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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
411/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(65)~第一章 勝利は時として毒となる(15)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、ミラング共和国に割譲されたアルデルダ領では、ファット=ファウンデーションが軍政官として支配しているのだった。そこは悲惨なものであった。

 ミグリアドの旧領主の館。

 その軍政官トップの部屋。

 「ファット様。どのようにいたしましょうか?」

と、一人の男が尋ねる。

 軍政官の一人であり、ファットの部下となっている者である。

 この人物は、軍人としての実力はそれほどまであるとは思えないが、それでも、役人としての仕事がしっかりとできるので、ファットの部下に任命されていた。

 そして、ファットがファウンデーション家の人間である以上、何でもかんでも自分達で決めることをするとファットから恨まれる可能性があると判断して、このように、重要になる可能性のある方針とかをファットから意見を窺うのだ。

 ファットを満足させることが、ここで生き残るために必要だと理解しているからだ。ゆえに、フォットに諫言など言う者は誰もいない。統治とは何か? 善政とは何か? そのようなことを―…。

 「う~ん、面倒だが、私の領土だ。何だ?」

と、ファットは答える。

 ファットは、ファウンデーション家の中では濃い顔をしており、まつ毛も濃い。モテることはなかった。ファットの人生の中で、金とファウンデーション家という威光で解決できなかった問題は存在しなかった。なぜなら、金を出せば、大抵悪いことをしても示談に持ち込めるし、ファウンデーション家という政治家の一門の名前を出せば、大抵の人々はどんな理不尽なことをファットがしても許してくれるのだ。

 そのようにファットは、自らの家の権威のせいで、自分は何をしても許される人間なんだと思っている。それが許されないのは、ファウンデーション家の本家と対外強硬派の主要幹部、シエルマスだけであることを知っている。彼は、本能的に、自分が逆らってはいけない者たちがいることを知っている。

 そして、彼はまた―…。

 「はい、これをファット様に聞かなければならないことは本当に申し訳ございませんが、さすがに声が大きくなっています。免税特権の代わりの貢納金が高すぎて、困っているそうです。減らして欲しいとのことで―…。」

 一人の男は、申し訳なさそうに言う。

 この男にしてみても、今の貢納金の方が免税特権なしの時と比べて、税金が安いのは確かであり、ミラング共和国側からしても、国民からこれ以上増税して、戦争による損害費用に充てることはできないのだ。そう思えば、元々のミラング共和国を戦争へと駆り立てたアルデルダ領なのだから、その領民は領全体で責任をとらないといけない。

 つまり、旧アルデルダ領の領民がこのような理不尽なことにあうのは、当然のことであり、自己責任であると、この一人の男は考えている。疑いのない事実だと認識している。

 だけど、商人たちのファットへの貢納金の高さへの不満が日に日に高まっているし、貢納金を減らしていって欲しいというお願いがしつこいほどにくる。

 その声に根負けしたこの一人の男は、渋々、このように、ファットに聞くのであった。答えを―…。

 「はあ? 何を言っているんだ? お前は、あいつらの肩を持つつもりかぁ~。」

と、ファットは苛立ちの声で言う。

 ファットとしては、どこに不満があるのだ。不思議でしかないし、なぜ、このような文句を言ってくるのか理由が分からない。無理矢理に理由をこじつけたくなる。

 「いえ、その声が酷いので、ファット様のご意見を窺い、ファット様の方針を卑しい哀れな商人どもに従わせるためです。ファット様の直接のお言葉があれば、我々、軍政官も兵士もあなた様の命に従って、動きます。」

と、一人の男は言う。

 ファットの怒りを買ってしまったことに後悔するが、ファットの命令を聞きたいだけなのだ。

 (商人ども~。免税特権があることを良いことに、調子に乗りやがって~。ファット様の命令で潰せるのなら、木端微塵にしてやる~。)

と、心の中で怒りの火を燃やす。

 ファットに謂れのないことで怒りを買っているのだから―…。ファットの命令に従うことに、この一人の男にとって、何の躊躇いもない。旧アルデルダ領の領民のことを恨み、そして下に見下して差別しても良い人々だとみなしている。

 「まあ、お前のような軍政官の一人に怒ってもしょうもない。で、そいつら商人は図に乗っているというわけか。」

 「はい。」

 少しだけ、ファットは考え―…。

 「アマティック教の信者に伝えなさい。俺のやっている政策は間違っていないのだと―…、な。そして、商人どもに聞け!! 俺の言うことを聞かなければ、このように不満を言ってきた商人どもの免税特権を取り上げて、税を一般で払うよりも多くしたいのか、と脅せ!! そして、俺の政策に間違いがあるか?」

と、ファットは言う。

 (フン、商人風情が―…。免税特権があることで図に乗ってファンデーション家の俺に文句を言いやがってきて!!! お前ら、旧アルデルダ領の領民は、俺らミラング共和国に逆らい、負けた。だから、負け犬に教えてやっているのだ。ミラング共和国に逆らうとこうなると―…。そして、俺を肥やすための道具になれ!!!)

と、心の中でファットは思う。

 ファットは、旧アルデルダ領の軍政官のトップに任命された時、貧乏くじを引いたと思ったが、それでも、ファットはめげずにここから集まる税金を自らの富、権力、地位の確立のための資金にしようとしている。ある意味で、プラス思考の持ち主であるが、やり方は決して良いものではない。

 「いえ、ファット様はファウンデーション家の人間です。下々の私には思いもつかないような素晴らしい政策を思いつくに決まっています。それが分からないのは、彼らが下々ではなく、人の知性すら持ち合わせていないからです。だからこそ、時には無理やりにでも言うことを聞かせることが必要なのです。」

と、軍政官の一人である男が言う。

 この男が、ファットに逆らうなんてことはない。

 そして、ファットは言う。

 「そうだな、今すぐ実行せよ!!」

 一人の男が返事をする。

 「わかりました。」

 そして、この後、すぐに、大きな圧力がかかることになった。


 その日の夜。

 とある商人の家。

 トントントン、トントントン、トントントン。

 (何だぁ~、見張り番って楽な職業じゃないのかよぉ~。)

と、その家を見張っている者が五月蠅い音を聞いて、敷居の入り口へと顔を出す。

 そこには―…、左半分が黒、右半分が白で全員を覆っている者たちが数えきれないほどいる。

 そいつらをこの見張り番は知っている。

 敷居の門をトントントン、と音を鳴らしている者の正体を―…。

 (アマティック教の信者かよ!!!)

 急に、怖気づいてしまうのだ。

 アマティック教の信仰者は、自らの信仰を否定する者たちを数の論理やどこから得ているか分からない情報網を使って、このように信仰を否定している者たちの家へと押し付けてくるのだ。

 そして、数が多いことと、そのしつこさのせいで、根を上げる者たちが多い。しつこさと数の多さが、彼らに無理矢理言うことを聞かせることに役立っているのは確かだ。

 「アマティック教の教主フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンド様はおっしゃった。旧エルゲルダ領の者たちは、我らが神の言うことを聞かずに、ミラング共和国に対する悪魔のような政策をおこなったのだ。だから、今、その報いを受けている。理不尽なのもお前らが蒔いた種だ。神の言うことを聞かなかった。それでも、ファット様は温情を与えているのだ。商人に罪はない。その罪を償うために、お前らはファット様に貢租金を払っているのだ。それを高いから安くしろ!! おかしいではないか!!! 本当に罪を償う気はあるのか!!!」

 先頭にいるアマティック教の信仰者が言う。

 この人物の言葉に続けて―…。

 『本当に罪を償う気があるのか!!!』

 先頭にいる者以外が言う。

 その声は圧になる。

 見張り番をしている者は恐怖で戦慄(わなな)く。

 『本当に罪を償う気があるのか!!!!』

 大合唱の様は続く。

 蛇に睨まれた蛙、まさに、この言葉が表すよう―…。

 そんななか、『本当に罪を償う気があるのか!!!』が合唱が続き、その異様な光景に気づいた商人の当主と執事が敷居の入り口の前にやってくる。

 「どうなっていやがる!!!」

と、家の当主である商人が叫ぶように言う。

 そして、先頭にいる者が出てきた商人に気づく。

 (あいつが―…。)

 わかれば言う事は決まっている。

 「お前は、ファット=ファウンデーション様に対して、貢租金を減らすように言ったな。商人、ナットル=ファウファウ。」

と、先頭にいるアマティック教の信仰者が、商人に向かって言う。

 この信仰者は、事前に上から商人の情報を知らされていた。

 さらに、似顔絵を渡されており、それが正確性の高いものであり、すぐに、その商人に気づくことができた。

 そして、商人の方は―…。

 (貢租金を減らして欲しいと訴えたら、アマティック教が屋敷に押し寄せる。ファットとアマティック教は結びついているのか……。厄介だ。こいつらは、自分達の言っていること以外許さない。何もせずに降伏するのも、こちらの面子としても許されない。)

と、心の中で考える。

 商人としてもわかっている。こいつら、アマティック教の信者が降参など一切してこないことを―…。

 こいつらに降参という文字はない。あるのは、死しても信仰を保持し、信仰の礎にならんということだ。

 信念は人に自らの強さを与えるが、同時に時として、自らの本来の力を誤解させ、自らよりも強い者によって滅ぼされることを導く。

 そのことに気づきもせず、都合の良い方だけを見る。

 それは、甘美なものであろうが、同時に、自らを殺す選択となる。

 そして、商人の方も、すぐに降参することはできない。

 商人としての面子というものがある。

 周囲からの評価がとにかく重要なのである。商売をする以上、客からの評判、周りの評価が良くないといけない。商人としての実力の一つであるのだから―…。

 「貢納金が高すぎます。これでは、我々は商売をやっていくことができません。そうすれば、アルデルダ領の経済は冷え込んでしまいます。それは、ファット様にとっても不都合なことなのではないでしょうか。」

 正論を言う。

 この商人とて、決して馬鹿ではない。

 エルゲルダのようなどうしようもない奴であったとしても、とにかく商売をやっていくために、妥協をする時もある。そう、どうしようもないほどに抵抗することが不可能な場合は―…。

 だけど、ファットは、言葉で説得することができる可能性が存在している以上、まずは、話し合いの場へと―…。

 間違った選択であった。

 「そんなこと、考えてよいのはファット様自身だけだ。かつて、リース王国の支配下にあったからこそ、このような愚かな言葉を言うことができるのだろう。我々の教主フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンド様はおっしゃった。リース王国に支配された者は、神に逆らうことを覚える。それは無知であり、己という存在が一番だと錯覚しているからだ。この世界で一番なのは神であり、神の言葉を伝えることができるフォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンド様において他にない。そして、お前らは、フォンミラ=デ=ファンタレーシア=イルカル=フォンド様がいらっしゃるミラング共和国に敗れ、我々の支配下に入ったのです。お前らのような愚か者たちに救いを与えるべく、我々は温情を与えたのだ。お前らの命ではなく、賠償による償いを―…。税金が高いというのは、お前らが罪の意識を感じていないがゆえに生じる、邪な感情だ。その感情に流されているようでは、まだまだ、我々への罪の意識がないと見える。見せしめがもっと必要だ。二度と文句を言えないように―………、な。」

と、先頭にいるアマティック教の信仰者が言う。

 さらに、叫ぶように言う。

 「この者たちは、もう罪の意識すら抱くことはできないほどに愚かな存在だ!!! この世界に神の楽園を築くために、旅立たせろ!!!!」

 その声を聞いたのだろうか、全身、黒色の装飾で覆われている人物、三人が素早く商人、その執事、この屋敷にいる者たちすべての生を終わらせる。

 その光景を見ているアマティック教の信仰者たちは―…。

 「神のもとへ、神のもとへ、神ならば彼らの心を改心させ、永遠の幸せを手にさせよう。我もいつか、我もいつか、永遠の幸せを!!」

 『神のもとへ、神のもとへ、神ならば彼らの心を改心させ、永遠の幸せを手にさせよう。我もいつか、我もいつか、永遠の幸せを!!』

 一人の言葉に、大合唱する。

 まるで、ここは合唱コンクールの会場ではないかと思わせるぐらいに―…。

 言っていることは、とてもではないが、常識的な人のそれとはかけ離れたものでしかないが―…。

 彼らの言葉に、恐怖を感じるだろう。

 それでよい。

 それが真面なのだから―…。

 そして、これは見せしめだ。

 言うことを聞かない奴がどんな目にあうのか。

 同時に、ファットの首を締め、アマティック教の教主イルカルの首を締めることになるとは、この時、二人は知るはずもなかった。

 勝つことは、いや、勝利は時として毒となる。

 まさに、このことを示すかのように―…。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(66)~第一章 勝利は時として毒となる(16)~

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


そして、次回あたりからは、第一章の後半になると思います。もう少し、第一章は投稿し終えます。

では―…。

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