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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
413/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(67)~第一章 勝利は時として毒となる(17)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、エルゲルダをアマティック教の教主であるイルカルに預けることが決定し、イルカルはエルゲルダをある部屋に案内するのだった。

 特別客室。

 通称、秘密の客間。

 その部屋は、かなり広さがあり、リース王国の王室の寝室と変わらないほどのものだ。

 キングサイズのベッド、家具調度品多数、さらに―…。

 「フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンド様。」

と、部屋の中にいたメイド姿の女性たちの代表と思われる人物が言う。

 その後、全員がその場で両膝をつけ、頭を下げるのだった。

 この光景にエルゲルダは、

 (何だ。こいつらは―…。何かヤベー集団に捕まったんじゃないんだろうな。)

と、心の中で警戒心をマックスにさせる。

 そりゃそうだろう。

 どんな美人のメイドであったとしても、このように、全員が一斉に、何の狂いもなく、正確に今、エルゲルダの隣にいる人物の名を唱えるのだから―…。

 狂いがない、だけど、狂っている。

 その言葉がここで成り立つがごとく―…。

 恐怖だ。

 人は自らよりも多い数に怯えるし、警戒する。

 人という存在が、物理的な制約を肉体によって受ける以上、どんな数の人間を相手にするにしても、限度というものができてしまう。避けられないことだ。

 その感覚を今、エルゲルダは抱いている。

 そして、宗教と関係なく、危険な奴らなのではないかと本能的に悟ってしまう。

 宗教イコールすべてが危険というわけではないが―…。

 「何を怯えているのだね。エルゲルダ様、いや、これからは親しみを込めて、エルゲルダと呼ぶことにしよう。それに、これから今回の戦争に関して、話させてもらおう。これを話したとしても、ラウナンから、シエルマスから殺されることはないだろう。」

と、イルカルは言う。

 イルカルも今回のミラング共和国とリース王国の戦争がどういうものだったかを知っている。

 それに、イルカルはある程度予測することができる。

 自らのこの話を聞けば、エルゲルダは確実に、ミラング共和国側の味方になるということ、シエルマスにとっても恩義を発生させることもできる。

 イルカルはクソな人間であり、かつクズと言っても良いぐらいの性格の悪い人間であるが、頭が決して悪いわけではない。むしろ、危機感に対する反応力はしっかりとしている。

 そして、この、これからエルゲルダが使用する部屋のメイドの女性たちは、全員イルカルによって、イルカルに従順な狂信者となっている。

 美人を揃えているのは、エルゲルダに文句を言われないようにするためと、エルゲルダは―…。

 (エルゲルダは、奥さんはいたようだが、こいつとの間に子どもが生まれなかったというだ。何人も女性を無理矢理襲っている噂は聞いている。ならば、こいつ自身に問題があるのでしょう。)

と、イルカルは心の中で思う。

 イルカルは、エルゲルダに関する情報も知っている。アマティック教の情報網はかなりしっかりとしている。

 情報は、宗教にとって命とも言えるぐらいのものだ。どこかで国の危機があるのならば、そこへ向かい、人々に信仰を説く。その信仰が同時に危機を解決するものであれば、その信仰は国民の中で多く者たちによって受け入れられることになるだろうが―…。

 決して、そういう結果になるとは常に保証されていない以上、悲惨な結果になることもあるし、その危機を利用して、自らの宗教の勢力を拡大することだけしかしないのもいる。

 そして、イルカルにとっては、人々のことよりも、自らの宗教家としての権威を上昇させて、地位、名誉、権力を獲得したいだけなのだ。そうすれば、己に媚びへつらう者たちを自由に使って、やりたい放題になり、自らの世にすることが可能なのだ。

 その調べてもらった情報の中には、エルゲルダのものもある。

 エルゲルダは、アルデルダ領の領主に就任後、急いで、領主の妻になる人を探した。そして、それは成功して婚姻したのであるが、その女性との間に、子どもが生まれることなく、次々とエルゲルダの要望により、側室や妾が増えていくのであったが、どの女性との間でも子どもが生まれることがなかったのだ。

 エルゲルダは当主就任する過程で、自らの兄弟、親族、親をアババに殺害させている。

 そうである以上、エルゲルダ以後のアルデルダ領は別の一族を領主にしないといけないか、もしくは、親族の概念に該当しないが、アルデルダ領の領主の血があるかもしれない人たちを養子にしないといけなくなるものだった。

 だけど、エルゲルダにそのようなことを言えば、言った者の首が物理的に飛ぶ可能性があるとわかっているので、誰もエルゲルダの臣下は言うことができなかった。暗黙のルールというものが存在したのだ。

 その情報は、エルゲルダに知られることなく、人伝に広まっていった。リース王国にも入っているし、ラーンドル一派も理解しているが、それでも、エルゲルダの年齢から考えて、その問題は表面化するどころか、重大化するのは数十年かかるのはわかっていた。そんなに待つことをラーンドル一派ができようか。いや、できないからこそ、今回のエルゲルダの政策を利用したのだ。

 その原因は、イルカルの言っている通り、エルゲルダ自身にある。現実世界ではその原因がわかっている国もあるだろう。だけど、この異世界では、ある地域ぐらいしか、その原因を探ることはできない。

 要は、エルゲルダはパートナーと子作りをしても、子どもが絶対にできないということだ。

 だからこそ、イルカルはこのメイドたちがエルゲルダと関係をもったとしても、イルカルにとっての余計な問題を抱えずに済むというわけだ。子どもをメイドたちが身籠って、生まれることは目出度いことであるが、時には、イルカルにとっては迷惑なことになることもある。

 命というのは、それだけ重く、大切であるからこそ、そのことに関しては慎重な判断が必要なのである。

 上手く言い表すことはできないが、命が大切なものであることに変わりはない。

 そして、イルカルは言い始める。

 「今回の戦争、リース王国のラーンドル一派側は、エルゲルダのことを疎ましく思っていたそうだ。それも、レグニエド王に気に入られているエルゲルダのことを気に食わなかったそうです。だから、今回の我が国の戦争を利用して、エルゲルダをミラング共和国軍に殺させようとしていたのです。」

と。

 イルカルの言っていることに嘘は混じっていない。

 だけど、これがある意味、正しく今回のミラング共和国とリース王国の戦争でエルゲルダを貶めるために、ラーンドル一派が仕掛けた理由を完全に説明し切れていない。そう、エルゲルダ自身の政策を利用したという面を省いていることと、エルゲルダの政策がミラング共和国を怒らせてしまったということの説明を―…。

 そのイルカルの言葉を聞いたエルゲルダは、吠える。

 「ラーンドル一派どもが~。我が何をしたというのだ!! レグニエド王の信頼を得たいがためにしたことを、こんなことをして返してくるとは!!! これだから、商人どもは!!! あんな商人どもはさっさと潰れてしまえば良いのだ。」

と。

 エルゲルダは、ラーンドル一派に対する怒りの火を燃え上がらせるのだった。

 その怒りを感じた、イルカルは、

 (ほ~お、これで、リース王国への恨みを持った元領主が誕生したというわけか。シュバリテがどこまで続くかはわからないが、シュバリテが駄目になったとラウナンが判断すれば、確実に、エルゲルダ(このバカ)をトップに祀り上げるはずだ。ラウナンは、自らはトップになることはないから、その操り人形が必要になる。用心深いからこそ、そのストックを確実に手に入れているはず。つまり、エルゲルダ、というわけ。まあ、彼を洗脳する気はない。女に溺れさせれば十分だ。)

と、心の中で思う。

 そう、イルカルも腹に一物を抱えている。

 イルカルは、ラウナンに敵うとは思っていないが、それでも、足を引っ張ることはできる。それでも、ミラング共和国がなくなってしまわないようにするのであるが―…。ラウナンが完全に権力を掌握してしまい、かつ、何でも圧倒的にできるようになれば、アマティック教のトップであるイルカルも邪魔だと判断されて排除されるかもしれないのだ。

 それだけは、イルカルにとって避けないといけない。それより下の人間がどうなっても構わない。自分さえ生き残れば良いのだから―…。

 (そいつらは、すでに俺のお手付きだし、飽きたし―…。)

と、イルカルは、心の中で言う。

 そう、イルカルにとって、飽きた女に興味はない。

 エルゲルダにやったとしても、何も惜しくはない。

 クズであることに賛同する者は多いし、そう思ってもらうことの方が当然だ。

 それに、イルカルは、彼女達に言っている。


 ―エルゲルダの寵愛を得ることが、君たちの幸せだ―


 その言葉を狂信者のごとく、信じている。

 だからこそ―…。

 「エルゲルダ様。こちらへ、奉仕させていただきます。」

 メイドの一人に言うと、メイドたちに手を引かれ、エルゲルダはこれからしばらくの間、世話になる部屋の中へと入り、閉められる。

 イルカルは勿論、そのような部屋に入ることなく、自分の部屋へと向かって行く。

 今の自分のお気に入りたちと、遊ぶために―…。

 これ以後、エルゲルダの女遊びが酷くなるのであった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(68)~第二章 ファブラ侵攻(1)~ に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


次回からは、第二章です。

では―…。

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