番外編 ミラング共和国滅亡物語(70)~第二章 ファブラ侵攻(3)~
『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。
『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):
(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/
(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542
興味のある方は、ぜひ読んで見てください。
宣伝以上。
前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラを征服しようとしているミラング共和国。一方、ファブラで様々な思惑が動いていた。
別邸のもう一つ。
ウォンラルラード邸。
その中の執務室。
その中央の執務机で執務をとっている者がいる。
その者はイライラの表情を見せる。
(いつになったらあの親父は、俺にファブラの統領の地位をくれるというんだぁ。フィンラルラードは、俺のことは眼中にないだろうが、俺は次男だからと言って、大人しくファブラの統領の地位を簡単に譲ってやるほど柔じゃない。)
と、心の中で思う。
フィブルの次男、ウォンラルラード。
この別邸の持ち主である。
頭はフィンラルラードよりも賢いが、すべてを自分の意見に従えようとしているせいで、周囲からの評判はあまり良くない。
さらに、体を鍛えることにハマっているせいか、体は筋肉ムキムキという感じで、マッチョだ。ただし、陽気な性格にはならなかったようだ。まあ、筋肉を鍛えることによって誰しもが陽気な性格になるというのは限らないが―…。
ウォンラルラードは、小さい頃からフィンラルラードよりも優秀であったことは周囲も認めるが、余りにも我が儘で、自分の言っていることが正しいと無理矢理従わせ、自分の意見を採用して実行したせいで失敗した場合、他人に責任を押し付けた。
その時の言い分は、「私は統領の息子だからやっていることのすべてが正しいんだ。こんな結果になるのは、お前らが私の言う通りにしないからだ」ということを繰り返し、フィブルすら呆れ、教育放棄されるぐらいだ。
そのウォンラルラードのお世話役になることは、ファブラの中でも外れくじを引いたとさえ、内々で言われていたりする。そのことに気づいていないのは、ウォンラルラードのみであるが―…。
そして、父親のフィブルは次男を絶対に後継者にしたいとは思わないが、長男のフィンラルラードも良い噂を聞かないので、どっちも選べずにいた。
話を戻し、ウォンラルラードは、ファブラの統領の地位を望んでいる。フィンラルラードよりも優秀であるからこそ、統領の地位が相応しいと思っている。
それに自分なら、ファブラを良い国にできるし、繫栄させられると思っている。だけど、そのための提案があまりにもショボく、周りから失敗しそうに見られているのだ。フィブルさえ、そう思ってしまうほどに―…。
ウォンラルラードの欠点に、人の話を聞かない、失敗から学ばないを付け加えることは簡単にできる。そのように思うことは、周囲からもできたりする。
コンコンコン。
と、ノックする音がなる。
「何だ!!!」
怒鳴るように言うと―…。
「は……はい!!! ウォンラルラード様にお客様です!!!」
と、客人を案内してきたと思われる召使いが怯えながら言う。
召使いは、ウォンラルラードが気に食わない召使いに暴力を振るうのは日常茶飯事であり、そのことに怯え切ってしまっているのだ。
一度、ウォンラルラードの世話係になってしまうと、その職場から逃げることはできない。周囲の者が誰もウォンラルラードの世話係に進んでなろうとはしないからだ。
「誰だ!!!」
萎縮しきってしまっているせいで、本来ならできて当然のことを、召使いはできなくなってしまっていた。萎縮してしまったせいで、ウォンラルラードにいかに怒られないようにするが、頭がいっぱいになり、自分で考える思考ができなくなってしまっているのだ。ウォンラルラードの前で―…。
「ラ……、ラマガルドリア様です。」
召使いは小さな声で言ってしまう。
「さっさと俺様を入れろ!!!」
と、召使いをぶっ飛ばした上で、ウォンラルラードの部屋の中へと入ってくるのだった。
そのわずかにでも垣間見える暴力的な性格をラマガルドリアは持っていた。
暴力が好きというよりも、暴力をしないと生きていけない場所で育ったという方が正しい。暴力は生きるための手段だ。価値だ。勝ち組になるための―…。
「ラマガルドリアか。相変わらず礼儀を知らない奴だな。まあ、私はお前のそこの腕っぷしをかって、部下としているのだから、文句は言わないが、別邸の中では少しぐらい大人しく、礼儀正しい振る舞いをして欲しい。親父が俺にファブラの統領の地位を譲ってくれなくなるだろう。」
と、ウォンラルラードは言う。
ウォンラルラードは、兄以上に自らの勢力を獲得することが難しいと判断し、誰も雇わないであろうというアウトローから腕っぷしの奴を選んで、自らの部下にしたということだ。
腕っぷしの者がいるだけで、交渉は有利に運ばせることができるのだから―…。暴力という名の脅しを使って―…。
なるべく、ウォンラルラードは、自らの目的のためには手段を選ばないようにしているが、自らにとっての都合が悪い噂がたつのは、良いとは思っていない。悪い噂は基盤のない者たちにとっては、権力基盤を崩壊させる要因となってしまうのだから―…。
だけど、実際は、ウォンラルラードの噂は良いものがない。自らの召使いへの暴力と関連して、良くない評判の方が世間での評価に繋がっているのだから―…。
そして、もう一つ、ラマガルドリアを部下にしていることが知られているために、余計に、良くない方の噂が強く信じられている。
ラマガルドリアは、アウトローの中でも、大きな勢力であり、この人物より上はいるが、それでも腕っぷしに関しては、アウトローの中でも一番だ。
だけど、権力というものは、リーダーというものは暴力だけでトップになることができるほど簡単なものではない。暴力以外の要素もまた必要なのだ。そのことに、ラマガルドリアは気づいていない。育った環境のことを考えれば、そのようになっても仕方はない。
「俺に指図するな、と言いたいが、俺としてもこれでもかなり大人しくしているつもりだが―…。だけど、俺に関係なく、ウォンラルラード様の悪い噂はリンファルラード中で有名になってますよ。」
と、ラマガルドリアは言う。
ラマガルドリアもファブラの首都であるリンファルラードを歩くことがあるので、どんな噂がなされているのか、嫌でも耳に入ってくる。
その噂を一々、気にするということはない。気にして、何でもかんでも暴力を振るってばかりではろくなことにならないし、ラマガルドリアよりも上の存在に目をつけられてしまう。
いくらラマガルドリアの腕っぷしが良くても、それには人である以上、限度というものが存在するのだ。それを実際に経験している以上、ラマガルドリアも相手の勢力や実力の把握ぐらいはするようになった。それでも、暴力という力を一番に考えていることだけは変わらない。
一方で、ウォンラルラードは、ラマガルドリアの今の言葉を聞いて、苛立ちを覚えるが、腕っぷしではラマガルドリアに勝てないことは戦わなくても分かっているので、言葉の反論だけにとどめる。
「ふん、そんな嘘っぱちの噂―…。私の周りには、私を褒め称える奴らしかいないわ!!」
と。
これは、ウォンラルラードの目一杯の強がりである。
一方で、ラマガルドリアはそのことを見抜き―…、
(ウォンラルラードは、あんなに体格が良いのに、腕っぷしは俺にまるで歯が立たない。やっぱり、暴力が支配する世界に身を置かなかったことが勝負勘やらを身に付けさせなかった。いくら口で言っても、暴力を伴わない奴の言葉など弱い、弱い。いつか……、お前の地位も俺がいただくけどな。)
と、心の中で欲望を膨らませる。
ラマガルドリアは、元々は統領になりたいとは思ってもいなかった。なぜなら、生きるために暴力を振るわなければならないし、窃盗、強盗、最悪の場合は殺人もしなければならないような環境であった。ゆえに、統領になりたいとか思えるほどの時間はないし、心のゆとりもない。
だけど、腕っぷしをあげ、アウトローの中でも一番になり、ウォンラルラードに雇われるようになると、次第に、心のゆとりができたのか、自らが統領になりたいと思い始めたのだ。
その中で―…。
―こいつら程度が統領か。暴力もろくに震えない。他者の暴力を使ってでしか上に立てないような奴らなんて、俺が喰ってやる。それに、アウトローのトップに他者の暴力でしかなることができないラルガリオをトップの座から引きずり落としてやるよ。いや、従わせてやるか―
欲望に限界はない。
欲望に終わりはない。
人の欲は、自らの生の終わりによってのみ、それを終わらせることができる。
それは、生物として生き、進化するためには必要なものであるが、同時に、諸刃の剣のごとく、一歩でも間違えば、全滅という最悪の結果を伴うものだ。
だからこそ、無限と言えるかもしれないほどの、未来を完全に見ることはできないものを予測して、判断して、実行しないといけない。
完全ではないからこそ、常に自らの種の終わりから免れないということを―…。完全もまた思考の終わりを伴うように―…。
ラマガルドリアは、最後に微笑みを浮かべながら、自らがその地位を手に入れる時を待つ。未来という希望があるのかと思いながら―…。
それでも、現実というものはわかっている以上、ウォンラルラードの言葉に答える。
「そうですか。失礼いたしました。ウォンラルラード様は素晴らしい方ですから―…。良くない出自である俺を雇うぐらいなのですから―…。」
これは、あくまでもお世辞であり、ウォンラルラードはそのことに気づかないわけではないが、それでも、嬉しそうな表情で受け取る。
「そうだ。私は、誰にも恐れられ、かつ、尊敬されるのだ。兄も馬鹿な妹も、俺の前に平伏せさせてやる。」
と、まるで何かにとり憑かれたかのように言う。
ウォンラルラードは、自らのこれまでの道によって、次第に狂気を孕むようになり、それが次第に満たされるかのように―…。
(あ~、こいつは―…、弱い癖にこのようになってしまってまぁ~。)
と、ラマガルドリアは心の中で思うのだった。
その後、この二人の会話がしばらく続くことになったが、他愛のないことだ。
リンファルラードの郊外。
スラムを形成している場。
その中で、いくつもの人々が集まっているのだった。
「ラルガリオの旦那ぁ~。一体、何の用だい~。」
と、一人の人物が尋ねる。
その人物は、筋骨隆々であり、背は高く、圧倒的な威圧感をもっているが、ラルガリオもそれを恐れることはない。自らがこのアウトローのトップであり、たとえ、腕っぷしが優れていようが組織を維持できるわけではない。常に、一つの目的へと向かわせることを集団に思わせられ、率いられる者こそがトップに相応しいと思っている。
ゆえに、自らの弱みをここで見せるわけがない。強さは見せ続けられない者は、ここでは生き残れないのだから―…。弱さイコール自らの生命の終わりなのだから―…。
「お前のところのラマガルドリアは、ここ数年、ウォンラルラードの部下として上手くやっているようだな。あいつ自身は、俺の下につこうとはしないが、アイツの部下はちゃんと俺の部下になっている。カリスマ性が違う。そして、今回、ファルガナード、お前にはラマガルドリアを利用して、もっと、ウォンラルラードとフィンラルラードが激しく対立するようにしろ。そして、フィーバル。アーレイを動かして、同様に…だ。」
「わかりました。」
ラルガリオの言葉に、近くにいたひょろ長い男が返事をする。
そう、アーレイも部下を通じて、このアウトローと繋がっているのだ。
アーレイとしては、アウトローを利用することで、自らと敵対する勢力を潰してきたのだ。アーレイに反抗する者は許されないし、批判する者はなおさらだ。ウォンラルラードの部下にはあまり手を出すことはできていないが―…。
(これも、頼まれた仕事だから仕方ない―…。ウォンラルラードとフィンラルラードの対決などどうでも良いが、この激しさが増すことによって、釣れるはずだ。俺らを潰そうとしている統領の娘を―…。)
そう、ラルガリオは黒い服で全身に覆われている者たちから、命令されているのだ。
その命令と同時に、潰したい奴を潰すために―…。
ラルガリオは、アウトローを潰そうとしている現ファブラの統領であるフィブルの娘ソフィーアの望みを阻止したいのだ。
それが、結局、ファブラという国を潰すことになったとしても―…。
番外編 ミラング共和国滅亡物語(71)~第二章 ファブラ侵攻(4)~ に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では―…。