国と繋がっている勢力の策謀によって、ピンチになると予想していた。最悪の結果になる場合は想定していたとしても、こういう結果になったことについては、リーンウルネも驚くだろう。
まだ、リーンウルネ本人は知らないので、どうなるかは分からないが―…。
「ダライゼン―…、あなたは―…。」
と、ソフィーアは尋ねる。
なぜ、ダライゼンがリース王国の王妃と繋がりがあるのか? ダライゼンの経歴を考えると、リース王国に行ったことがあるというのは知っているので、リース王国に何かしらの縁があるのは分かる。
だけど、鉱山労働者である以上、リース王国の王族と縁があるという可能性はかなり低いはずだ。一体、どういうことなのか?
リース王国のスパイなのかもしれない。
その可能性を考えて―…。
「歩きながら話していくことにします。」
と、ダライゼンは言う。
ダライゼン、ソフィーア、ファイナインは、リース王国へと向かうのだった。
このソフィーアのクーデターから数日後。
ファブラでは、何人も鉱山労働者が処分された。
フィブルに気づかれることになく―…。
同時に、何人もの鉱山労働者が逃げ出し、このクーデターを知っていた鉱山労働者も、従順なフリをしながらも、今のファブラという国に従う気はなかった。
その中で、ファブラの首都リンファルラードの統領の屋敷では―…。
「ソフィーアがクーデターを首謀。で、失敗して、逃亡か。やっぱり馬鹿な妹だと思っていたが、このようなことをしてくるとは―…。呆れてものが言えない。」
と、ウォンラルラードは言う。
ウォンラルラードは、自らの妹であるソフィーアを馬鹿にしていた。ソフィーアは女のくせに自分より優秀なことを示そうとしたからだ。結果は、武力以外では、ソフィーアの方が優秀であった。
そのためか、ソフィーアに対して、コンプレックスを抱いているのである、ウォンラルラードは―…。
「ソフィーアは優秀じゃないから~、クーデターが無意味だということを知らないんだよぉ~。捕まえたら、キツいお仕置きをしてあげないとぉ~。統領の地位は、私の物であることを理解させてあげないといけないよぉ~。」
と、フィンラルラードは言う。
おっとりとした言い方に、ウォンラルラードは頭にくる。イライラという感情を伴って―…。
だからこそ、短気になって―…。
「テメーこそ、無能だろうが!!! 統領の地位は俺のものだ!!!」
「え~、そんな短気な人に言われてもねぇ~。」
二人は争い合い、フィブルの頭を悩ませるのだった。
(とにかく、フィンラルラードとウォンラルラードには、しっかりとファブラの将来を担ってもらわないと―…。)
と、心の中で思いながらも、それは実現することはなかった。
そして、時が過ぎるも仲良くなることはなく、対立は深くなるのだった。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(73)~第二章 ファブラ侵攻(6)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。