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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
417/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(71)~第二章 ファブラ侵攻(4)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国は次に鉱山のあるファブラという国を支配しようとする。一方で、ファブラは後継者争いで揉めるのであったが、その危機に理解した統領の娘が―…。

 二週間後。

 すでに、ファブラの首都リンファルラードの治安はかなり悪化していた。

 理由は、アウトローを使った二人の後継者候補の対立が激化していたからだ。

 そんな中の夕方。

 「お父様、いい加減にしてください!!! これ以上、あの馬鹿兄たちの後継者争いをさせている場合じゃない!!! 兄二人が駄目なら、私に統領の地位をください!!! これは、鉱山労働者の幹部も軍部も賛成していることです!!! このまま優柔不断な態度をとっていたら、ファブラがミラング共和国に狙われるかもしれません!!!」

と、ソフィーアは言う。

 ソフィーアはかなり焦っているが、それでも、今のファブラの状況を考えたら、いても立ってもいられない。

 フィンラルラードとウォンラルラードの対立が激しくなり、ここままでは、内戦になっても可笑しくないと―…。

 だけど、フィブルは―…。

 「だけど、我々の今までやってきた慣習を守らなければならない。私の息子は二人しかいないのだ。それに、私はソフィーアの能力は認めているし、鉱山労働者の信頼を得たことは称賛に値する。それでも、我々、ファブラという国は、代々男の君主によって治められたのだ。フィンラルラードもウォンラルラードもきっと、目を覚まして、良い統治者になってくれるはずだ。今、何か理由があって、間違った道を歩んでいるだけだ。ソフィーア、人はちゃんと更生するんだ。わかってくれるよなぁ~。」

 ソフィーアを後継者にすることを拒否し、今までの慣習に拘る。

 むしろ、フィンラルラードとウォンラルラードが更生されると信じている。

 さらに、鉱山労働者は保守的であるから、女性であるソフィーアをトップにしたいとは思っておらず、フィブルの部下の多くもそう思っているはずだ。

 フィブルとファブラの優秀な人々の中で乖離が発生しており、どうしようもないレベルになっていてもおかしくはないほどだ。それに気づくことはフィブルにはない。

 フィブルは次第に愚かになっていったのだろうか、それとも、時とともに何かに縋りたくなり、新たな可能性を無視するようになったのだろうか。

 その両方かもしれない。

 ソフィーアは呆れながらも―…。

 「確かに、更生する人はしっかりといます。だけど、人の性格を変えるというのは簡単なことではありません。更生というものは、本人がしっかりと罪を罪として認識して初めて、最初の一歩を踏み込むことができ、周りの助けがあって、その罪によって発生する罰という名の不幸を乗り越えることができて、ようやく達成されるものです。だけど、時に、更生する暇さえ与えない場合だって存在します。今がまさにその時ではないでしょうか。フィンラルラードとウォンラルラードの二人は、ろくでもない人との関係を持ち、彼らを利用して、自らがファブラの統領になるためにいろいろと画策しています。」

 説得しようとしている。

 説得しなければならない。

 説得に失敗すれば、振るわなければならない。

 そのような結果になることを心の中では望んでいない。

 だけど、統領の一族に生まれた以上、たとえ、肉親や血の繋がった兄妹であったとしても、ファブラという国、および、その国民の命およびその安全を守るために、汚れなければならない。

 悔しくないという気持ちがあるということは嘘であるが、その嘘の中にある真実を見せてはならない。

 「それなら、まだ良いのだ。二人のうちのどちらかが、ファブラの統領になってくれたら、ファブラはきっと繁栄してくれるだろうし、私がしっかりと教えれば良いのだ。」

と、フィブルはまだ希望に縋る。

 希望というよりも、自分から見た他人の自分に対する評価に縛られることによって―…。

 ここしばらく、優秀な家臣とも話すことができていないからであろう。

 もし、名君を迷君に変えたければ、その君主に入ってくる情報を統制するように仕向ければ良い。周囲の有能な家臣の言葉が聞けないようにすれば―…。それと同時に、君主の考えている意見に反対せず、それを悪い方向に強化させれば良い。

 フィブルの場合は、ファブラの保守的な考えというものを強調すれば良い。ただし、その取捨選択をした上で―…。そう、例えば、ファブラの統領は男性でなければいけないということを強調させれば良い。

 ソフィーアは今の言葉に呆然としてしまうのだった。

 「お父様。知っているでしょ。今、ファブラはミラング共和国から狙われていると―…。」

 それでも、ソフィーアは、フィブルを説得しようと語気を強めにして、今のファブラがミラング共和国から狙われていることを強調する。

 事実を強調する。

 「知っているさ。でも、すぐに攻めてくることはないと―…、ラルガリオが言っていた。」

 ……………………………。

 ソフィーアは、一瞬、思考を停止してしまうのだ。

 そう、その名前の人物が何者であるかを知っている。

 そして、なぜフィブルの口から聞こえたのか―…。

 「お父様。ラルガリオは―…、リンファルラードのアウトローのトップの名前ですよ!!! それに、裏でミラング共和国と繋がっている可能性があるって!!! 仕方ないです。お父様、あなたには、統領の座から降りてもらいます。」

と、ソフィーアの覚悟は決まった。

 自身の父親であるが、もう統領の地位にいてもらっては困る。

 フィブルが統領にいる限り、ファブラという国は良くならないどころか、ミラング共和国に征服される可能性を高める結果となるからだ。

 ラルガリオ……、この人物がリンファルラードの郊外にあるアウトローのボス的存在であることは分かっているし、最近、調べてもらった結果、全身黒い服で覆われた者たちと接触してもいた。そう、シエルマスと―…。

 つまり、ラルガリオはミラング共和国がファブラを征服するための道具であり、先兵と同じようなものである。その人間にファブラを好き勝手にされたいとは思わない。

 だからこそ、ソフィーアはフィブルに反旗を翻す。

 仕込んでいた短剣を自らの父に向け、構え、脅す。

 「何の真似だ、ソフィーア。それを下ろしなさい。ソフィーアは私の言葉に素直に頷いてくれる良い子なはずだ。」

と、フィブルは言う。

 フィブルの頭の中では、幼い頃からソフィーアは人の話を聞いてくれる良い子であり、素直に従ってくる子だった。

 そんなフィブルの思っていることは、ある意味で正しく、ある意味で間違っていることだ。

 ソフィーアが良い子であることに変わりはないし、素直な子である。

 だからこそ、ファブラの今の現状はとてもではないが、許されるようなことではないし、慣習というものはあるが、それでも、慣習に従ったままではファブラの繁栄が保障されることがなく、むしろ、ファブラが衰え、他国に攻められる可能性を増大させることになるし、今の現状は後継者争いをしている場合ではない。

 さらに、後継者と目されるソフィーアの二人の兄は、ろくな人物との繋がりがなく、挙句の果てに、今、知ったのであるが、フィブルもリンファルラードのアウトローのボスと繋がっているのだ。これだけなら、裏の面ということで終わらせることもできるが、そのアウトローのボスがミラング共和国のシエルマスと繋がっているのだ。

 許されるような事態ではないし、ミラング共和国がファブラを攻めようとしていることを理解している。目的は、ファブラの鉱物資源であることは間違いない。

 征服されることによって、良い為政者であったなら、征服されたことに幸福を感じることはあるかもしれないが、大抵はろくでもない結果になる。そう、征服した側、征服された側を良いように扱うのだから―…。

 ソフィーアにも、旧アルデルダ領の情報は入ってきており、重税で人々が苦しんでいることを知っている。だからこそ、ミラング共和国に支配されるわけにはいかないという気持ちを抱くことができるし、ファブラも支配されたら、旧アルデルダ領のような支配になることが予想される。

 ゆえに、ファブラはミラング共和国に支配されてはいけない。その可能性を高める後継者争いなどもってのほかだ。それに、ミラング共和国と繋がることも―…。

 「ええ、私は良い子ですよ。ファブラを守るためには、その良い子を止めるぐらいには―…。お父様、いや、ファブラの統領フィブル=ファブラ=フォンメルラード。統領の地位を私に譲位しなさい。さもなくば、強制的に退場してもらいます。」

と、ソフィーアは強く言う。

 その言葉に、フィブルはたじろぐ。

 (少し前から統領の地位を欲していたことは言っていたが、あれは冗談じゃなかったのか。)

と、心の中で思う。

 フィブルは、冗談で、ソフィーアがファブラの統領の地位を欲しているのだと思っていた。

 だけど、違った。

 ゆえに、動揺も激しくなるし、ソフィーアが自身に反抗してくるなんてありえないと思っていたからだ。

 冷静な判断はできない。今のフィブルには―…。

 「入ってきてください。」

と、ソフィーアが言うと、数人の軍人が中に入ってくるのだった。

 そして、軍人たちは、銃口を向ける。

 ソフィーアに―…。

 「一体、どういうことだ!!!」

と言うと、一人の人物が統領の執務室に入ってくる。

 「困るのだよ、ソフィーア様。私に謂れのない罪を擦り付けるのは―…。彼と一緒に、フィブル様に反抗するなんて。」

と、入ってきた人物が言うと、そこに一つの首、頭部しかない人の首が掲げられるのだった。

 その首に、ソフィーアは吐き気を催すが、それでも、ここで弱気になってはいけないと思い、ぐっとこらえる。

 「エクスタ!!!」

と、ソフィーアは叫ぶ。

 「残念だよ、統領の娘だからこそ、私の女として相応しいと思ったのだけど、残念ながら、あの鉱山労働者がソフィーア様の心を奪ってしまったのだ。あいつのせいで、心をこのように染めてしまうなんて―…。それに、この総長も、ソフィーア様に協力的だし、鉱山労働者の幹部どもも、現場監督もソフィーア様に味方していやがった。まあ、あいつらは折角の良い機会だ。見せしめのために処分しておこう。フィブル様―…、ミラング共和国から攻められないためには、ソフィーア様を含めて、あなたに反抗する者を殺すしかございません。私とフィブル様の仲ではないですか。大丈夫、娘を我々に差し出せば、私がミラング共和国に、ファブラ侵攻を止めてもらうように進言しましょう。」

と、最後に入ってきた人物が言う。

 ソフィーアは知っている。

 ほんの少しの間、あまりの驚くべき出来事に忘れてしまっていた。その人物の名を―…。

 「ラルガリオ!!! お前いつから、国の中枢部にいた!!! それに、ミラング共和国に利用されていることに気づかないのか!!! それに、お前のような者が国を滅ぼすんだ!!!!」

と、ソフィーアは怒りを声にのせる。

 その声を聞いたとしても、意味がないことだと理解しているラルガリオは、笑みを浮かべながら―…。

 「私は、いつから繋がっていた。有能な家臣が暗殺されるという不幸の中で、俺と繋がりのある部下たちを出世させただけのことだ。フィブル様が困っているので助けているだけですよ。私は確かにアウトローという一面はありますが、フィンラルラード様もウォンラルラード様もアウトローたちと関係があるようですが、あのような者たちよりも私の方がよっぽどファブラ思いであり、偽の愛国心を掲げるソフィーア様、いや、逆賊ソフィーアよりもよっぽど国家に忠実であります。」

と、淡々とラルガリオは言う。

 (………こんな国がミラング共和国から攻められることになったとしても、さらに、滅ぼされることになっても関係ない。シエルマスは約束した。ファブラ崩壊後、ここの領地はアウトローである俺のものになるのだと!! だから、お前ら、統領一家は俺のために滅んでもらうよ。ソフィーアは惜しかったが、まあ、女なんていくらでもいるしなぁ~。)

と、心の中で思う。

 ラルガリオは、自分の利益だけを考えていかないと生き残ることができない世界で生き残ってきたし、その中でトップになったのだ。ゆえに、そのような考えになることは避けて通ることはできない。このような成功が、ラルガリオの自信となり、力の根源となっているのだから―…。

 そして、シエルマスはラルガリオと約束したのは事実だし、その実現のために、シエルマスから与えられた任務をこなすことが重要であることもわかっている。己の欲望のために―…。

 そう、己が強者になるために―…。

 「忠実ねぇ~。ラルガリオ、お前らは愚かな人間というべきね。私は―…。」

と、ソフィーアが言いかけると、そこに、一人の人間が入ってくるのだった。

 「私のパートナーに銃口を向けるのは良くないぜぇ~。銃を向ける者たちは、地へと伏せてもらおうかな。お前ら自身の血を流したくなければ―…。大気毒。」

と、その人物が言うと、ソフィーア以外の人物が苦しみだすのだった。

 ソフィーアはこの人物のことを知っている。

 愛しい―…。

 「ダーリン。」

 そう、ソフィーアの婚約者の鉱山労働者の一人、ダライゼンである。次世代のエースの―…。

 そして、ソフィーアはダライゼンに飛び込むのであった。

 その時、短剣を鞘の中に収めることを忘れることなく―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(72)~第二章 ファブラ侵攻(5)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


ストックもかなり少なくなってきました。

何とか、今週の日曜日までの分は何とか、ギリギリ仕上げていきたいです。

では―…。

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