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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
410/748

番外編 ミラング共和国滅亡物語(64)~第一章 勝利は時として毒となる(14)~

『水晶』以外にも以下の作品を投稿しています。


『ウィザーズ コンダクター』(「カクヨム」で投稿中):https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138


『この異世界に救済を』(「小説家になろう」と「カクヨム」で投稿中):

(小説家になろう);https://ncode.syosetu.com/n5935hy/

(カクヨム);https://kakuyomu.jp/works/16817139558088118542


興味のある方は、ぜひ読んで見てください。


宣伝以上。


前回までの『水晶』のあらすじは、対外強硬派の幹部の全員が集まった会議があり、ファブラ侵攻が一年後に決まるのであった。一方、ミラング共和国の領土となった旧アルデルダ領は軍政官によって酷い支配がおこなわれるのだった。

 ミグリアド。

 ミラング共和国とリース王国との戦争で、ミラング共和国の領土に―…。

 この場所、アルデルダ領は、ミラング共和国から派遣されてきた軍政官に支配されている。

 そのトップは、勿論、対外強硬派である。

 そんな支配の中、ミグリアドに残った住民、生き残った住民は重い税金に苦しめられるのだった。

 「これだけかい。」

 とある商店で繰り広げられる会話。

 「これだけしかないんだよ。売ってくれないか、小麦を―…。」

 この人物は、商店で小麦を買おうとしている。

 彼にとっては、三枚ほどの銅貨しかなかった。

 アルデルダ領の物価の基準から言えば、小麦を買うことすらできない。

 買いたい客もわかっている。

 「銅貨三枚で買えるわけないだろ!! 私だって、生活が苦しいのに―…。あのグルゼンとかいう将軍の言うことを聞いて、逃げるんだった。ファット=ファンデーション様の支配は苛酷すぎる。エルゲルダのクソも大概だが、ファット様はそれ以上だ。それに―…。」

と、商店の店員が言いながら、その庇護欲をそそる目が変な集団を見るのだった。

 全身が服や布で覆われ、左半分を黒、右半分が白、そのような不気味な色のしている服および布であり、のたのた、とゆったりとしたスピードで歩いて行く集団が、商店の近くを通る。

 店員も中年になっており、今回のミラング共和国とリース王国の戦争でグルゼンがミグリアドを制圧した時、グルゼンのことを怪しんだ店主が逃げ出さず、ここに残ったのだ。

 だけど、逃げた方が得であったということを今となって、理解してしまうのだった。

 この店は、エルゲルダに気に入られている商店であり、エルゲルダに注文された品物を多く届けていた。そのため、店主は、エルゲルダを倒し、大きな商売先を失ったことに対して、それをしてきたグルゼンを憎んでいたと言って良い。

 さらに、この店の店主は、ミラング共和国からこの旧アルデルダ領の軍政官であるファット=ファウンデーションにも媚びを売り、再度、品物の搬入などの仕事を得ることができた。

 そして、ファットの理不尽な要求も、この店主は自らの名誉と地位、自らの利益のために、平然と従う。理不尽でも利益という実を取ることができるのであれば、素晴らしいことではないか、という店主の信条が現れている。まあ、その理不尽に対する不満はないと言えば、嘘になるが―…。

 そして、ファットの政策のせいで、ミラング共和国とリース王国との今回の戦争におけるの費用を賄うために、アルデルダ領の領民に賠償金を課し、それに加えて、税金を増やしたのだ。

 ファットも完全に馬鹿というわけではなく、一部の商人に対して、免税特権を課し、その代わりに、一定の額をファットに納めないといけない。これは、ファットの私腹のための費用であるが―…。

 結局は、増税と変わりはしないのだから―…。

 さらに、ファットの注文における金払いはかなり悪く、免税特権を得た商人たちも困惑している。

 そう、ファットはケチで有名であり、ディマンドとの繋がりを利用して、このアルデルダ領の軍政官の地位を得たのだ。

 そして、ファットは、このアルデルダ領にある危険な宗教を公然と承認し、ここでは国教のような扱いを受けるのだった。

 商人たちは、この胡散臭い奴らがどういう集団かをほとんど知っているわけではないが、勘という面で、危険な集団だということは分かっている。

 「アマティック教の者たちか!!」

と、小さな声で店員は舌打ちする。

 店員も彼ら、アマティック教の者たちに気づかれたいと思わないし、関わりたいと思わない。

 アマティック教は、ファットによって、持ち込まれた宗教であり、この旧アルデルダ領ではさっきも言ったように国教のような扱いを受け、彼らを侮蔑することは犯罪となった。

 そのことは、ミグリアドでは広く知れ渡っていることであり、その布告を理解できなかった者がアマティック教を揶揄ったり、侮蔑したことにより、虐殺され、その首が晒されたのをミグリアドの広場で実際に、この店員も客も見たことがあるのだ。

 その光景は、悍ましいものであり、エルゲルダの首であれば、そういうようなことはなかったであろうが―…。名前もどういう生活をしているのかもわからぬ者であったが、嫌いになるような存在ではなかった。

 アマティック教をミグリアドの住民たちは、恐れているし、恐怖している。恨みもしている。不満を抱いている。

 だけど、ミグリアドの住民たちに力がない以上、誰も今の軍政官やアマティック教に逆らうことはない。

 「我々、アマティック教を信仰しようではないか。いや、今日も、神は素晴らしい。この愚かな民たちに、良き導きを、我々が良き導きを授けましょう。神はおっしゃっています、ファット=ファウンデーション様の政策に従い、ファット様のために、ミラング共和国のために生きることが、お前ら哀れな者たちが良き人生を送るためには、必要であり、罪を償うことになるのです。我々、アマティック教を信仰しようではないか。」

 アマティック教の信者の目の前にいる信仰者と同じ格好をしている者が言う。

 それに続けて、後ろの者たちが繰り返すように言う。

 その光景は、異常者として、アルデルダ領のミグリアドの者たちが見たとしてもおかしくないし、この感覚が普通だ。

 だけど、アマティック教の信仰者のほとんどが気づくことはないだろう。自分達の考えが異常であることを―…。

 なぜなら、アマティック教を狂信的に信仰している者たちにとって、イルカルの教えのすべてが正しいものであり、彼の教えは神の教えであり、彼の言葉は神の言葉である以上、それを信仰していることに間違いなど存在するはずがないと常識的なことだと認識して当然のことである。

 ゆえに、アマティック教の、イルカルの教えや言葉を否定する者たちの存在は許されない。神やイルカルの言葉や教えに間違いなど存在しないのに―…。否定してくる者たちの頭がおかしい、何か危険な考えを持っているのではないか。疑うべきは信仰している自分やイルカルや神ではなく、否定してくる存在だ。

 そうなってしまえば、彼らの思考は、結局、否定してくる存在は完全に間違っているのであり、それを矯正という名の強制することによって、自らの正しさを教え、導くことができる…と。

 そのようなことをして、自ら以外の意見を排除し、視野狭窄に陥っていることに気づきもせずに、周囲に対して起こる人災のごとく、不幸という恩恵とは反対の結果を巻き起こすのだ。それを恩恵や、当然の結果であり、かつ、自らの責任ではなく、信仰をしていないからという、他者への責任を擦り付けるようにして責任逃れをする。

 結局、何も周囲にとっての問題が解決されないどころか、悪化させてしまっているのだ。それをもまるで、自らのせいにせずに―…、再度、他の者や要素に責任を押し付けて―…。

 そういうことを無意識のうちにわかっているからこそ、周囲は彼らを心の中で忌避する。危険というものを理解しているからだ。

 リスクをとることが合理的だと認識している者が合理的で、経済的な人間だと思い、完全だとみなしているのであれば、大きな意味で勘違いであり、人という生き物は臆病で、危険はなるべく避けたい存在であるのだ。まあ、リスクをとるのにも、なるべくそれを排除をして、失敗する可能性を限りなく減らして挑むのだ。失うことを恐れる、それが人という生き物である。

 つまり、失敗イコール、最悪の場合、自らの生命の終わりという結果がつきまとっているからだ。だって、自らの生命を終わらせる要因を完全に排除なんてできるわけがないのだから、減らすことはできても―…。

 まあ、アマティック教の信仰者、狂信者と言ってもおかしいものたちに何度、言ったとしても、何も意味はないのだから―…。彼らは強くはない。自らの弱さという一面を、無理矢理駆り出した強さで覆って、あたかもないと自らに暗示をかけているのだから―…。そうすれば、自らが強くなったと思うことができる。

 さて、これ以上、触れても長くなりすぎるので、これ以上は意味のないことでだし、繰り返しのような感じになってしまう。

 そして、アマティック教の信仰者たちは通り過ぎて行く。

 「この近辺で信仰されているフォルナベル教の教者(きょうしゃ)たちを弾圧したとか―…。アルデルダ教主(きょうしゅ)の人も殺されたとか―…、奴らによって―…。」

 物を買おうとしている人が店員に向かって言う。

 勿論、アマティック教の今、通り過ぎて行った信仰者たちに聞こえないように言う。

 彼の気持ちとしては、この情報で銅貨三枚であったとしても、この有力な情報を提供すれば、品物が手に入るのではないか―…、と。そんな淡い気持ちを抱いている。

 だけど、打ち砕かれる。

 「残念ながらその情報は私たちも知っているし、お前さんの気持ちも分からなくはないが―…。こちらも商売だ。金のない者に売ってやる物はない。さっさと他へと行った方が良い。」

と、店員は言う。

 店員もフォルナベル教がどうなったかは知っている。商人の端くれである以上、情報の重要さを理解している。ゆえに、最近の情報をいろんな人たちの会話で手に入れている。この銅貨三枚で小麦を買いたい人物の言っている情報も―…。

 そして、残念そうな表情をして、小麦を買おうとした人物はどこかへと消えていく。彼の運命がどうなったかは見るも残酷なものであった。

 これはほんの一遍にしか過ぎない。

 そして、この店員も救えるほどの力はなかった。

 (……すまない。)

と、申し訳なく思うのだった。

 そして、同時に―…。

 (グルゼンとかいう将軍の言う通りに無理にでも逃げた方が正しかった。あの男もスラムの出身だろう。なぜ、私たちがこのような惨い仕打ちを受けなければならないのだ。救いを与えぬ神に価値などあろうか。)

 このように思う者は多い。

 フォルナベル教の信者は、リース王国とその周辺諸国の多くの人々によって信仰されており、宗派による違いは存在するかもしれないが、アマティック教のことを好んでいない。理由は、最初は噂程度であったが、旧アルデルダ領でのアマティック教がしてきたことが逃げてきたフォルナベル教の教者によって知れ渡ることとなり、噂が現実であることが知られるようになった結果、危険な宗教だという認識されるようになったからだ。

 そして、この店員もまた、フォルナベル教を敬虔ではないが、それでも、立派に信仰している。ゆえに、アマティック教のやり方を許せる気持ちになることはない。それに、ミラング共和国軍のファットが軍政官として支配しているせいで、店員の生活もまた苦しくなるのだった。物の値段が上昇して―…。

 理由は、物に過剰な税がかかるようになったし、店主の方も免税特権を受けるための貢租を稼ぐために、品物の値段を上げたのだ。

 結局、エルゲルダの時よりも酷くなった。それが実情だ。

 ゆえに、旧アルデルダ領からは、逃亡者がこれから数年の間、かなりの数を出してしまうことになり、次第に周辺諸国で大きな問題となっていくのであった。

 一部の者たちは、ミラング共和国との戦争に訴えるようになったりした。

 対外強硬派にとっては、至福なことであったが、数が多ければ、彼らにとっての不幸でしかなかった。

 それは、まだ、この場では静かなものであった。


番外編 ミラング共和国滅亡物語(65)~第一章 勝利は時として毒となる(15)~

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


ちょっと寄り道している感じですが、ファブラについても触れますよ。

では―…。

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