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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
415/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(69)~第二章 ファブラ侵攻(2)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ファブラでは後継者争いでトップであるフィブルは頭を悩ませていたが、後継者候補と目されていないソフィーアが統領の地位を要求するのであった。一方で、アウトローたちにも別の動きがあった。

 それから一か月が経過した。

 その夜。

 鉱山労働者の有力者たちが会議を開いていた。

 「最近、おかしかねぇ~か。アウトローどもが大人しくなっていやがる。」

と、鉱山労働者の現場責任者が言う。

 彼の名前は、ダッタ=フィン=フォンブという。

 如何にも頑固おやじをイメージした人物であるが、甘い物が大好きという周囲から見れば、合わない組み合わせを持っている人物だ。

 だけど、彼は先代の現場責任者からの信頼があり、その右腕とされた人物だ。

 その人物が少しだけ苛立ちを見せていた。

 「ああ、おかしい。」

 「あいつらは、常に悪さをしているが、どうも静かすぎる。」

 「明らかに嵐の前触れ。」

 「統領の娘の嬢ちゃんと、フォルガリエ総長、どう思いますか。」

 そして、この場には、いつもはいない二人の人物がいる。

 その二人にフォンブは尋ねる。

 その二人とは、ソフィーアと、軍人のトップであるフォルガリエ=ディン=エクスタである。

 エクスタは、軍人としては痩せているように見えるが、筋肉はそこそこついており、動きが俊敏で、歳を感じさせないほどにキレのある一撃を出す存在だ。

 そして、優秀な家臣の中で生き残っている中でも一番の者である。

 ファブラの軍事組織に関しては、総長をトップとし、副総長、参謀という感じになっている。軍人は師団を形成できる最小の数の半分くらいしかいない。軍事力は必要であるが、ファブラの人口の関係上、これ以上軍人を増やすことはできないし、鉱山が重要な産業となっている以上、そっちの方を優先させないといけない。

 それでも、フォルガリエ総長は、鉱山労働者からも信頼がある。

 鉱山労働者も、暇がある時には、軍事訓練をしている。

 軍人の数が少ない以上、彼らも戦わないといけなくなるからだ。

 その軍事訓練もしっかりとおこなってくれるし、フォルガリエ総長は贅沢をせず、鉱山労働者とも話し合えるぐらいの器量を持っている。

 そんななかで、彼らは今回、アウトローたちが急に大人しくなったことに不信感を抱いて、この場に集まっているのだ。

 「どうと言われましても、情報が少なすぎて判断することはできません。他国であるとするなら、隣国のミラング共和国が次にこちらへの侵略を企てているのではないかという情報はありますが―…。アウトローとの関係は不明で、どうなっているのだが―…。」

と、フォルガリエは言う。

 軍人である以上、諜報関係を持ってはいるが、それでも、集められる情報には限りというものがある。それにファブラの諜報能力はそこまで高くはないが、ミラング共和国議会の動向を知ることは簡単にできる。内通者がいるのだから―…。

 まあ、ミラング共和国側、特にシエルマスは気づいているだろうが、敢えて泳がせているという感じであろう。

 そして、そこから最近、ファブラへと侵攻しようとしている情報が仕入れられているのだった。

 「おい、フォルガリエ総長―…、うちらの国が狙われているのかい。」

と、鉱山労働者の幹部の一人が驚く。

 そして、幹部たちの全員が驚き、ぞわぞわしだすのだった。

 「ええ、今のところはどういう行動をミラング共和国側が取ってくるかはわかりません。それに、ミラング共和国は、四カ月前にここら辺で一番の大国のリース王国と戦争して、勝ったそうだ。だが―…、なぜか多くの兵を失っている。戦死したのか分からないけど、ミラング共和国で最も武勇の(ほまれ)が高いと言われているグルゼン将軍が、今回の戦争の中で失踪したらしい。噂によれば、ミラング共和国の諜報および謀略機関とされるシエルマスが関与しているとか。シエルマスというのは噂程度しか聞かず、ミラング共和国に存在しているのか分からないほどの存在です。だけど、いずれはミラング共和国が攻めてくるかもしれません。対処方法は周辺の強い国の庇護下に入るのが一番ですが、それでも、どれぐらい足元を見られるか分かりません。」

と、フォルガリエ総長は言う。

 フォルガリエ総長としても、これ以上の情報はない。

 ミラング共和国の諜報および謀略機関とされるシエルマスが本当に存在しているかどうかすら、調べることができないほどの情報収集能力は脆弱なのだ。数が少ないという弊害であろうか。他にも原因はあることであろう。

 それでも、フォルガリエとしても、今すぐ、ミラング共和国がファブラを攻めてくるということはないと推測することができる。攻めるのも数がいるのだから―…。ただの数ではない。軍事訓練を受けた練度のある数が必要なのだ。

 そういう意味では、対策自体しておかないといけないが、ミラング共和国と戦争になった場合、ファブラが勝つ可能性はかなり低いとしか言いようがない。なぜなら、軍事力の規模と専門的な者の数でどうしても勝つことができないのだ。それに加えて、シエルマスがいる以上、敗北しないようにするだけで必死なのは事実だ。

 フォルガリエの言葉に、全員が黙る。

 「ミラング共和国のことに関しては、お父様にご報告しておきます。それよりも、今はアウトローが何も問題を起こさず静かにしているというのは怪しいですが、それを気にしても仕方ないと言えば嘘になりますが―…。お父様はやっぱり、アウトローたちに対して、怖れをなしています。何回も軍隊を派遣していますが、撤退に追い込まれたほどで―…。フォルガリエさんの部下によると、不思議な力を扱うということです。」

と、ソフィーアは言う。

 ソフィーアは政治に積極的に関わりたいというわけではないが、今のファブラの状況を考えると、そんなことを言っていられない。ファブラに変な問題があり解決されないとすれば、自らの生活にも大きな影響をおぼすし、それ以上、この国に住んでいる人々の安定した生活の脅威としかならない。

 戦争は望まないし、相手がどのように考えているのかを、重視しなければならないということを理解している。

 「不思議な力とは―…、何だぁ?」

と、エクスタが尋ねる。

 エクスタとしても、アウトローたちが不思議な力を使っていることに対して、怪しいものなのではないかと思うのだった。

 ゆえに、それを知っている可能性の高い二人、フォルガリエとソフィーアに尋ねるのだった。

 「私も知っている限りでは、火を出したり、水を出したり、土を隆起させたりとか―…、そのようなものだと報告されています。天成獣の宿っている武器を使用しているのであれば、そこまでですが、あの武器は簡単に手に入るわけがない。アウトローにそんな数が使えるわけがない。何か裏で糸を引いている者たちがいるかもしれません。」

と、フォルガリエは答える。

 あくまでも、部下からの報告に己の推測を付け加えただけに過ぎない。

 「天成獣だと!!」

と、エクスタは驚くのだった。

 この後、この会議自体はあまり進展することなく進んで行き、二十分の時が経過した。

 「最後に、ソフィーア様、お二人の兄を廃嫡して、自身が次期統領の後継者となる覚悟は決まりましたか。」

と、エクスタは言う。

 エクスタとしても、今のままではファブラが良い繁栄を気づくことはできないと分かっている。

 ここにいる者たち、全員がソフィーアに、統領の地位になって欲しいと思っている。

 ソフィーアも理解しているし、必要とされているからこそ―…。

 「お父様が最後の勧告を受けないようでしたら、お父様ごと排除し、ファブラの統領の地位は私が乗っ取ります。」

と、ソフィーアは宣言する。

 ソフィーアは、もう、退くことができないところまできたと理解している。

 もう、これ以上は、ファブラにとって危険だと―…。

 「そして、最後の勧告の日は―…。」

と、エクスタが尋ねる。

 「それは―…。」

 ソフィーアは答える。


 屋敷の別邸。

 統領屋敷の別邸は二つあり、そのうちの一つフィンラルラード邸。

 ここの主は、フィブルの息子の一人であるフィンラルラードだ。

 「あ~、ファブラの当主の地位、くれないかなぁ~。ソフィーアはなぜ統領の地位を横取りしようとするのかなぁ~。ファブラの統領は、長男である俺が継がないといけないよなぁ~。アーレイ。」

と、フィンラルラードは言う。

 フィンラルラードは、のんびりとした喋り方をしていることから、統領になろうとしている野望がないと思われるかもしれないが、実態はその逆であり、統領の地位を望んでいる。

 周りに言われて統領の地位を望んだのではなく、生まれた時から自分の優秀さという身勝手な妄想を抱き、統領が自らに相応しいものであると思っているからだ。

 ファブラに住んでいる人々?

 彼らは、フィンラルラードが表に出れば、全員がフィンラルラードのことを尊敬することは決まっている。こんな優秀なのだから―…。

 このような妄想に浸り、今日も幸せだが、嫌でも悪夢となってしまう出来事に直面していた。

 「作用でございます。フィンラルラード様は、現ファブラの統領であらせられるフィブル様の長男であり、幼き頃から優秀で、何をやらせても卒なくこなし、学業は常に第一位であらせられました。そのようなお方がファブラの統領の地位にとって相応しく、かつ、ファブラの民の全員から尊敬されるのです。」

と、アーレイは決まりきった文句を言いあげる。

 言い慣れたものだ。このような言葉を聞いて、フィンラルラードは気分を高揚させる。

 その表情を見て―…。

 (フィンラルラード様。あなたほどの馬鹿はこの世で見たことがありません。小さい頃から権力を欲した私としては、取り入るのも簡単でした。あなたの馬鹿さを誤魔化すために、金でいろんな人間を買収することができました。まあ、金がかかったのは事実ですから、それに見合った結果にならないといけないのです。私の今までの投資を返してもらいましょう。いずれは、私がファブラの統領の地位を―…。)

と、アーレイは心の中で思う。

 アーレイにとって、フィンラルラードなど扱いやすい存在でしかない。

 そして、アーレイは、すでに五十を過ぎた人であり、皺も増え始め、老練さも増している。

 だけど、アーレイは最初に、このフィンラルラードに取り入ったせいで、余計な出費をするはめになった。そのせいで、余計にアーレイはフィンラルラードにファブラの統領になって欲しいというか、ならなくては困ると思っている。

 さっさとフィンラルラードを見捨てれば、その損失は少なくて済んだはずなのに―…。

 人は自らが合理的だと思っているだろうが、絶対にそうではないし、そういうふうになることはできない生き物である。そうである以上、人が完全な合理的なものということを判断することができず、合理的ではないことを合理的だと判断することだってあり得るわけだ。未来が見えない以上、そうなってもおかしくはないのだが―…。

 アーレイが気づくことはないだろうが―…。

 そして、アーレイは、フィンラルラードをファブラの統領の地位に就くことに成功したら、フィンラルラードを統領にするために支払った分以上の利益を回収しようと鉱山労働者の給料のピンハネを敢行するであろう。増税もおこなうことになる。

 これまでの費用を回収するだけに飽き足らず、大変な額の利益を得て、最後には鉱山労働者の不満を抱えることになって、一揆になっても、騒動になってもおかしくはない。

 だけど、アーレイは気づかない。

 だって、彼は自らの利益の回収と同時に、いつの日からフィンラルラードが統領の地位に就任した後、用無しとなったら、ファブラの統領の地位を自らのものにしようと考えているのだから―…。元々、ファブラで自らの権威を拡大させることを欲しているのだから―…。

 「そうだろう。アーレイは良く分かっているよぉ~。」

 フィンラルラードは、このようにアーレイの野望に気づくこともなく、今日も呑気にアーレイに褒められることに慣れており、有頂天になる。

 いつなったらアーレイの野望に気づくことになるのやら~、呆れとしか言いようのない気持ちを周囲に抱かせるだろう。

 さて、フィンラルラードは優秀ではないと触れたが、物心ついた時から優秀ではないし、良くミスをしていたりしており、注意、指摘をされることがなかった。父親であるフィブルは統領としての仕事が忙しく、構ってあげることができずに、部下任せだった。

 フィブルは、フィンラルラードに時には厳しくして欲しいと部下には言っていたが、その部下は統領の息子だからと言って、何も注意することができず、最後はフィンラルラードが懐いたアーレイに任せっきりになってしまったのだ。

 フィブルはこのことに後悔している。

 だけど、アーレイに対処することができない。

 理由は、アーレイがファブラのアウトローと繋がっており、かつ、フィンラルラードがアーレイにとって不都合な情報を渡さないからだ。

 そして―…。

 (さあ、今日も馬鹿でいてください。私のために―…。)

と、アーレイは心の中でほくそ笑むのだった。

 自らの野望の成就のために―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(70)~第二章 ファブラ侵攻(3)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


ミラング共和国がファブラへと侵攻するのは、少し時間がかかると思います。人の権力への欲望は果てしないものですよ。その果実が美味しいと思っているけど、実態はねぇ~。私には分かりませんが―…。

では―…。

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